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彼女と僕らは ライト

「彼女と僕らは」の続きです。

まだまだ続きますので、どうぞよろしくお願い致します。

珍しくお客のいない時間帯、バイト中の僕はタケシにきょとん顔で尋ねられた。

「そういえばさぁ…今日、まゆりちゃん…例のライブだったっけか?」

「ああ、そうそう…暗がりバカンスの最後のライブだからって、朝からすんげぇ張り切ってたなぁ…」

「へぇ~…で、まゆりちゃんは誰のファンなのかね?」

「あ、うん、なんかね、ヴォーカルのダイザブだって…確かさ、最近ちょろちょろドラマとか映画に出てるらしいけど…」

「え~?そうだっけぇ?…俺、そういうのに疎いからなぁ…」

タケシは苦い顔をした。

「いやいや…俺だって、そんな詳しくねぇけど…たまにネットの芸能ニュースで見るくらいだけど…あっ、でも、毎朝一緒に飯食ってる時、早起きテレビかかってんじゃん!俺、それ、ちらっと見て情報を得てるけども…って、お前も一緒に飯食ってるじゃんかぁ~…なんで、見てないの?」

普段の朝を思い出すと、僕は不思議だった。

「ああ、はいはい…見てるっちゃあ、見てるかもしんないけど…俺、朝は弱いからなぁ…ぼーっと飯食ってるし…まゆりちゃんのママンのご飯超美味いから、どっちかっつうと、そっちはよく覚えてるけど…」

それには僕も異論はなかった。

「まぁ、確かに…でさ、ダイザブって俳優の時は本名で活動してるんだよなぁ。確かさ…だから、あんまピンとこないかも…ましてや、ファンでも何でもないんならさ…名前なんて知らなくて当然じゃね?」

「ああ、そう…だねぇ…で、ダイザブの本名って?何て言うんだっけ?知ってる?」

「あ、ほら…え~と…え~と…蜂谷…蜂谷大三郎じゃなかった?」

ピンポーン!

暗がりバカンスのヴォーカル兼リーダーは、蜂谷大三郎。

ギターの佐々木右近とベースの佐々木左近は一卵性双生児で、呼び名は二人ともそのまんまウコンとサコン。

ドラムは熊田虎之助こと、熊トラちゃん。

キーボードはアメリカ人の父と日本人の母の間に生まれたハーフの湯沢ケイン、呼び名はそのまんまケイン。

熊トラちゃん以外のメンバーはみんな顔が整っている所謂イケメンなのに対し、顔も体格も名前の通りの熊トラちゃんはそれはそれでぬいぐるみ的な可愛らしさで、一部の熱狂的なファンには驚くほどの人気があった。

だが、圧倒的な人気はリーダーの蜂谷大三郎ことダイザブだった。

暗がりバカンスのファンの約7割は、ダイザブこと蜂谷大三郎のファンだった。

まゆりとまゆかもその中のひとりだった。

「あの名前と顔のギャップがすごいよなぁ…まゆりちゃん達が好きになるのもわからなくはないけども…でも、あの曲が…ちょっと独特ってのか…折角、実力もあって顔もいいのに…曲が残念だよなぁ…」

「まぁ、確かに…もっとかっこいい曲だったら、絶対にもっと売れるのに…なんか惜しいよなぁ…」

タケシの言うことはごもっともだった。

それはファンの間でもまことしやかに囁かれていたことは事実だった。

だが、同じファンの中にはまゆりの様に、逆に曲から好きになった人も少なくないのだった。

日本での評価よりも、むしろ海外での評価が何故か高いバンドでもある暗がりバカンスの解散報道は、日本ではさほど大きく取り上げられなかったけれど、海外メディアでは大きな事柄として大々的に報道させたのだった。


「…そういえばさぁ…この前、みんなでまゆかさんとこの神社に行ったじゃない?」

「ああ。」

「だけどさぁ、しおりさん、全然成仏する気配もなかったよなぁ…なんでなんかなぁ?不思議じゃないかぁ?」

僕の素朴な疑問に、タケシも「ホント、そうだよなぁ。なんでなんだろう?」と返してきた。

「…なんか、まゆりさんに憑依しないで、自分もみんなと同じもの食べたいって願ったって言ってたけど…それって、生き返りたいってのか、生きてる体が欲しいってことじゃないのかなぁって考えちゃってさ…だとしても、もう自分の体は無くなっちゃってる訳だから…どうしたもんかねぇ…」

僕の問いに対し、タケシはしばらく考え込んでしまった。

「う~ん…」

腕組みしながら唸っている間に、お客さんが来たので僕がレジを代わった。


バイトも無事に終わった帰り道、僕はタケシとしおりのことについてあれこれ色んな観点で考えたことを口に出していった。

「…やっぱりさ、俺らと一緒にいたらさ、生きてたらなぁとかって考えちゃうんだろうね…」

ちょっぴり哀しそうな表情でタケシがぽつりと呟いた。

「そりゃ!…俺がもしもしおりさんの立場だったら…」

「だったら?」

タケシが復唱した。

「…だったら、いつまでも俺らと一緒にいるのが辛いかも…自分だけ、違うんだって考えたらってのか、感じるじゃん!どうしてもさ…それはしょうがないことなんだけど…そうなると、俺だったら…」

「だったら?」

またしてもタケシが復唱した。

「…俺だったら、みんな元気でねって…どっかに行っちゃうかもしんない…」

タケシは小刻みに頷いた。

「ん、ん…わかるなぁ、その気持ち…もしかしたら、みんなにすんごく迷惑かけてるかもしれないとか、自分がみんなの邪魔してるんじゃないか?とか…そういうことあれこれ考えて悩んじゃうかもなぁ…特にしおりちゃんは女の子だし…そういうの敏感っぽいかもなぁ…お前とまゆりちゃんがいちゃいちゃするのも見てられないだろうしさぁ…」

何気ないタケシの発言に、僕は油断していた状態からピリッとした状態になった。

「なっ!…そんな…いちゃいちゃって…そっ…やだなぁ~、タケシちゃんったらぁ…も~う!」

僕は動揺を隠そうとわざとおどけて見せた。

「いやいやいやいや…そんな照れることないって…みんな知ってんの!…お前さ、まゆりちゃんと付き合ってんだべ?なっ?だべっ?なっ?」

茶化す訳でもないタケシは、案外真剣な眼差しでそう僕の顔を覗きこんだ。

「やっ…やっ…付き合ってるってのか…そっ…それはぁ…」

言葉を濁して照れる僕に、タケシは普通のテンションで続けた。

「あのさ、お前さ、ちゃんと言ってないのか?好きだ!とか、付き合って!とか…言ってんだよなぁ?違うのかぁ?」

「…んん…その…なんて言うか…」

もじもじする僕に対して、タケシは少し怒ったように続けたのだった。

「なっ、お前、ちゃんと言わなくちゃ駄目だろうがよ!…一緒に海水浴に行ったんだろう?そん時にでも、ちゃんと交際を申し込んだんじゃねぇのかよっ!」

「…そ…そう…だよなぁ…やっぱ…」

「そうだよな。じゃねぇって!お前、それじゃまゆりちゃんが可哀想だろうがよぉ~!なんだよ!お前…」

「ごめん…タケシ、なんかごめんなさい…」

「…まゆりちゃん、つっけんどんだった頃からお前のこと好きだったんだぞ!大学に入ってからずっとお前のことだけ、見てたんだぞっ!…それなのに…まだ…告白もしてないって…そんな…」

僕はどうしてタケシがこんなに怒っているのか、わかっているようで結局はよくわかっていなかった。

ぽつぽつと等間隔で並ぶ街路灯の明かりが、今は何だか寂しげに見える。

かっかしたままのタケシはそれっきり何も言わずに、ずんずんと足音を立てて僕の先を歩いて行ってしまった。

そんなタケシの後姿を見つめながら、僕はまゆりと仲良くなってからのことをよく思い出すと、タケシが怒るのももっともだと思った。

それと同時にどうして僕よりも先にタケシがまゆりの電話番号を知っていたのか?

「つっけんどん女」と言いつつも、僕との会話の中でまゆりのことを話題にすることが多々あったのか?

本当に嫌いだったなら、その存在すら気にも留めないはずなのに。

前を行くタケシの後をとぼとぼと歩いているうちに、いつの間にか随分と距離が離れてしまっていた。

帰る場所は一緒だけれど、タケシと僕は今歩いているこの状態の様に心がどんどんと離れていってしまうみたいな気がした。

大学に入って仲良くなったタケシ。

バイトも一緒で、いつも明るく振舞っているタケシ。

もしかしたら僕はタケシのことを何も知らなかったのかもしれない。

そう思うと、いたたまれない気持ちになった。

随分と先に行ってしまって小さく見えるタケシの後を、僕は必死に追いかけた。

「まっ…待ってくれぇ…はぁはぁはぁはぁ…待って…って…タケシ…はぁはぁはぁはぁ…ごめ…ごめん…」

後ろから大きな声をかけられたタケシは、驚いた様に僕を見た。

てっきりずっと自分の後ろを歩いているもんだと思っていたみたいだった。

「…はぁはぁはぁ…タケシ…ホントにさ…はぁはぁはぁ…ごめん…俺…俺さ…はぁはぁはぁ…」

息を切らせる僕を心配そうに見つめながらも、タケシはじっと黙って待ってくれた。

「…はぁはぁ…んっん…はぁ…タケシ…ごめん…俺さ…今、帰ったらまゆりさんにちゃんと…こっ…告白する!…ちゃんと、好きだって…伝えて…ちゃんと付き合ってくださいって…言うから…」

追いついたタケシにそれだけ言うと、僕は呼吸を整えるのに両膝を両手でがっちり掴んで屈んだ。

「…そっか…わかった…頑張れよ!浩樹…俺、応援してっからさ…」

笑顔のタケシを確認すると、僕はへなへなと道路に座り込んでしまった。

「どした!大丈夫か?なぁ、立てるか?おいっ!肩貸すから…」

「あっ…ありがとう…ごめんな…なんか…」

「いいって…そんなの…」

ぎこちなさが幾分か残りつつも、僕もタケシもゆっくり告白のイメージや戦略を考えながら寺を目指した。


「…はぁ~…ダイザブ…かっこよかったぁ…」

熱狂したライブから家に戻り風呂に入ってさっぱりすると、まゆりは自室のベッドのごろんと転がった。

「…そんなにかっこよかったんだぁ…い~なぁ~…あたしも連れてってもらえばよかったぁ…」

まゆりの部屋に当然の様に遊びに来ているしおりは、まゆりの率直な感想がなんだか羨ましかった。

「あっ、そだねぇ…一緒に行けばよかったね、ごめんね、しおりさん…なんかごめ~ん…」

「ああ、そんなの…謝らないでぇ、まゆりちゃん…だってさ、それはあたしが連れてってって言えばいいだけじゃん…もしくは、本堂でまったり癒されてる間にす~っと飛んで見に行けばいいだけなんだもん…まゆりちゃん、全然悪くない…それより、ごめんね…余計なこと言っちゃって…」

「ううん…もう、やめよっか、その話…」

「そだね…」

「それより…この間、かーちゃんとこの神社、駄目だったでしょ?成仏大作戦…それでね、今日、ライブ行ったらね、ヒントもらっちゃったの…だから、今度一緒に試してみないって思って…」

「えっ、何?」

「暗バカのケイン…って、キーボードなんだけどね…彼、バンド辞めた後牧師さんになるんだって…でね、彼の実家が教会だって、今日知ったの…それでぇ…かーちゃんと教会はどうかなぁ?って話になったの…お寺も神社も駄目じゃない?だから、今度は教会にチャレンジしてみたらどうかなぁって…」

「ああ…そっかぁ…そうだねぇ…そうだねぇ…教会なら…いいかも!」

「ねっ!いいでしょ?」

「うん、すごくいい!…いや、あたしもね、この間、折角神社に連れてってもらったのに、なんで成仏しないんだろうって思ってたんだよねぇ…こことおんなじで、パーッと何とも言えない気持ちよさなんだけどぉ…ただ、ただ、気持ちいいってだけみたいで…そっかぁ…教会ねぇ…うん、いいかもしんない…」

まゆりもしおりも「とにかく成仏」が目標なので、それがどういうことなのか?それによってどうなるのか?今はまるで考えられなかった。

もしかすると、願って止まないそれが永遠の別れになるかもしれないということも。

「あ、そだ…あのね、しおりさんにって訳でもないんだけど…お土産買ってきたんだぁ…」

「えっ!なぁに?」

「じゃじゃ~ん!」

まゆりが大きな袋から取り出したのは、大きく「暗がりバカンス饅頭」と縦に書かれた箱だった。

「わぁ!お饅頭!」

「うふふふふ…しおりさん、好きでしょ?…」

「うん、食べた~い!」

「うふふふふ…後で浩樹君とタケシ君と一緒に…って思ったんだけど…今、一個だけ味見してみます?」

「みます!みます!」

「うふふふふ…実は、あたしも前から気になってたんだけど、今までなかなか買えなくて…ずっと食べてみたかったんだぁ…25個入りだから、一個食べても大丈夫だから…しおりさん、どうぞ!憑依して!一個だけ一緒に味わいましょ!ねっ!うふふふふふ…」

「わぁ、ありがとう!まゆりちゃん…じゃあ、早速…」

ひゅるるるるるるるる。

しおりはもうまゆりに憑依するのにすっかり慣れていた。

その逆もまた然りで、まゆりもしおりに憑依させるのにはすっかり慣れていたのだった。

ガサガサ、パクッ!

「…おいひい~~~!何、このふかふか…しおりさん、美味しいねぇ~!あたし、この食感初めてぇ~!うふふふふふ。」

「あっ!ホントだぁ~!すんごいふっかふかだねぇ…そして、中のクリームも美味しい~!さいこ~!」

憑依してる側とされてる側の二人は、脳内で美味しさに感動しあった。

まだ、口の中にほのかに饅頭の甘さが残るそんな時、不意にまゆりのスマホが鳴った。

「ん?」

美味しさに打ち震えながら「センーー」を見ると、相手は浩樹だった。

「まゆりさん、今からちょっと本堂に来てもらえる?」

「何だろう?浩樹君。」

そう思いつつ、「オッケー!ちょっと待っててね!」と返すと、しおりが憑依したまま、まゆりは自室を出て渡り廊下をすたすた駆けた。


「まゆりちゃん、いいの?あたしも一緒だけど…」

脳内でしおりが尋ねた。

「あ、うん…大丈夫!浩樹君バイトから帰ってきたみたいだから、多分、タケシさんも一緒じゃないかなぁ?」

「あ、そっか…この夏最後の花火でも買って来たのかなぁ?」

「さぁ、どうでしょう?もしかしたら、コンビニの新商品とかかもしれないですよ!中華まんとか、おでんとか…」

「ああ、どっちもいいねぇ…そっか、もしかそういう食べ物系だったら、このままの方がいいのか…ごめんね、なんか、毎度毎度…」

「そんなの気にしないで下さいよぉ~!ねっ!」

そんな風に脳内で会話しながら本堂までやって来ると、そこにタケシの姿はなかった。

いつもとどこか雰囲気が違う浩樹が一人立っていたのだった。

「あっ、まゆりさん…」

「あっ!浩樹君こんばんはぁ!おかえりなさい…バイト、お疲れ様でした…あれっ?タケシ君は?一緒じゃなかったの?」

屈託のない笑顔でまゆりに迎えられると、僕は少しだけ緊張し始めた。

「まゆりさん!」

「ん?どしたの?浩樹君…なんかいつもと違うみたい…なんかあったの?」

まゆりの問いかけに憑依したままのしおりも脳内で頷いた。

「あ、うん…あのさ…俺さ…その…」

「ん?」

「まゆりさんのことが好きだ!」

「えっ?」

「…だからね、まゆりさんのことが大好きだ!って、ちゃんと言ってなかったなぁって思って…そしたらさ、タケシに叱られちまって…ちゃんと自分の気持ちを伝えたのか?って…まゆりさんが可哀想だろっ!って…」

「…」

「なんかさ、タケシの言う通りだなぁって思ったんだ…好きな女の子にきちんと告白もしないで…キスはしたくせにって…」

「…」

「それで…まゆりさん!どうか、僕とちゃんと付き合って下さい!お願いしますっ!」

僕は僕なりに精一杯、自分の気持ちをまゆりにぶつけた。

「…あの…浩樹君…嬉しい…」

「えっ?じゃあ…」

「はい、こちらこそ、お願いします!…えへへへへ。」

下げてた頭を恐る恐る上目遣いで上げると、薄っすら目に涙を浮かべたまゆりが両手で口元を隠して照れたままじっと立っていた。

まゆりのあまりの可愛さと嬉しい返事に我慢できず、思わずガバッと抱きしめてしまった。

「あっ…」

「まゆりさん…あのさ…キスしてもいいかい?」

「あ…」

僕はまゆりの返事を待たずに、抱きしめたまゆりの唇にそっと自分の唇を合わせた。

どくん、どくん、どくん、どくん。

高まるお互いの鼓動が共鳴しあっているのがわかった。

浩樹に抱きしめられキスをされた感触になすすべもなかったのは、まゆりだけじゃなかった。

生きていた頃にも経験したことがない、男の唇の柔らかさと抱きしめられた力強さにしおりはまゆりの体を通して、何とも言えない気持ちになっていったのだった。

そして、まゆりもまた、しおりが自分の体に憑依している最中に、好きな男に抱きしめられキスをされたことに複雑な思いを感じていたのだった。

最後まで読んで下さって、本当にありがとうございます。

他の作品もよろしかったら、どうぞ。

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