彼女と僕らは レフト
「彼女と僕らは」の続きです。
よろしくお願い致します。
ちょろちょろと玉を持った龍の口から流れ出る水で、僕らは口をゆすいだり手を洗って体を一応は清めた。
それからようやくこの神社の守り神というのか、奉られている生姜とご対面。
金色にメッキされた大きな生姜のオブジェを撫でると、ご利益があるらしいのだが…。
「なぁ…これってさ…」
僕がそこまで言いかけた時、しおりが先を続けた。
「…なんか、うんこみたいだねぇ…」
しみじみが終わると、まゆか以外のみんなは笑うのをこらえて噴出しそうだった。
ここでうっかり笑おうものなら、この神社の娘である草薙まゆかを傷つけてしまうと思ったからだった。
だが、そんな心配はまるで必要なかった。
「そうなのさぁ…これ、でっかいうんこみたいでしょ!笑っちゃうよねぇ…あはははははは。」
まゆかの笑いでお許しをいただいた形で、僕らは我慢していた笑いを爆発させた。
「ひゃはははははは…わりぃ、わりぃ…草薙さん、ホント、ごめん!…いや、その、なんてのか…うんこにもそっくりだけど、見ようによっちゃ…ちょっとちん…」
そこまで言いかけたところで、タケシが「ストーップ!」と止めてくれた。
危なかった。
可愛いまゆりやしおりさん、そして美少女まゆかの前で僕はなんてことを言いかけたんだろう。
ハッとしてから動揺を隠すように、「ささっ、みんなも触ってお参りしようっか!」なんて促した。
聞き手の右手で大きな生姜のオブジェを撫でるのは、失礼だけどなんだか若干嫌な気分だった。
撫でながらふと疑問に思ったことを、まゆかにぶつけてみた。
「あっ、あのさぁ、草薙さん、これってね…撫でながらなんかお願いとか唱えればいいの?」
「ああ、そうだねぇ…だけど、お願いはあっちの賽銭箱がある方の…」
そう言いながらまゆかは、石段が数段あるあちら側を指差して続けた。
「お参りに来る人はみんな、あっちの普通の方で手を合わせて上の鈴鳴らしてお賽銭入れて…って感じかなぁ?」
「えっ?じゃあ、今やってるこれは?これの意味って何?」
タケシが驚いたようにそう聞いた。
「ああ、わかんない…なんか、みんなやってるから…」
「えっ?そうなの?…えっ…じゃあ…じゃあさぁ…みんな、あっちでちゃんとお参りしなおそうよ!」
タケシの提案に一同こくんと頷くと、静かに普通の神社らしい方に歩いた。
僕は、いやきっと僕だけじゃなくまゆりだってタケシだってしおりだって、ここの娘であるまゆかだって、みんな「なんでこんなうんこみたいなのを撫でたんだろう?」って思ったに違いなかった。
綺麗な白っぽい玉砂利の上をじゃりじゃりさせながら賽銭箱が置いてある方へ向うと、上に大きく「将賀神社」と書いた立派な木の看板みたいなのがかかっていた。
まゆか以外の僕らは早速財布からお賽銭を取り出すも、しおりはお金を持っていないので仕方なく僕が5円玉を貸してあげた。
ぱんぱん。
手を合わせ、目を硬くつぶって心の中で神様に一生懸命願った。
「まゆりさんともっと仲良くなれますように。」
タケシは「僕にも可愛い彼女ができますように。」と願い、まゆりは「浩樹君とずっと一緒にいられますように。」と願った。
そして、しおりはというと…「早く成仏できますように。」と当然願ったはずだった。
それを叶える為にわざわざまゆかの神社までやってきたのだ。
「しおりさんさ、ちゃんと成仏できますようにってお願いした?」
僕の何気ない問いに、全く悪びれない様子で「あっ!そっか…ごめ~ん…違うことお願いしちゃったよぉ~…てへへへへ。」と返してきた。
「ええ~!そんなぁ~!何の為に…え~っ!え~っ!そりゃあんまりでしょうがぁ~!ちょっとぉ~!」
「ああ、ごめんごめん…ホントにごめんなさい…なんか忘れてたぁ~…あはははは…」
笑いながら謝るしおりに若干ムカついた僕だった。
「まぁまぁ…そんなに怒らなくっても…なっ…たまたま…しょうがないじゃんかよぉ…なぁっ…浩樹もそんなかっかしないでさぁ…」
「そうだよぉ~…浩樹君あんまり叱らないであげて…しおりさんも悪気がある訳じゃないんだし…ねっ…お願い…」
タケシに続き、可愛いまゆりにまでそう言われてしまうと、僕はもやもやがまだ少し残っていたけれど自分の気持ちをそっと心の中の引き出しにしまい入れた。
「…で、何、願ったのぉ?」
それまで部外者のようにしていたまゆかが、いきなり口を開いた。
「あ、うん…いっつもまゆりちゃんに憑依してからじゃないと、美味しいもの食べられないから…それじゃ、まゆりちゃんに申し訳ないからね…だから、このままでもちゃんと食べられますようにって…みんなと一緒に色々食べられますようにって…」
「そ、そうなんだぁ…」
僕は「それは生き返りたいって思ってるんじゃないか?」と思った。
みんなと同じようなことがしてみたい。
まだ若いうちに命を落としたしおりの切実な願いを知ると、それが原因でなかなか成仏できないのでは?と思ったのだった。
きっとそれまではそんなことあまり考えなかったんじゃないだろうか?
こうして、僕らと行動を共にすることで、そんな強い気持ちが芽生えたんじゃないだろうか?
普段は明るく振舞っているしおりの影の部分を、ちょっとだけ覗いてしまったような気がしたのだった。
その時、不意にまゆりとまゆかのスマホが同時に鳴った。
「あ、ごめん…」
二人はそう言うなり、それぞれのスマホに目をやった。
そして、同時に大きな声を出した。
「嘘ぉ~!やだぁ~!そんなの、やだぁ~!わぁ~~~~!」
まゆりは両手で顔を覆うと、その場にしゃがみこんで泣いてしまった。
まゆかも「りんちゃ~ん」とまゆりの傍に寄り添うと、一緒にしゃがんで泣き出した。
「えっ?えっ?どしたの?…あ、ねぇ…まゆりさん?どしたの?なんかあったの?」
僕らもびっくりして駆け寄り声をかけると、泣きながらまゆりが呟いた。
「…っくっくっくっく…あのっ…ねっ…あのねっ…ダイザブが…ダイザブが…あ~ん!」
「えっ?何っ?ダイザブって?」
戸惑う僕に補足するように、泣いているまゆかが付け加えた。
「…暗がりバカンスのダイザブがね…」
「ああ…」
僕は名前だけ薄っすら知っている程度なので、上手い返しができなかった。
「…ダイザブが脱退…しちゃうんだって…」
「あ、そう…なんだぁ…」
「それで…今度の土曜日の夜のライブで…バンドも解散しちゃうって…今、らーちゃんから連絡あって…」
「…そっかぁ…」
僕もタケシもしおりも全く興味のない話に、どう返答すればいいのか途方に暮れた。
そして、そろそろ僕とタケシはバイトに行く時間だった。
最後まで読んで下さって本当にありがとうございました。
続きもどうぞよろしくお願い致します。




