彼女と僕らは ファースト
「彼女と僕らは」の続きです。
数日後のバイト前、僕とまゆりとたけしとしおりは、草薙まゆかの実家である「将賀神社」に出向いた。
「ねぇ、まゆりちゃん、ここの名前ってさ、しょうがじんじゃっていうの?」
小高い丘の上にある神社に向う参道を歩きながら、しおりが何気なく尋ねた。
「あ、うん、そうだよぉ~。」
まゆりの返事を一番後ろで聞きながら、僕は心の中で「しょうがじんじゃって…音だけなら、生姜生姜じゃんかよ…そんなに生姜が好きなんかよ!あはははは。まさか、生姜が祀ってあるとか言わないよなぁ…」と独り言を呟いていると、ふと聞いたことのない声が混ざってきた。
「ピンポーン!そうだよ!」
「えっ?」
思わず声を出すと、前を歩いている面々が一斉に振り向いた。
「どしたの?浩樹君。大丈夫?」
先頭を歩くまゆりが立ち止まって心配してくれた。
たけしもしおりも気持ちはまゆりと同じらしく、僕をまゆりと同じ表情で見てきた。
「あ、うん…ちょっとね…あ、ごめんごめん、心配かけさせてごめんね。」
「そう?」
まゆりが安心して歩き始めると、他の二人もそれに倣って歩き出した。
「…空耳?かなぁ…それとも、他にも参拝してる人いるのかなぁ?」
僕は首を傾げながら、とりあえず周りをきょろきょろ見回した。
鬱蒼と緑が茂った神社の山には、僕らの他に人の気配も特になく、どちらかというと獣というのか狸や狐でも出そうな雰囲気を持っているのだった。
神社の敷地に入り、鳥居を抜けてから結構な登山。
それでも、他よりも幾分か涼しいここを歩くのは、さほど苦にはなっていない。
みんなよりも1テンポ遅く歩き始めると、目の前に石段が見えてきた。
「グミ・チョコレート・パイナップル」ができそうな古い石段は、端の人があまり歩かない部分に緑色の苔が生えていた。
一段一段ゆっくりと上ると、そこに草薙まゆかが両手を腰にあてた仁王立ちで待っていた。
「お~い!みんなぁ~!」
笑顔で手を振るまゆかに、こちらの全員も若干息を切らしながらも笑顔で手を振り返した。
「こんにちはぁ~!かーちゃん!…みんなで来たよぉ~!」
可愛いまゆりの言葉に、僕は思わずくすっと笑った。
そして、心の中で「かーちゃんって、母ちゃんみたいじゃねぇかよっ…ぶっ…」言うと、体でもちゃんとぶっと笑いが吹き出た。
すると、またあの声が聞こえた。
「失礼だなぁ~!まゆかは母ちゃんじゃねぇぞ!」
「えっ?何?今の?」
立ち止まり一人少しだけパニックに陥っていると、気づいたタケシが心配して声をかけてくれた。
「なぁ、どした?さっきから、一人でびっくりして…なんかあったのか?」
「あっ、うん…」
心ここにあらずといった態度で、ぼんやり答えるとすぐさままたあの声がした。
「お前、なんだぁ?失礼な野郎だぜぇ…」
「あっ!ほらっ!今の…タケシ、今の声!聞こえた?今の?失礼な野郎だぜぇって…」
僕は必死だった。
だが、たけしは不信感丸出しの表情で、「いや、まゆりちゃん達の声なら聞こえるけど…って、お前、大丈夫か?なぁ…まさか、また変なのにとり憑かれてんじゃねぇ?」と返してきた。
それを薄っすら聞いたしおりは、ずんずんとこちらに来ると憤慨したままタケシに詰め寄った。
「ねぇ、ちょっとタケシ君!変なのに憑かれてって聞こえたんですけど!変なのってどういう意味?それってあたしのこと言ってんの?ねぇ!ちょっと!」
タケシの顔にぐっと近づいたしおりの顔を見て、タケシったら何故か「怒った顔も可愛いねぇ。ねぇ、ちゅ~してもいい?」と返した。
「ぎゃっ!やだぁ~!絶対にやだぁ~!わぁ~!タケシ君のど変態!わぁ~!」
しおりは本当に焦った様子で慌ててまゆり達のところに行ってしまった。
「あっははははははは…冗談だって!冗談に決まってるでしょうがぁ…やだなぁ、しおりちゃん…あははははは。」
親しくなったとはいえ、幽霊にセクハラみたいな発言をするとは。
僕はタケシが将来大物になりそうな気がした。
そして、結局僕のことはみんなすっかり忘れてしまったようだった。
「おっかしいなぁ…確かにはっきりと聞こえたんだけどなぁ…あの声…ヘリウムガスを吸った後みたいな変な高い声…」
僕はぶつぶつと呟きつつも石段を登りきった。
目の前には由緒正しいのがよくわかる「将賀神社」の本殿がどんと立っていた。
そして、その両端には大きな狛犬と何故か小さな狛犬が3セットだから、狛犬は2体で一対なので、計8体もいるのだった。
「うわぁ…立派だなぁ~…」
タケシが素直な感想を述べた。
「ホントだなぁ~…」
僕はタケシの横に立つと、やっぱり素直な感想を述べた。
すると、再びあの声がした。
「あったり前やがなぁ~。お前、ここ何年建ってると思ってんのやぁ~!」
今度はおかしか関西風。
僕以外のみんなにはどうやらこの声が聞こえていないらしく、この神社の娘であるまゆかと楽しそうに話を続けていた。
「あっ!ねぇ、かーちゃん…狛犬さん、いっぱいだねぇ…か~わいい。」
まゆりはそう言いながら、右側チームの一番小さい狛犬を撫でた。
「あ、うん…そうなんだぁ…なんかわかんないんだけど…狛犬、多いんだよねぇ…」
まゆかの返事にタケシとしおりは「ふ~ん」と穏やかな表情で答えた。
僕も心の中で「ホントだ…やけに狛犬いるなぁ~。」と呟くと、またあの声が聞こえた。
「そら、やることやってんやもん。増えるちゅうねん。」
「え~~~っ!」
僕はその時やっと、このヘリウム声の主の正体がわかったのだった。
「あっ…こ、狛犬?」
脳内でそう答えると、「そうやぁ、にいちゃん、やっと気づいたかぁ…はぁ、しっかし鈍いでぇ、あんた。」と狛犬が返してきた。
ふっと顔を上げ、僕はどの狛犬が喋っているのかを目で探した。
だが、どれも動かず同じ顔。
どうやら僕の脳にだけ勝手に入り込んでいるようだった。
「にいちゃん、今日はなんのお願いや。」
「あっ、あの…あの、前にいる幽霊のしおりさんが成仏したいからって…」
「ほうかぁ…ほな、ごゆっくり。」
脳内で狛犬との会話を終えると、僕はまゆり達の方に走って行った。
けれども、まゆり達には「どうして狛犬が増えたか」の訳は知っているけれど、教えられなかった。
「やることやってるから増えた。」なんて、とてもじゃないけど言える訳がなかった。
そして、狛犬が可愛い顔して生々しいなぁと思うと、何となく気持ちがげんなりしたのだった。
「なんかやだなぁ。」
僕は気持ちをリセットしようと、とりあえず頭上を仰いだ。
すると、青い空をバックに空から何かが顔の上に落ちてきた。
「うわっ!」
それは鳥の糞だった。
「なんだよぉ~!も~う!」
僕は神社で早速罰が当たったのだった。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。




