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彼女と僕らは ショート

「彼女と僕らは」の続きです。

「誰、最初?」

中居まゆこことこーちゃんがそう尋ねると、「は~い!は~い!は~い!」なんて元気よくまゆりが手を上げた。

「い~よ~、りんちゃん、何から歌うのぉ~?」

らーちゃんこと香取まゆらが声をかけた。

「あ、うん、あのね、暗バカのぉ~、デスゴッドはお年頃にするぅ~!」

そうして(まゆの会)の会合は、まゆりがチョイスした曲から始まったのだった。

普段、浩樹達の前では絶対に出さない低すぎるデスヴォイスで、まゆりはのっけからのりのりだった。

集まった(まゆの会)のメンバー達も、まゆりと一緒にデスヴォイスで合唱した。

そもそも名前に「まゆ」がつくこのメンバーが仲良くなったきっかけは、まゆりがチョイスした曲を歌うビジュアル系バンド「暗がりバカンス」通称「くらばか」のファンという共通点だった。

普段は洋楽ばかり聞いていたまゆりだが、何故かこの「暗がりバカンス」の「シーサイド地蔵」というバラード曲ををラジオで聴いてからは、このバンドのファンになったのだった。

メジャーデビューしていても、なかなか売れていない「暗がりバカンス」の数少ないファンとして、ほぼ毎週行われているライブに通ううちに、顔見知りとなり無料通信アプリ「センー」のグループから始まり、同じ高校に通っていると知りどんどんと仲良くなっていったのだった。

歌い終わったまゆりは、笑顔でドスンと腰掛けると注文してあったりんごジュースをぐびぐび飲んだ。

「ぷはぁ~!美味しい~!やっぱ、気持ちよく歌った後に飲むりんごジュースは美味しいんだねぇ。えへへへへへ。」

「なんか最近明るいね、りんちゃん。」

真っ直ぐな黒髪の美少女草薙まゆかことかーちゃんが、隣の席でそう声をかけた。

「そ…そっかなぁ?…んぐんぐんぐ。」

返事をしながら、まゆりは目の前にある大きなマヨコーンシーフードピザを口に入れた。

「うん、そう見える。やっぱ彼氏できると違うんだね。」

まゆかはそう言うと、まゆりと同じピザを食べ始めた。

「…ん、んんん…彼氏って…そんなぁ…感じでもないんだけど…」

「えっ?なんで?付き合ってるんでしょ?広沢君と…キスしたって言ってたじゃん!」

二人の話をよそに稲垣まゆみは「暗がりバカンス」の「恋の平行四辺形」を歌い始めていた。

木村まゆと香取まゆらはそれに合わせて、タンバリンやマラカスを振り回しながら、自分達も一緒に大声で歌うのだった。

「…うん…キスは…したけど…ちゃんと付き合ってとか…好きって言われてないかも…」

まゆりはそこまで言うと、俯いてスマホを取り出した。

「えっ!そんなの、駄目じゃん!ちゃんと言ってもらわないとさぁ…だって、りんちゃん、入学式の時からずっと広沢君のこと好きだったんだよねぇ…で、やっとこ仲良くなれたって喜んでるうちに、何かいつの間にか彼、りんちゃんとこに下宿してるって…」

憤慨した様子のまゆかは、ポテトチップスをぱりぱり食べてなんとか苛立ちを抑えているようだった。

「…うん、そうなんだけどねぇ…でも、なんか言えない事情ってのか…ちょっと色々あって…」

「何?色々って…」

「…うん…広沢君と一緒に住んでた女の子のことで…」

「えっ?何、あいつ、女と暮らしてたって?」

草薙まゆかの声のでかさに、歌っていた3人は負けてしまったのだった。


5時間ほどの歌い上げて、みなすっかり疲れ果てたところで今日のところは解散となった。

「ばいば~い!またね。」

「うん、ありがと!そっちも気をつけて!」

「したらねぇ、また遊ぼうねぇ!」

「ばいば~い!楽しかったねぇ。」

「じゃ~ねぇ…」

まゆりはまゆの会のメンバーと笑顔で別れると、ゆっくりと歩き出した。

すると、後ろからとことこと足音が聞こえた。

振り向くと、かーちゃんこと草薙まゆかが追いかけてきていた。

「あれっ?かーちゃん、どうしたの?」

「ああ、うん、さっきさ、帰りに広沢君達のバイト先のコンビニに寄るって言ってたから…ちょっと、ちゃんと告白しなよ!って言ってやろうかと思って…」

「え~っ!いいよ、そんなのぉ~…恥ずかしいよぉ…」

「えっ、でも、りんちゃん、じゃあ、そのままでいいの?ちゃんと好きだって、付き合ってって言ってほしくない?」

「…うん…それはそうだけどぉ…でも、催促することじゃないし…」

「そうだけどさぁ…ここはやっぱり男の方からちゃんと言わないと駄目じゃん。人の唇奪っといてさ…ねっ?だからさ…あたしから、それとなく促すから…ねっ!思い立ったが吉日だよ!ねっ!」

「…ん~…」

さっきまでのカラオケの勢いはどこへやらのまゆりは、突然のまゆかの提案に少々戸惑った。

だが、それも「友達としての優しさ」なのだろうと思うと、まゆりは頷くしかなかった。

「じゃあ、決まりっ!さっ、レッツゴー!」

「お~…」

まゆかの勢いに押された形で、まゆりは渋々賛成したのだった。


「ねぇ、なんでしおりさんも一緒に来たのさ…そんなにお寺で待ってるの退屈なの?…たまには一人でいるのもいいんじゃないんの?…今、俺ら仕事中だから、絶対に邪魔しないでよ!この前、自給だって10円上がったんだからさ、今絶対に首になりたくないから…頼むよ!ホント!」

僕は不意な軽い思いつきでバイトくんだりまでくっついてきたしおりが、邪魔でしょうがなかった。

「それくらいいいじゃん、ねぇ、タケシさん、いいよねぇ、別に…あたしは他の人達には見えてないんだもん。大丈夫だよねぇ…それに、もしかしたら、ここに成仏できるヒントかなんかがあるかもしれないし…ほら、そう言ってる間に見つけちゃったよ、これ…あたしさ、生きてる頃肉まん大好物だったんだよねぇ…でもさ、実家の仏壇にはいっつもさほど美味しくもないけど、高そうなお菓子ばっかりでさ…しかも、憑依しないと食べられないし、味わかんないし…」

「まぁまぁ、二人とも喧嘩しないで、ねっ!ほら…ぶつぶつ喋ってるのが、全部独り言みたいだからさぁ、浩樹のは…怪しいから…勤務中は私語は禁止だよ!」

「死後って、あたしはもう死んでるんだけどね…って、そっちのシゴじゃないか?あははははは」

タケシと一緒にげらげら笑うこの幽霊の女しおりに、僕は「この人、本当に成仏する気あるんだろうか?」と首を傾げた。

「そういえばさ、今日、まゆりちゃん見なかったね…どっか行ってるの?ねぇ、浩樹さんって…ねぇ…」

陳列棚に先ほどの帰宅ラッシュで少なくなってしまっていた惣菜パンを並べている僕に、しおりはしつこかった。

「ああ、なんか友達と遊びに行くって言ってたけど…」

少々つっけんどん気味に返すと、しおりは「ふ~ん」と言いながら、レジにいるタケシの方に行った。

帰宅ラッシュが済んだ時間帯の店内は、お客が2~3人しかいなかった。

眩しいほど明るい店内から外を見ると真っ暗で、少し離れた場所にある街頭と車のライトぐらいしか見えなかった。

「いらっしゃいませぇ~!」

タケシの声に気づくと、僕もすかさず手を動かしたまま「いらっしゃいませぇ~!」と続けた。

すると、「あれっ?どしたの?」とタケシの声が聞こえた。

パンを並び終えたので僕もタケシの方へ行って見ると、そこには可愛らしく照れてるまゆりと草薙まゆかが立っていた。

「あっ!」

それまでまゆりやタケシと談笑していたまゆかだったが、僕を見るなりいきなり指を刺してそう叫んだ。

「ああ、まゆりさんとえ~と…草薙?さんだっけ?か…いらっしゃいませぇ…」

僕は子分みたいな低姿勢でその場の空気を読みながら話しかけた。

「あっ!幽霊!」

「えっ?」

僕もまゆりもタケシも驚いて声が揃った。

「ねぇ、りんちゃん、広沢君の横に居るのわかる。ねぇ、ねぇ、りんちゃん、確かさ、見えるんだよねぇ…ねぇ、ついてるよねぇ…」

まゆかは僕の横にいるしおりさんを指差しながら、まだ続けた。

「あっ、ねぇ、広沢君、びっくりしないでよ…あなたの横に、女の幽霊いるよ…大丈夫?」

「あ、ん…」

僕は声が詰まった。

「あっ、あのね…かーちゃん、あのね…あの…この幽霊さんはね…あの…」

まゆりが慌てて説明しようとすると、タケシも慌てて加わった。

「あっ、まゆかちゃんさ…あのさ…その話はここではさ…ねっ…わかるよね…あっ、まゆりちゃんさ、まゆかちゃんとちょっと外で待っててもらえる?ごめんね。」

そこまで話すとタケシは店内にある時計をちらりと見やった。

「ああ、とね…バイト終わるまで、もうちょっと…そだな、30分ほどあるからさぁ…あそこのファミレスで待っててもらえる?あっ、時間大丈夫?」

「うん、わかった…こっちは大丈夫だよ!…そだ、ねっ、タケシ君もそう言ってるからさ、かーちゃん、とりあえずファミレスで待ってよっか…ねっ。じゃ…浩樹君達、また、後でね…」

まゆかを上手くなだめてから、僕達に小さく手を振ったまゆりは、まゆかの背中に手を回しながらゆっくりと店を出て行った。

「ふぅ~…しっかし驚いたなぁ…浩樹…」

「そうだなぁ…って…あれっ?しおりさんは?」

今の今まで僕の隣にいたしおりの姿はどこにもなかった。


「ねぇ、さっきさ、広沢君の横に女の幽霊、いたよねぇ…」

コンビニの向かい側のファミレスに着くまで、まゆかはくどいほどまゆりに確認を求めた。

「あ、うん…そうなんだけど…あのね…実はさ…」


爽やかな笑顔の店員に案内され窓際の禁煙席に落ち着くと、まゆりもまゆかもとりあえずメニューを見ることで話を一旦終わらせた。

「ねぇ、りんちゃん、何食べるぅ?」

「あっ、あたしは…そうだねぇ…どうしようかなぁ?ドリンクバーと大盛りポテトにしようか?それとも…」

まゆりがメニューを眺めながらそう答えていると、すかさず二人以外の声が混じってきた。

「あっ!まゆりちゃん、あたしね、このニューヨークチーズケーキ食べたいから、ちょっとだけ憑依させてね。」

「えっ?」

屈託のない笑顔でまゆりにおねだりしているしおりが、いつの間にか自分の隣にいることにまゆかはびっくりした。

「あっ…この幽霊…えっ?何っ?りんちゃんの知り合い?」

「あっ、かーちゃん、ごめんね、言うの遅くなっちゃって…え~とね、そうなの…え~とね、塩川しおりさんって言うの。それでね、この人がね、浩樹君の部屋で一緒に住んでたってのか、浩樹君が住む前から居た人ってのか…え~と…そんな感じなの…」

まゆりとまゆかに指を指されながら、しおりは何故かちょっとだけ照れた。

他のお客さんや店員に聞かれないように、まゆりとまゆかとしおりは小声で話し始めた。

「え~!どういうことなの?…もしかしてさ、広沢君達がりんちゃんとこに下宿してるのも、この人、関係あるんじゃない?」

「あっ、やっぱかーちゃんするどいねぇ…さっすが神社の巫女さんだけあるわぁ…」

まゆりは心底まゆかの凄さを思い知って、感心したのだった。

「で、なんで?…」

「ああ、その話はすんごく長いからぁ、あたしからするね…そうそう、幽霊って呼ぶのやめてもらえる?…そうはそうなんだけど、やっぱりちょっと傷つくってのか、寂しいなぁ…あたしもまゆかちゃん?だっけ?のこと、かーちゃんって呼ぶから、あたしのことも名前で呼んでもらえる?いい?」

しおりの穏やかな話しぶりに、まゆかはただ「ああ、はい。」としか答えられなかった。

「どっから話したらいいかなぁ?」

顎に手を当て考えるしおりに、まゆりは「全部でいいんじゃない?しおりさん…だって、浩樹君達、まだまだ来ないもん…」と返した。

「そだね…あっ!とその前にさ、なんか注文しないと…」

生きていたならまゆり達よりも若干お姉さんになるしおりの提案に、まゆりもまゆかも文句なく賛成したのだった。


「…でね、なんか知らないけど、今に至るって感じで、あたしさ、なかなか成仏できないんだよねぇ…」

まゆりに憑依した形で今までの経緯をすっかり話したしおりは、まゆりの体越しに注文していたニューヨークチーズケーキを一口食べた。

「あっ、美味しい~!やっぱりこれ美味しいねぇ…」

まゆりとまゆりに憑依しているしおりは同じ感想だった。

「…ふ~ん…大変だったねぇ…広沢君達も結果、まゆりのとこに住めて良かったけど、色々大変だったんだぁ…そっかぁ…」

それだけ言い終えると、まゆかはドリンクバーのアイスココアをストローで啜りながら飲んだ。

「…そうなんだけど…でも、今はみんながいい形になってる気がするから、しおりさんの恩返しってのか、そういうのも終わってるんじゃないかなって、あたしは思うんだけどね…いっぱい楽しいこと経験させてもらってるから…」

「ああ、まぁ、話聞いてるとそうかもねって感じだねぇ…それにしても、武田君のおばあちゃんの話、すごいねぇ…しおりちゃんが感動したって言うの、あたし、わかるわぁ…なんか、家のお母さんもきっと同じ目に遭ったら、絶対同じこと言いそう。確かに生きてるこっちはお金払って部屋なり借りてるんだものねぇ、住む権利があるのは、やっぱ、お金払ってる方だよねぇ…それなのに、そんな風に勝手に電気つけられてたり、物壊されたり、怖い思いさせられるのはムカつくわ!うん、腹立つ…家賃払えないなら、せめて箪笥の後ろの埃をとるとか、お風呂のカビをとっておくとか、家の手伝いしてもらいたいかも…金がないなら労働で払え!って…あははははは…」

「そうそう、体で払え!って…やだぁ、昔か?って…あははははは…」

まゆりの体から出たしおりの発言が、なにやら物騒だなと思うまゆりだった。

「あっ、そういえばね、家のおじいちゃんもね、幽霊に遭遇したことあってね…」

「えっ?かーちゃんのおじいちゃんも?」

「そう、先代の宮司だったんだけど、ある日の夜中にね、寝てたら急に胸の辺りに誰かが乗っかってるっぽい感覚があったんだって…それがさ、何日かそういうのが続いてらしくて、おじいちゃん、重くて苦しいから思い切って目を開けてみたらね、見たことない女の人がおじいちゃんの胸の上に立ってたんだって…そんでじっとおじいちゃんの顔を覗き込んでるんだってさ…いっつも同じ場所で…それでぇ、おじいちゃんもさ、苦しいしやだから色々やってみたんだって、お経を唱えたりとか…それでも、毎晩毎晩同じ場所に立ってくるから、おじいちゃんもだんだん飽きちゃったみたいなんだぁ…そんでね、すごい肩こりだったから、ある日思い切ってうつ伏せで寝てみたんだってさ…そしたらさ、やっぱり同じ幽霊が同じ場所に立つもんだから、おじいちゃん、幽霊に指圧?ほら、よくお父さんとかの背中に乗って揉んであげるやつ、あれ風にしてもらったんだってさ…そんでぇ、おじいちゃん、その幽霊にもうちょっと下に下がってとか、肩甲骨の辺りとかって踏む場所の指示したらさ、ちゃんとその通りにやってくれたんだけど、2~3日したらだったかな?急に出なくなったんだって…だからね、みんなでおじいちゃんがこき使ったから出て行ったんじゃないって…」

「え~!何、その話~!あはははははは。」

まゆかの話にまゆりもしおりも大笑いしたのだった。

ひとしきり笑った後、まゆかが思いついたかのように提案してきた。

「あ、じゃさ、しおりちゃん、家に来てみる?ほら、家、神社だから…もしかしたら、願いが叶うかもよ。」

「あ~!」

まゆりもしおりも目から鱗状態だった。

最後まで読んで下さって本当にありがとうございます。

これからもどうぞよろしくお願い致します。

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