彼女と僕らは ヒットエンドラン
「彼女と僕らは」の続きです。
1話完結ではなく、最初から全部繋がっていますんで…どうぞよろしくお願い致します。
「わぁ~、見えてきた見えてきた…あそこでしょ?あの十字架がてっぺんに乗っかってる…」
助手席の僕は、家々の屋根の上に徐々に見えてきた噂の教会に興奮してきた。
「そうそう!あそこだよぉ~!ミセス順子、いるかなぁ?」
運転しているまゆりもにこにこしていた。
「へぇ~…あそこかぁ…なんか随分古そうだねぇ…由緒正しいって感じ。」
タケシの率直な感想に、まゆかが続けた。
「そうなの!家の神社ほど古くはないかもしんないけど…でも、素敵なんだよぉ~…外国の教会みたいなの…」
車中全員の目がキラキラ輝いた。
そろそろ秋めいてきた薄青い空には、しゅっと筆で書いたような白い雲の線がくっきり見えている。
まだまだ日差しこそ強いものの、道路脇のピンクや白のコスモスがそよ風にゆらゆら。
その上を合体トンボが群れのような数で、すい~っとそ知らぬ顔で飛んでいる。
街路樹の木陰のアスファルトの上で、2匹の野良猫が体を伸ばした状態でだらしなく眠っている。
ベビーカーを押す若い母親とそれに乗ってすやすや眠るぷくぷくした手足が可愛らしい赤ちゃんを追い越すと、もうそこは目指した教会だった。
到着した教会の庭で今回はウォーレン牧師が高枝伐りバサミを巧みに使って、伸びている背の高い木の剪定作業を行っており、その傍でやっぱりミセス順子が腰を屈めて、雑草を丁寧に抜いていた。
「こんにちはぁ~!また来ちゃいました。」
まゆりとまゆかが先に二人に挨拶をすると、こちらに気づいた牧師夫妻は笑顔で迎えてくれた。
「あらぁ…こんにちはぁ…嬉しいわぁ、また来ていただけて…あらっ、こちらは彼氏さん達かしら?」
ミセス順子の問いかけに、まゆりは笑顔で元気いっぱい答えた。
「はい!そうなんです!こちらが私の彼…きゃっ!…えへへへ…の広沢浩樹君で、こちらが武田タケシ君です。…あの…そだ、ウォーレン牧師にお会いするのは、初めてですよね…すいません…あの、初めまして…私、倉沢まゆりと申します。先日、あの、こちらの草薙まゆかちゃんと一緒に突然お伺いしちゃって…美味しいアイスクリームとかいただいて、ミセス順子と楽しいお話をいっぱいさせていただいて…すんごく楽しかったんです…それで…えへへへへ。」
ほっぺたを真っ赤にして照れながらも、まゆりはきちんと紹介も兼ねた挨拶をやり遂げた。
僕はまゆりのそんなしっかりしている一面を間近にして、「やっぱりお寺の娘さんだから、檀家さんとか色んな人にこうやってやってるんだろうなぁ。」と思った。
「あ、あの、お手伝いさせてください!」
タケシの気の利いた言葉に、僕らも続いたのだった。
「…おや…そうかい…」
ウォーレン牧師の答えに対し、ミセス順子は「悪いわぁ…それより、お茶でも…」と返した。
「あ、みんなでやった方が早いと思いますんで…あ、でも、やり方があるか…でも、折角だから、やり方教えてください…その通りにやりますんで…」
タケシの申し出は本当にいい申し出だと思った。
快く承諾してくれた牧師夫妻に教えていただきながら、僕らはお昼近くまで庭仕事を楽しく手伝った。
まゆりの腹がぐ~と大きく鳴ったので、今度はみんなでお昼ご飯作りを手伝うことになった。
牧師と僕とタケシの男子チームは、外の石釜で大きなピザを3枚も焼いた。
まゆりとまゆかとミセス順子の女子チームは、庭の畑で収穫したトマトやレタスなどを使ったサラダや、フライドチキンにベイクドポテト、それに合うレモンスカッシュやフルーツポンチなんかを作った。
月に一度のバザーでやるのと同じく、それらを外の大きなテーブルセットに並べると、外国の映画か何かで見たようなおしゃれな食卓になったのだった。
「じゃあ、みなさん、お疲れ様でした!かんぱ~い!」
ウォーレン牧師の音頭でシュワシュワ泡が立つレモンスカッシュで乾杯すると、早速わいわいとパーティーが始まった。
美味しい食事に楽しい会話が弾んだ。
僕はふと実家の狭い庭でやるバーベキューを思い出した。
ここで今行われているパーティーとは全然比べ物にならないほど、おしゃでも何でもないけれど、穏やかな雰囲気や気の合う仲間と知り合ったばかりだけれど気さくで昔からの知り合いのような優しい牧師夫妻が、そう思わせているようだった。
「…へぇ…このチーズって、アメリカのなんだぁ…」
タケシの何気ない感想に、ウォーレン牧師が続けた。
「そう…僕の姉妹が酪農とチーズ工房をやってるところに嫁いでねぇ…このサラミは、僕の友人がドイツにいてそこから送ってもらってるんだよぉ…クッキーに使ってる抹茶は順子のお姉さんがお嫁に行った先のお茶農家さんからで…」
どう見ても生粋の外国人のウォーレン牧師の口から発せられる流暢な日本語に、最初のうちは少し違和感を感じた僕らだったけれど、時間が経つうちにそんなこと気にも留めなくなっていったのだった。
「今日はホントにありがとうございました…ピザも食べたもの全部、本当に美味しかったです…本当にご馳走様でした。」
僕がお礼を言い終えると、タケシとまゆりとまゆかも一緒に頭をぺこりと下げた。
「いいえ、こちらこそ、楽しい時間をありがとう…今度バザーに来て下さいね…まゆり…お寺の娘さんだそうだけど、そんなの気にしないで…まゆかも神社の娘さんらしいけど…それはそれだから…信仰が違うからといって、私達は拒んだりは決してしないです…むしろ手を取り合ってそれぞれを尊重しあっていきたいです…楽しい時間に壁はありませんから…ねっ!」
ウォーレン牧師の温かい言葉に、僕は涙が出そうになった。
お二人と硬い握手をすると、僕らは教会を出発した。
帰りはタケシが運転をしてくれ、助手席にはまゆかが、そして僕とまゆりは後部座席に乗った。
「楽しかったし、美味しかったねぇ…」
まゆりはそう言いながら、教会で買ったクッキーの包みを優しい微笑で見つめた。
「ホント、そだねぇ…あたし、絶対バザーに行くんだ!」
助手席のまゆかの宣言に、僕もタケシもまゆりも賛同した。
夏よりも随分日が暮れるのが早くなっていた。
夕焼け色のオレンジとピンクと紫と青が混ざる綺麗な空が、車の窓から見えた。
動いている車内から、僕はその中にキラッと光っている白っぽい小さな星を見つけた。
繋いでいた手をほどいたまゆりは、にこにこと嬉しそうに僕が買ってあげたクッキー全種類を眺めていた。
同じものをまゆかに買ってあげたタケシの横顔を、時折見つめている助手席のまゆかの目がまゆりと似ているような気がした。
そう言えば、タケシは行ったという同窓会の話は全くしてくれない。
なので、僕もあえてその話は聞かないでいるのだった。
「…浩樹君達…来てたんだねぇ…そっかぁ…」
浩樹達が帰る少し前に教会に戻ってきていたしおりとシェインは、楽しそうなパーティーの様子を屋根の上からこっそり見ていたのだった。
「…なんかパパもママも楽しそうで、僕は嬉しいよ…ケインも僕も泣かせてばかりだから…」
シェインの哀しそうな、それでいて安心したような表情に、しおりはどう返していいのかわからなかった。
そして、生きているみんなの楽しげな顔を見ると、自分の存在がとても空しくなった。
「…あの子達が君の友達?…」
突然のシェインの質問に、ボーっとしていたしおりはハッとなった。
「え?あ…何?何だっけ?ごめん…もう一回いい?ごめんなさい。」
両手を合わせた合掌ポーズで真顔で謝るしおりに、しょうがないなといった力ない笑顔のシェインは優しかった。
「彼らが君の友達?」
「あ、うん…そうそう…そうなの…あの子がぁ、浩樹君で、こっちの男の子がタケシ君、そんでこっちの髪がふわふわっとした茶色の子がまゆりちゃんでお寺の…で、こっちの黒髪ストレートの子が神社のまゆかちゃん…4人とも、すんごくいい子なの…すんごく優しくて思いやりに溢れてて…そんで…あたしのことも…すごく…真剣に考えてくれるの…」
「そっかぁ…しおりにとってかけがえのない人達なんだね…」
「…そうなの…だから…」
ガバッと膝に顔をつける体育座りのまま、しおりはしくしく泣き出した。
何故か堪らない気持ちでいっぱいになったからだった。
「大丈夫、大丈夫だから…僕がついてるから…」
シェインは泣き伏せたしおりの髪を静かに優しく撫でた。
そんなシェインの優しさに、しおりはどんどん惹かれていったのだった。
「…そだ…あのね、シェイン…みんながね…シェインのこと、ちゃんと紹介してって…」
大事な約束を思い出したしおりは、シェインに打診してみた。
「あ、いいの?嬉しいなぁ…僕もしおりの友達に紹介してもらえるなんて…」
「ホント!…良かったぁ…もしか嫌だって言われたらどうしようって思ってた…」
心配顔のしおりに、シェインは優しく続けた。
「僕はそんなこと言わないよぉ~…やだなぁ~、も~…あはははは…」
「そっかぁ…良かったぁ…でね、いつがいい?…ってか、どうしたらいい?」
「ああ、うん、そうだねぇ…じゃあさ、僕、一緒に行くよ!今すぐでも…」
「えっ!いいの?…じゃ…じゃ…どうしよう…」
しおりがそう言うか言わないかのタイミングで、シェインに手を握られるとそのままちょっと前に出発したまゆりの車を追いかけた。
「ひゃあ~!シェイン!シェイン!」
急な出来事に驚いたしおりは、シェインに引っ張られた形で空を飛んだ。
「あ、そだ…しおり、みんなはどこに行くの?」
冷静な笑顔のシェインに、しおりはびっくり顔のまま答えた。
「あっ…まゆりちゃんの家だと思うけど…あ、でも、まゆかちゃん、家まで送るのかな?…どっちかちょっとわかんない…」
「そっか…じゃ、屋根の上に乗っかってこっか!…だって、今、いきなり車の中に入ったら、びっくりして運転してるタケシ君だっけ?…ハンドル操作誤ったら、大変だから…」
「そ、そうね…」
ふわりとまゆりの車の上に落ち着くと、しおりはシェインとがっちり手を繋いだまま沈んでいく美しい夕日を眺めた。
「綺麗だね…」
「えっ?…ああ、夕日?…そだね、綺麗だねぇ…」
自分のことを言われたと勘違いしたと思ったしおりは、少しだけかっがり加減でそう答えた。
「ううん…夕日もだけど、しおりも綺麗だなって…」
「やだぁ…そんな…うふふふふ。」
照れながらしおりは、「どうしてこうも自分のことを褒めるのが上手いのだろう?」と思った。
だけどすぐさま、「ああ、やっぱ、外国人のパパさんだからかなぁ…」と自分の中で消化した。
まさかしおりとシェインが車の上に乗っかっているとは知らない中の4人は、先ほどまでの教会でのパーティーの話と次のバザーに絶対行こうという約束で盛り上がっていた。
「さぁ、着いた…まゆかちゃん、今日は楽しかったね…またね!」
到着したまゆかの神社の実家側の駐車場で、タケシは車を停めたのだった。
「あ、うん…タケシ君、クッキーとパンとポーチ買ってくれてありがとね…じゃ、りんちゃん達もホントにありがと!またみんなで集まろうね!」
そう言うなり車を降りたまゆかは、みんなに手を振ろうと車の方を向くと驚いて固まってしまった。
まゆかの様子がおかしいことにすぐさま気づくと、僕らは急いで車から降りた。
「どした?まゆかちゃん!」
「あ…しお…しお…」
しおしおしか言えないまゆかの指差す車の上に、しおりと噂のシェインが笑いながら乗っかっていたのだった。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。
まだ、続きますんで、どうぞよろしくお願い致します。




