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彼女と僕らは バッター

「彼女と僕らは」の続きです。

すいません。

まだ続きます。

まゆかの神社に到着すると、外でまゆかとしおりは待っていた。

「…あっ、おはようございま~す!しおりさん!かーちゃんもおはようございま~す!」

車から降りるなりまゆりは出来る限り精一杯の笑顔で、挨拶した。

昨日の夜の出来事を払拭しようと、まゆりは決心したことをきっちり実行に移したのだった。

「あ、おはよう、まゆりちゃん…あのさ…あの…ごめ…」

しおりが申し訳なさそうにそこまで言いかけると、まゆりが遮る形で大きく喋った。

「あっ!あのさ…しおりさん、謝らないで…ねっ!…もう…いいじゃない、そのことは…だって、あれは事故みたいなもんだもん…ねっ!」

「…うん…まゆりちゃん…ホント、なんか…ご…」

しおりはうっかり言いかけた言葉を引っ込めるように、焦って続けた。

「あっ、やっ…なんつうか…その…あの…」

戸惑うしおりにまゆりは元気いっぱい話した。

「あのさ!しおりさん、抱っこしよ!ねっ!」

そう言うなり、まゆりはしおりの薄っすらした体を包み込んだ。

実体がないので見えている大体の部分に両腕を回した形だった。

「うん…ありがと…まゆりちゃん…やっぱ、大好き…」

しおりもまゆりのしっかり触れる背中にふんわり両腕を回すと、そう呟いた。

「…あたしも、しおりさん、大好きだよ…だって、友達だもん!ねっ!」

「うん、そうだね…友達だもんね…えへへへへ。」

少し離れてお互いの顔を見つめあうと、まゆりもしおりも目に涙の大きな粒がたまっていた。

次の瞬間の瞬きでそれらはぽろんとこぼれ落ちると、二人は大声で笑い出した。

「あのさ、なんかわかんないけど、よかったね…ところで、今日ね、まゆがね、ケインの教会に行くんだけどって言ってたんだけどね…なんか緊張してお腹壊したんだって…それで…しおりちゃんもいることだし…これから行ってみない?りんちゃん、何か予定ある?」

まゆかの提案に、まゆりは「うん!行こう!行こう!」と元気に返した。

「しおりさんもいいよねぇ!今度は教会だって…うふふふふ…ちょっと楽しみだねぇ…」

まゆりはそう言うと、「ちょっと待ってね、連絡するから。」とスマホを取り出した。


「ヒロ君、これからかーちゃんとしおりさんと3人で、ケインの教会まで行って来るの。ごめんね。帰ったらちゃんと教えるね。」

最後にハートマークをつけると、今度はタケシに「センーー」を送った。

「タケシ君、今朝はありがとうね。しおりさんと会えたから、かーちゃんと3人でケインの教会まで行ってきます。詳細は帰宅後にね。」

連絡を済ませると、まゆりは大きく深呼吸した。

「ささっ!二人とも乗って!乗って!」

二人を車に乗るよう促すと、まゆりは運転席でふんと鼻息を荒くした。

「かーちゃん!ケインの教会の場所教えてね!」

「ラジャー!あのね、ちょっと遠いけど、大丈夫?」

まゆかの心配をよそに、まゆりは「大丈夫!大丈夫!さっ!それより、レッツド~ン!」とやる気まんまんだった。


暗がりバカンスのキーボード、湯沢ケインの実家の教会は隣の隣の街にあった。

高速道路を使わず一般道で行くと、片道1時間半ほどの場所。

湯沢ケインの父であるアメリカ人のウォーレン・シモンズが宣教師としてやってきたのは、もうかれこれ35年ほど前になる。

日本での滞在中、地元の教会で世話になっているところに、日曜学校に通っているスーパーの店員だった湯沢順子と知り合い、結婚し、後を継ぐ者がいないその教会の牧師としてこの街に根を下ろしたのだった。

そして、ケインの3つ上の兄シェインとケイン兄弟の4人で、神の名の下静かに暮らしていたのだが、ケインが中学三年生の時、兄のシェインが新聞配達のバイトで貯めたお金で買ったばかりのバイクで事故を起こし、帰らぬ人となってしまっていた。

なので、本来ならば長男のシェインが牧師になり、教会を続ける意向を示していたのだが、弟のケインがその重責を担う方向に自然と話は進んでいったのだった。

兄のシェインは高校を卒業した後、牧師になるべく神学校への進学も決まっていた。

そんな矢先のバイク事故。

家族は大きな悲しみに包まれたのだった。

ケインは兄の辿るはずだった道に進みつつ、同時進行で高校の同級生で結成したバンド活動もやっていた。

それが暗がりバカンス。

ほとんどの週末に地元の小さなライブハウスでライブ活動を行っていたある日、たまたま出張で来ていたらしい音楽プロデューサーの目に留まり、バンドはメジャーデビュー。

牧師になる約束は棚上げ状態となっていたのだった。

それでも、まだ父であるウォーレンが元気だったこともあり、ケインが急いで後を任される必要もなかった。

そして何より、父も母もバンドで活躍しているケインを全力で応援してくれていたので、焦って牧師になる必要もなかった。

ケインはそんな両親に恩返すべく、バンドの解散を機にキーボード奏者として違うバンドのサポートやスタジオミュージシャンとして生きるのではなく、教会で牧師として務める意向を示したのだった。

潔いケインの選択にファンはもったいないと思うと同時に、「ファンになってよかった。」とも思うのだった。

だが、すぐには実家の教会に牧師としてつくのではなく、アメリカの教会で何年か修行を積んでから戻ってくることになっているので、今、ケインの実家の教会に行ったところで、ケイン本人には会えないのだった。

それを知っていても、ケインの熱狂的なファンだった木村まゆことまゆは、どうしてもここを拝んでおきたかったのだが、緊張のあまり朝になって腹を壊して寝込むという大失態をしてしまっていた。

まゆかとの約束をこんな形で破ることになって、木村まゆは布団で悔し涙を流していた。

「大丈夫!教会は逃げないから…それにケインが帰ってきた時にさ、行けばいいんだもん…ねっ!ねっ!」

草薙まゆかの優しい説得に、涙ながらに「ホントにごめんねぇ~!」としか返せない木村まゆだった。


「わぁ~…綺麗~!」

きちんと手入れされた夏の花で覆われた花壇の奥に、まるで外国にあるそれのようなこじんまりとした三角屋根の古い教会が見えた。

駐車場に車を停めると、3人は花壇にいる人のところへ向った。

まゆりとしおりとまゆかの3人は、早速花壇で一生懸命草むしりをしていた麦藁帽子の年配のご婦人に挨拶をした。

「こんにちはぁ~!素敵な花壇ですねぇ~!」

声をかけられ汗を拭きながらゆっくりと顔を上げたご婦人は、溢れるような優しい笑顔で「こんにちはぁ!あら、可愛らしいお嬢さん達、どちらからいらしたのかしら?…はぁ、よっこらしょっと…よくいらして下さったわぁ…あ、ちょっとあちらで待っててくださる?暑いでしょ?一緒にお茶でもいかが?」と言い終えると、ほっぺたを赤くしたご婦人は教会の方に手を向けた。

「ありがとうございまぁす!すみません、突然来てしまって…」

「ううん、いいのよ…そんなの…気になさらないで…うちのケインのファンの女の子が時々来てくれるのよぉ~…うちは男ばかりだから、嬉しいの…うふふふふ…教会の戸は開いてるからどうぞ…」

「はい、ありがとうございます。」

ケインの母ミセス順子の佇まいに、まゆり達3人はふんわりと温かい気持ちになった。


神聖な場所。

まゆりの寺やまゆかの神社同様、ここもそんな気でいっぱいだった。

「わぁ~、素敵ぃ~!」

何もかもがテレビや映画で見たことがあるような外国作りの教会に、3人はいたく感動した。

真ん中に真っ直ぐ十字架まで続く通路を挟んで、両端に味のある木の繋がったベンチが並んでおり、正面には大きな台、横には年季が入ったオルガンがあった。

両端の壁には縦に長細い窓がベンチの列にあわせてあった。

高い天井には太くて頑丈そうな梁が見える。

正面の十字架の後ろに外の光が差し込んで、ステンドグラスの慈悲深いマリア様の姿が何とも言えず美しかった。

「…家と全然違う…いいなぁ…素敵!」

まゆりは素直な気持ちを吐露した。

「あ、わかるぅ、それ…家の神社もあんなだから…」

まゆかも率直な気持ちを吐き出した。

「え~っ!二人とも、そんなこと言ってぇ…まゆりちゃんのお寺も、まゆかちゃんの神社もどっちも素敵じゃない!どっちも綺麗で、どっちもすんごく癒されるもん!あ、ここもそんな感じ…」

しおりはハッと気づいたように、教会のパワーを全身に感じていた。

「お待たせぇ~…あらぁ…そんなところに立ってないで…こちらへいらしてぇ…うふふふふ…暑いわねぇ…どうぞ、一緒にお茶にしましょう。」

オルガンの奥のカーテンから、両手で銀色のお盆を持ったさっきの婦人が笑顔でやってきた。

まゆり達は一番前の席に行くと、そこには丸いテーブルと椅子のセットが置いてあった。

「あ、ごめんなさい…お嬢さん達はそちらで腰掛けてくださいな…ごめんなさいね…うふふふふ」

「あ、手伝います。」

まゆかがそう言い、ご婦人の手からお盆を受け取ると、まゆりはテーブルをベンチ側に少し動かした。

「ごめんなさいね、ありがとう…」

ご婦人の丁寧で優しい言葉に、こちらの3人はくすぐったいような感覚になっていた。

用意されていたのは3人分。

ご婦人にはしおりの姿は見えていないらしかった。

ガラスのカップとソーサーに、同じデザインのガラスのポットに入った冷たいハーブティーが注がれた。

ふんわりと甘い香りが漂うと、3人とも鼻の穴が自然に膨らんだ。

セットと思われる同じガラスのお皿には、ミントの葉がちょこんと乗っかったバニラアイスクリーム。

「ささ、どうぞ…召し上がれ…うふふふふ。」

ご婦人はそう言うと、冷たいハーブティーをごくりと飲んだ。

まゆりは口パクでしおりに「憑依しませんか?アイス、一緒に食べましょう?」と誘ったけれど、しおりも口パクで「あ、ありがと…でも、今は憑依できなそうだから…あたし、ちょっとあっちの方とか見てくるね…」と伝えると、ふわ~っと浮かんで外に出てしまった。

まゆりとまゆかとご婦人は楽しく会話を始めたのだった。


しおりは先ほどまでご婦人が手入れしていた庭の花をじっくりと眺めていた。

「綺麗~…」

思わず声に出すと、すかさず聞いたことのない声が聞こえた。

「そうでしょう…家のママがいつも手入れしてるから…」

「えっ?」

しおりが驚いて振り向くと、そこに綺麗な顔の若い男の幽霊が立っていたのだった。

「あっ…あっ…あなた…あなた…」

しおりはびっくりしすぎて、「は?」までなかなか言えなかった。

「ああ、失礼…僕はシェイン…湯沢シェイン…ケインの兄です…あはは…びっくりした?ごめんね…」

きらりと爽やかに白い歯を見せたハンサムは、暗がりバカンスのキーボード湯沢ケインの死んだ兄だった。

「…あっ…あたしは…塩川しおり…です…あの…あの…」

「どしたの?」

「あの…失礼なこと聞いてごめんなさい…でも…あの…あなたも死んでるんですか?」

しおりの突拍子もない質問に、シェインは自分のおでこに手を当てて笑うと笑顔で「そうだよ。君と同じ。幽霊さ。」と答えた。

思いがけない出逢いにしおりの心は激しく揺れた。

それと同時に教会の中にいるまゆり達に一刻も早く、この事実を報告したくて堪らなかった。

最後まで読んでくださって本当にありがとうございました。

これからもどうぞよろしくお願い致します。

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