0話 すべてが零になる日
2016年4月2日、東京、午前6時30分。
春休みもいよいよ終わりに差し掛かり明後日からは高校での生活が始まる。
この都市は例年より少し寒いらしく桜の開花はつい先日始まったばかりで、まだ3月初旬並の寒さになる日も珍しくない。
中学校の卒業式以前から配られていた高校の宿題に手をつけたのはたった4時間前で、徹夜して終わったのは宿題の5分の1ほど。
季節とか、気温とか、その日のモチベーションとか、その他色んな要素があって今日があるのに、どうして時間は同じ平等で、どうして変わらず明日が来るのだろう、とか。
中学生特有の中二病哲学が頭の中でぐるぐる回って、無意味な3分が過ぎて、机に並ぶエナジードリンクの空き缶をぼうっと眺めてから、ああ徹夜をしたから、と気づいた。こんな時はシャワーを浴びるのが1番だと知っている。
「母さん、シャワー入るよ」
と、さっき起きたばかりの母親に一声掛けてから階段を下りる。僕の部屋は2階で、風呂場は1階で、3階のリビングに母親がいる。母親の返事は聞こえなかった。
1階に下りて、服を脱いで、お湯の電源を付けて、シャワーを流す。温かくなったら、頭に浴びる。
我が家は4人家族。両親、兄、そして弟の僕。
父は仕事の関係であまり家にはいない。海外を飛び回ったり、会社に泊まり込んだりしているそう。この歳になったけれど僕は父の仕事の内容を知らない。教えないということは、きっと教えなくないのだろうと詮索はしていない。
兄は大学生で、僕とは4つ歳が離れている。家には普段居なくて、大学近くのアパートに1人暮らしをしている。大学生なのだから別に構わないし、家が広くなるのでありがたいが両親への資金的な問題は、やっぱり生まれているようだ。両親は僕には家計とかこの家のローンとかは一切教えてくれない。別に知りたいわけでもないが、都立高校の受験に落ちて私立に進学する自分が迷惑を掛けていないか、少し心配だ。
頭を洗い終わり、身体と顔も洗い終わり、洗面所に出る。
身体を拭きながら、魔法が使えるようになったらとか、宇宙人が攻め込んできたらとか、突然サバイバル生活になったらとか、ありえもしない妄想を膨らませる。
こうゆうのは子供の間にしか出来ないと、子供ながらに思う。大人になったら何のために生きて、何を考えて日々を生活するのだろう。
この妄想は、最近よく考える。考えて、考えれば考える程に怖くなって強制終了させる。ほら今回もそう、何のために生まれただとか、ちっぽけな社会の礎の1人だとか、そこらでやめたくなる。大人になったらこんな事も妄想出来ないのだろうと、なったこともないのに勝手に妄想する。
身体を拭き終え服も着て3階へ上がる。徹夜明けはお腹が減らないものだけど、何かしら食べておくべきだろう。まだマーガリン入りのパンが残っていたからそれを何個か食べよう___そんなことを考えて、階段を上がりきった。
おかしい。
普段通りのリビング、普段通りのキッチン、普段通りのベランダ。何がおかしいかというと、
母がいない。
…常識的に考えれば、トイレに行っているだとか、コンビニに行っているとか、そんな事が思いつくだろう。その時は僕もそう思って、1人でパンの袋を引っ張り出してきて焼いて食べた。食べ終わった時には高校の宿題の事なんてすっかり忘れてゲームを始めた。しかし母がいない事だけは常に気がかりで、ゲームに身が入らない。朝食のパンを食べ終えて1時間が経過した頃いよいよ不安になって母の携帯に電話をかけた。
コールが鳴ると同時に足元で着信音。見ると母の携帯が床に転がっていた。
これは事件だろうか、どうすればいい?ひとまず父の電話番号にかける。しかし留守電に繋がった。次に兄の電話番号。しかしこちらも留守電に繋がった。
何だろう、違和感を感じる。
どうなっている?パニックになりかけながらも次に母と仲のいい近所の人の家を訪ねた。しかしこちらはいくらインターホンを押しても返事がない。
あとは近所の駅やコンビニを探してみるしかない。僕はそのまま駅方面に走った。
そして、走るにつれその違和感は増していき、不安になり、徐々に違和感の正体を悟ることになる。
おかしい。
いない。
道には、いない。
コンビニにも、いない。
ATM、いない。
駅前、いない。
風の音が聞こえる。それは当然で、おかしいのはここから。
それ以外の音が聞こえない。
あれほど騒がしかった国道を走る車の音が、
電車の走る音が、
自転車の音が、
人々の話す音が。
駅、いない。
国道、いない。
いないのは、母ではなく、母だけではなく、
誰もいなくなっていた。
気まぐれです。
リアルな現代サバイバル書きたいです。
誰かに見つけてもらうまでは好きに書き続けます。
あらすじと前書きは何も思いつかなかったので適当です。