第八回『春が来た』
これまでの異界交友記:生まれて初めて女の子の家に泊まっちゃった!
流石に両親には話さざるをえない。アマールの家に泊まってるし、思いっきり怪我もしている。隠すわけにはいかない。
× × ×
その結果だが、信じてはもらえた。
フィールズが、管理区に問い合わせてみると言う事になったので、この分ならパトロールは必要なさそうだ。
なにより、パトロールに関してはあまり良い返事が貰えなかった。子供だけでって、そりゃ危ないよな。僕は怪我しちまってるしな……ちょっと、残念ではあるが。
次の稽古の日、アマールには謝っておいた。少し寂しげな顔をしていたが、想定の範囲内だったのだろう。次の手を考えると言っていた。
この子は良い子だ……
「お疲れミカ」
稽古終了後、フィールズに呼び止められた。
「おつかれさまです。お父さん」
「昨日の魔物の話なんだけどな。問い合わせてみたんだが取り入ってもらえなかった」
「え?」
「『そんなことはない! 子供のデタラメだ』の一点張りさ」
「僕、怪我までしてるのに……」
「それも伝えたが『ただの野犬にやられたんだろ』と、言われたよ」
……ケッ! これだからお役所仕事は……
「だからあまり力になれそうにない」
「でも、お父さんとお母さんは信じてくれるでしょ?」
「あぁもちろんだ。お前が嘘つくなんて思えない。けどな、そんな子供のデタラメあてにして大人が動くと、世間体が悪いんだ……」
世間体かよ……子供の戯言に大人が付き合うなって事ね……そりゃそうだよな。
「俺はこの施設区を取りまとめてる身だから余計にな」
なんとまぁ、この男、そんな役職についていたのか……それは確かに世間体は悪くなるのはまずいかも。
「そうですか………………では、アマールとのパトロールは許してください!」
ピンチはチャンス!
「な…………それは……俺からロタリーに聞いてみるよ」
「お願いします」
フィールズはがっかりした様子だった……
× × ×
その日の夕飯時、パトロールOKの返事をもらえたぜ!
なんでも、元々二人が反対していたわけではなかった。フィールズが頑なに反対だったと言う。
しかし、そこは父親のメンツを立たせる為、ロタリアが折れていたようだ。できた嫁さんだね~。
何故、ロタリアが賛成だったかと言うと、早いうちから魔物との戦闘を経験しておく方が、良い冒険者になる秘訣だからだと言っていた。
どうやら、ロタリアは将来的に僕を冒険者にしたいそうだ。
そして、フィールズは冒険者になるのは賛成なのだが、その前に学業を頑張ってもらいたいと思っているらしい。
そこに二人の対立があり、今回の件や、進路などで話が割れているとの事。
……個人的には学校へ行くよりも、断然冒険者になってみたい。
今更『学校』って感じでもないし、学生生活に思い残しはない……
何より『冒険』という響きに心躍らない男は居ないって話だぜ!
ネトゲ時代、追加パッチで増えたクエストや、ダンジョンに潜る度、興奮したもんだよ。
どんな仕掛けがあるのかな?
どんな敵が出るのかな?
どんなアイテムが眠っているのかな? と、ワクワクした。
そして、それらを誰よりも先に攻略するのが、何にも代えがたい快感がった。
それがリアルでできるんだ! 学校なんか行ってる場合じゃねぇ!!
……まぁこの話はオイオイ考えるとして……パトロールのお許しが出た朗報をアマールに伝えに行こう。
翌朝、アマールの家を訪れた。今日の稽古の時でも良かったのだが、一刻もはやく伝えたかった。
「と、言う事だから、今日の夕方から手伝えそうだよ」
「……そっか、わざわざありがと」
いつものジト目だったが、声の感じは嬉しそうだ。
「また道場でね。バイバイ」
「うん、バイバイ」
少しはにかんだ表情でドアが閉められる。
……ナンダコレハ? リア充かよ! 甘い、甘いよ〜小沢さ〜ん!!
今日の稽古では何度かアマールと目があった。青春っぽいよ〜。
道場での稽古後、ロタリアからの個人レッスンを受けていた。
いつものように、柔軟→筋トレ→模擬戦と、メニューをこなす。
ロタリアは、実戦主義だ。「いくら型の練習をしようが、素振りを何万回としようが、魂の取り合いをする実戦において、なんの意味を持たない」と、常に言っている。道場でも同じことを説いているし、軽い気持ちで来ている連中は引き気味だ。
子供に対して無茶苦茶言ってるが、理にかなっていると思う。僕は、この考え割と好きだ。
「さて、ミカは魔物と戦うことになりましたね?」
「はい」
「これから、少し魔物との戦い方を教えましょう」
縁側に移動し、座学のスタイルになる。
個人レッスンが始まってかなり経つが、このようなスタイルで何かを教わるのは、初めてだったりする。
何せロタリアは体に叩き込むスタイルだからな!