第七回『アマール・シャムロッテ』
これまでの異界交友記:魔物は町に実在した……アマールのスカートは覗けなかった……
ちゃんと椅子に座り直し、聞く体制に!
「たまたま通りかかったわけじゃないの。あんな路地、たまたま通るわけないもの」
「じゃあなんで?」
「……パトロールみたいなものよ」
「パトロール?」
「そう。この町に魔物が出ることを知っているのは私だけだから……」
「……誰かに言ったら良いんじゃ」
「その結果はあなたは知ってるでしょ?」
なるほど。
「知ってしまった以上、私には見過ごすことができない……」
すごい正義感だ。
「アマールさんはすごいな。ボクには真似できないよ」
「……」
「それとあの魔法! あれって君がやったんだよね?」
「そうよ。ミカルド君ち道場に通ってはいるけど、私は本来、剣士じゃなくて魔法使い志望だから」
ほう……誰でも彼でも賢者になれると言うのに、あえて魔法専門職に就くのか……
「…………」
「…………」
話が途切れてしまった。この沈黙が辛い、これが苦手だから他人との交流を避けてきたってんだ……いやいや、ミカルド引くな! 攻めろ!
「いや~カッコ良かったよ。めっちゃ助かったもの。僕は魔法使ったことないから憧れちゃうよぉ〜」
「……」
「……」
やっぱり引いてるのかな? ここで引いたら二流!
「アマールさんが持ってたのって、ハンドガン型だよね? デザインカッコ良かったよ。実家にもあって見たことあるけどそれより断然かっこよかったわ! 他にも持ってたりするの?」
「…………」
あれ? やっぱりダメか? だよなぁ、この子グイグイいくとダメだもんなぁ。
突如として立ち上がるアマール。本格的に怒るのか?
背筋をピンとし、身構える……そして彼女は、ボクの隣に腰掛けた……へ?
「ど、どうした?」
「ミカルド君なかなか見る目があるわね!」
「えっ?」
「あの時持っていた銃はケフト&ツィード社が6089年に発表した。CT-089の後期生産型なんだ。通称CT-089。ハックが発表された年ってのはケフト社とツィードマイン社が合併した年でその合併後一発目の銃だったんだ。当時はまだ生産ラインが整ってなくて初期生産型は全部手組だったの。だから結構壊れやすくてね~今使ったら一回撃っただけでバラバラだよ! 私の使った後期生産型は流石に生産ラインが整い壊れることのないベストセラー! だから初期生産型は飾って楽しむアンティークってとこ。しかもハックはメンテも楽でねぇ。誰でもバラせて組み立てられるって言うね。かの有名な技師ペナルトは組み立てに一分とかからないんだ。私なんかどう頑張っても三十分はかかる。それから――」
変なスイッチ押しちまったー!!
いつものジト目から、クリクリお目々を輝かせ語っている。よほど好きなのだろう。
「もう! 聞いてる!?」
「え、ウン。聞いてるよ」
「なら良いけど。まったこれが傑作で――」
てか、サラッと6089年とか言ってたな。前世の感覚で言うと、めちゃすご。大体三倍ぐらいの年数だ。
……今って何年なんだ? 全く気にしたことなかった。年を越しを祝うって風習がないからか年の間隔がない。
まぁアラサーにまでなるとそこまで年越すのもめでたくないんだけどな……
「ちょっと待ってて」
すごい勢いで部屋を出て行った。
隣の部屋でからあぁでもないこぉでもないと聞こえてくる。なにか持ってくるのだろうか?。
数分後、案の定魔銃を抱えて戻ってきた。二丁だけベッドに置き、また隣の部屋へ。
まだあるの? そして次は、かなりでかい物を担いできた。
「アマールさん戦争でもする気?」
その後、エンジンが温まってきたのか魔銃の説明は饒舌だった。
しかし、その熱弁虚しく僕は♪ それを♪ 左へ受け流すぅ〜♪。
× × ×
しゃべり疲れたようで、アマールはボクの膝の上で眠ってしまった。
「可愛い奴め」
頭を撫でてやる。
「んっふぅ……」
アーー……これじゃあボクが眠れないじゃないか! ちょっと手を伸ばせば、お尻とおっぱい触れるよ……我慢しろ我慢! ここで手を出してみろ。やっと積み重なってきたものが、爆裂霧散しちまうぜ。
だがしかし、この『待て』の状況コーフンするなぁ。
とりあえず、パンツだけでも拝んでおこう。
結局一睡もできなかった。くっそ、いろいろギンギンだ……
アマールは目を覚ますなり、ボクをジトッと、いつもよりジトォっと見つめてくる。
「やぁおはよう」
「……ミカ、あなた何もしてないよね?」
ギクゥッ!! まさか、起きてたのか? 僕がスカートめくってパンツ見たの、気付いてたの!?
「な、何言ってんだよ。何もするわけ無いだろ」
うわぁ……完全に疑ってる目だ。
そして、彼女はおもむろに持ってきたコレクションを入念に調べ始めた。
なんだ、そっちの事か……焦らすなよ。
「ウン、何もしてないね」
満面の笑み……
そう言えばさっき『ミカルド君』じゃなくって『ミカ』って呼んでくれた……好感度アップしたのか?
アマールは結構家庭的だった。チャッチャと朝食を作ってくれた。出されたのはオムレツ的な料理だ。
「美味い!」
× × ×
「ごめん。わざわざ」
「一人で帰るの大変でしょ? 面倒見るよ」
まさか、女の子と二人で家に帰る事になるなんて……それもこれも、積極的に人とか変わっていったからだ。
こんな人並なことができるなんて、やはり前世での行いは間違っていたんだな。もうこの世にデイダラぼっちは居ないぜ!
「ところでミカ、お願いがあるんだけど?」
「何ですか?」
「……私の手伝いをしてほしいの」
「手伝い? なんの?」
「なんのってパトロールよ」
「……なるほど」
一宿一飯一治療の恩義があるからな。断る訳にはいかないな。
「僕で良ければ喜んで」
「……ありがとう」
ちょっと俯いてしまった。
「あ、でも少し問題が。僕、道場の稽古以外の時間ロタリアから個人レッスンがあるんだ。またそれが激しくてさぁ。一応、フリーの時間はあるけどなかなか時間合わせられないかも……」
「そうなの……まぁその話は道場で会った時に詰めましょう」
そう言ってアマールと別れた。もう実家に着いたのだ。
フィールズとロタリアが、よそよそしかったのが不思議でならん。…………我が子が初めてお泊りしてきたんだ。しかも、女の子の家に……よそよそしくもなるか。
こうして、僕はアマールに協力することになった。