第六回『エンカウンター その1』
これまでの異界交友記:父もたまにはいいところを見せたい……
日も傾き、程よい時間になった。
「お父さん、そろそろ行きます」
「そうか、頑張ってこいよ。見つかると良いな」
「はい行って来ます!」
「あんまり遅い時間になるなよぉ」
目的地につくまで時間があるので、魔法について知ったことを整理。
魔銃には、三つの型がある。
取り回しのきくハンドガン型。
汎用性の高いライフル型。
大火力のバリスタ型。
弾には、術式が刻まれていて、引き金を引くことで魔法を発動させる事ができる。
一発につき、一回というわけではない。二回、三回と装填し直さないで撃つことができる。
これは、銃本体の性能で変わるらしい。
もちろん、他のファンタジーと同じように、属性というものが存在して、無地水火風草氷毒電超闇天の十二種類……多いよ!
どんなものにも属性が付いていて、草も動物も人にだってあるそうだ。この辺りはおいおい理解していこう。
何故なら、この世界では、魔法使いになる予定は今の所ないからな。僕は、剣士になる! そう決めた。
MMORPGでは全てを極めたが、とりわけタンクは苦手だった。しかし、この世界では剣士の素質があるようだし。
なんて事を考えていると、目的の場所についた。
施設区と、管理区の境……うちの道場とは正反対の場所にある。
西日が町を照らしている。そろそろ日が暮れる……とっとと探し出しますかな。
× × ×
まだ、完全に陽は沈んでいないが、街灯のないここはとても暗い。窓からこぼれる明かりが、唯一路地の姿を露わにしていた。
「う~ん、これは何かでそうな雰囲気……」
――と言う思いとは裏腹に、時間だけが過ぎていった。
まぁまぁまぁ、これは想定の範囲内、ヒントが増えたからって答えが一発で出せるなんて思っちゃいないさ。
にしても、薄気味悪い路地だ……そろそろ、帰ろっかな……う~身震いが。
今進んでる路地は、すぐそこで曲がっている。あそこの先を確認したら、今日は終わりにしよう。
曲がった先は行き止まりだった。
「なんにも見えない」
懐中電灯でもあればなぁ。勿論、そんなものはこの世界にはない。せいぜい提灯とか、カンテラ位なもんだ。
「はぁ帰ろ」
僕は踵を返し帰路につ……!!?
突如として緊張感が……あ、これ緊張感と違うな……えっと、初めてだからわかんないけど、これって殺気ってやつ?
背筋が凍る……絶対後ろに何かいる。気配を感じるもん。獣人族は感覚が鋭敏だ。その感覚を信じるならば、確実に何かいる。
曲がった時は確かに居なかった。こんなに、殺気というか気配がはっきりしている奴に、気づかないはずがない。
動機が激しくなる……
「アーもう! こっわいなっ!!」
僕は勢い良く振り返った。ゆっくり振り返ったって、居る時は居るし、居なきゃ居ない。だったら、とっとと確認しちまいたい。
「うおっ」
そこには犬が居た。見たことない犬種だ。わかりやすく言うと、ドーベルマン的な”シュッ”としたタイプの犬。
一体どこから湧いて出た? 周りの建物は、背が高いので飛んで来たってのは考え辛い。やはり、見逃してたのか? 前途の通り見逃すはずがない。
個人的には『野犬でしたぁ』位のが、可愛げがあって良いのだが、その動物の額からはツノが生えていた。やっぱりね。と、言うか。でしょうね。と、言うか……こいつがアマールの言っていた、狼の魔物なんだろうよ。
『グルルルゥ』
僕の腹の虫が鳴いた。って言うならどれだけ良かったか……魔物は唸り声を上げる。
「僕は肉食だから食べたって美味くないぞ」
よ、よし居ることは確認できた。これで、アマールの無実は証明された。
あれ? これからどうしよ。デジカメもなければ、スマホもない。証拠どうしよう。
メモ帳位あれば良かったな。
いやいや、この状況ヤバイでしょ? 気配から察するに、友好的ではない……こんなことなら、きびだんごでも持って来るべきだったぜ!
戦うしか……武器なんてない。こんな時は……
「逃げるんだよォ! スモーキーーーーッ!! どけーッヤジ馬どもーッ!!」
心の中にいる黒人の子供に『わあ~ッ!! なんだこの男ーッ』とか言われてるが『シュゴォ』って感じで走りだす。ヤジ馬なんていないけど、そう言っておくんだよォ!
ズッコケそうになるが、必死にバランスを保ち路地を進む!
「ヤッベー! マジはえっ! 死ぬぅ」
あの角を曲がれば、大通りだぜ……!!
急ブレーキをかける。
「……終わった」
最悪の事態だ……まさか、もう追い抜いてるなんて。これって『ミカルドはにげだした! しかしまわりこまれてしまった!』ってやつ!?
「イッテーーッ!」
後ろを見ると、ふくらはぎに魔物が噛み付いていた。
噛み付いたままの魔物を思い切り蹴り飛ばす。
「くそ!」
ホント最悪だ。
「二匹かよ……」
脚をやられてしまい為す術なし。
二匹が、犬歯をむき出しにじり寄る。すぐそこは大通りだ。まだこの時間は人通りが多く、喧騒が聞こえてくる。こんなとこで死ぬのは嫌だぞ。コレが犬死にって事?
僕は、この世界で頑張るって決めたんだ。折角、その頑張りが芽吹いてきたというのに、こんなゴミみてぇに……大通りの方を見ると、カップルがイチャつきながら歩いているのが眼に飛び込んできた。最後に見る光景がイチャこらカップルなんてヤダ……まさしくリア充爆発しろだ!
万事休すと思った瞬間、突如目の前に居た狼が、二匹とも爆発した……何、こいつらリア充だったん?
「ミカルド君大丈夫?」
「へ?」
僕を呼ぶ声。
声のした方を見てみると、そこにはピンク色の体毛に覆われ、金と赤のオッドアイでジトッと僕を見つめる、アマール・シャムロッテが立っていた。
僕を気遣ってくれてるって事は、二匹を倒したのは彼女なのか?
「返事がないってことは大丈夫なのね。それじゃあ」
「いや待って。大丈夫じゃない!」
× × ×
僕は生まれて初めて、同年代の子の家に来ている……ここで言う『生まれ初めて』って言うのは、前世から数えてだ。
小学校までは普通だったが、誰かの家に行った記憶はない。そこまでの人間関係を築いたことがない。あれ? それって普通か?
そんな奴が、三十二歳になって初めてしかも女の子の家ですよ!!
「アマールさんありがとうございます」
「別にいいわよ」
僕はベッドに腰を掛け、噛まれた所をアマールに治療してもらっている。傷に触れるたび身体に電流が走る。
「あふぅ」
「大丈夫?」
「う、うん大丈夫だよ」
危ない歓喜が漏れちまった。
そして、包帯を巻き始める。いい顔で僕は言ってやる。
「もう少し強くお願いします」
「? あまり強すぎると血が止まるよ?」
「えっとずれたら嫌だなって」
「そんな緩くやらないわ、まぁ気持ち強めに締めるよ」
「ありがとうございます。ありがとうございます」
「なんでそんないい顔で二回も言ったの? キモチワル」
獣耳幼女に、包帯巻いてもらうなんて、ボク達の業界ではご褒美の一つです!
幼女つっても見た目同年代だから何もおかしい事はありません。
「もう時間遅いし、今日はうちに泊まっていった方が良いわね」
「えっ?」
「私から家には連絡しておいたから」
「でも明日の稽古が」
「よくわからないけど喜んでたわ」
「そ、そうなら良いけど」
アマールルート入ったっぽいぞこれ!! 女の子の家にお泊まりなんて、コレまでの人生であっただろうか!? いや無い!
「でもご両親は?」
「仕事で家になかなか帰ってこないのよ。多分、今日は私一人」
……先シャワー浴びてこいよ(キリッ)って感じだな。
アマールは向かいにあるソファーに腰掛ける。
あぁいかんいかん、下心を出しちゃイカン。
しかし、僕は気づかれないように、少しずつ座る体勢を浅くしていく。後ちょっとで、秘密の花園が覗けるんだ! 後ちょっと後ちょっとやぁ……汗が頬を流れる。
「所でアマールさんはなんであそこにいたの」
「……そのことね……」
彼女は淡々と話しを始めたのだった。
「その前に私のスカート覗こうとするのやめてくれない。キモチワルイ」
「え?」