第五回『初恋(?)の味は酸の味』
これまでの異界交友記:気になるあの子の名前はアマールちゃん。彼女の無実を証明する為、頑張るアラサー。
結論から言うと、魔物は見つからなかった。
やはりヒントが少ないのから厳しい、もっとアマールから聞き出せれば良いのだが……
今日一日で、何かしら見つかれば儲けものだったのだが、そう上手くいくもんじゃないな。少々考えが甘かったようだ。
日も暮れだしたので帰るとしよう……
途中、アマールの家の前を通り、パンツが降臨していないか確認したが。洗濯物はしまわれていた。
× × ×
う~ん、稽古の時間を減らしてもらえればなぁ。
パッパと、マッマに相談してみるかねぇ。『ホウレン草』は、体に良いと言うしな!
「お父さん、お母さん。ちょっと相談があるのですが……」
「と、言う事で、稽古の時間を少し減らしてもらえると嬉しいんだけど……ダメかな?」
「……なるほど、だからこの前変なことを聞いてきたのか」
「そうなんです。だから、なるべく解決してあげたいと思います」
「…………ミカにとって、アマールちゃんはどう言う存在?」
うぅん、そう言われると困るなぁ。
同年代の女の子ではあるが、特別仲が良いと言う訳ではない。むしろ、煙たがられてるしな……
「どうなの?」
「あ、はい……気になる子ではあります……」
「それは年が近いから? 女の子だから?」
「そうですね。女の子としてです」
言っちゃったよ。詰めてくるから、つい口走った……声に出してみると、なんか恥ずかしいぞ……僕、あの子の事好きなのか?
三人の間に沈黙が流れる。
「……そうですか。わかりました。稽古の時間を減らしましょう」
おおっ、過程はどうあれ時間は確保できたぞ!
「わーい、お母さんありがとう」
ドサクサに抱きついて、モフろうとしたが、止められてしまった。
「稽古の時間は減らしますが、内容は変わりませんよ」
「へっ?」
あーもうっ!! 内容が濃くなりました! 時間が減ったのは確かだが、休憩の時間を削るって言うね!
ひたすら稽古、稽古、ケイコとマナブ!
時間比での稽古濃度は、上がりました! ほぼノンストップで稽古しなきゃならないのは、流石に辛い。
「はい。お疲れ様でした」
「|おじゅかれじゃばでじた《おつかれさまでした》」
あー辛い……辛いよー町に出ないで、このまま寝ていたいよ。
「ウッ!?」
僕はその場で吐いてしまった……
「ほら、町に行くんでしょ? 吐いてる暇なんてあるのかい?」
鬼め!! だから、スポ根は嫌いなんだよ!
× × ×
吐瀉物を自ら片付け、気だるい身体へ鞭を振るい、町を歩く。鞭は振るうより振るってもらいたい。
漂ってくる露店からの香ばしいの香りが、気持ち悪さを助長させる。
「うっ重い」
また、吐いてしまった。
そうだね。ここは避けていこうね。
ここまで吐いたのは、初めてオフ会を開いた時、加減も考えず馬鹿みたいに飲んだ時以来だ……
ようやくアマールの家に到着。
前回確認できなかったところを中心に調べましょ!
× × ×
クソ〜駄目だな。手がかりなしに探すのは、やっぱり無理か……ん~もしかしたら、なにか条件があるのかな?
しかし、成果はあったのだ。地上に天使が舞い降りていたよ。一旦匂ってからポケットにしまった。洗濯後の良い香りがしました……小並感。
今日は丸一日休みだ。朝から自主練です。庭で木刀を振るい、仮想敵と戦っている。
ここ数日、今まで以上にアマールにモーションを掛けた。その甲斐あってか、以前より心を開いてくれて、情報を聞き出すことができた。グイグイいってみるもんだな!
・夕方の時間帯に出くわすことが多い。
・施設区と管理区の境目で見かける。
・狼タイプの魔物。
・舞い降りていたパンツはアマールのお母さんの物……
夕方以降の時間は調べたことがない。なので、今日は夕方までフリーなのさ、だから自主練。
施設区と、管理区の接している場所はさほど多くはないので、調査ポイントが絞れそうだ。
狼タイプの魔物……この世界における魔物には、特徴がある。
現存する動物の姿をしたものが多いのだが、動物と魔物を区別をつけるのは簡単だ。
ツノがあるかないかで区別する。
魔物と呼ばれる生物には、例外なく額からツノが生えている。複数生えていたり、大きさが異なったり、様々だ。その形状により強さが変わるらしい。
数が多いほど希少な存在で、大きいほど力が強い。
ツノの有無で魔物かどうかがわかるのでとても親切だ。間違って野犬かなんかを殺すことにならずに済みそう。
そのツノの役割は識別の為ではなく、魔法を使う為にあるらしい。
そして、一番の問題が……まさか、おかっ、いやアマールの物じゃなかったとは……昨晩の遊戯が……誰か僕を殺してくれ!
「おお〜いつになく気合が入ってるなぁ」
当たり前だ。この憤りは木刀を振るうことで発散しなくては!
「どれ、特別にお父さんが稽古をつけてやろう」
「……お願いします!!」
珍しいな。フィールズが稽古の相手になってくれるなんて……
「ちょっと待ってろ」
そう言うと、フィールズは家へ戻っていった。木刀なら、もう一本あるのに……
しばらくすると戻ってきた。
「さて、ミカ君。悲しいことに父が教えてやれることは非常に少ない。なぜなら、剣士としてはロタリーの方がずっと上だからな」
そりゃそうだ。彼女はうちの道場の師範代。
「しかし、これなら教えてやれる」
フィールズが取り出したのは”魔銃”だった……なるほど、魔法か。以前持ってきたリボルバー式の物は、ハンドガン型だったが、今回はライフル型……
魔銃には三つのタイプが有る。
①ハンドガン型
②ライフル型
③バリスタ型
それぞれ、メリット・デメリットあるのだが、ざっくり言うと『小・中・大』って感じだ。
以前聞いた事なのだが、フィールズは元々、魔法剣士をやっていたらしい。
「今から、魔法使いとの戦い方をレクチャーしよう」
「!! お願いします!」
あぁそういう感じか……てっきり、魔法を使う方を教えてくれるのかと思ったよ。けど、対魔法との戦闘法を覚えておくのも、悪くないな。なんてったって、遊び人ですら、賢者級の魔法を操ることのできる世界だ。戦い方を知っていた方が良いだろう。
こうして、フィールズとの稽古が始まった。
「いいか。基本的に守らないとならないのが『動き続ける』『直線上に入らない』『間合いを詰める』の三つだ。ほらほら、止まらない止まらない」
僕に魔法がヒットする。1Hit! 2Hit! 3Hit!
軽く肩パンされたような感覚。痛くはないが、連続で食らうと、ちと痛い。
フィールズの剣術の腕は、ロタリアのが上だろう。毎日のように剣を交えているからわかる。もしかしたら、僕のが強い可能性だってある。
「ホラッ直線上に立たない!」
「はいっ……でも庭、遮蔽物ないんですけど!?」
「じゃあ、動き続けろ!」
しかし、魔法という補助があった場合、こうも違うかね?
× × ×
数時間後、なんとか回避はできるようになった。魔法は直線的にしか飛ばないので、避けるのは容易い。ライフル型は大きいのでどこを狙っているかなど、予め想定できる。そして、予想できれば獣人族なら見切る事も可能。
魔法を躱し間合いを詰める!
「よしもらった!」
「ならこれはどうかな?」
フィールズは、華麗なバックステップで間合いを空け。その最中、これまた華麗な手さばきで、別の弾を装填し撃ってきた。
射線からズレる……? 狙いは僕じゃない?!
「あだっ」
すっ転んだ。
魔法が着弾したのは、僕ではなく足元の地面だ。
芝生の庭は、僕の周りだけ氷に覆われていた。
「と、このように、魔法使いは様々な魔法を使うので、気を付けましょう」
「こんなのずるいよ!」
「ずるくはないよ。魔法使いだって必死なんだ。それに、俺のような中途半端な奴は、魔法を使ってこずるく戦わなきゃ生き残れないのさ」
剣士から見りゃ魔法なんて、卑怯の塊だ。生前やっていたネトゲでの僕のメイン職は魔法使い。前線でタンクが頑張っている間に、安全圏から魔法をぶっぱする、簡単なお仕事だ。
よくやっかみを言われたもんだ……ま、僕はどの職も極めたから、誰も僕に文句は言わなくなったけどね♪
「さて、もう一本行くか!」
「お願いしゃす!!」
まだ夕方まで時間はたっぷりある。