第三回『初接触!』
これまでの異界交友記:この世界は『剣と魔銃のファンタジー』世界!
転生して二年と半年くらいが経った。うちの道場の話をしよう。
母が師範代をしている剣術道場では『超天山流』を、教えている。門下生は四十人ほど。
『超』なんて付けて仰々しいが、そこまですごい流派ではないそうだ。
業界内では『パフォーマンス剣術〜』なんて呼ばれている。以前『超天山流型式全集』なるものを見させられたが「これなんて大技林?」と思うレヴェルだ。
基礎の型だけで、十種類そこからの派生で三~四種類、またその派生が、三~四種類以下ループ……と言うねずみ講よろしくな感じで、スキルツリーが形成され莫大な量になっている。
だけど、我が町にはうちくらいしか道場がない為、将来剣士になりたいと志すものが、仕方なく通っている。
僕は、毎日ロタリアからみっちり稽古をつけてもらっているので、同年代では一番だ……とは言え、近い年の子供は少ない。
今日も道場の稽古は終わった。
しばしの休憩後、ロタリアから個人レッスンだ。
ココ半年間、なかなか成長が見られるらしい。確かに体を動かすのが楽だ。
ただでさえ鋭い五感が、冴え渡るのを実感している。これが楽しくてたまらない。
しかし、パワーはからっきしだ。これは獣人族の特徴だと言う。平均値は高いのだがどうしても力の伸びは悪いらしい。
やはり、STRに振りたい。
けど、両親は「天才、天才」と言ってくれる。二歳そこそこで基礎の型を覚え、派生系も理解しつつあるのは、異常だとか……前世から物覚えが良く器用に何でもこなせたからなぁ……
自室に帰ろうとすると、門下生の子供が仲良く談笑しているのが視界に入った。
外見年齢では近い年代だけど、中身って三十二歳よ? ガキの会話には入れっかよ。
――デイダラぼっち時代を思い出す。
そうだ。生前も僕は、こう言う具合にカッコつけて、斜に構えて、仲良さそうにしてる奴らを見ては、心の中で笑っていたんだ。
そんなだから、あんなことになり、今に至るんだろ。
僕はもう変わったんだよ! よし、ココは自分から声をかけていこうじゃあないか!
友達百人作るって決めたしな。
元来、僕はおしゃべり好きだ。じゃなきゃ実況動画とか、生放送なんてやってないって。
「や、やぁ諸君、一体何をしているんだい?」
僕は貴族か!
なんだよその入り方! ダセー。こう言う場に不慣れなのが丸出しだよ。緊張してんじゃねぇよ。ミカルドのバカ!
「ん? 君は確か……師範代の……」
「はい、ロタリアの息子のミカルドです。よろしく」
おぉ〜、一応そう認識はされてるのか、なんか新鮮だな。男の子三人と、女の子が一人の四人組。
僕に「よう」「うっす」「よろしく」「こんにちは」と声をかけてくれた。
うぉ〜!! なんだかこの感じも久しぶりだ。捕まるまで務めていた会社でも、僕は『デイダラぼっち』だったからな。
この四人は年上っぽい、体も大きいし。
男の子三人は、人間族だ。
女の子の容姿は美少女のソレで、犬耳犬尻尾だ……この子とは仲良くしていこうかしら?
「みなさんは何をされてるんですか?」
「聞いてくれよミカルド。こいつ『町中で魔物を見た』とか言うんだぜ?」
のっぽな男が指を刺した先には、獣人族の女の子。特徴的な長い耳で、ウサギみたいだ。
先に紹介した女の子が、8(人):2(獣)だとした場合、この子はその逆で、我が母のように、獣ベースの獣人族のようだ。このタイプは『純血種』と、呼ぶらしい。
年はやっぱり僕より上っぽい。
その子はその場にうずくまり、少し身体が震えているようだった。
「お前嘘ついてんじゃないぞ」
「……!!」
小柄な男が、持参している剣で小突く。木刀だから安心してくれ。
「なんで町中に魔物が出てくるんだよ」
「いい加減な事言ってんじゃないわよ」
「そうだ、そうだ」
あぁ、なるほどそういう事ね……どこの世界も変わらないね。
とは言え、こんな場面に出くわしたのは初めてだ。
何より僕は、いじめっ子にも目を付けられない『デイダラぼっち』だったからな。舐めたらアカン!
この状況、どうしたもんか…………考えるまでもないか……
「皆さんやめましょう。女の子一人に寄ってたかって」
「……」
「……」
「……」
「……ッチ」
友好的だった四人の目線が、敵意に変わったのが分かった。
「なんだよ。ソーユー感じかよ。師範代の子供で、剣術の天才。ミカルド様はかっこいいですねぇ」
「あぁあ、白けた。行くべ。行くべ」
うんうん、それでいい。
「ゴハッ」
「調子こくなよ」
去り際に一人が、僕の鳩尾に膝蹴りをかましていった。クソガキが……
「ったく、あんた獣臭いのよ」
「ウッ」
最後に四人組の獣人族が、女の子を蹴り飛ばしていった。
同族がソレ言ってやるなよ!
ロタリアだって純血種だぞ!
こいつら…………小指を箪笥の角にぶつけちまえ! でかけ先に着いた瞬間、土砂降りにあえ! 携帯を便所に落とせ! あ、携帯はこの世界にはないんだ。
しかし、今はそんなことはどうでもいい。この子のが大事だ。
「大丈夫?」
僕は手を差し出す。できるだけいい顔で!
彼女は無言で手を取ると、僕の掌に肉球の感触が! うひょう! これはたまらん……しかし、表情には出さないぞ。クールにな!
ゆっくりと起こしてあげると、彼女の全容が明らかになった。
体毛は桃色、ウサギ型の獣人族のようだ。これはモフりたいぞ! 最近、ロタリアはモフらせてくれなくてさぁ。
身長は僕より少し高い。
くりっとしたお目々は、左右で違う色をしていた。金と赤これは厨二臭い。
「ありがと」
立ち上がった彼女は、それだけを告げ、行ってしまった。
いやちょっと待て、もっとなんかあるでしょ?
「待ってください。事情を話したりしてくれないの?」
普通、そう言う流れでしょ。ってか、僕から話しかけていくなんて、何年ぶりかの快挙だよ? これはあんまりだ。せめて、この子と仲良くならねば、そして夜のモフモフを……
クリッとした目をしていたのだが、今は目つき悪く、僕をジトッと見ていた。
「あの四人を追い払ってくれたのはありがたいけど、あなたには関係ないでしょ」
「……うちの道場での事だから関係なくはないよ」
「……そ。道場の為ね。いざこざが起こると面倒だものね」
アイヤなんでそうなるかね? 変な地雷踏んでる?
「そう言う事じゃないけど……君が心配なんだよ。またイジメられるんじゃないかと」
「…………私があんな風になっていたの、今日が初めてと思った?」
「えっ?」
プイッと顔を背け、彼女は道場を後にしていった。
「何ニヤついてんのよ。キモチワル」
と、彼女は呟いた。聞き逃さないぞ、獣人族は聴力も良い、僕がニヤついてる?
ガラスに反射した自分の顔を見ると、確かに広角が上がっていた。
原因はわかる……彼女が『高圧的』だったからだ。
僕の癖はどうでもいいよ。……まさかもっと前からだったのか? 調べてみるか……