第二回『○○と××の』
これまでの異界交友記:友達を百人作る為、異界で頑張る決意をした三十路
生前、僕が投稿していた動画は、ゲーム実況だ。
あらゆるジャンルのゲームをプレイした。メインでやっていたのは『ネトゲ』。
その世界のジョブは、一通りマスターしたし、コンテンツは全てクリアした。装備だって、常に最新最強の物を揃えていた。
言ってみれば、この世界だってそんなMMORPGと同じなのさ! 『カボス・ド・レントが僕と、言うマイキャラを動かしている』そう言う感じだ。
「こらミカ、集中しなさい!」
「う……」
僕は、その場に膝をついていた。
「ミカは意識がそぞろねぇ……」
決意をした夜から一年経った。
あの後から、家で経営している剣術道場で、稽古に励んでいる。
「ご、ごめんなさい」
「早く立ちなさい」
獣人族は成長が早いらしく、二歳そこそこな僕は、人間で言うと小学生くらいには、成長している。
この二年で、なんとかこの世界の言葉の読み書きできるようになった。初めはエライ大変だったが、家にある本を読み漁り、両親達の会話は注意深く聞いた。
生前、ボクはもの覚え良かったからね!
大人でも読まないような本を読んでるのを見られた時は、エライ驚かれたもんだ。
まぁ、そんなことはどうでもいい。
僕に剣を教えているのは、母のロタリアだ。
普段は、虫も殺さないようなほんわかマザーだが、一度剣を持つと、鬼神の如き人に変わってしまう。
何でも、彼女は結婚するまでは、どこだかの国の、国王直属部隊に所属していて、この道場で教えている『超天山流』と呼ばれる剣術の正統継承者でもあった。
「ミカ、あなたには才能はあるのよ。だから、必ず超天山流をマスターしないといけないの」
この人は、何をそんなに期待しているのだろうか?
元々の僕は、中の下程度の運動能力。スポーツなんてやってなかったし、正直スポ根はクセェと思っている…………
いや、イカンイカン。そう言って避けてきたんだろ。決めたじゃないか、積極的にやっていくと!
「もう一度お願いします!」
「そうよ。それでいいの。基礎の型はほぼマスターしているから、後はどれを伸ばしていくのかが重要よ。どの型が自分にあっているのか考えなさい。まぁ、私はどの型でも誰にも負けないくらい強いけどね」
ケッ、 言ってくれるぜ!
にしてもこの流派、馬鹿みたいに型があるんだよな。奇をてらっても仕方ないから、最もポピュラーな奴でいいか。
僕は剣を握り正面で構える。正眼の構えのような感じだ。
ロタリアが打ち込んでくる。
結構なスピードだ。しかし、反応は楽。このケムルフィンは普通の人間とは違い、五感がかなり鋭い……ある程度のものなら見て避けることができる。
切っ先でロタリアの剣をさばき、身体を半身にして避ける。そこからは流れに任せて切りかかる。
と言っても、木刀だし防具着用ですよ。
× × ×
「あ、あり……ざした……」
「はい、ありがとうございました」
僕は、息も絶え絶えで天井を見上げていた。
くっそ、一発も当たりゃしねぇ。このガキャ、我が子相手になんてむちゃくちゃしやがる。
全身がボロボロだ。もう一歩も動けん……
『MMORPGと同じなのさ』とは言ったが、これはやっぱりリアルなんだ。
頭から足の先までマニュアル操作しなきゃならないんだ。マウスに割り当てられたコマンドを押すだけの、簡単なお仕事じゃない。
スキルや、アビリティを覚えたかどうかも全くわからない。ましてや、ステータスなんて数値化されていない。
あぁくそ、ステ振りしてぇ~STRに全振りかな?
てか今レベルいくつだよ!
「全く仕方ない子ね」
ロタリアに抱えられていた。そうだ、身体は小学生くらいだが僕は二歳だぞ! 中身は三十二歳だけどね!
× × ×
ソファに腰掛けぐったりしていると、フィールズがニヤつきながら現れた。
「ミカ~今日はしこたまやられたな〜」
「はい、不甲斐ないですが……」
おっきい怪我はしていないが、そこらじゅうが痛い……
「そうだ、お父さんいつものしてよ……」
「……もう、仕方ないなぁ」
口調はたまたま似たのだろう。フィールズは某ネコ型ロボットのようなしゃべり方で、部屋を出て行った。
「おまたせ!」
数分後彼は一丁の拳銃を持って戻ってきた。リボルバー式の物だ。
シリンダーを華麗に回し、銃口を僕に向け、ためらうこと無く引き金を引いた。
ポンッと、マヌケな破裂音がして、僕に銃弾が当たる……
すると僕の身体を光が包み込んだ。
「どうだ? 調子は?」
「ありがとうございます。だいぶ良くなりました」
フィールズは、ガンマンのように銃をクルクルと回し銃口に息を吹きかけた。
すると、音を聞きつけたロタリアが飛び込んできた。
「もうフィールズったらまた『魔法』使ったわね」
慌てて拳銃を隠すフィールズ。
「え? なんのこと? 知らないぜ……フ、フヒュ~~」
「隠しても無駄よ! もうあなたって人は――」
この男は口笛が吹けない。そして、ロタリアの説教が始まった。
フィールズが持ってきた拳銃は、ただの拳銃ではなく、この世界における『魔法の杖』に他ならない。
魔法といえば『チチンプイプイ!』や『アブラカタブラ!』なんて、呪文を唱えながら杖を振ると発動させる事のできる、特殊技能だ。
黒魔道士や、白魔道士などのジョブでないと使うことができないが、この世界では……
誰でも魔法が使うことができる!
戦士だろうが、武道家だろうが、遊び人でさえ、魔道士系のジョブをマスターしなくても、引き金を引くだけで誰でもすぐに賢者になれるんだ。
この世界はいわゆる『剣と魔法』のファンタジー世界なのだが、正確には『剣と魔銃』のファンタジー世界であろう。
かなりロタリアがヒートアップしているな……助けてあげるか。生前の僕なら絶対スルーの場面だが、首を突っ込んでいこう!
「お母さん、もう怒らないであげて……僕が無理矢理頼み込んだんです。怒るなら僕も怒られます」
彼女の前に正座をし、上目遣いをする。
「……ミカ……」
フッフッフッ、困惑してますな。そうだろぉ、かわいい我が子がちょっと目を潤ませているんだ。母心に来るものがあるだろ……
説き伏せることもできるだろうが、それはしない。
なんでって、そんな饒舌に大人を言い負かす子供は、気持ち悪いだろ? 三十二歳の雰囲気は出さない、二歳相当の態度を取る……まぁ、この世界の獣人の二歳がどんなもんか知らないがね……
「良いでしょう。そこまで言うならミカもお説教です」
「えっ!?」
× × ×
クソ、考え違いしてた。そのスイッチが入るとは思わなかった。小一時間、僕とフィールズは怒られた。しかも、日課の基礎トレも増やしてくるなんて……トホホ。
なんであんなに怒ったかというと、若いうちから魔法に頼ってしまうと、自然治癒力とか、免疫力なんかが弱まってしまうらしい。
なので、若いうちは自然に治るの待つのが良いらしい。
けど、怒られるのって……なかなか悪くない快感だ。
回復魔法のおかげで、ほぼ全快になったの体で増えた分の基礎トレをこなし、今は床に付いている。結局体力マイナスな気がするんだけど……
あぁあゲームみたいに寝て起きたら体力全回復してればな。