脱引きこもり、学園入り3
「どうせ、エリサさんから言われたんでしょ。俺をSクラスに入れるように。」
「よくわかったの。さすがは“空想の術式師”」
「…どうしてそのことを」
“空想の術式師”というのは、世には広まっていない。都市伝説のひとつとして、もの凄い腕の術式師がいるという噂がある程度。ほんの一握りの者だけが、その存在を知っている。
当然、“空想の術式師”の正体を知るものはさらに限られる。
ばらした犯人はすぐにわかった。
校長は先ほど見ていた書類をリュータに渡した。リュータが上から目を通していくと、氏名欄に「リュータ=クロッツ(空想の術式師)」とご丁寧に記載されていた。
これにはリュータも呆れて物が言えない。
「彼女は優しいな。これを見なければ、君をSクラスに入れることはなかった。」
「どこが優しいんですか。これ、明らかな嫌がらせでしょ。」
「彼女は優秀だから。何か考えがあってのことだと思うんだが。」
もちろん、リュータも校長と同じ意見ではあった。しかし、エリサが面白そうだと思っていることも想像できた。リュータは、エリサと二年ほどの付き合いだが、今までの経験がそれを物語っていた。
すると、校長が再び口を開いた。
「君はSクラスでも問題ないはずだろ?」
校長は何もかも見透かした目線に、リュータは背筋を伸ばす。そして、リュータは不敵な笑みを浮かべた。
「そうですね。喧嘩になっても生き延びる自信はありますよ。
何せ、みんな魔法を知らないですから。」
リュータのその言葉に、校長を笑い声を上げた。
「勝てるとは言わないのかね。」
「そこまで傲慢な人間じゃないんで。」
「やはり、君は面白い。」
校長は椅子から立ち上がると、リュータに手を差し出した。
「よろしく頼むよ。君がいると退屈せずにすみそうだ。」
まさか握手を求められると思っていなかったリュータは、少し戸惑いながらも校長の手を握る。
「ユルトラス高校の校長と握手できるなんて、光栄ですよ。」
「今はただの老いぼれ。君の方が価値のある人間じゃ。」