引きこもりの術式師5
「なるほどな。担当の刑事によると、被害者の頭蓋骨が陥没していたて、死因もこれが原因らしい。高魔力弾が頭に当たったんだろう」
エリサは自分の知っている情報と照らし合わせ、リュータの読み解いた術式に間違いはないことを確信する。これだけでも十分捜査の手がかりになるのだが、リュータはさらに解読を続けた。
「エリサさん、犯人は男ですね。魔力値は53ナノマ以上、それに左手を怪我している。」
「どうしてそんなことがわかる?」
「術式に魔法の発動条件が詳しく書いてありましたから。この魔法は男しか使えない、使用される魔力は53ナノマ。さらに、左手を銀色のナイフで切って、その手で魔法陣に触れる必要がある。
完全な失敗作。こんな下手くそな術式そうそう拝めるものじゃない。いかにも偶然できてしまった魔法だな。」
リュータは苦笑いにも似た笑みを浮かべる。
一般的に、魔法は発動条件が少なく、簡単なものがよいとされている。特に、今回のように複雑な条件のあるものは、リュータにとっては未完成の魔法である。
リュータは写真をエリサに返す。もう、彼にとっては必要のない物になったからだ。
「わかった。すぐに担当の刑事に連絡する。ありがとう」
「別に、いつものことですから」
エリサは改めてリュータ=クロッツという少年のすごさを感じた。この術式の解読を専門家に任せた場合、一か月以上はかかる。しかし、リュータはわずか五分足らずで終わらせてしまったのだ。
それは、彼の今までの経験、そして何よりも他を圧倒する知識力によるもの。
“空想の術式師”、一部の人間は彼のことをそう呼んでいる。このことをリュータは「それ、ただの黒歴史なんですけど。中二くさい。」と、そう呼ばれることを嫌っている。そのため、エリサは彼を名前でしか呼ばない。
「それで、もう一つの頼みって?」
「あぁ、そうだった。」
エリサはリュータの天才ぶりに気を取られ、二つ目の依頼をすっかり忘れていた。
しかし、二つ目の依頼を思い出すとエリサは笑みを浮かべた。それを見たリュータは悪い予感を感知する。だが、時すでに遅し。彼女は口を開いた。
「もう一つの依頼、それは―――リュータはこれから高校生になってもらう」
こうして、空想の術式師 リュータ=クロッツの物語が始まることになった。