脱引きこもり、学園入り10
学校から少し歩いて電車に乗り、七つ目の駅で降りる。そこからまた少し歩いたところにリュータの住むアパートがある。
昨日エリサに破壊された扉は完全に直されていた。リュータは真新しくなった扉の鍵をあけようとする。
「あれ?空いてる…。」
何故か扉の鍵は開いていた。朝締め忘れたのか、それとも…。
リュータは警戒心を持ちながら、ゆっくりと扉を開いた。
「よぉ、リュータ帰って来たか。」
「やっぱりエリサさんでしたか…。」
リュータはホッとするとともに、無断で家の中に入っている女性を見て呆れ顔を浮かべる。
そんなリュータのことなどお構いなしに、エリサはビールの缶を片手に、まるで自分の家かのように彼を引き入れる。
「それで、学校はどうだった?」
「まあまあですね。」
部屋の中にあるテーブルをはさんで二人は対面していた。
黒いタンクトップを着て、ビールを飲みながらあぐらをかいているエリサ。彼女からは女性のおしとやかな感じなど一切しない。シルエットにしたら、ただの胸の大きな中年の男性と見分けがつかないだろう。
「感想それだけかよ。他に面白い話ないのかよ。」
「そうですね…。変態と知り合いになって、後輩をからかってたら嫌われたことぐらいしかないですよ。」
「お前、学校で何してるんだよ…。」
「特に何もしてませんでしたよ。」
リュータは、授業をほとんど聞いていなかった。何せ、教師が言っていたことは全て知っている。さらに言うと、リュータにしか気づけない間違った情報も所々あった。
そのような授業を受ける必要性をリュータは感じられなかった。
「Sクラスはどうだった?
やっぱり、将来有望な人材がいただろ。」
「どうですかね。今日はほとんど座学でしたし、武術も魔法を使いませんでしたから。」
今日の授業は魔法を使うことがなかった。リュータは知識には優れているが、魔法を実際に使うとなるとSクラスとの差は圧倒的。すぐに落ちこぼれとなってしまう。
「で、どうして俺をSクラスに入れたんですか。
まさか、将来軍に入りそうな人間を探すためのスカウトマンですか?」
「それもある。でも、他にもいろいろと好都合なことがあるんだよ。
お互いにな…。」
リュータは考える。自分にとってメリットなどあるのだろうか。しかし、全くわからない。
「いつかわかるさ。」
エリサはそう言うと、ビールを一気に飲み干し、気持ちよさそうに息を吐き出す。
「それで、何しに来たんですか?」
「この家の扉を直しに来て、それから仕事サボってる。」
どうどうと宣言するエリサを見て、リュータはこの国の先行きに不安を感じる。それと同時に彼女らしいとも思った。リュータの中でエリサが真面目に仕事しているイメージがあまりなかった。
「ていうか、酒飲んで大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ。呼び出されることもないしな。」