脱引きこもり、学園入り6
コウも席につき、全員がそろったところでアリアは今日の連絡事項等を話す。それを終えると、教室から出て行った。
まるでそれが合図だったかのように、教室が一気にざわつき始める。
「今日の一限目なんだっけ?」
「武術だぞ。」
「えっ、まじかよ…。あの授業きついんだよなぁ。」
生徒たちは一通り友人らと話した後、体操着を持って更衣室に向かっていく。
昨日、リュータはエリサから学校生活で必要なものを渡された。今着ている制服や、筆記用具、教科書、体操着まで、全て用意されていた。
今日の時間割や持ち物などは聞いていたので、忘れた物はなかった。しかし、学校など久しく通ったこともなく、さらには学校の案内もされていないリュータは、この後どうすれば良いかわからず困っていた。
すると、一人の生徒がリュータの横に立ち、彼の袖を引っ張った。それにリュータも気づき、横を見てみる。と、桃色の髪の小さな少女がもの言いたげな目で立っていた。
「どうした?」
リュータの問いかけに、少女は何も答えない。
「ふっ。あまいぞ、リュータ。女の子の気持ちがわからないようでは真の男…いや、真の変態にはなれないぞ。」
まだ教室に残っていたコウが威風堂々とリュータ達に近づいてきた。
「レナはこう言っている―――『お前、ちょっと表に出ろ。新人のくせに調子こいてんじゃねぇぞ』と。」
「…そんなこと言ってない。」
コウの言葉に少女が小さな声で否定した。リュータも、コウの言っていることに耳を貸すつもりはなかった。
「更衣室まで案内してあげる…。」
「おっ、それは助かる。ありがとな。
えーと…。」
「…レナ。レナ=コーピス。」
少女はリュータに名前を名乗る。コウの言っていた“レナ”という名前は本当だったことに、少しリュータは驚いた。コウは適当なことしか言わないという印象だったので、彼が言った名前も偽物だとリュータは思っていた。
「よろしく、コーピスさん。」
「レナでいい。」
「わかった、レナ。俺のことは適当に呼んでくれ。」
「わかった、クロワッサン。」
「おい、そこの変態。ちょっと表に出ろ。」
当然ながら、リュータを奇妙なあだ名をつけて呼んだのはコウである。リュータはコウの制服の襟を掴みながら教室から出て行った。