嫌薬の王 彼の病は治らない
薬屋の仕事は大変。
近頃は病が流行っていて、わたし一人では薬の生産が追い付かないの。
「お薬増やしておきましたー」
へとへとになりながら頼まれた薬品を定位置に納品した。
「いつも済まないね」
城仕えのおばさんは申し訳なさそうにしている。
「得体の知れぬ物、余は飲まんぞ」
偉そうにふんぞりがえった王様がずかずかと歩いている。
そして薬を棚から掴みあげ、肩に乗せた美味しそうな鳥類の動物に、王が薬を食べさせた。
「って何でですかぁ!?」
「そなたのような魔女の調合した薬など毒が入っているに決まっておろう」
王は冷ややかな目で、こちらを見て、私を手で追い払う。
「毒なんて入ってませんけど?」「証拠は?」
この王様は馬鹿なのか、自ら調合した薬品に毒なんて入れようものならわたしが大変なことになるに決まっているのに。
「それより王様、その鳥さん、お…かわいいですね」
カラフルな羽の鳥は旨いと聞くからきっと美味しいだろうなあ。
見ているだけでよだれが出そうになる。
「やらん…よからぬことをたくらんでいるなこれは俺の飼育しているものだ」
なぜバレたの?いや、でも王様が生き物に優しいなんてイメージはないからなあ。
「へー王様は大事なペットに怪しいと疑っている薬飲ませるんですかー」
気づかなかったのか、それともペットの一匹や二匹、犠牲にしてもいいと思っているのかなー。
「しまった…」
王様ってばやっぱり気づいてなかった!
「王様、食べるんですか?」
王様は隠しているようだけど苦い薬が嫌だからあんな事をしたってことはバレバレなんだから。
「何をだ」
でもどこかで毒を疑っているんじゃないか、とは思ったけど。
「薬が嫌だから薬を食べさせた鳥の肉を食べて
間接的に薬を飲んだことにする気ですか?」
もしそう考えているなら馬鹿としか言い様がない。
「まさかペットを食べるわけがないお前の薬が信用出来ないだけだ」
だから大事なペットにその信用出来ない薬を与えたのは誰なの!
「鳥肉…」
せっかく幻の鳥だったのにペットじゃ仕方ないか残念。
「やはり魔女は恐ろしい」
格好が格好だからか、王様はわたしを魔女と呼ぶ。
「何度もいいますけど魔女じゃないですから魔法つかえないですし」
やはり怪しい方々とは一緒にされたくない。
「な…に…?」
王様はなぜか驚いている。
「まさか本当に魔女とでも思ったんですか?」
どこかにはいるかもしれないけど、一応調合師一族なだけで魔女ではないのに薬を作るというだけで魔女や魔法使いと考える風潮はいかがなものか。
◆金髪の魔法使い
「そうか魔法は使えないか。この世界に魔法はないのか。“いい加減ファンタジーな夢なんて見てる年か年寄りのくせに”か。」
王様は私が魔法使いの類いではないと知り、落胆して、どんよりした重たい空気をまとっている。
「残念そうですね王様」
「ななな…何を言うか!
そんなわけが…」
「この薬を飲めば一発で夢と魔法に溢れたの世界へいけますよ」
「だから薬は飲まん」
「そうですか」
「本当に魔法使いはいないのか…?」
「…いますよ。」
「なに!?」
「魔法使いならあそこらへんに…オラアアアアア」
私は木の上で眠る魔法使い。とおぼしき男めがけ、靴を投げた。
「ギャアアア」
魔法使いは草葉の陰に落下。
「いてて…」
それは黄色い帽子とローブを着た金髪の少年魔法は使いだった。
「おお…これが魔法使いか!」
「え?誰君ら」
「彼はあそこにある城の王様です」
「マジで!?俺インキーノ!超有名魔法使いになるのが夢なんだけど」
「はいはい、わかりましたから魔法見せてください」
「ひどっ
俺魔法より魔薬作りのほうが得…わかったやるから。やめてよその笑顔」
魔法使いは可愛い女の子に変身した。
次に首の長い動物、黄色い南国の果物になった。
「ぜぇ…どう…だった…ぜぇ…」
「虹の橋とか飴の雨とか…そういうのを期待したんですけど」
「中身が男というのは残念だったが、始めの女は悪くなかった」
「へえ王様は金髪美女がお好きなんですね」
「何を怒っているんだ」
「なんでもありません」
「おい薬は…」
「飲まないんじゃないでしたか?」
◆ 妙薬は口に苦し、良薬は心許なし
『もうワシ教えられることはないわい』
『ええ!?』
『これまで解毒剤を毒薬に変えたり惚れ薬を別れ薬に変える者など多様な薬師を育ててきたが、おまえは優等生じゃった。無難な薬師にはなるであろうが、没個性でこれといって光る部分がなかったわい』
『そんな…(師匠超ひどい)
……困ったなあ……』
いくあてのない私はいちかばちか、城の薬師になりに行った。
――――――
数週間後―――――――
「今日も来たか、機嫌はもうなおったのか?」
「王様こそ、夢遊病は治られましたか?」
「……ああ」
「そうですか、じゃあこれから薬は必要ないですね」
「そうだな」
「私の役目も今日で終わりですね。
お役にはたてませんでしたけれど、今まで――――」
『おい待て!……鳥!』
『……?(なんだ……私じゃないんだ……)』
『おい、お前は薬師か』
『は、はい……』
『やはりな、薬草の臭気が染み付いている』
『……(鳥さんおいしそう)』
『……殿下、こちらにいらしたんですね!』
『うむ……何か急用か?』
『殿下が自ら薬師を選定なさると仰られたのでは?』
『ふむ……では、この女でいい』
『え!?』
『なぜその方が、驚いているということは、もしや今”彼女には何も話さずお決めになられましたか?』『ああ、そこにいたから、こいつでいい』
『いいんですか?』
『はい!なんだかよくわからないですけど(結果オーライよね)』
「王様!?」
王は私の手をひいた。肩に乗っていた鳥の翼の羽ばたきが、耳にはっきりときこえる。
「―――また病が襲ってきたようだ。お前、なにか薬を作れ」
「……王様、薬は嫌いですよね」
「まだわからないか……?」
「わかりません。やっぱり私、もう一度薬師の修行をしたほうがいいですよね」
本当はそのわけを、うぬぼれでなければ知っていることになる。
彼が何を言いたいのか、気がついている。
彼は私を引きとめたいんだとわかっている。けれど言ってもらいたい。
「なら言ってやる。薬を飲む気はないが、お前自身を持ってこい」
短編にしようかと考えたのですが、結構好きな感じに仕上がったので一度で終わらせたくなかったため、連載にしました。