背徳的悦楽
「君って好きな人いる?」
人が少しずつ捌けていく放課後の教室、彼女の隣の席に勝手に座って、そう声をかけてみる。
彼女は俺を怪訝そうに見てから、顔を薄い紅色に染めて言う。
「あなたには、関係ないでしょう?」
「誰か当ててみよーか」
そんな答えなど気にせずに笑ってその名を言ってやる。
「五組の坂崎くん」
彼女は焦って俺を見る。
顔はいよいよ真っ赤になって、声を荒らげる。
「なっ……!? ど、どうして……っ!!」
「あら? マジで当たっちゃった?」
「――~……っ!」
からかう俺が嫌なのか、無言で席から立ち上がってどこかへと行こうとする。
「でもさー、趣味悪いよねぇ。坂崎くんってさ、噂によると何股もしてるっていうじゃない? 君もそのうちの一人になりたいわけ?」
刺激するように続ける。
彼女は振り向く。
「変なこと言わないでよ! あなたがあの人のなにを知っているっていうの!?」
「君よりは知っているつもりだけどなぁ。男の間では有名だけど? 女の間ではどう王子様に映ってるか知らないけどさ」
「もういい! 私、もう帰るんだから!」
そのまま教室の扉へと向かおうとする彼女の腕を、掴んだ。
「なにっ……!?」
怒った様子で振り向く彼女の唇を、出し抜けに塞ぐ。
――間。
「――……!? なっ、なにするの!?」
「君は、そいつと付き合いたいの? 付き合ってなにをしたいの? こういうことがしたいの?」
いつのまにか二人きりの教室で、静かに彼女を抱き寄せた。
「――…………っ! ……っ!!」
彼女の抗議の声も耳の奥まで届かない。
ただ、俺の呪縛を必死に振り解こうとする、その表情から伝わってくる。
そう、それでいい。
――あぁ、その君の嫌そうな瞳。
もっとずっと近くで見ていたいんだ。