彼は出会った
心の中の灼熱が涙となって出尽くした時、彼はようやく顔を上げた。
未だに少女はそこに立っていた。
その紫炎の瞳で、彼を見下ろしていた。
その瞬間、少女以外のあらゆる物が彼の目の前から消え去って見えた。
英雄扱いなんてされなくていい。自分は、自分らしく有象無象でも自分に出来ることをやろう。
彼は涙の残り香を拭うと、立ち上がり少女を見つめた。少女も静かに彼を見つめ返す。
彼は言った。
俺をふってくれ。
俺はお前に見合うような男じゃない、と。同時に彼は考えていた。
心に今唯一残っているこの気持ちは、少女が自分を認めてくれたなら伝えよう。
そして、現在。。。
森の暗がり。
開けた一角で1人の男が焚き火を挟んでもう1人の男に向かって話していた。
「まぁそういう訳で私は少女の護衛をすることになったんです。
あの時の少女の言葉は忘れもしませんよ。一言一句違わず覚えています。その言葉を聞いて私は思いました。彼女にとって特別で有ればいいと。世間から有象無象と呼ばれて結構。彼女にとって特別ならいいと、ね。よほど私は小物なのでしょうね。世間からの英雄視に憧れていたのに、最後は人一人にとって特別ならいいと思ったのですから。まぁ要は……」
その時、一つの声が彼の声を遮った。
『要は、類は友を呼ぶって話よね?』
そこには、紫炎の髪の美女がいた。美しいというよりは、可憐という印象を与える人だ。服は白を基調とした、いかにも動きやすそうな格好である。腰には長剣がさしてあった。
『リル、私の話の邪魔をしないでくれよ』
『…護衛が私の近くを離れて何を言っているのかしら。探したわ。その子も』
『すまなかったよ。少し昔の話をしてただけだ』
『えぇ、途中から聞こえてた。昔と言っても3年前でしょ?そんなに昔じゃないわよ』
『私には十年くらい昔のように思えるんだよ。気にするな』
『そう。明日は早いんだから、もう寝た方がいいわ』
『あぁ、そうするよ』
『おやすみ』
リルと呼ばれた女はそう言うと去っていった。
「では、寝ようか」
「あ、ああ。それにしても無表情で喋るな、スッと真っ直ぐ見つめられて……。あの表情で話されると怖いぞ」
「ああ、いつもそうなんだ、気にしないでくれ。まっすぐな人なんでな。仕方ないんだ。では、おやすみ」
「そうか……。なぁ、あの子が……」
「おっと、その先は言わないでくれよ。あんな事まで君に話したと分かったら私の身は細切れになる」
「くっくっ。そうか、なによりだ。ではまた明日な」
随分と貴方は特別な存在に憧れているようだけどね。
私はね。貴方が居なければ自分の力に自惚れて此処で一生を無駄に過ごしていたでしょう。貴方は私に可能性を与えてくれたの。感謝してるわ。貴方はね。私にとって特別なのよ?……今はこれで……ね?
読んで頂いて感謝の極みです。
ありがとうございました。
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前話の後書きにも書いてしまいましたが、異世界召喚系列の短編を纏めました。世界観は同じという設定です。
目次のページのタイトルの上の「異世界召喚」からリンクしています。