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彼は醜い

短編しか投稿した事はないです。連載? としては初投稿です。

よろしくお願いします。

昔、この世界とは違う何処か。

何処かは分からないが確実に在る所から来た四人の男がいた。

彼等はいずれも大きな力を与えられ、一騎当千と呼ばれる程であった。ただ一人を除いては……。

どういうわけか、その四人の中の一人だけは他の三人のように強くなかった。確かに一般の兵士などとは比べ物にならない力を有してはいたが、英雄や英傑となるには届かなかったのである。

彼は怒り、他の三人を妬み、そして遂に実力行使に出た。他の三人を殺そうとしたのだ。結果は無残にも、惨敗。彼を益々醜い感情へと誘う結果となった。

彼は中央の街から追放され、2度とここへは戻ってこないと誓わされた。拒否権はなかった。彼に怒りや妬みは未だにあったが、どうしようもなかった。

行く当てもなく、三日間野宿を余儀無くされた。かがり火の横で無様に地面に寝そべっていた彼はまたしても三人を妬んだ。

何故自分がこんな目に合わなければいけないのだろうと。

そして、醜い彼はこう考えた。

中央なんて所だから俺の存在が埋もれるんだ。もっと辺境、中央のように強者がいない場所なら俺は英雄になれる。

最早、彼の思考には『民衆からの英雄視』という渇望しかなかった。

彼の目論見は予想とは少し違う形で叶えられた。街の英雄というよりは街の支配者と言った方が近い。

彼は、不定期に魔物に襲われ被害が出ているという街に向かった。そこで、街に襲い来る魔物を尽く斃し街には不可欠と言われる存在までになったのだ。

彼は街の住人から賞賛を受け、羨望と畏敬の念を送られた。これに満足していた彼だったが、直ぐに本性が出た。

街に彼より強い者がいないのをいい事に好き勝手し始めたのだ。最初はただ態度が尊大なだけだったが、段々と無銭飲食や女性を無理矢理自分の側におくなどの暴虐ぶりが目立ちはじめたのである。彼は逆らう者には暴力で応えた。故に、街に彼に逆らえる者はいなくなった。

そんな街の住人の支配者としての日々が続いていたある日、彼の前に一人の少女が現れた。年の頃は17くらいだろうか。剣を腰に下げており、美しい紫の髪が目を引く美少女であった。

彼は直ぐに声をかけた。


俺の側付きに、いや、付き合ってみないか?


その頃彼の側に他の女性はいなかった。彼は女遊びに飽きてしまっていたのだ。だが、それを再燃させる程に目の前の少女は美しかった。

その少女は笑みを浮かべて答えた。

私と決闘して勝ったら付き合ってあげる。


彼は内心ほくそ笑みながら承諾した。

少女は最近近隣の村からこの街に来たらしく、彼の強さの程は知らなかった。

決闘の勝敗は明白だった。当然のように少女は敗北した。腕に自信はあったらしいが、彼の尋常ではない強さには無力だった。

敗北した少女は言った。私は貴方とお付き合いしますから、どうか毎日稽古をつけてください、と。

彼は最初は断ったが、余程食い下がる少女を見て、大人しく付き合うという事を条件に承諾した。

彼の心には自分が指導する側になることで優越感に浸れるというなんとも醜い感情もあった。それに付き合うと言っても、やはり名目上の関係にされる可能性が高いと思っていたから、その提案は魅力的だと考えたのである。

最初の懸念通り、彼は好きでもない自分と本当に大人しく付き合ってくれるか心配していた。だが、その懸念は彼にとっていい意味で裏切られる。

予想に反して、彼女は毎日のように彼の下に通い食事や周りの世話を夫婦同然に受け持ってくれたのである。その間、文句一つ言わず普通の恋人のように彼に接していた。当然一日の終わりには剣の稽古を付けたが、その契約通りしていれば、なんらその態度が崩れることはなかったのである。

そして、あの日。

その日、彼女は一日の稽古の始めに彼に模擬戦を申し込んだ。

彼は笑って一蹴した。勝敗は見えていると考えたからだ。 だが、なおも食い下がる少女に彼は気が変わった。

こいつに自分の強さを再確認させてやろうと思ったのだ。

結論から言えば、彼は敗けた。

彼は何回も少女に挑んだ。結果は、どれも惨敗。

彼は怒涛の如く怒った。

隠れて訓練でもしていたのか、と。

そうだったらそんな事は卑怯だろうと。

随分な理屈だったが、彼はそれが正当だと思っていたのだ。

少女は言った。

卑怯じゃない。付き合うという約束は守った。私は訓練に、貴方との時間以外を全て費やした。私は訓練以外の事を全て投げ打った。だから卑怯ではない、と。

彼は怒りの次に強烈な不安に襲われた。少女が離れて行ってしまうかもしれないのだ。彼女に付き合う理由はもともとないし、敗けた自分に今までのように暴力で無理矢理引き止める事は出来ない。説得するなど結果は最初から分かっている。

彼はその場で両膝を着いた。彼の目には涙が滲んでいた。

そんな彼を見て、だが、彼女は言った。


約束は守る。

あの時私は貴方に負けた。屁理屈や詭弁で貴方との約束を破る気はない。


男は押し黙った。それは前の世界にいた時も、こちらの世界に来た後も感じた事のなかったものだった。なにか、優しく包まれているような抱擁感。

地球という前にいた場所では、両親に見放され虐めの対象にされ、よもや生きる事を諦めようとした。それでもこの世界に来て、初めて変われると思っていた。だが、そんな事はなかった。待っていたのは周囲の冷たい目線と冷遇、そして劣等者の烙印のみ。

そんな彼は周囲への妬みや嫉み、憎悪で悲しみを紛らわした。

それが今は手が届きそうな距離に、生まれて初めて暖かな人の温もりを感じていた。

胸の内がグルグルと渦巻き、心は灼熱で満たされていた。その心の熱が目尻に溜まり、溢れ出る。それはさっきの憎しみと悔しみの涙ではなかった。

それはこれまで溜めてきた、いや、抑えてきた何かが決壊した瞬間だった。

彼は今までの自分が情けなかった。

自分の優越感を満たし、劣等感から逃れる為に中央を離れた自分が。

辺境で英雄扱いされ、そのまま自惚れ、俺は英雄なんだと思っていた自分が。

昔、少女に勝って、俺は何でも手に入れられると思っていた自分が。

そして、彼女に敗けて膝をつく自分が……。

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異世界召喚系列を纏めてみました。

多分、タイトルの上の異世界召喚からリンクしています。片手間にそちらもどうぞ。短編です。

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