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第四章 14.砦

 準備から始まり、二日半の強行軍で、オレたちはオリヴィアが捕えられている砦まで到着した。

 日頃のキャンプで慣れたオレたちは、二日程度の遠征は楽なものだ。


 ミィーカが心配だったが、道中、食事の準備や片付けなどを積極的に行ってくれた。

 本人は、何だかんだ言いながらもオリヴィアの事が心配らしく、ジッとして居られないようだった。


 表面上は明るく話す姿が、妙に痛々しかった。


 おっさんは、妙にオレにすり寄って来る。


 ワタシとアナタは、そんな関係じゃないのよ!

 みんなから変な目で見られるからヤメテよね!


 途中ギルド職員の乗った馬車と合流し、メンバーはオレたちと合わせて15名ほどだ。


 ネムの事前情報では、砦にいる理想郷の残党は300人ほど、他にも囚人奴隷が30人、ビーストテイマーによって調教されたE~Bランクの魔物が150匹ほどいるらしい。


 今回は、オリヴィアがカーティス伯爵の親族という事もあり、冒険者ギルドと兵士たちが合同で理想郷の残党を討伐する作戦となった。


 オレたちの役目は、オリヴィアと取り巻き女2名(後に捕まっている事が発覚した)の救出をする事だな。


 オリヴィアがここの領主さまの親族だったとは、さすがのあちらさんもご存じ無かったのだろう。


 高ランクの魔物150匹は厄介だが、この規模の作戦に壊滅は必至だな。 


 


 今の時間は深夜を回っている。

 夜明けの前のギリギリのタイミングを待って、オレたちメンバーは夜に紛れて砦に潜入する事になった。


 だが、先ほどからネムが浮かない顔だ。


「どうした?ネム」

「うーん。それが、さっきから砦の警備がどんどん厳重になって行くんだ。……まるで、ボクたちが来ることが分かっていたみたい」


 オレは、熱いコーヒーを口に含む。

 これはギルド職員が気を利かせて持って来てくれた物で、南方から取り寄せた品だそうだ。


 ……にっ、にがひ。


 ああ、久々のコーヒーだからって、カッコつけてブラックにするんじゃなかったよ。

 オレ、コーヒーの香りは好きなんだが、いざ飲んでみると砂糖やミルクを入れたくなるんだよな。


 まあ、おかげで眠気はバッチリだ。


 オレは、冴えわたる頭で考える。

 

 街から砦までの距離を考えると、今日辺りにオレたちが到着するんじゃないかと、当たりを付けていた可能性はある。

 だが、相手はオレたちがこんなに早くここを割り出す事が分かっていたのだろうか?


  一番考えられる線は、オレたちの情報をリークしている内通者がいる……か。

 

 これは今回、一筋縄じゃ行かなそうだ。

 十分注意して行動しないとな。


「……オレたちの動きが、筒抜けと見て行動した方が良さそうだな。大変かもしれないが、引き続き警戒していてくれ」

「わかった!」

「そうだ、ミィーカ。念のためお前にこれを渡しておく。……だが、使うのは最後の手段だと思ってくれ。まずは、自分が逃げる事を最優先にして行動するように」


 オレは、ミィーカに父親の形見のファルカタを手渡す。


「わ、分かったよ」


 オレの言い方が厳しかったのか、緊張した面持ちでファルカタを受けとるミィーカ。


「これには『硬化』と『柔化』の鍛冶添付魔法が施されている。今お前が持っている武器より無理が効くはずだ」

「なっ!?それってドワーフの秘技だろ!?……しかも出来上がっている武器には出来ないって聞いた事あるぞ」


 そうなのか?

 リリィがさらっと渡して来たから、多少金がかかるだけで誰でも出来るもんだとばっかり思っていたんだがな。


 良く考えると『硬化』と『柔化』って相反する力っぽいよな。

 硬くし過ぎると脆くなるだろうし、軟らかくし過ぎると使い物にならない。

 それを両方かけて、武器の強度と攻撃力を上げているって事か。


 あいつ、本当にスペシャルなヤツだったんだな。


「お前が回復魔法を覚えたら、最高の鍛冶屋を紹介してやるよ」


 ……紹介しても、信じてくれ無さそうだけどな。


 オレがそんなのんきな事を考えている時。


 ――突然、森が震えた。


 いや、違う。

 獣の叫び声が森中に響き渡った。


 それはオレたちの隠れていた茂みにも響き渡る。


 ネムが不安げな顔をする。

 いつも強気のミィーカが、オレのマントを掴んで怯えている。


 この鳴き方は異常だ。

 獲物を前にした興奮の叫びにも聞こえるし、苦痛から助けを求める悲鳴にも聞こえる。


 ……狂ってやがる。


「ハルト、魔物が『おり』からはなたれた!――ウサギをおってこっちまで来るよ。その数……157!……あれ?……なんだろ、きゅうに……?」


 ネムがオレに告げる。


 その様子は、何だか苦しそうだ。


「ネム、大丈夫か?」


 その質問に答えるように、頭の中で映像が映し出された。

 一瞬驚いたが、これはネムが情報を映像にして送って来たんだろうとすぐに気が付いた。


 何故、ネムがオレに映像なんかを?


 疑問に思いながらも映像を観る。

 そこに移された映像を観て、オレは腹の底からどす黒い怒りがこみ上げて来るのを感じた。

 

 そこに移されたモノ、それは――


 目から血を流し、口から赤い泡をまき散らしながら兎を追う、魔物たちの姿。

 体中の筋肉ははれ上がり、走るたびに前脚や後ろ足の腱が引き千切れ、つまずき転びながらも、焦点の定まらない血走った瞳で獲物を追いかける。


 ……異常だ。

 明らかに薬物を使っている。


 魔物たちのはるか後方にはマタギのような姿の、目の据わった男たちの姿が映し出されている。


 ……ビーストテイマー。

 こいつらが、こんなやつらが、ビーストテイマーなのか?


 オレは、こんなやつらと今まで一緒にされてきたのかよ!


「こんなの……こんなのってヒドすぎるよ!魔物たちがくるしんでる。つらいって言ってるよっ!」


 ネムは、涙を流しながらオレに訴える。


「助けたいっ!助けたいけどダメなんだ!……あのヒトたちは人間に打たれたくすりのせいで、あとすう時間したら……ハルト、何とかならないかな!こんなのおかしい、かわいそすぎるよっ!」


 ……少し錯乱気味だ。


 そうか、ネムにとって人間も魔物も困っていたら助けるべき相手なんだ。

 そこに命の違いは無いんだ。


 だけど……この様子はおかしい気がする。

 いつものネムらしくない。


 この原因はなんだ?


 思考するオレに浮かび上がる答え。


 まさか……『何でも分かる帽子』のせいか?


 最近のネムは、『何でも分かる帽子』を使いこなしている。

 いや、使いすぎていると言っていい。


 ネムの『何でも分かる帽子』は、初めから完全なものでは無い。

 その実、『何でも分かって行く事が出来る』と言うのが本当の能力だ。


 つまり、この帽子は、情報が集まるごとに進化して行くという事。


 この所、アレンジ魔法を使ったりと、日に日に『何でも分かる帽子』の能力が上昇しているようだった。

 

 ひょっとして……能力が上昇した結果、魔物の苦しみが『何でも分かる帽子』を通してネムに逆流している?


 オレの『何でも切れる剣』のデメリットは「何でも切れてしまう」事。

 じゃあ、ネムの『何でも分かる帽子』デメリット……リスクは「何でも分かってしまう」事?


 ……調べた相手の、苦しみや悲しみさえも。


「お、おい、大丈夫かよ?」


 ミィーカが、不安そうにネムを見つめる。

 何事かとみんなが集まってくる。


「……助けて!頭がいたいよ。胸がくるしいよ。……目がまわるよっ!」


 どんどんひどい状態になって行く。


 これは以前、シャムロック氏の記憶がフィードバックしてきた状態に似ている。


 ……だが、ネムの場合、150体以上の魔物と繋がってしまっている。

 苦しさはオレの比じゃないはずだ。


 ここはみんなの目なんか気にしていられない。


「ネム!『何でも分かる帽子』の使用を中止しろ!」

「でもっ!……ボクは助けたいんだ!くるしいんだよっ!……なんとかしなきゃ、ボクが何とかしなきゃ!!」

「……ネム、頼むよ。オレはそんなお前を見て居られ無いよ。お願いだから『何でも分かる帽子』の使用をやめてくれ」


 オレはネムを抱きしめた。


 普段はやわらかいのに、今はその小さな身体全身に力を入れ、恐ろしいのか震えながらオレに爪を立ててくる。

 それは必死に、自分の存在を教えてくれようとしているようだ。


 初めて出会った時もそうだったよな?


「……な?頼むよネム」

「……ハルト、……こわいよ。苦しいよ。……きえちゃいそうだよ」

「オレがいるだろ?安心しろよ。……取りあえず『何でも分かる帽子』との接続を切って、深呼吸しよう」

「……うん」

 



 しばらくしてネムの身体は、フニャフニャとやわらかい、いつも通りの身体に戻って行った。


 遠かった魔物の声も、すぐ近くにまで迫っている。

 見るとオレたちを守るように、全員がオレたちを囲むように並んでいてくれた。


 ……ったく、いい所あるよな、お前ら!


「おっさん、レイくん、ミィーカ。……それと職員の皆さん。ありがとな。もう大丈夫そうだ」

「ふっ、お前たちはしばらく休んでいても良いぞ。……それと、お前たちの秘密は誰も聞いておらんからな」

「ランドルの旦那の言う通り。兄貴とネムが出るまでもねぇ。俺達がササッと片付けときますから、少し休んでて下さい」

「そろそろ私が強くなった所、お前に見せてやりたかったんだ。丁度いいぜっ!」


 ギルド職員の皆さんも口々に「気にするな」と伝えてくれる。


 だが、ここは甘える訳には行かない。


 ……魔物の数は多い。

 この人数では荷が重いだろう。


 何より、オレのイラつきはピークに達しているんだ。


「いや、あいつらはオレの獲物だ。オレは動物愛好家じゃないが、あのやり方は気に入らん。……すぐに楽にしてやらないとな。それとあちらのビーストテイマーが、オレを不愉快にさせたお礼もしなくちゃいけない。――ミィーカ、ネムを頼むよ」


 オレが、抱きしめているネムをミィーカに渡そうとしたその時、ネムがミィーカの肩に飛び乗って、三角飛びの要領でオレの肩に帰って来た。


「ボクも行くよっ!……ボクがやらないと!あのヒトたちを楽にしてあげたいんだ!」

「大丈夫か?無理しなくていいんだぞ?」

「むりじゃないよ。……ボクが一番、痛くなくあのヒトたちを逝かせてあげられる」


 ネムは、決意の籠った瞳でオレを見つめる。


「さすがオレの相棒だ。……帰ったら大好きな物、食べような!」

「うんっ!」

「綺麗に殺るかい?」

「……ううん、すべて一瞬で……逝かせるよ!」


 オレはネムとハイタッチをして、魔物たちの元へ向かった。




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