第四章 13.復讐
慌てて話すミィーカの話しを、要約するとこうだ。
マライじいさんと十数名の冒険者が、重体でモニカ先生の所に担ぎ込まれた。
現在モニカ先生に呼ばれ、教会の人たちも応援に向かった。
ミィーカは、オレたちにその事を伝えるとセキ込んでしまう。
よほど慌てて知らせに来たのだろう。
オレはミィーカに回復魔法をかけて、寝ているネムとクーを起こし、急いでモニカ先生の診療所に向かった。
「いい所に来たわ!みんなも手伝って。クーちゃんとネムちゃんは、お湯を沸かしてちょうだい!ハルトくんは、治療が終わった患者へ回復魔法を!後はこっちへ来て!」
おっさんの方を見て一度驚いた表情を見せた後、すぐさま真剣な表情に戻し、テキパキとオレたちに指示を出すモニカ先生。
普段は割とおっとりしてるのに、治療中のモニカ先生はカッコいいな。
オレたちは、流されるようにモニカ先生の指示に従って行った。
現在、治療院で治療を受けているのは20名ほど。
そのほとんどが弓矢による傷か、浅い切り傷のようだ。
だが、ただの傷口にしては腫れている。
一見大した怪我では無いのに、高熱を出し意識を失っている者もいた。
……これは、毒か?
回復魔法をかけながらモニカ先生を見ていると、傷口を消毒した後、高そうな薬を惜しげもなく使って治療しているようだ。
机には何の毒か分析したのだろう。
理科の実験なんかで使いそうな器具が並べられている。
隣の部屋ではおっさんやミィーカ、僧侶さんたちが、薬草のような物を調合していた。
全ての毒を回復させるような万能魔法は無い。
回復魔法で出来るのは、抵抗力を上げる事だけだ。
僧侶さんたちは、自分のMPが無くなるまで回復魔法を使った後、薬の調合に回ったんだろうな。
一通り回復魔法をかけ終え、辺りを見回すと、マライじいさんを見つけた。
マライじいさんは、治療の甲斐もあり容体は落ち着いたようだ。
隣には、いつかの少年もいる。
二人とも眠ってはいるが、少年は布に包まった棒状の物体を抱えながら、マライじいさんの服の裾を掴んでいた。
なんだか二人は仲が良さそうだ。
そう言えば……レイくんが居ない。
……まさか?
オレは、レイくんの事を思い出していた。
すぐにキレちゃうレイくん。
綺麗な奥さんと結婚したレイくん。
すぐに死亡フラグを立てようとするレイくん。
ああ、君はひょっとして――
「遅くなりやしたっ!……じいさん、ロジェ、大丈夫か!?」
オレの心配をよそに、ケロッと現れるレイくん。
少年の名前は、『ロジェ』と言うらしい。
その顔は心配で血の気が引いているようだが、オレからしたら肩透かしをくらった気分だ。
「安心しろよ。二人とも大丈夫だ」
「そうですか!……良かったぁ!心配させやがって!」
涙を流しながら喜ぶレイくん。
仲間には優しいんだよね。……こいつもさ、グスン。
「レイくんも、一緒に行っていたんじゃないのか?」
「それが……アイリーンが体調をくずしてたんで、今回は同行しなかったんですよ。……俺がいれば、二人をこんな目には会わせなかったのによぉ!悔しいぜぇ!」
状況は分からないが、お前が居たら深追いして殺られていた可能性があるな。……なんて、悔しそうにしているレイくんには、口が裂けても言えないよな。
奥さん、このタイミングで体調崩すとかグッジョッブとしか言いようがない。
この男にとって、幸運の女神さまかもしれないな。
そして、しばらく辺りを辺りをキョロキョロと見回した後、レイくんは心配そうに口を開く。
「……そう言えば、オリヴィアの嬢ちゃんは何処に?無事なんですよね?」
沈黙が、治療所を包み込む。
「知らないぞ。……あいつも一緒だったのか?」
「そうです。今回の依頼は、オリヴィアの嬢ちゃんを含む貴族冒険者メンバーを狩場まで案内する事です。この時期はFランクの魔物しか居ない安全な狩場だったんで、悩んだ挙句、今回お休みさせてもらったんすよ。……嬢ちゃん、何があったのか大分悩んでたようだったし、心配してたんすけどね。……ここに居ないって事は、まさか――」
そういえば……治療した中に見たことのあるヤツが居た気がするな。
ああ、以前ボコボコにした取り巻きたちだ。
オレは、オリヴィアの事を考えた。
「オリヴィア、あいつは……」
『覚悟』があってやってるんだろ?
今頃は殺されたか、自害でもなんでもしてるだろうさ。
オレが言いかけたその時、マライじいさんが目を覚ました。
「……ハルト殿、……これを」
震える手で、オレに手紙を渡してくる。
その手紙には汚い字で『復讐』と書かれていた。
「……オリヴィア殿が、囮になり――」
マライじいさんが、必死にオレへ状況を説明しようとしてくれる。
だが、口は毒で痙攣して上手く話せないようだ。
血の泡を吹き出しながら、悔しそうな目でオレを見つめた。
「――状況は理解したよ。……今はもう少し休んでいてくれ」
オレはマライじいさんにそう言った後、状況を整理した。
復讐ね。
オレに復讐を考えるやつらと言えば、あいつらだろう。
つまり、『理想郷』の残党が、オレへの復讐でオリヴィアをさらったって事か?
約100人斬りをした時、近くにオリヴィアは居たし、仲間だと思われていてもおかしくない。
どうする?
正直オレは、あいつが死んでも何とも思わない。
行ってもどうせ罠だろ?
行く価値など、正直有るとは思えない。
だが、なんだか酷く……イライラする。
何なんだよ、クソッ!
気付くと全員オレの周りに集まっていた。
「ご主人さま……」
クーは、心配顔でこちらを見ている。
ネムは、真剣な顔でオレに告げてきた。
「……ハルト、助けにいこうよ!ボクはまだ、ポンポンちゃんとお話ししてないんだ」
その瞬間、冷たい感情が消え去り、なにか温かいモノが心の中へ流れ込んでくる。
……こういう時のネムの後押しに、何度助けられてきたんだろうな。
「……分かったよ!ネムの頼みだからな。行こうぜ!……クーも、そんな心配そうな顔するなよな!」
「すなおじゃないよねっ!」
「……ありがとうございます!」
オレは、帽子を深くかぶり直して、おっさんに合図を送る。
「……誰だか知らねーが、マライじいさんをボコボコにした罪を償って貰わないとな!」
その後、オレたちはモニカ先生の書斎を借りて作戦会議を行った。
まず、ネムの能力で、オリヴィアの居場所を確認して貰う。
みんなにオリヴィアの居場所を教える際は「マライじいさんが持っていた手紙に、その土地にしか生えていない植物の葉っぱが挟まっていた」と、ありがちな名推理を語ってみた。
クー以外は誰も信じてくれていない様子だったが、不思議とみんな素直に従ってくれたよ。
何なのさ!この空気は?
それにしてもクーよ。
お前はネムの能力を知っているんだから、ウソを見抜いてほしいものだよ?
そして、手の空いていた僧侶さんにギルドへ状況を報告しに行ってもらった。
ちなみに居場所は、ここから馬車で2日ほどの、放棄された砦だ。
どうもネムの話しによると、人間を捕まえて違法奴隷として売買する所らしい。
今回のメンバーは、オレ、ネム、おっさん、レイくん、……そして、ミィーカが何故か行く気マンマンだけど!?
「……ポンポンのヤツ捕まってんだろ?介抱したりする時に女手は必要だぜ?」
ここぞとばかりに自信満々に言い放つミィーカ。
確かに、ミィーカの言う通りなんだよな。
「分かったよ。……ただし危険な事はするなよ」
「へっ、分かってるよ!」
そう言ってミィーカは、形見のファルカタとメイスを自慢げに構えた。
こいつ絶対分かってないだろ?
ちなみにクーも行きたがっていたが、今回はお留守番だ。
今回の敵は人間だし、クーのトラウマを刺激してしまう可能性がある。
何より、せっかくクーが「優しい白い闇エルフ」だと認識され始めているのに、人殺し、もしくは人を傷つける行為はマズイだろう。
例え相手が悪人だとしても、その手の噂は今のクーにとっては致命的だ。
それに、クーに人殺しを見せたくないていうオレのワガママもある。
その事をクーに話すと素直に納得してくれた。
その代り「無事に帰ってくる」という約束をさせられてしまったけどね。
約束するまでもなく、そのつもりなんだが……
やっぱり、オレってば頼りないようだ。
念のため、リリィを呼んでクーと一緒にモニカ先生の治療院に居てもらう事にした。
用心棒だな。
多分だが、このイーブスでオレとネムに次ぐ実力者はリリィだ。
オレが不在の間、クーを守ってもらう事にしたのだ。
初めはリリィも何故だか一緒に行きたがったのだが、状況を説明し「クーを守ってほしい」と頼んだ所、快く引き受けてくれた。
この子にはいつも、頼んでばかりで申し訳ないな。
そして、いざ出発の時――。
「ランドル!無事に帰って来てね!」
オレたちにも同じことを言ったモニカ先生だったが、一つだけ違う事があった。
おっさんが馬車に乗り込む直前、いてもたっても居られ無くなったのだろう。
モニカ先生は、おっさんの胸に飛び込むように、抱き着いたのだ。
二人の抱き合う姿。
その様子は、悔しいが映画のワンシーンみたいだ。
「あっ、あ、あ、……ああ、も、勿論だ」
しどろもどろになるおっさん。
これで、モニカ先生の気持ちが分かったかな?
ちっ、見せつけてくれるぜ。まったくよ!
「クー、……私たちもよっ!」
「はいっ。リリィちゃん!」
そう言って、今回は置いて行くはずの小動物二人がオレに飛びついてくる。
……さみしさは紛れたな。
オレは飛び込んでくる二人を抱きかかえ、勢いで一周回った後二人を放す。
そして、二人の頭をなでた。
そんな様子を、おっさんを抱きしめながら優しい微笑みで見守るモニカ先生。
モニカ先生が、オレを見ながら唇を動かす。
――「あ・り・が・と・う」か?
幸せそうなモニカ先生にお礼を言われたら、もう引くしか無いよな。
「おっさん、置いて行くぞ?……なんなら残るかい?」
そしてオレは、とびっきりの嫌味を言って馬車に乗り込んだのだった。




