第四章 9.破壊なくして創造なし
夏の名物『死霊の大祭』も終わりを告げ、僧侶さんたちがイーブスの街に戻って来た頃の事。
カトリオーナ司祭から、食事会に誘われた。
ミィーカは今回の『死霊の大祭』で、念願だったレベル10に到達したらしい。
レベル10というと、確か新人冒険者卒業くらいといった所か?
確か、一番死亡者が多いのもこのレベルなんだよな。
「これでポンポンとの勝率が上がるぜ!分からず屋のアイツをこらしめてやるっ」
ミィーカはそんな事を言っていたが、「勝率が上がる」って事は、レベル16(確認した時より時間が経っているし、現在はそれ以上と見ていいだろう)のオリヴィアと戦って、勝った事があるって事だよな?
確かにこいつは、トリッキーなタイプだからオリヴィアは苦手だろうが……こいつ、同レベルの相手には余裕で勝ちそうだな。
本人は、格上相手としか練習してないから気付いて無さそうだ。
ただ、確かにミィーカは瞬間的には強そうだが、持続力が無い。
接戦にもつれ込んだ場合、セキが出だしたらその隙を突かれてすぐに殺られてしまうだろう。
オレとしては高レベルを生かして、人を救う回復魔法使いになってもらいたいんだがな。
こいつは優しいやつだって、オレにも分かっているんだ。
危なっかしい所も多いが、それは誰よりも自分が他人を守ろうとしての行動なんだよな。
「……なんだよ?」
「いや、なんでもないよ」
オレの視線に気づいてか、ミィーカは、クーとモニカ先生との会話を止めオレに向き直る。
今まで二人は、モニカ先生に「どんぐりクッキー」の作り方を聞いていたんだ。
初めの頃、クーはモニカ先生をこわがっていたのだが、モニカ先生が「どんぐりクッキー」を焼いて持って来てくれるようになってから徐々に打ち解けて行った。
食べ物につられた……と思う事なかれ。
クーが奴隷になる前、よくお母さんに作ってもらっていた味に似ていたらしいんだ。
故郷の味というやつだな。
オレもたまに貰うんだが、甘さ控えめで素朴な味わいの美味しいクッキーだった。
オレは、パサパサした菓子は口の中の水分が無くなるような気がして苦手なんだが、このクッキーは美味しく頂く事が出来た。
モニカ先生の手作りが、不味い訳ないしね!
「なにニヤニヤしてんだよ?」
「モニカ先生の作ってくれたクッキーの味を、思い出していたんだよ。……それよりお前、回復魔法は勉強しているのか?レベルも高くなったんだし、そろそろ本腰入れて勉強しろよ?回復魔法を覚えれば人を救えるだけじゃなく、お前の場合、自分の為にもなるんじゃないのか?」
「うるせーな!……今、ネムに言われて生活魔法を勉強してるんだよ。あいつが言うには『治療の小精霊群』に呼びかけるのは難易度が高いから、まずは生活魔法で精霊の呼びかけを覚えて行くと良いんだってさ!……私だって……それなりに……」
そう言って、ミィーカは頬を膨らめる。
お前はそのほっぺに、どんぐりを詰め込むつもりか?
「まあ、ミィーカさんとハルトくんは仲がいいのね。これじゃ、クーちゃんがやいちゃうわね?」
ニコニコ笑いながらオレとミィーカを見つめるモニカ先生。
「ハルトくんは、やっぱりモテるのね!」
どこをどう見たらオレがモテているように見えるのか分からないが、モニカ先生にはそのように見えたと言う事だな。
だが、その保護者のような目でオレを見るのはやめて頂きたい。
オレは、恥ずかしさもあり話題をそらす事にした。
話題は……今いない人物。
そう、ランドルのおっさんだ。
今おっさんは、誰かを迎えに行っているらしく、まだ到着していない。
連れてくる人物は多分あの人だ。
今度こそ間違いはない。……あの人は、子供たちにも大人気なはずだからな!
「……そんな事よりモニカ先生、おっさ……ランドルさんとはどうなんですか?てかぶっちゃけ、どう思ってます?」
質問の仕方が、ド直球だったか?
このオレは、女子から遠まわしに恋愛話を聞き出すテクニックなど持ち合わせちゃあいない。
そんな事が出来たら、もう少しモテていたはずだ……グスン。
オレの質問に、モニカ先生は困ったような顔をした後、下を向いてしまった。
よく見ると耳が真っ赤だ。
……おい、これはひょっして?
「もうっ!本人には黙ってるから言っちゃいなさいよ!」
オレはヤケクソで「修学旅行先の寝る前女子」のテンションでモニカ先生に尋ねる。
クーもミィーカも、真剣な顔でウンウン頷いている。
モニカ先生は少し黙った後、下を向いたまま話し出した。
「ランドルはね、……実は彼が未だ駆け出しの頃からの顔見知りなの。当時私は、酒場で歌を歌っていて、よく旦那の、私と結婚する前のブルースと一緒に来てくれていたわ。……私が話しかけても、こわい顔して黙っていたから、当時は嫌われているんだって思っていたのよ。……でもね、最近その事をふと考えてみてね、少しおかしい事に気付いたの。……だって彼、私が歌う日には毎日顔を出していたのよ?」
モニカ先生は、酒場の歌姫をしていたのか。
確かに、オレでもその状況なら通っているな。
今度一曲歌って貰いたいもんだが……その事を今言うと、脱線しそうだな。
「……今でも彼は困った事があると、私なんかにいつでも手を差し伸べてくれて。……いつもなのよ?……私ね、思い切って私の事どう思ってるか聞いてみたの。そうしたら『俺には勿体無い女だ』って言われて。……どうしよう、ハルトくん。私、どうしたらいいか分からないわ……」
あ、うん。
結果は出てるな、これは。
ちょっと前に、自分の事「おばあちゃん」なんて言っていた人の言葉とは思えない。
恋は女を少女に変えるのかねぇ?
少し、さみしいぞ!
どうも色んな話を統合すると、おっさんとモニカ先生の旦那……ブルースさんの間に何かあったっぽいんだよな。
この辺の事をおっさんに聞いても絶対教えてくれない。
まあ、オレからしたら過去に何があったなんか関係無い。
要は、おっさんを言い訳できない状況に追い込んでやればいいんだよな!
本来は「お互いの過去を聞いてわだかまりを解いた後、雪解けを待つように二人の心が熱くなるのを待つ」ってのがセオリーなんだろうが……言うは簡単。
オレに、そんな小難しい事はできねーんだよ!
ここはモニカ先生の為に、あの根性無しを力技で「まぁ、何と言う事でしょう!」劇的にビフォア・アフターで男にしてやるぜ!
今日、オレは宣言しよう。
破壊なくして、創造なし!
我こそが、恋のキューピッドだとなぁ!!
「モニカ先生……はっきり言いましょう。あの根性無しは、あなたの事が好きすぎて、何も言い出せないぐらい大好きな、コンチキショーですよ。……しかも、カッコつけの大馬鹿野郎なんですよ。……しばらくしたら、オドオド負け犬のように告白してくると思いますが、その時、モニカ先生の気持ちを伝えてあげて下さい。もし、いい返事なら餌に群がる錦鯉のように必死に喜びますから!」
ちょっと言い過ぎたか?
でも、自分でも訳分からん位テンションが上がってしまっている。
悔しいがおっさん、幸せにしてやれよな!
「……私の気持ち?」
「そうです。モニカ先生がおっさんの気持ちを知りたいのと同じくらい、おっさんだってモニカ先生の気持ちが知りたいはずですよ」
「でも私は……もうおばあちゃんだし……いつ死ぬかだって」
またしても下を向いてしまうモニカ先生。
あんたに自信なさげな表情は似合わねーぜ?
「それもおっさんに言うべき気持ちの一つですね。オレが思うに、あなたが自分の事を『おばあちゃん』なんて言ったら、世界中のおばさん共が怒り狂いますよ?あなたは綺麗です。自信をもって下さい。オレにはハーフエルフの寿命は分かりませんが、例え一週間後に寿命が待っていたとしても、おっさんはあなたを受け入れるはずです。……ブルースさんがどんな人なのかもオレは知りませんが、オレに似ているんですよね?だったら、今のあなたを見て居られ無いはずですよ?」
さて、例のごとく一方的にまくし立ててしまったが、ここで「あんなハゲいらない」ってモニカ先生が言い出した終わりなんだよな。
モニカ先生は黙っているが、答えはもう出ているようだ。
「どうしたらいいのか分からない」とか言っていたけど、その前からすでに答えは出ているんだ。
後はそれを、自分の言葉にすればいいだけさ。
先ほどから黙っていたクーとミィーカを見ると、真っ赤な顔でオレをガン見していた。
なんなのさ?
その表情ちょっと……おっかないぞ。
少しオレらしくない事をしてしまったのかな?
クーは少し意外だったが、二人とも女の子、こういう恋バナ大好きなんだな。
後は女子二人に任せて、恋バナでもさせとけばモニカ先生の気持ちもスッキリするだろう。
もはやこの場に、男は不要だ。
早々にドロンして子供たちと遊んでくるかね?
「じゃあ、オレはプロレスさんが呼んでいるので、子供たちの所に行ってきます。……後はよろしくな?」
オレは、クーとミィーカに手を振ってこの場を離れた。
子供たちの遊んでいる場所まで行くと、そこにはリリィが居た。
この子も呼ばれていたのね。
なぜかネムと一緒に子供たちと混ざり、女王様……いや、サル山のボスのような扱いを受けてる。
こいつ、子供相手には絶対のカリスマを持っているらしい。
「お前、忙しいんじゃ無かったのか?」
「息抜きよ?……思えば、私は今まで遊んでいなかったの。今まで遊ばなかった分、ここで遊ぶわ?……くやしい?」
つまり直訳すると「幼児に退行した」と言う事だな。
見た限り、ただのかくれんぼなんだけど……なぜ悪女風に言うんだ?
まあいいか。
最近この子の世界観にも大分慣れてきた気がする。
オレは久しぶりに抱き枕を引っ張り出して、プロレス大会の開幕を宣言する。
「破壊なくして、創造なぁし!」
これがズバリ、今回のテーマだ。
待たせたな相棒!
興奮する子供たちに混ざり、途中からリリィも参戦してきた。
ガリバーくんを、まるで生き物のように操って攻撃を仕掛けてくる。
これなら安全に、しかも今まで以上にスリリングな試合展開が可能だぜ!
それにしてもリリィ、こいつ、すげぇヤツだ!
少し観察しただけで、『相手の力を最大限に引き出し、自分はそれ以上の力を出す事で自分も相手も輝かせる』という『風車の理論』を理解してやがる。
なんたる才能だ!
「殺し合いじゃなく、魅せる戦い。人々が笑顔になる戦い。これも貴方の国にあったの?凄いわ。……面白いわね?」
「ああ、そうだよ。……その事に気付いたお前も、中々凄いぜ!」
その後、オレたちはおっさんの馬車が来るまで、大声援の中戦い合った。
結果は……最高の負けをオレにプレゼントしてくれたよ。
『剣の巫女』って剣を、人を殺す道具を守護する者なんだよな。
そのリリィがこのプロレスごっこで幸せそうな顔をしているのが、オレにはもの凄く嬉しく感じたんだ。




