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第四章 7.死霊の大祭

 次の日、オレたちは狩場へと向かった。


 結局あの後、武具屋の親父の提案である手伝いをさせられる事になってしまったんだ。


 不本意だが、ネムとクーがやりたいと言ったら、オレは拒否する事ができない。

 もうあきらめる事にした。


 リリィはあの後、希少金属などの使用先が不明だった素材を何に使ったのか、武具屋の親父に話したようだ。


 オレには話してくれなかったが、それを聞いて親父は納得したようなので、その件に関しても何も言う気はない。




 今回は狩場で、親父の手伝いをする事になった。

 それが親父の提案なんだが――。


「おねがい。……しっかりやって」

「……ハァ」


 オレのため息が、大自然にこだまする。


 そうリリィは言うが、あまりやる気が出ないんだ。


 この子あの後大変で、恩を返そうとしてか「……この恩は身体ではらうわ?」とか言いながらオレが入浴中の風呂場に突入してきた。


 思わず悲鳴を上げながら逃げ出すと、なんとミィーカが颯爽と現れ、助けてくれたのだ。

 オレにはその姿が、白馬に乗った王子様に見えたね。


「……ハァ」


 いやな出来事を思い出し、またしてもため息を吐くと、錆びた剣を持った動く骸骨戦士スケルトン・ウォーリアが襲いかかって来る。


 オレはその動く骸骨戦士スケルトン・ウォーリアをメイスで殴りつけ、天国へ導いてやる。


 知ってるかい、メイスの扱いもなぜだか剣術に入るんだぜ?


 今回のお手伝い。

 それは、動く骸骨を倒して錆びた剣や装備を回収する事。


 ……だったら良かったんだが、違ったりする。

 まあ、それも含まれているんだが、事態はもっとめんどくさいほうに転がって行った。


 その説明をする前に、この狩場の説明をしたいと思う。

 ここはファージの原生林の中では盆地になっており、比較的見通しの良い草原が広がっている場所だ。

 普段はこんな隠れる場所も無いような狩場、魔物も冒険者も寄り付かないのだが、年に数回ある珍現象が起こる。


 それは、通称『死霊の大祭アンデッド・カーニバル


 簡単に言うと、ファージの原生林で死んだ人が、アンデッドになってこの盆地に集結するらしい。


 理由は色々あるようだが、この盆地に『魔素』なるファンタジー物質が集まりやすく、それを目当てにアンデッドが集まるのではないかと言われている。


 冬はゾンビが多く集まり、夏は動く骸骨が集まるそうだ。


 まあ、元は同じものだしな。

 つまり夏はゾンビが……アレするって事だよな。


 魔素ってのは、この世界の魔物の栄養源の一つみたいなものらしく、魔素をより多く身体に貯めている魔物の方が強いらしい。


 栄養源と言うより、経験値みたいなもんだな、きっと。


 魔物が持つ物を魔素、人間が持つ物を経験値と分けているだけで、結局『魂の位』を上げる為の貨幣である事に変わりは無い。

 言い方を変えているだけで、魔物も人間も本質は変わらないんだろう。


 ちなみに、この『死霊の大祭アンデッド・カーニバル』、イーブスやその周辺の教会が集まり、盆地周辺に巨大な浄化の結界を張り、アンデッドを弱体化させて安全に狩る事が出来る為、初心者や中級冒険者にとってレベル上げにもってこい、まさにお祭りのなのだ。


 特に夏の『死霊の大祭アンデッド・カーニバル』は食べ物屋台や、動く骸骨の身に着けていた防具の買い取り業者などがテントを張り、賑わいを見せる。


 食中毒が気になるので、オレは屋台で食べ物は買わないつもりだがな。


 死者を冒涜するような不謹慎な名前だが、実際参加してみると浮足立ったような感覚を覚える。


 確かにお祭りみたいなんだよな。

 ひょっとしたら、この地方のお盆みたいなモノなのかもしれない。




 で、今オレがやっている事が何かと言うと、『宣伝活動』だったりする。


 親父はイーブスの街の表通りの店の横に、今度武器屋をオープンさせるらしく、その宣伝を『死霊の大祭アンデッド・カーニバル』でして欲しいらしいのだ。


 実演販売ならぬ、『実戦販売』だな。

 ……うまい事言えたし、そろそろやろうかね!


 オレは営業時代に得意先に頼まれて、店の前でキズ物品のたたき売りみたいな事をやらされた事もあるんだ。


 こんなの、こんなの、恥かしくなんか、……ないんだから!


「なんてこった!このメイス、まるで力を込めていないのに、骸骨を粉々に出来るぜ!?これさえあれば毎年の『死霊の大祭アンデッド・カーニバル』はもちろん、日々の戦いでも効果的に狩りが出来る事間違いなしだ!……えっと、このメイス、どこで買ったか、もう一回教えてくれないか?」


 オレが話している間にも、容赦なく動く骸骨が攻撃をしかけてくる。

 その度にオレは、メイスで骸骨の頭を容赦なく粉砕していく。


 オレの華麗なメイスさばきに、周りの冒険者たちは目が釘付けだ。


「いいわ?何度でも教えてあげましょう。――ここにいる『英雄・黒猫剣士』が使っているメイスこそ、防具ブランド『月影とネロ』『月影とネロ』が作り出した最高傑作!ドワーフの知識の集大成よ!」

「……なるほど、安心と信頼のブランド『月影とネロ』の武器ならこの破壊力も頷ける。……『月影とネロ』はこの私、『英雄・黒猫剣士』も普段から利用させてもらっているからなっ!」


 どうだ?

 ダサいだろ!?


 何が「ギルドや街の宣伝活動の為致し方ない事とはいえ、英雄などと呼ばれるのは不本意な結果としか言いようがありません。私は人を殺して英雄呼ばわりされるのはまっぴらなのですよ」だ!


 完全に『英雄』と言う言葉を、金稼ぎに使ってしまった。


 オレを襲う罪悪感が嵐の様だぜ!


 こうなる前に散々否定したんだぜ?

 だがオレに拒否権は無かった。――それだけ、取るに足らない事だよ。


 オレは家族の言い付けなら、ピエロにだって、客寄せパンダにだってなる男なのだ!!


「HAHAHAHA!私が強いから、これだけ威力があるのだと思うだろう?……だが、これを見てくれ!」


 そう言って、オレはリリィにメイスを手渡す。


 もはや、誰に話しかけているのかオレにも分からん!


 リリィはそのメイスを軽々と持ち上げ、くるくると回転しながらジャンプし動く骸骨戦士スケルトン・ウォーリアを5匹ほど粉砕して着地した。


「わぁーお!……私みたいな子供でも、軽々と骸骨を粉砕できるわ!凄いわね『月影とネロ』のメイスは!」

「そうだろう?だが、このメイスの凄い所はここだけじゃないんだ。――見ていてくれよ」


 オレはリリィからメイスを受け取り、炎の添付魔法を施す。

 周囲の冒険者は「なんて、もったいない事を!」とか言いながら頭を抱える。

 

 みなさん、ノリがよくて助かってしまうよ!


 そう、炎の添付魔法は威力があるが、武器の寿命を縮めてしまうんだ。


 オレは炎の属性が添付されたメイスに水をかけて消火した後、堂々と天に掲げた。


「見てくれ!炎の添付魔法を施したのに、新品同前、傷一つないぞ!」

「凄いわ!さすがは『月影とネロ』ね!」

「だろう?……魔法使いのそこのあなたにもオススメ、『月影とネロ』のメイス。一家に一台、『月影とネロ』のメイス。護身用にもどうぞ!」


 ここで、オレとリリィはメイスを周囲に見せつけた後、とどめのニッコリ営業スマイルだ!


 ……ああ、胃が痛い、お家帰りたいよ。


 胃痛を感じるオレをわきに置いて、通販番組さながらの『実戦販売』は続いて行く。


 そこに近づいてくる、一人の女性の影が――


「……おや?そこにいるのはイーブス『南西教会の鈴蘭』こと、ミィーカさんじゃありませんか?貴女もレベル上げに?」


 偶然にも……いや、台本通り清楚な修道着に身を包んだミィーカがやって来た。


 その姿は、戦場に咲く一輪の花。

 いや、服の上からも存在を主張する、はかなげでふっくらとしたスズランの花(主に胸の辺りが)だ。


 ちなみに、ネムとクーは少し離れた所で、オレたちに向かってくる骸骨の数をコントロールしながらレベル上げをしてもらっている。


 もちろん、悪い奴が近づいて来ないようにランドルのおっさんをお守りにつけている。


 二人も宣伝に協力したがっていたが、あまり人間の汚い姿を見せたら教育上よろしくないだろう。

 色々と理由を付けて、今回は参加させないつもりだ。


「ええそうです。私も人助けの為、日夜鍛錬をしています。……実はここだけの話しなんですが、最近私みたいなか弱い……コホッ、コホッ、人間でも、楽に振るえて攻撃力の高いメイスを発見したので、飛躍的にレベル上げの効率が上がりました!」

「まさか、それって――!?」

「そう、『月影とネロ』のメイス、『月影とネロ』のメイスですよ!」


 ミィーカは、お澄まし顔で冒険者にメイスをアピールする。


 すると……冒険者たちに歓声が巻き起こった!


 もう「お前、誰だよ?」などと、言うつもりは無い。

 清楚な雰囲気で、狩り場の冒険者を魅了するその姿はまさに天使……いや、堕天使のようだ。


 オレは「か弱い」って言葉の意味が一瞬分からなくなってしまった。


 女は怖い。

 ここまで騙せば、もうあっぱれとしか言えないよな。


「今、キャンプ地『月影とネロ』の特設テントに、動く骸骨のおんぼろ装備をもって行けばクーポン券付きて買い取ってくれるらしいぞ!」

「まあ素敵!……『月影とネロ』でトータルコーディネートされた冒険者様って、本当に素敵ですよね!私も、いつかそんな人のお嫁さんに……テヘッ(念のためだが、ミィーカの発言だ!)」

「今なら先着20名の方に、堅皮ネズミのストラップが付くの。急がなくっちゃ、売り切れちゃうわね?」

「メイスもいいが、『月影とネロ』は、剣の切れ味も最高なんだぞっ!」


 オレは大きく息を吸い込んで、タメを作った後、オレたちを見つめる冒険者たちを指さし、叫けぶ。


「――次の英雄はぁ……君だっっっ!!」


 冒険者たちの熱い歓声と拍手に包まれて、オレたちは狩場を後にした。




「コホッ、コホッ、疲れたぜぇ。……どうだい、今日の首尾は?」


 ミィーカがウ○コ座りで薬草キセルを吹かし、親父に質問する。

 それに対し、親父が汚い笑いをして答える。


「グフフッ。……かなり儲かりましたぜぇ?さすがでさぁ。ミィーカさんには、専属でウチのモデルになってもらいたいくらいですぜぇ」


 ……スゲェ、嫌な組み合わせだな。


 それにしてもこの親父の顔。

 もはや、上方あきんどだってこんな顔しないぞ!ってくらいイヤラシイ顔だ。


 こいつまさか、オレたちを罠にはめてこんな事やらせた訳じゃないよな?




 オレたちは時間をずらして数回、場所を移動しながら宣伝活動を行った。

 そんな事を3日ほど続けると親父からやっと解放された。


 思ったよりも宣伝効果があったらしく、予約分までいっぱいになったそうだ。


 オレはこれを1週間続けたら、円形脱毛症になっていた自信があったね。


 リリィと親父はこれから一足先に帰って、回収した骸骨のおんぼろ装備を選別するそうだ。

 何でも希少金属、神鋼や金剛鋼、魔法銀などを使った剣を発見したそうで、たいそう大喜びだった。


 リリィによると、神鋼はオレの剣『突刺し姫』にも使われている金属らしい。

 さらに『突刺し姫』には、核として魔鉱石なる属性効果を持った鉱石が使われいるうんぬんかんぬんとオレに説明してくれた。


 『突刺し姫』には、吸魔の効果がある魔鉱石を血管のように剣に這わせる特殊な技術が使われている。今では失われた技術で、それを魔法銀と鍛冶魔法で再現したのがクーの剣『お化けアスパラ』なんだとか。


 魔鉱石は『精霊の亡骸』と言われているそうで、価値の高い物はお城なんかも買えちゃうんだとさ。


 亡骸じゃ鉱石じゃないと思うんだが……化石みたいなもんだろうか?

 いまいち納得がいきません!


 なぜオレがこんな事覚えているかと言うと、テントで寝る時、枕元で興奮したリリィが延々と説明してくれたからだ。


 初めはこの子、こんな子じゃなかったんだが、いったいどうしてしまったというんだろうか?


 ……誰か悪い大人から、影響を受けているとしか思えないよな。




 オレたちは、さらに2日ほど残ってクーのレベル上げを行った。

 ミィーカもレベルを上げたがっていたので、今回手伝ってもらったお礼を兼ねて一緒に行動した。


 この世界ではレベルが高い方が何かと有利だし、魔力が高い方が回復魔法も覚えやすいだろう。

 事実、他の僧侶さんたちなんかも『死霊の大祭アンデッド・カーニバル』の期間を利用してレベル上げを行うそうだ。


 クーは、ランドルのおっさんから弓の打ち方を教えてもらっていたようだ。

 

 クーはエルフだけあって弓は……その、なんだ……苦手ってあるんだね。

 だが、色々挑戦する事は良い事だと思うよ。




 今回の件で、オレは色々と懲りてしまった。


 もうしばらくは、ドワーフ見たくない。


 よくよく考えれば、やつら何かにつけて、散々オレを利用してくれている。

 確かにいい装備を作ってくれているが、果たして割に合っているのだろうか?


 会わないのは簡単だ。

 クーには悪いが、もうこちらから会いに行かなければいいだけだからな。


 あんなやつら、しばらく無視してやるんだから!




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