第二章 2.異世界で遭難・能力確認②
次は『何でも分かる帽子』だ。
これは、何度呼び出そうとしても、オレには呼び出せなかった。
その代わりか、ネムが呼び出す事が出来た。
ファンタジーの世界なんかでよく狩人が被っているような、羽飾りのついた帽子だ。
可愛い。……猫に帽子って、それだけで破壊的な可愛さになると思うの。
「ネムた……ネム、可愛いな。ひょっとして、他の形にもなるんじゃないかい?そうだな、小さなシルクハットなんてどうだ?」
「?うん、ちょっとまってね。……えいっ!」
――ポフッ。と音を立てて煙が出たかと思うと、ネムの頭にチョコンと小さなシルクハットが斜めに乗っていた。
この帽子、効果音まで可愛いとは分かっていやがる。
さすが、『何でも分かる帽子』だ。
オレはネムを見る。
まさにガン見だ。
その姿はまさに可愛さの権化。
いや、『可愛い』と辞書で引くと、この姿のネムの姿が紹介されるのではないかというほどの、ある種の当り前さ、真のイデアがそこにあった!
オレは湧き上がる衝動を必死に抑えながら、言葉を続ける。
「ネムたん。……じゃなかった、ネムよ。他にもどんな形になるか試してみまちょ……みようじゃないか」
ネムが訝しげにオレの目を見つめる。
「……そ、そんなことよりさ、この『何でも分かる帽子』の能力を調べた方がいいんじゃないかな?」
何故だ!
何故オレの冷静な意見を聞き入れてくれないんだ!
……そうだ!いい事を思いついたぞ。
オレは、なるべく怪しまれないよう満面の笑みで、ネムに話しかける。
「ネムよ、では能力の確認をしよう。語尾に『ニャ』をつけて……喋ってみてくれ、ゴクリ」
「……イヤだよっ!きもちわるいお顔しないでよ。もう能力は一人でかくにんするからね、バカッ!」
ああ、ネムたん待ってくれよ!
その後、必死で謝り何とか『何でも分かる帽子』の確認を再開出来た。
ちなみに
・今後絶対に赤ちゃん言葉を使わない。
・気持ち悪い顔で変な事を言わない。
という不本意な約束をさせられてしまった。
気持ち悪い顔は割とデフォなんだが、どうしたらいいのだろうか……。
だが、これからはネムが帽子を被ったりするんだ。
落ち込んでいる場合じゃないね!
料理の手伝いをする時にコック帽を被るネム。
魔法を使う時に魔女の帽子を被るネム。
ニット帽や、野球帽なんかも可愛いかもしれない……。
しかし、そんな妄想をするオレをよそに、ネムが衝撃の一言を発する事となる。
「『何でも分かる帽子』は、かぶらなくても能力が使えるみたいなんだ」
「……へっ?今なんと?」
「つまり、帽子を出現させなくても能力が使えるんだよ。剣は斬るためには手に持って振り回す必要があるけど、この帽子で『知る』ためにはかぶる必要はない。――なので、出現させなくても能力が使えるらしいよ」
おいおい、そりゃないぜとっつぁんよ!
せっかくネムの帽子姿でキャッキャウフフしようと思ったのにさ!
「……でも、ネムは帽子を被ってくれるんだよね?」
「かぶらない。だって、かぶるとハルトが……へんなお顔するんだもん」
途方に暮れるオレに、ネムは「もうこの話はおしまいっ。さあ、つづきつづき!」と言って強引に話を進める。
そんないけずなネムたんが言うには、この『何でも分かる帽子』には取扱説明書がついているらしい。
それによると、『何でも分かる帽子』には、『索敵能力』『情報検索能力』『情報通信能力』『情報記録蓄積能力』が備わっている……そうな。
どうも取扱説明書とは、『情報検索能力』に保存されているもののようだ。
呆然とするオレに対して、尚もネムは説明を続ける。
まず『索敵能力』とは、周囲の空間把握と、そこに存在する生物やあらゆる物の確認能力だそうだ。
つまり、知らない場所でも、検索すれば自動的に地図と危ないものを脳内に表示してくれる。……という事だな。
次に『情報検索能力』だ。
これは『記録図書館』と呼ばれる所に検索し、情報を引き出す能力らしい。
さらに『索敵能力』に連動させ、そこにヒットした生物の能力が何なのかを調べられる様だ。
つまり、敵が居たらそいつがどんな能力を使ってくるかが分かり、さらにその能力にはどんな効果があるのかまで分かってしまうという事だな。
さらにネムさんは仰る。
『情報通信能力』だ。
これはそれらの能力で分かった情報を、そのまま指定した人物に送る事が出来るらしいのだ。
会話の通信も、もちろん出来るらしい。
試しに『何でも切れる剣』の情報を送ってもらった。
●『何でも切れる剣』
あらゆるものを切断できる剣。
形は剣ならどんな形にも変形する。
また、長さも自由に変更できる。
だそうだ。
これ、今まで検証してた意味無くね?
これを持ってたら、一人で戦略会議が出来きそうだな。
オレの『何でも切れる剣』もヤバイが、これは別の意味でヤバイ。
便利すぎるのだ。
RPGでこの能力があったら楽しさゼロだろうな。
ひょっとして、この能力があれば魔法なんかも全部使えちゃうんじゃないだろうか?
「なあ、ネム。『記録図書館』ってのに検索かければ、魔法なんかも使い放題なんじゃないか?」
「それがそうでも無いみたいだよ。例えば、光魔法の最高位が『破邪なる爆発の光』って名前なんだけど、どんな魔法かっていう情報はのってるけど、どうやったら使えるのかはのっていないんだよね」
ふむ、そこまで万能じゃないんだな。
まあ、この時点でかなりのチートアイテムなんだがな。
それにしても、すげぇ物騒な名前の魔法だな。
そんな魔法使える奴いるんだろうか?
「ちなみに、その魔法使える人はいるのか?」
「……えっと、『理論上可能なだけで現在まで使える者は居ない』……だそうだよ。」
そうか、それはよかった。
せっかく移住してきたのに、この世界が核兵器で滅んじゃいました……なんて洒落にならないからな。
「もし、この魔法を覚えても、使わないようにしような!」
「うん、わかったっ!おぼえても使わない!」
あれ?
えらく軽く言うな。
……何だか少し、不安だな。
「ひょっとして、覚えられそうなのか?」
「ん?わかんないけど、『情報記録蓄積能力』で、魔道書の情報を蓄積していけば『記録図書館』にのる可能性はあるらしいよ。魔道書にのっていない魔法でも、情報がそろえば、その情報を元に使い方を探り出してくれるみたい。その後は、自分の魔力と練習次第みたいだけどね」
なるほど、ここで『情報記録蓄積能力』が出てくるわけか。
つまり、この帽子は『何でも分かっていく事の出来る帽子』って訳だ。
それにしても、この『何でも分かる帽子』って、持つ人物によっては凶悪な能力になるな。
オレが持っていたら……なにやら悪いことに使いそうな気がする。
猫に小判じゃないけど、これは逆にネムが持っていて良かったかもしれないな。
「もし、使いたい魔法が出来たら相談してくれよ。危険な魔法が多いだろうからな」
「わかった。……あつかいきれるか不安だね」
「ネムの能力はオレのに比べて便利なモノが多いと思うぞ。……初めは相談しながら使おうか」
取りあえず、ネムの能力はこんな所だろうか。
だがこの『何でも分かる帽子』って色々機能があるし、複合的に使う隠し能力が備わってそうなんだよな。
少しずつ試して行くしかないか。