第四章 プロローグ
リリィには少し困った事があった。
それは、最近鏡の前に立つことが増えた事。
これは、ついこの間までは無かった事だ。
今までリリィは、自分の事に興味が無かったと言っていい。
何故なら自分は、成人を向かえれば「死に行く」事が分かっていたからだ。
歴代の『剣の巫女』の中でも天才と言われたリリィだったか、相手は化け物、さすがのリリィも、いや天才だからこそ、勝てない事は分かっていた。
無論只でやられる気は毛頭ないリリィだったが、勝つか負けるか死闘の果て、その先の未来なんて想像など出来るはずが無かった。
それ故、自分になど興味は持てなかった。
持てるはずも無かったのだ。
毎日の様に押し寄せてくる負の感情を押し殺し、振り払うように鍛冶や、自分の興味に没頭した。
――私は強いの。弱い心には負けないわ?
その思いの通り、リリィは負の感情に負けなかった。
常に自問自答し、最善と思われる答えを導き出した。
その内に、楽しい事も、嬉しい事も無くなった。
総てがくだらなく感じてしまったのだ。
リリィは『剣の巫女』である事に誇りなど、これっぽっちも無かった。
だが、ドワーフ族が残した呪いの剣『突刺し姫』は、何とかしなければならないと思っていたし、これ以上自分の他に人が死ぬのは見て居られなかった。
リリィが生まれる以前、かの剣がこのファージにある事を突き止めた時、何人ものドワーフの戦士が剣士シャムロックの亡霊に挑戦し、死んでいったという。
剣士シャムロックの亡霊は強かった。
戦士達では勝てない事が分かると、歴代の『剣の巫女』たちは自分たちが戦うと宣言したそうだ。
その気持ちは分かる。
『剣の巫女』とは剣を、全ての武器を使う戦士を守護する者。
自分が守護する戦士を死地へ送り、死んでゆくのを見るのは責任も感じるだろうし、自分の身が傷つくよりも辛い事だったはずだ。
――それは私も同じ。ただ私は、私以外の『剣の巫女』が傷つくのも許せないのよ?
武器には気持ちがある。
それは作り出した鍛冶屋の気持ち、研ぎ師の気持ち、使い手の気持ち、その武器で死んだ者の気持ち。
皆がより良い世界を作ろうとして争い、死にゆく。
そのために武器は生まれ、また呪われていく。
結局はその繰り返し。
私に救える命なんてないの。
苦い感情を押し殺して見る世界は、暗くつまらなかった。
そんなある日、リリィは夢を見た。
それは魔法使いのようなとんがり帽子を被った旅人が、剣士シャムロックの亡霊を打ち倒す夢。
そしてその後、リリィに、何か楽しい事が起こる夢だった。
『剣の巫女』には特殊な夢を見る者が居る。
リリィの祖母もその「夢見」の力を持っていて、リリィもその力を引き継ぐ可能性がある事を知っていた。
これが「夢見」かしら?
随分中途半端ね?……せめて、顔ぐらい見ておきたかった。
楽しい事が何なのか覚えていないのが残念だったが、不思議と幸せな気持ちだった。
その日、久しぶりに訪れた幸せな気分を思い出すように、気持ちに任せてリリィはある帽子を作る。
そして――
それ以来、リリィは鏡の前に立つことが増えてしまった。
考えるのは彼の事ばかり。
どういう女性がタイプなのかしら?
隠し事が多そうなタイプだから、彼女は何人かいるかも知れないわね?
でもいいわ。
人間の男は性欲が強いって言うし、お父様も20人の妻が居たと言うわ。
その中で、一番になればいいのよ。
旅に出るって言っていたけど、私を置いてなんか行かせないわ?
貴方は、私をどれだけ好きにさせたか分かっていないみたい。
私がどれだけ貴方に救われて、どれだけ貴方に影響されたか知らないのね?
責任は、取ってもらわないと。
何たって、あの男を落とせば、クーもネムも手に入るのよ?
クーは、私にとって初めて出来た友達で、初めてのライバルだけど、とっても可愛いの。
さすが私のライバルね?
そうね。
クーが可愛い路線で攻めているし、私は大人の色気で押してあげるわ。
お腹のお肉を少しつまんでみる。
――このくらいの方が……男は好きよね?
それはリリィにとって、色彩豊かな世界で初めて、手探りの戦いだった。
やっと第四章が始まりました。
またしばらくお付き合いいただけると幸いです。
四章はバトル多めの展開になりそうです。




