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第三章 幕間9.ネムのお話し

ネム視点のお話です。


 ……ムムッ、なにこれ!

 いやなにおいがする。


 せっかく寝ていたのに、目が覚めちゃった。


 ここはファージの原生林の結界に守られた野営地。

 野営地でキャンプを張る場合、みんな交代で見張りをする。


 ここは魔物は入ってこられないけど、悪い人間がいるからね。


 ボクは魔獣だけど入れるんだよ?

 いい子だから……だよねっ!


 今はランドルさんの番なんだけど……寝ちゃってるよ?


 このにおいはの正体は、毒草『ネムリユリ』。

 お花の花粉に人間を眠らせる睡眠系の毒があるんだって!

 『何でも分かる帽子』は便利だよねっ。


 ……ここはわりと安全なはずなんだけどなぁ。


 ボクは、大急ぎで近くに悪いやつがいないか調べてみる。


 ……見つけたよ!お兄ちゃんだから、みんなを守らないとね。


 ボクは、走って悪いやつの方へ向かった。




「こんばんは、ボクはネム。君は『悪魔のキツネ』さんだね?……そのネムリユリの花粉をまくの、やめてもらえないかな?」


 ボクは目の前の巨大なキツネさんを見つめる。


 かなり大きいよ。

 えっと……ランドルさん5人分くらいかな?


 冒険者ギルドの手配書を記録しておいた『何でも分かる帽子』によると、AランクのWANTEDモンスターで、かなり強いヒトだ。

 このヒトがどんなヒトか分からないけど、親切でみんなを眠らせてくれているわけじゃなさそうだよね?


「……ほう、人間語を操る魔獣が結界の中におったか。……どうだ?私を招き入れてくれぬか?先ほどからこの中に入りたいのだが、結界が邪魔して中に入れないんだ」

「だめだよ。……あなた、わるいヒトでしょ?」

「私は悪い魔獣ではないよ。……そうだ、ここの結界を解いてくれたら、お前を自由にしてやろう。……私と組まないかい?私たちが組めば何でも思うがままだよ?」


 悪魔のキツネさんは大きな口を開けて笑う。

 その口の中は、よだれでいっぱいだった。


 ウソツキだっ!

 このヒト、ボクを食べちゃうつもりなんだ。

 初めて会ったおしゃべりできる魔獣がこんなヒトだなんて、ショックだな。


「ボクは自由だし、結界もとかないよ。といたらボクを……みんなを食べちゃうつもりなんでしょ?」

「ああ、そうさ。だが、お前は助けてやろう。人間は悪い生き物だからね、食べてもいいのさ。本当にアレは駄目だ。自分達の都合ばかりを優先して、他の生き物を殺して回る最低な生き物さ。……私も昔人間に飼われていたから分かるんだよ。……お前もひどい目に遭っているのだろう?さあ、結界を解くんだよ」


 うーん。

 さっきからこのヒト、自分のことばっかり。

 花粉をまくの止めてくれないし、ボクの話しを聞いてくれないんだよね。


 ……気付いてないのかな?


「じゃあ、君もその飼い主さんも『似た者同士』だったんだね?……ボクのことは気にしないでいいよ。別にひどい目になんかあってないしね。――そうだ!そんなに人間がきらいなら山奥へ行けばいいんじゃないかな?そうしたら、きっと、しあわせになれるよっ」


 ボクが「あどばいす」してあげると、悪魔のキツネさんは牙をむいて唸って来た。


 お話しできるのに、伝わらないって悲しいな。


「生意気な、人間に飼い慣らされた糞餓鬼が!……人間の肉は喰えぬが、致し方あるまい。我が力見せつけてやろう!此処から、人間が狂い、互いに喰い合うのを見物するとしようじゃないか!」


 ハルトが起きてたら「さんりゅう」って言いそうだよね?


 この人の言う『力』ってのは、しっぽにつけた幻覚系の胞子を、風に乗せてキャンプに運ぶ事かな?


 たしかにそんなのフリフリされたらみんな危ないな。

 ……ハルトは怒るとおっかないしね。


「ねぇ、帰ってくれないかな。ボクは、君が人間のこと大好きってわかったよ。そんなに人間のお肉が好きなら、山賊でもおそうといいんじゃないかな?……ボクが『人間がきらい』って言ったから、頭にきちゃったんだよね?」


 ボクはお話ししながら頭の中で呪文を演唱する。


 まずは……


「……風の障壁(ウインド・ウォール)


 風の障壁を野営地全体に覆う。


 これで胞子をこっちに寄せ付けないぞ。

 ……続いて、しっぽの胞子を洗い流しちゃおっと。


「……瀑布ウォーター・フォール


 どおかなっ?

 これなら逃げてくれるよね?


「おのれぇ!許さんぞ、矮小な下等生物めぇ!……ここから出てこい、八つ裂きにしてくれる!」


 そう言って、ずぶ濡れで結界にガンガン体当たりを仕掛ける悪魔のキツネさん。


 うううっ、逃げてくれない。


 それにしても「わいしょう」ってどういう意味なのさっ!

 ずいぶん難しい言葉知っているよね。


「ねぇ、君はもう食べる気はないんでしょ?なんでボクたちを殺すつもりなのかな?」

「そんな物決まっている。イライラしているからさ!……私はお前たちを殺したくて殺したくてしょうが無いのさ。人間を殺すのは最高だ。生きたままゆっくり噛み砕く事を考えただけで涎がでるわ!互いに無駄に殺し合う姿を見るのも楽しいぞ。考えただけで胸の内が軽くなるわ。……とにかく、人間が無様な肉の塊になるのを、早く私に見せろ!見せるのだ!!」


 うーん、だめ。

 このヒトの気持ち、さっぱり分かんないや。

 でも、このヒトがすっごく『人間的』なのは分かったよ。


 本当に人間が大好き。……なんだね?


「ねえ、帰ってくれないかな?……ボクはね、君を殺したくないんだ」

「グダグダ抜かさず出てこい腰抜け!私が恐いか?恐ろしいか?ん?どうなんだ!?」


 ……うるさいし、めんどくさい。


 ハルトが敵に対して、いつも怒る訳が分かったよ。

 お話しできるのに伝わらないって、悲しくて……とってもムカムカ頭に来るんだね。


「けいこくはしたよっ!君を殺す気はなかったけど、さいきんハルトが『お金がない』って言ってたから、ボクたちの『かて』になってよね。――バイバイ!」


 お別れの挨拶をした後ボクは、とっておきの呪文を唱えた。


 悪魔のキツネさんは、未だに逃げずにボクを睨めつけている。


 え?結界の外から出てやらないよ。

 だって、そんなルールないからね?


「……黒曜結晶の大鎌オブシディアン・デスサイス


 ボクの魔力ごちそうに反応し、歓喜した土の精霊たちが黒曜石の大鎌を作り出し、悪魔のキツネさんを襲う。


 この大鎌は、斬り付ければ斬りつけるほど鋭く尖って行く、遠隔操作型の魔法なんだ。


 実は『あれんじ』で色々ひみつがあるんだけど……今回は必要ないかな。


 この魔法の元は、土の上位魔法なんだけど、中位魔法から解析・再現するの大変だったんだからね?


 悪魔のキツネさんが自分の立場に気づいて、驚いた表情を浮かべた瞬間、その首は宙を舞い、ドッサッと大きな音を立てて地面に落ちた。


 せめて、苦しまないように逝けたかな?




 キャンプに戻ると、まだみんなグッスリ眠っていた。


 みんなってさ、ホントにお気楽だよね。


 ボクは念動力で、座りながら寝ているランドルさんに毛布をかけて、ハルトとクーの寝顔を確認する。

 

 ハルトもクーも幸せそうだよ?

 クーはキャンプだと、めんどくさい事考えずにハルトと一緒に眠れるから嬉しいみたいなんだ。


 よしよし、今日もお兄ちゃんはがんばったよ。

 報告は朝にして、今日はみんなにぐっすり寝てもらおうかな?


 そしたらみんな、褒めてくれるよねっ!



次の朝、死んだ悪魔のキツネに「……ゴ〇、お前やったんやな」と遥斗はつぶやいたそうです。


次回、四章プロローグです。

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