第三章 幕間8.夏のパーティー
「――と、言う訳で、『人生の大事な3つの袋』の話しを、『ドワーフの工場完成記念兼、教会とドワーフの皆さんとの親睦会』の、始まりの挨拶の代わりとさせて頂きます。……皆様、ご清聴ありがとうございました!」
終わった。
……何とか適当に話をして、強引に終わらせてやった。
周囲を見ると、こんな適当な話に対しても溢れんばかりの拍手を送ってくれている。
ああ、なんてこった!
……オレの心は今、罪悪感でいっぱいである。
そんな訳で、オレたちは『ドワーフの工場完成記念兼、教会とドワーフの皆さんとの親睦会』参加していた。
教会と新工場の場所は割と近くに建てられたらしく、工場のお披露目をした後、近くの河川敷に集まって夏の夜の野外パーティーと相成った。
で、いざ参加してみると「はじまりの挨拶をしてほしい」と頼まれて、無理やり檀上に立たされてしまったという訳だ。
武具屋の親父から始まり、カトリオーナ司祭が挨拶し、オレが話すという流れだったが……こういうの、一番苦手なんだよね。
カトリオーナ司祭をちらりと見ると「か・ん・ぱ・い」と口パクでオレに合図を送ってくれている。
そう言えば、乾杯の音頭を取れって言われてたな。
オレは杯を受け取り、静まり返るみんなに向けて「――乾杯!」と宣言して杯に口を付けた。
「ご主人さま、ごりっぱでした!」
「よそうのさ、ななめを……いったよねっ!」
君たちそれは本当にほめているのかい?
クーは頬を赤くして尊敬のまなざしをオレに向けているが、ネムの「予想の斜め」ってのが、あきらかに「下」を差しているよな!
最近オレの評価が、下降の一途をたどっている気がするぞ!
そんないつもの(自傷ぎみ)団らんもつかの間、オレの元に挨拶やら、握手やらを求めて人が押し寄せて来た。
主にドワーフの職人の皆さんやら、武具屋関係の人たちだな。
あっ『斬首大泥蟹』を譲って下さった冒険者さんも今回のパーティーに誘ったんだが、あいさつに来てくれたよ。
みんな丁寧にあいさつしてくれるのだが、やっぱりオレ、こういうの苦手だ。
こうやって注目されるのは大変不本意である。
ただでさえ『黒猫剣士の物語』のせいで、巷で肩身の狭い思いをしているんだ。
ああ、川の流れにのって、ドンブラコッコとここから消え去りたい気分だよ。
「お疲れさん。むこうでみんな待ってっぞ?」
あいさつの波が途絶えた頃、ミィーカがやって来てオレに飲み物を手渡してくれる。
オレはもうヘトヘト。
クーは気合の入った顔をしているが、ネムはぐったりしてクーに抱き着いていた。
クーは大分人に慣れて来たみたいだな。
少しだけ自分に自信がついてきたのかも知れない。
むこう?
ミィーカの指さす方向を見ると、おっさんやらマライじいさんやらレイくんが、テーブルに腰掛け談笑していた。
さながら、ヤ〇ザの親分と、元会長と、鉄砲玉の様である。
……あの強面軍団の中に入れば、もう人は寄って来まい。
オレたちは、逃げるようにおっさんたちの輪の中へ入って行った。
「なんだ、みんなも呼ばれてたのか。……そういえば、オリヴィアがいないな?仕事か何かか?」
椅子を用意してから、オリヴィアがいない事に気づいたので聞いてみた。
「……ああ、あいつは貴族だからな。こういう所は、アレなんだろ?」
ミィーカが言いにくそうに告げる。
そうか、貴族って面倒くさそうだし、色々あるんだろうな。
オリヴィアにもクーを改めて紹介したかったんだが、またの機会でいいか。
オレは、クーをみんなに紹介した。
そして「そう言えば」と思い出して、しばらくしたらこの街を去る事を話した。
まあ、戻ってくる予定もあるにはあるんだし、気楽な感じでだ。
おっさんには言ってあったんだが、他のみんなには言ってなかったんだよね。
――その結果、レイくんは大泣きし、ミィーカはみるみる血の気が引き、下を向いてしまった。
予想以上の反応に驚いてしまったよ。
レイくんは同席していた彼女さんに介抱されていたから良かったが、ミィーカは深刻だった。
「出発前に形見のファルカタは、カトリオーナ司祭に預けるつもりだから、心配すんな」
「……そういう事じゃねーだろっ、ばか!なんで、早く言わねーんだよ!」
目に涙をためた後、ほっぺをプクッとされて言われたよ?
うーん。難しいヤツだ。
「まだ出発まで二ヵ月ほどあるのだ。悲しむのはその時でよい」
おっさんの取り成しで、しぶしぶミィーカは納得してくれたようだった。
まあ、実を言うと、オレも少しさみしいんだよな。
ここは第二の故郷……って言ったら言い過ぎだが、気のいいヤツらと巡り合えた大切な場所だ。
だが、しんみりした別れは苦手だ。
永遠の別れじゃあるまいし、会いたくなったら戻ってくればいいだけだしな。
河から流れてくる涼しい風を感じながら、オレは会場を見つめた。
200名は集まっているだろうか?
近所の関係の無い人まで紛れ込んでいるかも知れないな。
基本はバイキング形式で、各々好きな料理を自分の皿に取り分けている。
中にはカバの肉でバーベーキューをしたり、斬首大泥蟹を切り分けてその場で茹でるパフォーマンスをしている奴もいる。
やはり、カバ肉は大人気のようだ。
子供も大人も、老若男女かかわらず、我先にと肉に群がっている。
全員分あるかな?
ちょっとだけ心配になる。
斬首大泥蟹は、茹でるのに時間がかかるのだろう。
巨大な鍋の前に人だかりが出来ていた。
クーは、レイくんの彼女さん(アイリーンさんという名前らしい)と話しをしている。
どうもこのアイリーンさんは元奴隷で、貧しい農村から売られ、劣悪な職場へ連れてこられたのをレイくんが買い取り、解放したらしい。
その時色々問題を起こしてレイくんはギルドから睨まれ、冒険者を廃業したようだ。
人にはそれぞれ物語があるんだな。
ひょっとしたら、はじめの頃によく突っかかって来たのは、オレがギルドから優遇されていたからかもしれないな。
「レイくん……いい男だったんだな」
「……そんな事無いっすよ。ハルトの兄貴のおかげで稼がせてもらって、どれだけ感謝してもし足りないくらいっす。……で、実はなんすけどね――」
そう言ってアイリーンさんと二人で顔を見合わせる。
「……実は、俺たち結婚する事になりましてね」
「ベンは早く報告したいってウズウズしていたんですよ。……ありがとうございます」
別に何もしてないんだがな。
幸せそうで少し羨ましい。……オレは結婚なんか出来ないだろうからな。
オレは強引に明るい顔を作り、精一杯レイくんとアイリーンさんを祝福することにした。
「おめでとう!やったな、レイくん!二人とも美男美女だから、子供はぜったい可愛いよな、うんうん!……えーと、式は、挙げるのかい?」
「いえ、それが……稼いだ金は子供の為に使おうって話になりましてね。こいつが『子供は将来、人の役に立つ魔法使いにしたい』とか言ってまして」
照れくさそうに話すレイくん。
魔法使いか……どうも違う意味に捕えてしまうが、この世界で魔法使いってのは尊敬される職業なのかも知れない。
お祝いは魔道書がいいだろうか?
生活魔法の魔道書と、初級の四属性魔道書全巻とかでいいよな!
色々聞いてみると、まだ子供が生まれる予定は無いそうだ。
そして、何故だか話題は仕事の話になって行った。
その話によると、アイリーンさんは今食堂で働いているが労働条件も悪く給料も少ないらしい。
オレは武具屋の親父を連れてきて、店舗スタッフとして雇って貰えないか交渉してみた。
『月影とネロ』は儲かっているし、給料も確か良かったはずだ。
結果はもちろんOKだった。
アイリーンさんは美人だし、言葉遣いも丁寧だから良い販売員になるだろう。
「間違っても下着販売の方には回すなよ」と伝えておいた。
コネを使ってみたが、このくらいはしてもいいよね?
クーは、レイくんとアイリーンさんを真っ赤な顔で見つめていた。
やっぱ女の子は、結婚とか興味あるんだろうか?
「クーちゃんも、すばらしいご主人さまに巡り合えて、よかったわね?」
「……はいっ!ありがとうごいます。……あのっ、おめでとう……ございます」
アイリーンさんが、満ち足りた笑顔でクーに告げていたのが印象的だったな。
ネムはと言えば、いつの間にか居なくなり、茹でた斬首大泥蟹と格闘中だった。
おっさんやミィーカを連れて中央に陣取り、蟹の殻に顔を突っ込みながら必死で食べていた。
普段きれい好きのネムが、我を忘れて食べるなんてそんなに美味いのだろうか?
そんな食べ方したら、お顔がベタベタになっちゃうよ?
茹で斬首大泥蟹や、焼きバカウマウカバのいい匂いが、少し離れたここにも風に乗って届いてくる。
確かにいい匂いなんだが、あのサイズの生物は、やっぱり生理的に受付無いよ。
「クーも行くかい?ネムの食べっぷりを見る限り、美味しいみたいだぞ?」
「いえ。……わたしは、ご主人さまといっしょにいます」
先ほどは気を張っていただけで、やっぱりまだ人見知りなのかな?
少し腹ごしらえしたら、カトリオーナ司祭の方へ連れて行こうかと思っていたんだが、もう少し後にするか。
そんな事を考えていると、聞き覚えがある声がした。
「見つけたわ。こんな所に居たのね?……突撃よ?」
そう言って、オレの膝の上に乗ってくるのは一人しかいない。
「リリィ。そういうのは、お姉さんがする事じゃないと思うぞ?」
「……そうかしら?私は自分のしたい事をして生きるの」
うん。
その考え方は立派だが、行動は子供っぽいぞ?
どうやら家に泊まりに来てからというもの、変に懐いてしまったらしく、さながら親戚の子供状態だ。
いや、弁が立つ分だけ性質が悪いかもしれない。
甘えてくるのは可愛くていいんだが、倫理的に問題あるよな?
「リリィちゃん……ダメです!」
クーはそう言ってほっぺをぷっくりさせる。
どこかの誰かの悪い癖が移ってしまったようだ。
これはやめさせないとね!
オレは、クーの頬を急いで指でつついてみる。
「ううっ……ひどいですぅ」
涙目でクーはオレに訴えてくる。
これは面白いかも知れない。……そう言えば、隙があったらミィーカにやってみようかと考えていたんだっけ。
「クーが座っていないのが悪いの。……でも、そうね?私はお姉さんだから半分譲ってあげる」
「……あの、その、いえ……」
クーは、子供っぽいから嫌なようだな。
これが幼女と少女の差だと言うのだろうか?
しばらく二人のやり取りを見守っていると、ミィーカが大量の食べ物を持ってやって来た。
「この子供は?見かけねぇ子だな。……ドワーフでもないしな」
「あら、『子供』とは失礼ね。私はリリィ・コビトゾク。これでも24歳よ。……貴女はおいくつかしら?」
ミィーカの至極まっとうな意見に対して、あくまで冷静に反論するリリィ。
お前、オレの膝の上に乗ってる事忘れてないか?
子供扱いされて当然なんだぞ!
「ご丁寧にどうも。私はミィーカだ。16歳だよ。……どう見ても子供にしか見えないだろ?」
「あら、貴女がミィーカさんね。……なるほど、ハルトが気に入る訳ね。大した乳肉をお持ちの様だけど、種族差別はいけないわ」
いや、どう考えてもミィーカは君の行動に対して言ってるだけだと思うんだが?
それにしても「乳肉」とか「オレが気に行っている」とかツッコミ所満載の発言はやめてもらいたい。
「種族差別って、お前な。……まあいいや、めんどくせー。食い物持ってきてやったから食べようぜ?」
そう言って、食べ物をテーブルに置くミィーカ。
リリィと比べると、何故だかミィーカが大人に見えるから不思議だな。
その様子を見ていたマライじいさんが「ハルト殿はモテますな」とか言って来たが、酔っぱらいのたわごとだと判断し、無視しする事に決めた。
そう言えば、ちょっと前に拉致した少年はどうしているのだろうか?
……まあ、オレが居るんじゃ顔は出し辛いか。
そのうち仕事で顔をあわせるかも知れないが、オレを狙ってくるうちはいじめないでやるつもりだ。
そんな事を考えながら、ミィーカが持って来てくれた物をのぞいて見る。
おっ!オレでも食べられそうな物ばかりだぞ?
いい所あるじゃないか!
「……あら、気が利くじゃない?……頂くわ?」
「お前に持って来た訳じゃないけどな。……これなら、ハルトも食えるだろ?これがみんなで沼地で取った普通の大泥蟹のボイルで、こっちがだな――」
そんな事を言いながら、オレやクー、リリィにまで殻をむいたり、小分けにしたりして渡してくれる。
性格はガサツだが、集団生活で身に着けた心遣いは持っているんだな(上から目線)!
「ありがとうございます。……わたしなど気になさらず、ミィーカさまも食べてくださいね」
「気にすんなよ。私は適当に食べてっからさ。……マライじいさんも酒ばっかり飲んでないで食えよ。この蟹は身体にいいんだってさ」
「ああ、すまんの」
「……貴女、女子力高いわね?……負けてられないわ!」
そう言って、リリィがオレの膝から颯爽と飛びのき、どこかへ消えてしまった。
女子力と言う言葉が飛び出したぞ?
「あの子、なんなんだ?……変わってんな」
「ああ、変わってるのは間違いないな。……リリィは『月影のネロ』のデザイン担当で、オレやクーの装備を作ってくれた子だ。最近色んなしがらみから解放されたらしくて、あんな感じだ。見た目と、言動と、行動のギャップが激し過ぎるがな」
「え!?……それって、相当大物じゃねーか!」
「ああ、実力は大したもんだな。他は知らないが、この街では一番じゃないか?」
「へー。……ところでお前、女の知り合いはもういないだろうな?」
ジッとオレの目を見つめるミィーカ。
あれ、クーもこっちを真剣に見つめているぞ?
気付くとマライじいさんやレイくんたちも居なくなってしまった。
オレが悪い事したような雰囲気なのは……何故だ?
「……女の人の知り合い?後は、モニカ先生とオリヴィア、ギルド担当のノーラって娘くらいだな。……そういや、モニカ先生来てるのかな?ハハハハッ!」
何だか知らないが、浮気性の亭主を見るような目で、ミィーカとクーがオレを見つめる。
オレ何もしてないぞ!
大体オレの息子が居ないのにそんな事出来る訳ないだろ。
失礼しちゃうわ!
「……まったく。……モニカ先生はドワーフの職人達につかまってたぞ?」
「……ご主人さまのおしりあいは、きれいなかたばかりで……しんぱいです」
「ったく、ホントにクーの言う通りだぜ!――えっ?それって……」
クーはオレに女が出来て、相手にされなくなるのを心配してるんだな。
オレは、誰かれ構わず口説くようなチャラいヤツじゃないし、物理的に何も出来ないから安心していいんだが。
ちらりとミィーカの方を見ると、クーを見て驚いた顔をしている。
クーは、そんなミィーカを気まずそうに見つめる。
何なんだこの空間?
しばらく、気まずい沈黙が流れる。
「……さて、お姉さんの実力を見せてあげるわ」
気まずい雰囲気を打ち破るように、リリィ姉さんがやって来た!
ナイスタイミングだと言ってやりたい。
やはり天才とは、空気を読むタイプの人間ではなく、空気を打ち破るタイプの人間(ドワーフ族だけど)が多いようだ。
「あら、人が減っているわね?……まあいいわ。……味わって食べて」
そう言って、なにやら豪華な料理をテーブルに並べて行く。
色々説明してくれるが、「テリーヌ」とか「フォンダン」だとか「ピュレ」とか聞き慣れない単語ばかり出て混乱してしまう。
食材の原型をとどめていない物が多い。
……こういうの、こわくて食べられないんだよね。
「……大丈夫。貴方が好き嫌いが多いのはリサーチ済みよ?……今日は朝から料理の仕込みで大変だったんだから。……たべて?」
ものほしそうな顔で、オレを見つめるリリィ。
「たべて?」だけ可愛く言うのはずるいよな。
オレは、恐る恐るだが正体不明のペースト状のモノを食べてみる事にした。
食べてみると……美味い事は美味いんだが、よく分からない味だった。
つまみにはよさそう……だな?
次に食べた、蟹肉を使ったピュレなるものは、サッパリしていてとても美味しい気がした。
クーも顔に「?」を付けながら食べているようだ。
ミィーカは「こんな高級食材を!?」とか言いながらとても美味そうに、ガツガツ食っていた。
この世界の常識が多少ある人には、相当美味いご馳走のようだ。
リリィはオレの表情を見つめ、ウンウン頷いた。
「なかなか手ごわいわね?……作戦を変えるわ」
そしてまた、颯爽とどこかに行ってしまう。
どうやら、次の料理を取りに行ったようだ。
次に持ってきたのは、子羊の丸焼きだった。
子羊をアジの開きの様に開いた後、鉄の棒を突刺して、火の上でグルグル回しながら焼いていたのを見た覚えがある。
確かに良いにおいなんだが、少しグロい気がするな。
「……子羊の丸焼きドワーフ風よ。……バカウマウカバが居たから、今日はあまり人気が無いんだけど……美味しいから勇気を出して食べてみて?」
そう言いながら、オレたちに慣れた手つきで切り分けてくれる。
切り分けた物なら食べられそうだな。
オレは言われた通り、一口だけ食べてみる事にした。
すると――
「――美味い!」
口に入れた瞬間に肉汁があふれ出し、口いっぱいに広がる。
後味に香草の香りが口の中に広がり、羊の臭みを食欲を掻き立てる香りへと進化させ、また次の肉を口に運ばせようとしてくる。
味付けは香草と岩塩、そしてタレのような物がかかっているが、なんなのか分からない。
このタレがドワーフ風なのだろうか?
いい意味で野性味あふれているが、味付けは上品で一度食べ出すと止まらない味だ。
とにかく、今まで食べた肉料理の中で一番美味いかもしれない。
羊ってこんなに美味しかったのか!
「……う、美味いな!」
「おいしいですっ!」
ミィーカとクーまでがっついて肉を食べている。
クーがここまで食べるのって珍しいかも知れない。
「……ふふっ。美味しいでしょ?回しながら焼くことによって、羊から出る油でコーティングしながら焼いているの。そして余分な脂が落ちて、旨味を閉じ込めるの。……肉ではカバに負けるけど、調理法と味付けでは勝っている自信があふ……なにほれ、おいひいわ!」
説明の途中で、自分もがっつきだすリリィ。
……オレたちが美味しそうに食べる姿を見て、お腹減っちゃったんだね。
心行くまで子羊の丸焼きを楽しんだ後、オレたちはカトリオーナ司祭の所へ行った。
クーを紹介すると、子供たちまでやって来てクーを遊びに誘った。
もちろん、バカウウマカバのお礼もしてくれた。
オレが「バカウマウカバはネムとクーが倒したんだぞ」と言うと、みんなクーを取り囲んで質問攻めだった。
クーは緊張しているようだが、少し誇らしげに見えたよ。
なぜか、リリィが率先してクーを連れて遊ぶことになった。
……大丈夫だろうか?
いざとなると心配になってしまう。
今回はミィーカも一緒に遊ぶようなので任せてみるか。
オレも誘われたんだが、少しカトリオーナ司祭と話したかったんだよね。
念のため、オレがプロレス技を伝授した子に「いじめないでやってくれよ?」と伝えておいた。
「女の子をいじめるのは、ガキのする事なんだぜ?……身に覚え、ない?」
……こいつ、将来女たらしになりそうだな。
いくらお前でも、クーは渡さんぞ!
ちゃんと自分で働いて稼げるようになってから来なさい!
そう心の中で叫んでしまったよ。
子供たちが遊んでいるのを見ながら、オレは、カトリオーナ司祭にしばらくしたら街を去る事を伝えた。
カトリオーナ司祭はゆっくり頷いて「気を付けてね、また戻って来るんでしょう?」と確信めいた様子で言ってくれた。
実は、カトリオーナ司祭との話の本題は実はこれじゃないんだ。
エドワード大司祭の指輪を、カトリオーナ司祭に返す事に決めていたんだよな。
オレはポケットから指輪を取り出し、カトリオーナ司祭に渡す。
「……この指輪のおかげで、クーは良くなりました。これはお返しします」
「あら?それじゃあ、もう帰って来ないみたいな感じがするわね。……受け取れないわ。エドワードも、あなたに持っていてもらいたいと思うはずよ」
「……ですが」
「この会場をご覧になって?ここには人間、ドワーフ、闇エルフ、ハーフエルフと、様々な種族がいるわ。……この光景を作ったのはあなたなのよ?『光と闇のハーフェル』様がお隠れになってからは奇跡とも言っていい光景なの。私は年甲斐もなくはしゃいでしまったわ。……エドワードもきっとよろこんでくれていると思うの」
カトリオーナ司祭は、有無を言わさず指輪をオレの手のひらに戻す。
「本当、あなたには数えきれない恩があるけれど、こんなちっぽけな指輪で許してね?」
このおばちゃんは本当に強引だよな。
これは返すに返せなくなってしまった。
本当にいいのだろうか?
これはエドワード大司祭の形見だし、
それに――
「――あの二人は、中々難しいわね」
カトリオーナ司祭は、ネムと一緒にいる二人の男女を見つめていた。
ドワーフの職人さんたちに解放されたんだな。
「そうですかね?オレは難しくしちゃってるだけの気がしますが」
モニカ先生は遠慮しながらも、おっさんに話しかけている。
おっさんは終始意識しっぱなしで、ネムが話している感じだ。
「年を取ると意地を張って難しくしてしまうのよ。……気付いた時には、もう遅いわ」
カトリオーナ司祭は夜空を見上げる。
その姿は、オレにはとてもさみしそうに見えた。
ミィーカが子供たちと遊び疲れたのかこちらにやってくると、カトリオーナ司祭はミィーカと二・三事話すと「洗い物がある」と言ってどこかへ行ってしまった。
「お疲れ。……どうだった?」
「大丈夫じゃね?……クーとリリィは魔王とその従者『死の騎士』役だってさ」
闇エルフに魔王をやらせるとかエスプリが効いている気がするが、ここの孤児院の子たちはオレが悪役を楽しそうにやるせいか、正義の味方より悪役をやりたがるんだよな。
ストレス発散に悪役は丁度いいんだが、歪んだ子供にならないか心配だ。
今回はゲストの二人に、一番人気の悪役を譲った形になるのか?
おのれ、味な真似を!
「が、がははっ、し、死の騎士よ!……えと、やってしまうのだぁ」
「……分かりましたぜ、魔王様ぁ!……血だ。血を流せぇ!大地を血の海にするのだぁ!」
クーはダイコンもいいとこだが、リリィはハツラツとしていらっしゃるな。
リリィは「子供っぽい遊びはしないわ?」とか言うかと思ったが、そんな事はないようだ。
どんな時でも手は抜かない。
その姿はまさに出来る女。……いや、お子ちゃまだな。
「……お前さ、私が言うのも何だけどよ。……あの子の事、ちゃんと女の子として見てやれよな。年も14歳らしいじゃねぇか。私達とそんなに変わらねぇんだぞ?」
子供たちのごっこ遊びを見ているオレに、ミィーカが話しかけてくる。
ん?クーの事か?
確かリリィにも同じような事言われた気がするが……オレはクーの事、ちゃんと女の子として見ているぞ。
言われて気づいたが、ミィーカとクーは2歳しか違わないのか。……それでこの乳か、けしからんヤツめ!
そう言えば、滅多に鏡なんて見ないから忘れがちだが、オレの見た目の年齢は17歳なんだよな。
そう考えると、クーはもっと砕けた感じで話してくれてもいいんだよな。
オレのにじみ出るおっさんオーラのせいなのか?
「……まったく話がちげーんだよ。あの子、どう見てもお前の事……好きじゃねーか」
最後の発言は小声だったんだが、風に乗って聞こえてしまった。
その後も、ゴニョゴニョと「母親に……」とか「間違いだった」とか繰り返す。
「あのな。お前、今までオレがクーに嫌われていると思っていたのか?看病とか色々頑張ったんだからな!……それで嫌われていたら、オレ、立ち直れねーぞ!」
まったく、今回の一件で逆にクーに嫌われてしまったら、もうオレは誰も信じられなくなってしまうよ?
何を当たり前の事を、ミィーカは言ってるんだよ!
「……あーあ、お前本当にどんかん野郎だな。……もういいよ!クーともっと仲良くなって、お前の悪口をいっぱい言い合ってやるからな、覚悟しとけよ!」
そう言い残し、ミィーカはクーの所に行ってしまった。
それって……あんまりでない?
オレが何したって言うのさ?
オレはショックのあまり、しばらくは子供たちのごっこ遊びを見守るしか出来なかった。
ごっこ遊びの方は、最終的に死の騎士であるリリィが、魔王クーを裏切り下剋上を果たすという、予想を超えたリリィの大スペクタクル活劇に仕上がっていた。
子供たちは、自分たちのごっこ遊びの出来のよさに歓喜しているようだ。
オレの目から見てもごっこ遊びの次元ではなく、プロの即興のお芝居を見ているようだったよ。
……それにしてもクーよ、女王の座はリリィに奪われたな。哀れなヤツだ。
その後、オレはランドルのおっさんとモニカ先生に絡んだりして過ごした。
モニカ先生はかなり酔っ払っており、オレを見つけた瞬間抱き着いてくれた。
おっさんに呪いの念を送られていた気がしたが、無視だな。
至福、そして幸せの時間だったよ。
『ドワーフの工場完成記念兼、教会とドワーフの皆さんとの親睦会』は、最後に子供たちがオレにたくさんの花束を渡してくれて終了となった。
朝からみんなで摘みに行ってくれたらしい。
こういうプレゼントって嬉しいよな。
初めの挨拶がなければ、また来てもいいかなって思ってしまった。
家への帰り道。
教会へ泊って行くよう勧められたが、疲れてしまった為家に帰る事にした。
なぜかリリィとミィーカも泊りに来るらしい。
まあ、クーが良いなら別に文句は言わんがな。
それにしても、ミィーカのやつ自由すぎないか?
あそこの教会は、規律という物が足りない気がする。
「いいか、ミィーカ。家のクーと遊んでもいいが、煙草とかギャンブルとか悪い事は教えるなよ?」
「教える訳ねーだろ!お前、私の事今までどんなイメージしてたんだよ?」
「……客の前ではカマトトぶる、ガラの悪いシスターだが?」
「お前、取り消さねーと、ぶん殴るぞ!」
オレは、いきり立つミィーカを無視してクーに告げる。
「なあ、クー。人間には良い面と悪い面があってだな。悪い面は真似するんじゃなく、反面教師として学んでいけよ。――オレは、お前なら出来ると信じてるからな」
「あの……は、はい」
「……貴女も来るの?……やっぱりなのね?良いものは分けあうの。……そして、乳肉を私によこしなさい!」
そう言ってリリィは、ミィーカの乳をもぎ取ろうとする。
威風堂々たるその姿は、まさに死の騎士だ。
「痛てーな!何すんだよ、ガキ!」
「……あら?子供のあなたには不必要だから、引き取ってあげようとしたのよ?」
そんな様子をクーの鞄から見ていたネムが嬉しそうに言う。
「みんな、仲良しだよねっ!」
まったく、ネムはお気楽でいいよな!




