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第三章 幕間6.少年と吟遊詩人

 今、オレは大変怒っていた。

 怒りを通り越して胃がキリキリして、お腹の中の物を口からぶちまけそうだ。

 

 ……汚い話でごめんね。 


 でも、どのくらい怒っているか分かってもらえただろうか?


 オレってば、繊細なんだよ!




 話は数日前に遡る。

 その日は確か、買い物に行こうと商店街に行く途中だった。

 オレは買いものに行く時でも、大抵黒皮の鎧を手袋以外はフル装備で着用している。


 だってこの装備、着ているだけで綺麗になる。

 勝手に綺麗になると言う事は、洗濯要らずだし、この装備は夏でも体温を一定に保ってくれるのでとても着心地がいい。


 ついでに軽いんだ。


 ズボラなオレにぴったりの装備だな。


 オレは、ルンルン気分で手さげ鞄片手に歩いていたんだ。


 ――その時だ!


「『死を呼ぶ黒い行進(ブラック・パレード)』のハルト殿とお見受けする。いざ尋常に勝負!――喰らえぃ、烈風斬りぃ!」


 なんかよく分からん技を、開幕ブッパされた。


 どうもこの世界には、『武技』と呼ばれる技があるらしく、こいつの使った技は多分武技だろうと推測できる。


 実は、オレの使う『円の剣陣』には武技は無いんだ。


 ソウルイートでも武技は手に入れていない。

 だからオレは、武技については詳しく知らないんだ。


 詳しくネムに聞いてはいないが、多分、自分に適性がある技しか奪えないという事だろう。

 その辺りは、ネムが人間の武術を覚えられないのと同じ原理なんじゃないか。……と、推測している。


 そもそも武技はカッコはいいが隙だらけで、大型のモンスターか、相当油断してるやつか、開幕ブッパにしか使えないのだ。


 シャムロック氏は、この武技に適性が無かったらしく扱えなかった。

 『円の剣陣』には、腐るほど武技に対しての対抗手段があるんだよな。……これはシャムロック氏が武技を毛嫌いしていたと言ってよい。


 実はオレ、武技を見るのはこれで最初だったりする。

 おっさんは使えそうだが今までは運び屋に徹してくれていたし、人間の敵と戦った時も、武技なんか使う前に倒していた。

 今まで名前を叫んでくれなかっただけで、気付いていない可能性すらある。


 そもそも、全ての基本技――この場合、突き、薙ぎ払いなんかだな――は、必殺で(もしくは必殺に向けるための複線的技)あるべきなんだよな。


 基本技を必殺まで高める努力をせずに、たまたま適性がある武技に頼る感じか?

 はっきり言わせてもらえば、リアルで悪役怪人の様に、わざわざ喰らってやる義理は無い。


 ちなみに『烈風斬り』とかいう武技は、カマイタチみたいのが飛び出る『波○拳』的な技だった。


 遠距離技は便利だが、投げナイフか石で十分。

 範囲攻撃が欲しければ魔法を使うしな。


 『烈風斬り』の実際の威力は分からなかった。

 黒皮の鎧のおかげで、かすり傷一つ負わずに済んだからだ。


 こいつはボコボコにして、気が済むまで説教して帰したよ。




 そんな感じでオレに挑戦してくる武芸者?冒険者?(区別はつかない)が、約10人ほどいた。


 その内居なくなるはず、ソウルイートで魔力だけ奪えば美味しい相手だ。

 こんな奴らでも、ネムやクーを狙わずにオレに挑戦して来るだけマシだと思って、しばらくは放っておこう。


 ……そのつもりだった。


「……オヤジの仇!覚悟!」


 そう、『百人斬り』をした奴らの子供が、オレに襲いかかってきたのだ。


 その数、3日間でおよそ20名。

 中には、明らかに怪しいやつまでいる。


 オレが『理想郷(ユートピア)』の報酬を支援に当てたのを良い事に、タカリに来るやつまでいた。


 ネムに念話で確認をとり、その内4人がオレの殺したやつの息子だと判明した。


 確かに親を殺された恨みを晴らしたいという気持ちは分からんでもないが、オレ100対1で戦ったんだぞ?


 通常はリンチだろ!


 確かに、手を抜いて殺さないようにする事も出来ない訳じゃない。

 ただそれは凄く加減が難しく、油断すると倒したと思った相手に後ろから「グサッ!」なんて無いとは言い切れない。


 それに、生き残った相手がケガを治し、知り合いに復讐を考えるかも知れない。


 そんなリスク犯せるか?

 人それぞれだろうが、オレは「NO」だな。


 オレはチキンで心配性で超臆病者だ。

 自分とその周りの命が一番大事だからな。


 あの場でブチ切れたのは自分の弱さもあると反省しているが、殺した事に関して言えば、間違った判断をしたとは思っていない。


 だが判断は間違っていないが、人殺しを肯定するつもりは無い。

 当然、家族を殺してしまって申し訳ないという気持ちはあるんだ。


 その辺は割り切れないよな?


 だがこの状況、こうなるとムカつきが先にきてしまう。

 ボコボコにしてやろうと思ったが、相手は子供だ。


 オレの中の未来ナビゲーションが(あるか分からないがその時感じたんだ)、カーナビさながら「それは人の道に外れています。ルートを引き返して下さい」と言い出したんで慌てて考え直した。


 そして、こいつらの持っている武器がいかにもみすぼらしい事に気づき、オレは嫌味っぽく4人に金貨を1枚ずつ渡してこう言った。


「これでオレを殺す武器を買うか、家族にメシを食わせてやるか選べ」


 こう言っておけば、一度は冷静になるだろう。

 そして、上から目線でのストレス発散だな。


 少年たちは悩んだあげく金貨を受け取った。


 金で解決する汚いやり方だが、オレは偽善者なのでちょうどいい。

 これで武器を買う事を選んだヤツがいたら、望み通りボコボコにしてやればいいだろう。




 そんな感じで煮え切らない日々を過ごしていた時、オレはある事を挑戦者から聞いたのだ。

 なんでもギルド側が、シャムロック氏や『理想郷(ユートピア)』を、オレが倒した事を公表しているらしい。


 オレを悩ます一連の騒ぎの元凶は、冒険者ギルドか!

 そんな訳で、オレは怒り心頭で冒険者ギルドに向かったのだった。




 フツフツと湧き上がる怒りを抑え、冷静に事情を説明する。


 いや、眉間にしわが寄っているのが自分でもわかる。


 冷静になってられっか、バーローめっ!


「――はい。確かに公表しております。……そもそも、WANTEDモンスターを倒したら公表され、その際倒した方のお名前も一緒に公表されます。これは冒険者にとっては名誉な事になりますので、当ギルドではそのようにしております。……これは登録の際、ご説明したはずですが?それにハルトさんからは、『公表するな』とも言われておりませんよ?」


 ……ううっ、ぐうの音もでねぇぜ!

 これじゃ、本当にただのクレーマーだ。


「……いや、でも何とかなりませんか?こちらも毎日のように挑戦されて心が安まらないんですよ」


 こういう時は下出に出るにかぎる。

 自業自得かも知れないが、ノーラちゃんなら解決してくれるはずだ!


 助けて!

 オイラ困ってるんだよ!


「たしかに困った事態ですよね。……ハルトさんには、我々としても大変な恩がございますし……私が上へ、『ハルトさんに対する決闘の禁止』を進言してみましょう。その際一方的に禁止してもわだかまりが残りますし……どうでしょう?『Bランク以上のWANTEDモンスターを一人で倒せる者のみ挑戦可能』という落とし所を設けてみてはいかがでしょうか?」


 ……なるほな。

 確かに落とし所は大事だよな。


 変にAランクやSランクにせずに、Bランクってのが巧いな。

 BランクのWANTEDモンスターは他の上位ランクに比べ、街から割と近場に生息している事が多い。


 その分強さや恐ろしさも知れ渡っているだろう。


 さらに言えば、Bランク以上のWANTEDモンスターを単独で倒したのはランドルのおっさんかオレしか未だいない。


 命は一つだ。

 通常、実力のある者は、そんなバカげたリスクは冒さないもんな。


 それにしてもノーラちゃん、出来る職員に成長したもんだね!


「ありがとうございます!……それなら、うまく行きそうだ」

「いえいえ、実は当ギルドでも『死を呼ぶ黒い行進(ブラック・パレード)』へ入りたい、もしくはハルトさんを引き込みたいという方の問い合わせが殺到しており、現在対応に追われて、ほとほと困り果てていた次第でして。……『死を呼ぶ黒い行進(ブラック・パレード)』への加入条件も、同じにしてしまってよろしいですよね?」


 ああ、そう言えばそんな事言ってくるヤツもいるな。

 大抵おっさんにビビッて逃げる根性なしか、金や地位目当てが見え見えのバカ貴族ばかりだがな。


 開幕ブッパくんも、泣きながら仲間になりたそうにこちらを見ていたが、追い返した。


 ウチには、ネムとクーという後衛がいるんだ。

 残念ながらこれ以上『後衛』は要らないよ。


 それにオレたちは、これから旅に出るんだ。

 旅の目的地はクーの村、そこはこの国と、獣人の国、そして魔族の支配する地域の国境付近……らしい。


 中途半端なヤツは連れていけないし、ついて来たくもないはずだ。


「いいですね!いやぁ、助かりますよ!いやぁ、優秀な職員に巡り合えて、オレは幸せ者だなぁ」

「ふふふっ、驚かれるのはまだ早いですよ」


 ん?……驚く?

 なんだか意味深だな。


「驚くって、なんですか?」

「それは今後のお楽しみです。……最近酒場には行かれていないんですね」


 そういえば、最近外食していなかったな。

 何で分かったんだ?


 そんな事を考えながら素直に答える。


「……ええ、まぁ」

「――今度行かれてみると良いですよ?」


 ニコリと笑うノーラちゃん。

 その後、行くと何があるのか聞いてみたんだが教えては貰えなかった。


 なんだかその様子に、果てしなく嫌な予感を感じたんだ。




 それから何日か経った。

 狩りの帰り、少し遅くなってしまったので、オレ、ネム、クー、おっさんは、パエリアでもテイクアウトして、家で食べようかと考えていた日の事だ。


 あっ、なぜかリリィもいた。

 最近この子、神出鬼没なんだよな。


「せっかくお越しいただいたんです。是非今日は、中で出来立てをお召し上がり下さい」


 品の良い服を着た定員に、そんな事を言われた。


 ネムもいるし、クーは奴隷だ。

 大丈夫だろうか?


 その事を確認しても「是非、店内でお食事下さい」と言われてしまう。


 これもオレたちが有名になったからだろうか?

 まあ、特別扱いされているヤツを見るのは腹が立つが、自分がされる分には別に悪い気はしないよな。


 オレたちはお礼を言って、店内で食べさせてもらう事にした。


 初めて店の中に入るが、こ洒落た感じの店だ。

 店内の照明はロウソクで少し薄暗く、赤いベルヴェットのような生地の装飾が、妖艶な雰囲気を醸し出している。

 真ん中に舞台が用意されており、そこでは情熱的な音楽が演奏されていた。


 ここはコース料理の店ではなく、高級な酒場だと聞いていたんだが……想像していたよりももっとランクの高そうな大人のお店だな。


 オレたちはその店の一番奥。

 VIP席みたいな所に通されてしまった。


 なんだろう、落ち着かないぞ?

 オシャレすぎて、ここに居てはいけない感じがするんだ。


 まるで無菌室に連れて行かれたバイキンのように居心地が悪い。


「……ここなら、ステージが良く見えるわね?」


 リリィは大物だな。

 案内してくれた定員に優雅にお礼をしていた。


 その礼は、どことなくオリヴィアがするような貴族っぽい礼に見えた。

 リリィは色々物知りだな。


 クーは、ソワソワしながら辺りを伺っている。


「ここは、暗いし他のヤツらからは見えにくいから大丈夫だぞ?」

「……はい。あのっ……わたしが、こんなお店に入って……だいじょうぶなのでしょうか?」

「気にすることないよ。定員さんがいいって言ったんだからいいんだよ。入ったことないお店って、わくわくするよねっ?」


 ネムは新しく入る場所に興味深々と言った感じだな。


「……座って、さっさと注文して、食べて……帰ろう!」


 オレも緊張していたが、自分より緊張しているヤツを見ると若干リラックスできる。


 全員座った後、おっさんが最後に椅子に腰かけた。

 このおっさん先ほどから黙っているが、まさか緊張している訳でもないよな?


「ボクはね、……なんたい?生物のやつ!」

「じゃあ、軟体生物と、キノコと……牛肉のやつを下さい」


 みんな緊張していたので、オレは取りあえず、みんなで食べられそうな物を注文してみた。


「私は……これと、――これをお願いするわ?」


 リリィは、なにやらメニューを見ながら適当に注文している。

 名前からは何が出てくるのか想像できなかった。


 その後、おっさんが酒を注文したので、オレも一杯だけ頂くことにした。


 しばらく待っていると、良い匂いとともに、ぞくぞくと何やら高級そうな食べ物が運ばれてくる。


 それにしても、数が多すぎるな。

 注文していない物もあるんじゃないだろうか?


「こちらは当店からのサービスでございます」


 オレが心配しているのが分かったのか、優雅に教えて下さる定員さん。

 ……後が怖いよ。


 クーはフードを被っているので分からないが、目をつぶっているのだろう。

 全身に力を込めてプルプル震えていた。


「中々いいお店を知っているわね?……取りあえず、乾杯よ?」


 なぜかリリィが仕切り出す。


 どうでもいいが、この子はなぜオレンジジュースをワイングラスに入れてもらうんだ?

 そういうのは逆に子供っぽいぞ?


 オレたちは、取りあえず乾杯して食事する事にした。




 食事中、よく分からない肉の串焼きのデカいやつを定員がみんなにススメて来た。


 ほっといてちょうだい!とか思ったが、お店側がVIP待遇をしてくれているので無下にはし辛い。

 観念してお礼を言っている時、急に演奏している曲の雰囲気が変わった。


 吟遊詩人が、曲に合わせて物語を語り出す。

 今まであまり聞いた事がなかったが、こういうのもたまにはいいかも知れない。


 おしゃれなお店の接待への緊張を打ち消すため、オレは吟遊詩人の奏でる演奏に集中する。



 内容はこんな感じだ。


 亡国の王子(自分の事は『黒猫剣士』と名乗る)が旅の途中、ある僧侶に命を救われる。

 その時、僧侶は死に、王子は僧侶の最後の願いを聞いた。

 その願いとは、悪の組織から街を救う事。

 善行に興味が無い王子だったが、命を救われた礼にとその願いを叶える事にした。

 尽きる事ない戦いを続ける王子。

 血にまみれ、疲れ果てたある日、刺客として現れた闇エルフを助ける事になる。

 その闇エルフは、奴隷として無理やり従わされていただけの『心優しき者』であった。

 だが、闇エルフは奴隷の身、すぐに悪の組織から連れ戻されてしまう。

 その時、闇エルフは自分の死を覚悟し『ある手紙』を王子に手渡す。

 それは悪の組織の秘密基地の記された手紙だった。

 手紙を見て王子は驚愕する。

 なんと、悪の秘密基地は街の中にあったのだ。

 急いで向かう途中に現れる百人の敵を、見事な剣舞で斬り伏せて、ついに真の敵と対面する。

 それは街の有力な男だった。

 男は、英雄の霊を『悪の魔道具』で無理やり操り、王子と戦う。

 英雄の霊との死闘は、熾烈なものであった。

 そして、五日間にも渡る死闘の末、英雄の霊から全ての剣術を託された王子は、見事英雄の霊を倒し、街の有力者の悪事を暴く事に成功する。

 その後、闇エルフと王子の間に何があったかは誰も知らない。


 ――街に残るは『黒猫剣士の物語』



 とまぁ、こんな感じだな。

 どこかで聞いたような話だが、中々聞き入ってしまった。

 最後はハッピーエンドがいいが、この終わり方の方が想像が膨らむのかもしれない。


 クーとリリィを見ると、顔を真っ赤にしてこの話に聞き入っていた。

 クーはフードを被っているが、それでも分かるくらいに赤い。


 確かに冒険要素もあり、ラブロマンスありで、女の子にはたまらない話し……なのかもな?


「……あの、これは……ほんとう……なのでしょうか?」


 おそるおそるといった具合に、クーがオレに聞いてくる。


 闇エルフの話しだから、クーも気になるんだろうか?

 オレも初めて聞いた話だし、残念ながら実話かどうかなんて知らないんだよな。


「この時、王子の装備を作った可憐な少女もいるのよ?」


 リリィが何故か、照れながらそんな事を言う。


 実際にあった話しなのか?


 そんな事を考えていると、先ほどの吟遊詩人が定員さんと一緒にやって来た。

 きっとオレたちが座っている場所が、VIP席だから挨拶に来たのかもしれない。


「……今の演奏、心を込めて致しました。如何だったでしょうか?」


 キザッぽい兄ちゃんだが、礼儀正しいな。


「うん。すごく良かったよ。……色々考えさせられた(適当)よ。素晴らしい才能だね。――好きな酒をやってくれ。オレが持つよ」


 オレは酒の力もあってか、いつもより大げさに吟遊詩人をほめた。

 吟遊詩人は瞳に涙をためて喜んで(すこしキモかったぞ)握手を求めた後、丁寧にその喜びを伝えると去ってしまった。


 その様子を、うっとりと見つめるリリィ。


「……なんだ?」


 まさかこの子、変な趣味があるんじゃないだろうな?


「……いえ?いい男に見つめられるとはずかしいわ」


 こいつやっぱり変な趣味があるぞ!


 すこしお尻がモゾモゾして気持ちが悪い。


 ここは強引に話題を変える事にするか!


「――所で、今の話しは実話なのか?」

「……えっ?」

「へ?」

「え?」


 なんだ?みんな変な感じだぞ?

 この話知らない方が珍しいのか?


「……お前、本当に気付いておらんのか?」


 おっさん、気付くってなんだよ?


「ネムはこの話知ってるのか?」

「うんっ、しってるよ!少し『ふぃくしょん』入ってるけどねっ!」


 何だ?

 けっこう有名な話なんだな。


「おっさん。教えてくれよ。……この話、実話なのか?」


 おっさんが眉間にしわを寄せ考えた後、腕を組んで不機嫌そうに言った。


「実話かどうかは、自分に聞け。この話はお前が元になったものだ」


 ――えっ?オレ、そんな事したっけ?


 似たような出来事を考えてみる。……確か、シャロック氏を卑怯な手で倒して……その後「玉無し野郎」の発言にキレて「オチ○ポには勝てなかったよ」事件を起こしたんだよな。


 ……順番は違うが、確かに符号する部分は多い話しではある。

 エドワードさんを死なせてしまったしな。


 ……だが。


 亡国の王子ってなんだよ?


 何の嫌味だよ!?

 亡国の王子とオレが、かい離し過ぎてまったく気付かなかったよ!?



「これは今回の『理想郷(ユートピア)事件』大規模撲滅キャンペーンの一環。ギルドからの情報操作なのだ。……吟遊詩人達を使って『ギルドは綺麗になった』と宣伝しているのだろう。お前はその広告塔だ」


 をい!

 要は、最近妙にオレを付け狙うやからが増えたのは、そのせいだったのか!


 しかも金ももらわず、知らないうちにオレは、そんなもんに祭り上げられていたのかよ!?


「お前が何故知らなかった知らぬが、『理想郷(ユートピア)の件の賞金は、全て被害者達に使ってくれ』と言ったそうじゃないか。これも言うなれば『無償協力』という事だろう?……本当に知らなかったのだろうな?俺は初め、お前が嫌味っぽく自慢しているのかと思ったぞ?」


 おっさんが不機嫌そうな訳が分かった。


 逆の立場だと、オレって相当嫌なヤツだ!

 オレならぶん殴ってるね。


「いや、本当に知らなかったんだよ。担当職員の娘は『今度酒場に行ってみると良い』とか意味深な事言っただけで、教えてくれなかったぞ!」

「そうか。……お前がそこまで言うなら信じよう。……先ほどの話し、『黒猫剣士の物語』は、お前の担当者ノーラが発案したと聞いているぞ。お前を驚かせたかったのではないか?」


 やはりアイツか。

 おのれノーラちゃんめ!

 新人だと思っていたら、いつの間にかエライ成長しやがった。


 化け物女だよアイツ!


 「上に進言」とか言っていたが、良く考えると上に発言出来るほど、着々と力を付けていやがるって事だな。


 思い出してみると、出会ったばかりの頃、オレが「滅んだ国から来た」的な事言ったら、凄い嬉しそうだったもんな。


 ……その頃から、変な妄想を作り上げていたに違いない。

 



 その後、みんなで食事を楽しんだ後、店を出た。

 オレは複雑な気持ちで楽しめなかったがね。


 これじゃ、オレが人殺しを自慢しているみたいだ。


 店からは、なぜか大量のお土産をもらった。


 リリィは「次は私たちの物語を作りましょ?……それは二人だけの秘密の物語よ」とよく分からない事を言っていた。……オレンジジュースにお酒が混入していた可能性があるな。


 クーは家に帰った後「……もう頭の中が、ミックスジュースです」と言って、知恵熱を出して寝込んでしまった。


 まあ、自分のせいで大勢死んだと告げられたようなもんだ。そうなるわな。


 今回の看病は、氷枕をクーが自分で作れるから楽だったよ。


 その後ギルドへ行って、ノーラちゃんに文句を言ってやったのだが「そうくると思いました。……ハルトさんは奥ゆかしい英雄ですから」と散々オレを褒めちぎって煙に巻かれてしまった。


 ……オレはもう、この娘に勝つことは出来ないだろうと悟った瞬間だった。




 ギルドからの帰り道、耳を澄ませてみると色んな場所で『黒猫剣士の物語』は語られていた。


 その話は現実と違う。

 まるでおとぎばなしの様だ。


 この『黒猫剣士の物語』は、クーを守る方にも作用するだろう。

 なんたって、『心優しき闇エルフ』なんだからな。


 悔しいが、オレがそこに気が付き、否定しないだろうと見越した上で作られた話だ。

 

 人殺しで英雄か。……どうも好きになれないな。


「……武器を買って来た。俺と勝負しろ!」


 少し人気のない場所で、少年に勝負を挑まれた。

 4人の少年の内の1人だ。


 4人の中で、一番気の強そうなヤツ。

 その顔から父親の顔は思い出せなかった。


 少年の手には、突き差すのに向いた形状の短剣が握られている。


 ――突き殺すのは、確かな『殺意』ってね。


「……なんで奇襲して来ないんだ?バカかお前?」

「うるさい。俺は正々堂々と戦うんだ!……お前はみんなに英雄だなんて言われているが、只の人殺しだ!」


 世間より、この少年の方がよっぽどオレを分かっているみたいだな。


 この少年、オヤジが100人がかりでオレに戦いを挑んだ事を気にしてるのかも知れない。


 ……それで『正々堂々』か?


「どうした!……早く剣を抜け!!」

「嫌だね、オレは正々堂々戦うつもりは無い。――生憎オレは、剣士じゃないんだ」



 オレは隙をついて少年の剣を奪った後、マントで包んで担ぎあげた。


 このマント、大人の力でも破る事は不可能だからな。


 さてと、……そう言えば、マライじいさんが新しい運び屋を探してるんだったな。

 年も年だし、最近忙しくなってきて2人では大変だとぼやいていたっけ。


 レイくんも血の気が多いし、似た者同士いい後輩になるだろう。


 武器を買ったって事は、この少年にはもう……。


 オレは、肩の上が重たかったので、今日は少しだけ寄り道して帰る事にした。



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