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第三章 幕間5.レベル上げ

「チーム名は、やっぱり『あいすくりーむず』が、いいんじゃないかなっ?」

「……はいっ、とってもかわいいと思います!」


 オレが出した『チーム特攻野郎ども』は速攻で却下か……。

 まあ、アイスクリームはクーの得意料理だし、クールな名前とも言えなくはないからそれで行くか?


 どうせオレに決定権は無いからな、グスン。


「……あの、ご主人さま……いかがでしょうか?」


 上目使いで心配そうにオレに聞いてくるクー。


 新装備と相まってとても可愛らしい。……と言いたい所だが、新装備の上からフード付きポンチョを着ていたりする。

  

 これは本人曰く「新装備を汚さないため」らしい。

 

 おバカ……いや、貧乏しょ……いや、物を大切にするのは良い事だよね?

  

「ああ、いいんじゃないか?……こうなったら、オレたちに立ちふさがる敵を全て、アイスクリームにしてやろうぜ!」

「はいっ!」

「おーっ!」


 オレのヤケクソ発言に元気に答える二人。


 この笑顔で言われたら、もう拒否なんか出来ないよ。


 それにしても、自分で言っておいてなんだが「敵をアイスクリーム」ってかなりグロいな。

 二人はそれでいいのか?




 現在、オレたち三人は、ファージの原生林に点在する湖の一つに居た。

 ランドルのおっさんは、野営地でお留守番だな。


 ここは、イーブスの街からほど近く、比較的初心者にも安心・安全な狩場だ。

 オレたちは、クーのレベル上げと旅の予行練習を兼ねて二泊ほどキャンプを張り、この辺りを拠点に狩りを行う予定だ。


 このキャンプが終われば、クーの冒険者登録をする予定だ。


 そして、三人になるんだからチーム名を決めようという話となった訳だな。

 この狩場、初心者向けの狩場とは言え、油断は即死を招くはずなんだが……このお気楽モードである。


 前以てこの辺一帯で奇襲を仕掛けてくる難敵、『暗殺ムササビ』をネムが追い払ってくれたからなんだけどね。


 この暗殺ムササビ、暗い木の影から影を飛び移り獲物を狩る闇のハンターで、こいつだけで初心者の死亡率のトップを誇るいう恐ろしい相手だ。

 その肉は精力増強剤になるとかで高値で売れるらしいので、すでに10匹ほどはおっさんの元にいる。


 間違っても食べたくない魔物だな。


 今回の獲物は暗殺ムササビ……ではなく、湖周辺に現れる魚、その名も『歩く魚ウォーキングフィッシュ』である。


 そのまんまのネーミングだな。


 どうもこいつらは夏が繁殖期で、恋の相手を見つけるために地上へ上がってくるのだが、その際凶暴になり他の生物に対して敵愾心むき出しになる、困った魚らしいのだ。


 以前食べた突撃鱒がこの時期に湖深く潜るのも、こいつが浅瀬や地上に現れる為と言われていたりする。


 だが、所詮はただの魚。

 ネムの見立てではレベルは3~6で、地上では動きが遅く、近づかない限りは噛みつかれないというおいしい相手だ。


 クーは魚好きだし、人型の魔物より罪悪感も湧かないはずだ。

 初陣にはぴったりだろ?


 ちなみにクーはレベル2で、能力はこんな感じだな。



●クーアスティル・エルレミア(総ての中で一番美しい赤)レベル2 闇エルフ 14歳

〈基礎能力〉

体力3・筋力2・器用4・敏捷2・精神力4・魔力11

〈スキル〉

『氷の呪法』



 オレの初期値よりずいぶんお高い感じだな。

 ……まあオレ、レベル0だし……別にショックじゃ……無いんだからね!


 ネムが言うには、奴隷契約魔法で魔力は1に抑えられていたそうで、だんだんと回復して11まで上がったらしい。

 闇エルフは、元々の基礎能力の初期値が人間より、少し高いのかもしれないな。


 スキルの『氷の呪法』とは、簡単に言うと『氷の呪いを扱う魔法』の事だな。

 何度か実験を行ったが、うまく制御できればMPを消費せず扱う事が出来るようになるらしい。

 使いこなせばかなり強力な力になりそうだ。


 無尽蔵に垂れ流すはずの冷気を貯蓄し一点に集中する力で、これもまた一つのチート能力だよな。

 

 だがこの『氷の呪法』にも悲しい欠点があったりする。

 それは主にオレに降りかかってきたのだが……。

 どうもオレが『手つなぎの精霊ニコラ』に「魔力を貸してやる」と言ったのがまずかったのか、オレの魔力が1まで一気に下がってしまったのだ。


 ネムが言うには、オレの魔力を『氷の呪い』のコントロールに使ってしまったらしい。


 目ざといやつらだぜ!


 その結果、ほかの基礎能力も連鎖的に下がり、平均100以上あったオレの基礎能力は魔力以外50にまで下がってしまったのだ。


 ……ネムに言われるまで気付かなかったよ?


 オレはまた草を使って魔力を10近くまで上げた。


 背に腹は代えられない。

 また地道に上げて行くしかないよね。


 まあ、そのおかげなのか何なのか分からないが、オレとネムも『手つなぎの精霊ニコラ』の添付魔法が使えるようになった。

 オレたちが今使えるのは『武器属性添付魔法』『能力譲渡』だな。


 『手つなぎの精霊ニコラ』よ。

 これで「手打にしろ」と言う事か?


 どんな力かの説明だが、まず、『武器属性添付魔法』だな。

 これは武器に属性を持たせる、いわゆる魔法剣だ。

 『手つなぎの精霊ニコラ』は属性と武器の仲立ちをしてくれる性質もあるらしい。


 いろいろ商売を広げたがるやつだ。


 そして、『能力譲渡』だ。

 これはオレたちの基礎能力を相手に譲渡する魔法らしい。

 クーが体調を崩していた時に欲しかった能力なんだよな。


 本当に今更である。


 これを使ってクーを強化してもいいが、今まで病弱だったのに急に力がみなぎったらコントロールが出来ないだろうという事で「クーにある程度レベルが上がり、振り回されないだけのコントロールが出来るようになってから使う」という事になった。

 

 ちなみに魔法剣は使うつもりは無い。

 火や土属性は刃に悪いらしいが強力で、風や水属性は刃をコーティングして切れ味が上がるらしい。

 確かにカッコイイんだが、そんなの使うくらいならオレは『何でも切れる剣』を使うな。


 ちょっと、めんどくさそうだしさ!


 ネムは、添付魔法の活用性や欠点を色々考えると言っていた。


 ……確かに、何か裏がありそうなんだよな。




「――ハルト、聞いてるの?」

「あん?……夕ご飯なら、ランドルのおっさんがバーベキューしてくれるって言ってたぞ?ネムたんの食いしん坊さんめっ」

「もうっ、ボクの話聞いてなかったでしょ?気持ちがゆるんでるよ!……『ゆだんたいてき』なんだよ?」


 うへぇ!どうも、自分の世界に飛んで行ってしまっていたようだ。

 なにも聞いていなかったよ。


 先ほどまで、君たちだって談笑してたくせにさ!

 くやしいぜっ!


「……ごめん。なんの話だい?」

「この先に、歩く魚ウォーキングフィッシュが5匹いるんだよ。……『せんとうじゅんび』だっ」

 

 なるほど、さっそくお出ましという訳か。

 

 クーを見ると、緊張しているのかすこし表情が硬かった。

 だが、人間に会う時よりも恐れてないようだな。


 一番初めにおっさんを見せたのが良かったのかもしれない。

 あれを見た後は、大抵の物は小物に見えるという不思議な効果があるからな。


 オレも冒険者になったばかりの頃はお世話になったもんだぞ。


 オレは若干失礼な事を考えつつ、事前に打ち合わせしたように弓を構えるのだった。




 湖畔から少し離れた藪の中、そこに歩く魚ウォーキングフィッシュは居た。

 その姿は、鯉に蜘蛛の足が生えたような姿をしており、体調は3mほどと、かなりの大きさだ。

 

 生臭いにおいがこちらまで立ち込めてきて気持ち悪い。

 思った以上にホラーである。


 さっさと仕留めてしまおう。


 作戦は簡単だ。

 クーが冷気を浴びせた後、オレたちが攻撃して倒す。


 ……それだけで、クーに経験値が入るらしい。


 これは実験するまでも無く、事前にネムが調べて分かった事だ。


 攻撃した対象が死ぬと、攻撃した者に経験値が流れ込む仕組みらしい。

 厳密には生物毎に時間制限(たとえば、大げさな話、10年前に攻撃した対象が病気で死んでも、経験値は入ってこない。など、だな)のようなものが有るようなのだが、その辺りはめんどくさいから割愛だな。


 要は、攻撃を当てて速攻で倒してしまえば、だれが倒しても分割されて経験値が入ってくるという事だ。


 ちなみに、トレーニングしたり勉強をしたりしても経験値は手に入り、レベルは上がるそうだが、一番手っ取り早いのが魔物を倒す事らしい。


 オレたちは少し離れた所に身を隠すと、クーに攻撃の合図を送る。

 クーは大きく深呼吸をした後、剣を歩く魚ウォーキングフィッシュに向け、自身の呪いを解き放つ。


「……巻起これ、吹雪(スノー・ストーム)


 吹雪がクーの剣から巻き起こり、歩く魚ウォーキングフィッシュを包みこむ!


 吹雪にはたいしたダメージは無いが、全体に当ててしまえばこっちのもんである。


 クーの『氷の呪法』は、イメージするのが発動の鍵になる。

 本来思うだけでも発動出来るようだが、今はイメージをしやすいようにという理由と、連携が取りやすいようにという理由から言葉を発してもらっている。


 オレとネムは、歩く魚ウォーキングフィッシュにダメージが入ったのを確認して、一匹ずつ始末して行った。


「――どうだ?緊張したか?」

「……はい。……でも、だいじょうぶです。……はやくご主人さまのお役にたてるよう、がんばります!」


 うん、まだ大丈夫そうだな。


 相手は魚だ。

 まだ魚釣りと同じ感覚で行けるもんな。




 そんな感じで初日は、クーのレベルを4まで上げて終了した。

 かなりの量を狩る事ができたので、狩った魚を全てクーに凍らせてもらう事にした。


 クーさん大活躍である。

 本人はあまり気づいてなさそうだけどさ。


 キャンプでは、おっさんがネムにメロメロなので、すっかりクーの警戒心は緩んだらしい。

 というかこのおっさん、こういう時、女の子にはやさしいのだ。


 クーは終始楽しそうで、何故だか分からないが、オレに食べられる蟻を持って来てくれたりする。

 その表情はなんだか得意げなんだ。


 彼女曰く「酸っぱくて美味しい蟻」……らしい。


 オレは丁寧にお願いしてポイしてきてもらった。


 クーは今までこんな物を食べてきたのか?

 もの凄く対応に困るから、出来れば止めていただきたい。


 ちなみに、ネムもランドルのおっさんも普通に食べていたよ。




 次の日。

 今日は昼まで狩りを行った後、街に戻る予定だ。


 何事も無く終わるかと思ったんだが、歩く魚ウォーキングフィッシュを10匹ほど倒した辺りで事件が起きた。


「山賊ゴブリンがやってくるよ。……16匹。少しおおいけど、どうする?」


 この時期の歩く魚ウォーキングフィッシュを狙うのはオレたちだけではないらしい。

 ゴブリンにとっても貴重なタンパク源と言う事か。


 しかし、タイミングが悪いな。


 ここは人里から半日程度しか離れていない。

 人間優先で考えるなら十分討伐対象だ。

 クーにはもう少し狩りに慣れてから、人型の敵と戦わせたかった。


 実は今回の狩場の候補は他にも沢山あったのだが、一番人型の敵に遭わない事を考慮した結果、この湖周辺になったのだ。


 過保護だと思われるかもしれないが、想像してほしい。

 自分の膝上ぐらいの臭い人型子鬼が、瞳孔の開き切ったイカレた瞳で涎を垂らしながら襲ってくるのだ。


 やつらは錆びた剣や、石の武器を携え、ボロボロの衣類を纏っている。

 恐怖心は無いらしく、最後の一匹になるまで執念深くオレたちに襲いかかるんだ。


 ゲームでは序盤の敵だし、この世界でもあまり強くは無いが、リアルでは恐怖心を掻き立てられる恐ろしい相手だ。


 今のオレたちには範囲魔法が使えるネムがいるし、数は問題じゃない。


 まだクーには戦わせたくない。

 ……ここはクーの為に撤退するか。


 オレがそう決断した時だ。


「――たたかい……ましょう」


 クーが決意を込めた眼差しでオレに告げる。


「わたしだって……レベルがあがりました。足手まといはいやです。……戦いましょう!」

「……どうする、ハルト?」

 

 この場合、どうする事が正解なんだろう。


 冒険者の楽しい所だけ見せるのが正解か?

 それとも、すこし早いが厳しい部分も見せるべきなんだろうか?


 ヒト型の魔物や、大型の魔物を狩ると罪悪感に縛られる事がある。

 自分たちの都合だけで、命を狩っているんだ。

 その感情が湧かない方が異常だとオレは考える。


 ……楽しい部分だけ見たクーが、得意げに魔物を殺しながら「わたしは冒険者」なんて言う姿は見たくないな。


「……よし。クーがこう言ってるんだ、戦おうか!……だがクー、多分だが、もの凄くこわいと思うぞ?覚悟しとけよ」

「……はいっ!」


 いい返事だ。……だが、クーの冒険者生活が、これで最後にならなきゃいいがな。

 現実を見せるのは、早すぎるかも知れない。




 作戦は昨日とほぼ同じだが、今回クーには強力な範囲攻撃を仕掛けてもらう事となった。


 これは本人が言い出した事だ。

 打倒『湖の主』に向け、本人も強くなりたいのだろう。


 クーにも引け無い所があるようだな。


 オレはやりすぎかと思ったが、自由にやらせる事にした。


「……乱れつらぬけ、氷弾の嵐(アイス・ブリザード)!」


 クーのイメージが、言葉に乗せて具現化する。

 吹雪が巻き起こり、氷が針となってゴブリンに降り注ぐ!


 ……10匹は殺ったか?


 生きている内4匹は重傷だが、未だ2匹は動けるようだ。


「ギャギャガガガァ!殺ス!殺ス!殺ス!殺スゥ!」

「ググアアー、ギャギャガァ!」


 涎と血を吐きながら、クーを睨み付ける。


 ……クーはその姿を見て、腰を抜かして震えていた。


 マジでクレイジーだぜ、こいつら!


「一匹は任せたぞネム!」


 オレはクーの前へ躍り出た後、そのままゴブリンの首をはねる。


「わかったよっ!……石槍ストーン・ランス


 ネムの放った石の槍がゴブリンの心臓を安々と貫く。


 ――これで後は、生きてるゴブリンのトドメを差して終了だ。


 辺りは血の海。

 これはクーには辛いかもしれない。


 オレは、クーを見た。


「大丈夫か?」

「……は、は……はい」


 やはり刺激が強すぎたか?

 真っ青な顔でうなずく。


 大丈夫じゃないよな?

 我ながらバカな質問をしたもんだ。


「……くるしんでいます。……どうしたら……せめて、トドメを」


 クーは、震えながら何度も深呼吸して、剣を抜く。


 ……腰が抜けて、しゃがみながらだけどな。


 クーの目は、それでもゴブリンに向けられていた。


 ……思っていた以上に強い子だ。


「冒険者ってのはこういう商売だ。……敵は魚ばかりじゃない。それだけは分かってくれ。トドメはオレが差すよ」

「……いえ、わたしが……やります。……はやく…楽にさせましょう」


 泣きながらゴブリンにトドメを刺すクー。


 できればやらせたくなかった。

 少し経ってからにしたかった。


 だが、クーの気持ちは分かったよ。


「わたしは……つよくなれましたか?」


 血を浴びて、真っ青な顔でオレを見る。


「……何かを殺す事は、強いって事じゃないよ。……そこだけは、はき違えないでくれ」

「……はい」


 相手を殺せば経験値が手に入る。

 まるで争いを助長させるようなシステムだ。


 殺されない為に強くなる。……否定はしないがな。


「嫌なら、もうやめてもいい。無理してやる必要はないからな?」

「いえ……わたしはご主人さまといっしょにいたい。守られるだけじゃだめなんです。……つよくなりたいです」

「……そうか、強くなろうな」

「……はいっ」


 今日は厳しくし過ぎたかな。


 オレたちのやり取りを、ネムは心配そうに見つめていた。




 帰りの馬車の中でクーは眠ってしまった。

 どうもレベルが上がった後は凄く疲れるらしい。


 オレたちが初期の頃ソウルイートで身体がだるくなったが、それと同じ事がレベルアップでも起こるという事だな。


 オレは、横で眠っているクーを静かに抱き寄せて、頭を膝の上に乗せた。


 今日は厳しかったから、いっぱい甘やかしてやらないとな。


 おっさんが、いつもより少しばかり丁寧に轍をよけて、馬車を走らせているのが分かる。


 気が利くな、ありがとう。


 オレは目でおっさんに感謝の合図を送った。




 冒険者ギルドに着いた。

 仕留めた獲物を売り払った後、分け前をクーに渡した。


 ほんのおこずかい程度だけどね。


 クーは何度も受け取りを拒否したが「それじゃあ、どうやってオレに装備代を払うつもりだい?」と聞くと素直に受け取ってくれた。

 今後オレに装備代を渡そうとして来たら「今まで稼いだお金から差し引いていたよ」と言って突き返すつもりだ。


「この子の登録をお願いします」


 オレは、ノーラちゃんにクーを紹介した。

 あまり内容は聞いていなかったが、奴隷でもギルドカードは発行されるらしい。


 身分証みたいな物かな?


 ゴブリンの一件があってもクーの冒険者への憧れは消えなかったらしく、熱心にうなずいて聞いていた。


「まさか、闇エルフがこんなに可愛いなんて。……なるほど、なるほど!さすがハルトさんですねぇ!」


 ノーラちゃんの半分お世辞にも聞こえる発言だが、オレは素直に喜んだ。


 敵意は無いって事だもんな。


 そして、お待ちかねのチーム名の登録だ。

 ネムとクーは『せーの』と言って声を合わせた後――


「『あいすくりーむず』で」

「おねがいしますっ!」

 

 ――と、元気よく宣言した。


 ちなみに最近では親しい人間(ノーラちゃん、マライじいさん、レイくんなんかだな)には、ネムが話せる事は教えてあったりする。


 二人はホクホク顔だ。

 オレにはよく分からんが、あえてセリフ担当を付けたのは二人のこだわりかもしれない。


 だが、二人の言葉にノーラちゃんは困った顔をする。


「チーム名は、もう決まっていますよ?」


 へ?


 二人はオレの方を見る。


 いや、そんなつぶらな瞳で見られても……オレは知らんぞ?


「まさか『チーム特攻野郎』で決まっちゃってます?」

「ええっ!ボクはイヤだよ、そんな名前!」

「ネムちゃん!……わたしはご主人さまがえらんだチーム名なら……それでいいと思いますっ!」


 おいっ!「いいと思いますっ!」とか言いながら何で半ベソなんだよ?

 そう言うのが一番傷つくんだからな!


 そんなオレたちのやり取りをノーラちゃんはしばらく見つめた後、「コホン」とセキ払いした。


「……いえ『チーム特攻野郎』なんて名前じゃありません。ハルトさん達のパーティ名は『死を呼ぶ黒い行進(ブラック・パレード)』。――伝説の剣士、シャムロックの亡霊を単独撃破し、100人斬りを果たした『タレ目の悪魔』、ハルトさんにふさわしいお名前です!」


 はて?


「……『死を呼ぶ黒い行進(ブラック・パレード)』?」


 みんな顔を見合わせる。


 なにそのこわい中二ネーム。

 そんな名前付けたっけな?


 それにしても今、シレッと『タレ目の悪魔』って言われたぞ?

 何故高校時代の影口をこいつが知ってんだよ!?


「『死を呼ぶ黒い行進(ブラック・パレード)』かぁ!……カッコいいねっ!」

「はいっ!ご主人さまも、ネムちゃんも、わたしも、黒いすがただから……ぴったりだと思いますっ!」


 何故だか二人とも、この中二ネームが気に入ったらしい。


 だが……謎が多いぞ?


「ノーラちゃん……オレって、いつそんな名前付けたんですか?」

「え?覚えていらっしゃらないのですか?……悪党100人を前に『ブラック・パレードへようこそ』と言い放ったハルトさんは、悪党どもを正に『死を待つ行進』のごとく、楽々と切り伏せて行ったではありませんか!私は、その雄姿が未だに目に焼き付いて離れませんよ!……今ではハルトさん差す際は『タレ目の悪魔』『死を呼ぶ黒い行進(ブラック・パレード)』のハルトと。……そう、冒険者たちの間で呼ばれているんですよ」


 ノーラちゃんの話しを聞いて思い出した。


 ――あの時だ。

 あの「玉無し野郎」でブチ切れちゃった時だ!


 忌まわしきオレの中の黒歴史『オチ○ポには勝てなかったよ事件』の時、確かに言ったな。


 それにしても、何故勝手に登録するんだ。

 これって職権乱用じゃね?


「いや、でも勝手に名前をつけるのはどうなんですか?」


 オレが問い詰めると、そんな事は意に介さないと言った風で


「本来は、ご本人が登録した名前を使うべきでしたが、この所ハルトさんの問い合わせが『死を呼ぶ黒い行進(ブラック・パレード)』で来ることが多く、我々としましても混乱を防止する意味で登録させていただきました。致し方なく、致し方なく……ですよ?」


 そして小声で「――半分は私の趣味ですが」と言った。


 おいコラ、聞こえてっぞ!


「……名前は変えられるんしょうね?」


 オレの質問には、笑うだけでノーコメントを貫くノーラちゃん。


 この娘、本当に図太く育ちやがったな!




 その後、二人の賛成もあってオレたちのチーム名は『死を呼ぶ黒い行進(ブラック・パレード)』に決定してしまった。


 他の街に行った時、この名前で宿屋を借りると恥ずかしいと思うよ?


 今回オレは学んでしまった。


 本人が嫌なことも、快く引き受ける。

 楽しい事ばかりじゃない。


 それがオレたち『冒険者』だ!



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