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第三章 幕間4.お泊り会①

「……来たわ!……そしてついに完成したのよ!」


 リリィにクーの装備を依頼して、3日ほど経過したある日。

 例のごとくリリィは徹夜で仕上げたらしく、ハイテンションで家にやって来た。

 

 ビックリするから、大声はヤメテ!


「言ってくれれば取りに行ったのに……一人で来たのか?」


 この所平和になって来たとはいえ、幼女に荷物を持たせて一人で歩かせられるほど安全ではないんだよな。

 まあ、この子が本気になれば、ランドルのおっさんでさえ勝てるか分からないんだが、用心にこした事ない。


「心配してくれたの?……大丈夫。使いをやるより、直接持って来た方が早いの。……失礼するわね?」


 早く自分の作った物を見せたかったという事かな。

 最近、オレもそう言う気持ちは分かるようになって来たつもりだ。


 オレはわざわざ来てくれた感謝と歓迎を伝えて、リリィを居間に通した。


 居間ではネムがクーに『アラン・ベルーガ卿の冒険』を使って単語を教えている所だった。


 最近やっと全巻見つけて買えたんだよね。

 ネムの話しでは全7巻で、最後はファージに向かう途中でこの話は終わっているようだ。


 実話だと、最後はどうなってしまうのか分かるから少しつらいよな。


 クーは来客があるたび自分が玄関に出迎えに行こうとするのだが、オレが止めていたりする。

 どんなヤツが来るか分からないしね。


 クーはリリィの顔を見ると、少し恥ずかしそうな顔をした後、とても嬉しそうに出迎えた。


 リリィは家に来て早々クーの部屋に入り、自分の荷物を部屋の隅に丁寧に置いていった。


 それにしても荷物多いな。

 クーの装備を持って来たんじゃなかったっけ?


「お泊りに来たの。……これからはたまに来る予定よ?……さて、クーには装備を着てもらうから、貴方は出て行って?」


 そう言って手紙を渡し、無理やりオレを部屋から追い出す。


 別に着替えを覗く気は無いんだが、色々強引すぎないか?


 手紙は武具屋の親父からで、「リリィお嬢様を頼みます」とだけ書かれていた。


 ……無理やり書かせたっぽいな。


 まあ、親父から了承を得ていれば、文句を言うつもりは無い。

 リリィには色々お世話になっているし、オレにとっても良い友人だ。

 たまには鍛冶や仕事をわすれて、のんびりして貰えたらいいだろう。




 お着換え中、二人の楽しそうな声が聞こえてくる。

 美少女二人がお着換えで楽しそうにしているって、おじさん的に話の内容がとても気になる。


「……のぞくのっ?」


 ネムも楽しそうな会話が気になったのか、興味津々といった感じでオレに聞いてくる。


「いや、覗かないでござる。そんな訳ないでござるよ?」

「……ふーん。じゃあボクものぞかない。クーの装備、たのしみだねっ!」


 どうもネムは、クーの新装備を早く見たいようだ。


 それにしても……そんなピュアな瞳で、『覗く』とか言わないでほしい。

 もの凄く罪悪感を感じるんだ!




「……では、驚くといいわ!……これこそ究極の乙女の武装にして、鎧の進化系!……出てきなさいクーアスティル・エルレミア。そしてハルトをメロメロにするといいわ!!」


 派手な紹介でリリィはクーを呼ぶ。


 リリィがここまで言うんだ。

 可愛い装備に違いない。


 オレは固唾を飲んでクーの登場を見守った。





 ……数十秒経過。

 クーは中々出て来ない。


 まだ着替え終わって無かったのか?


「クー、出てこないね?」

「……ちょっと確認してくるわ」


 そう言って、不思議そうにリリィはクーの部屋へ入って行った。


 何となく二人の話し声が聞こえる。

 どうも、もめている様だぞ?


(……クー……だから……出てきなさい?)

(……でっ……じゃあ……はずかしいです。そのっ……なので……出ていけません)


 何となくしか聞こえて来ないが、どうもクーは紹介の仕方が派手すぎて委縮してしまったようだ。


 クーのめんどくさい部分が出ている気がするが、この状況、合コンで「こいつのモノマネ、超ウケるんだぜ?」と散々ハードルを上げられまくった後に、モノマネを強要されたようなもんか?


 ……考えただけで寒気がしてくるな。


 オレのトラウマがうずくぜ!?


 オレとネムは、しばらくソファーでくつろいでクーを待つ事にした。


 リリィの立場だと、自分の作った装備を自信をもって紹介したかっただけだろうが、これからは性格を判断してからやった方がいいだろうな。


 リリィが勝手にハードル上げたのが悪いんだし、オレはほっとくよ?




「……ご主人さま……ど、どうでしょうか?……リリィちゃんの作ってくれた装備はとってもかわいいのですが……その、あのっ……」


 しばらくして、リリィの説得が通じたのか、物陰に隠れながらオレに近づいてくる。


 その動きなら、銃弾の雨もかいくぐれそうだ。

 クー、器用な技を覚えたな。


 クーの装備は、黒と青紫色のドレス?鎧?旅装束?と「?」が沢山並ぶ感じでオレにはうまく説明出来ない。

 グローブやブーツはこげ茶色で丸みがある可愛らしいデザインをしている。


 一言で表すなら「旅の清楚なお嬢様黒魔道士冒険者」って感じかな。


 え?一言じゃないって?

 それだけ女の子の服は、オレには表現が難しいという事だな。


 決して派手ではないが、品の良い落ち着いた印象を受ける可愛らしい装備だ。

 前にも思ったが、変にゴージャスな服を着るより、こういった落ち着いた格好をした方が、クーは魅力的に見えるのかも知れない。


 やっぱ、元がイイって事だよね!


「似合っているよ。リリィの作ってくれた装備も可愛いが、その装備に負けないくらいクーも可愛いぞ」

「クー、可愛いよっ!リリィにかんしゃだね!」


 クーはオレとネムの発言に照れてしまったのか、慌てて頭巾で顔を隠す。


 頭巾は黒色で、オレのとんがり帽子と同じエンブレムの銀の刺繍が施されていた。


「あら?『装備に負けない』じゃなくて、『装備がクーを引き立てて、さらに美しさを増している』……そう言って貰いたかった」


 オレの発言に、リリィがかみついてくる。

 だが、確かにリリィの言う通りかもしれないな。


 これが『服』として考えるなら最高の出来だと言ってよい。

 そこはリリィに感謝だな。


 ……だが、唯一気に入らない点がオレにはあったりする。


 それはスカートな事、しかも膝上スカートなのだ!


 そう、女の子が着る『服』としては可愛いと思うのだが、冒険者の装備としてはどうなのだろう?

 これから旅をした時、おまたに虫なんかが入ってきたらどうするつもりだろうか?


 お父さん、非常に心配です!


 やはりズボンの方が何かと安全なんじゃないかと思うのだが……。


「……なあ、今更変更は効かないと思うんだが、スカートは何とかならないか?……なんなら追加で金を払うからズボンにしてくれないか?」


 全てリリィにお任せしてしまった手前、強くは言いだせないのがつらい所だ。

 

 だが、リリィはまったくお話にならないと言った顔で


「膝上スカートは譲らないわ。……スカートが嫌なら、下にタイツをはけばいいじゃない?」


 結局、マリーアントワネットさながらのセリフを吐いて取あってもらえなかった。


「ぬぐっ。……確かにそうだな。じゃあ、タイツを注文しよう」


 クーが気に入っているようなので、タイツをはかせる事でOKにしたが、オレの考えが古いのだろうか?


「過保護ね?……それとも、女を自分の思い通りに支配したい、独裁者タイプかしら?」


 ぐはっ!

 すげぇ、嫌な表現だなそれ!!


 見た目幼女なリリィの痛烈な一言に、オレの心はへし折れた。


 ……もう好きなようにするとええよ。




 その後、この装備の素材や防御力なんかをリリィは説明してきた。


 あまり頭には入ってこなかったが――うん。凄い装備のようだぞ?


 物理防御力の合計はオレの装備に若干劣る物の、その辺の皮鎧では相手にならないほどの防御力を誇るようだ。

 ちなみに、刺突系の攻撃と魔法防御では、オレの装備を超える防御力を持っているらしい。


 これは遠距離攻撃を意識しているって事かな?


 そして黒い頭巾――リリィが言うには『フードケープ』と言うらしい。――は、大岩が降ってきても頭を守るほどの防御力があるそうだ。

 まったくそんな風に見えないんだけどね。


 オレはその時思わず「100人乗っても大丈夫?」と聞いてしまったくらいだ。


「ねえ、ボクのリュックサックは、作ってくれたのかな?」


 説明の途中でネムがリリィに質問した。

 どうやらネムは、リリィに背負い鞄の制作を依頼したらしい。


 ネムが、食べ物と本以外に物を欲しがるなんてめずらしいな。

 そんな事を思っていると、リリィが荷物から、こげ茶色の背負い鞄を引っ張り出してクーに背負わせた。


 ……ランドセルっぽい。


 デザインはランドセルとは若干違うのだが、なぜだろう、オレにはクーがピカピカ一年生に見えてしまったんだ。


「本当はもう少し柔らかい素材で作りたかったのだけど……どうかしら?入ってみて?」


 ネムはクーの肩に飛び乗ると、器用に背負い鞄の冠せ皮(ランドセルとは向きが逆だな)を外して中に入る。


「わー、中のクッションもふかふかだし、最高だよっ!のぞき穴もあるから外も見えるしね」


 この様子からすると、ネムのバックとは、クーに背負わせる為のバックらしい。

 確かにオレの肩にいるよりも、この方がネムはクーの事を守りやすいかも知れない。


 少し寂しいけど、ナイスアイディアだな。


「これなら、雨がふっても濡れないですむよっ」


 ああ、そっちの心配だったのね?

 たしかにその方がネムらしいか。




 さてさて、リリィの説明も佳境に差し掛かってきた。

 オレはと言えばほとんど話を聞かずにお茶を入れたり、果物の皮をむいたりしていた。


 最近果物の皮がむけるようになったんだぜ?

 まだ一個丸ごとはむけないが、何等分かに切り分けてからなら簡単にむけるって教えてもらったんだ。


 もちろん教えてくれたのはオレの師匠、八百屋のおばちゃんである。


 師匠曰く


「ちょっとずつ、むくのよ?……キャー!」


 だそうである。


 鼻息が荒かったが、年齢的にどうきや息切れでもするのだろうか?

 八百屋の仕事は大変そうだが、身体は労わってもらいたいもんだな。


 リリィは、熱心にクーに剣についての説明をしていた。

 素材から、どのような工程で生まれたか、部位の名称から、手入れの仕方までだな。


 クーはその説明を真剣な面持ちで聞いていた。


 まあ、武器を丁寧に扱い、その武器の事を知る上では大切な事かも知れない。


 桃の皮をむきながら剣を見てみたんだが、60㎝ほどの淡い緑の光を放つ、装飾の美しい細い直剣だった。


 これは、リリィの持てる知識を全て使った剣なのだそうだ。

 どうも早いうちから魔力伝導率の高い武器に出会ったほうが、魔力を扱う感覚が鋭くなるそうで、ここまでの武器は市場には無いと豪語していた。


「……名前は、貴方が付けて」

「うへっ……!?」


 不意にリリィに声を掛けれてたので、びっくりしてしまったよ?

 オレは、皮をむいたリンゴと桃をみんなに振る舞いながら、必死に剣の名前を考える。


 ……どうしよう。

 この場合、かっこいい名前を付けた方がいいんだろうが、思い付かない。


 それどころか、クーが持つとこの剣『ひらべったい巨大なアスパラガス』にしか見えないんだ。

 丁度今日の晩御飯のメニューを、アスパラベーコンにしようと思っていたんだよな。


 ご飯に良し、酒のつまみに良し、野菜とお肉で栄養バランスは完璧!……アスパラベーコン、美味しいよな!


 うううっ、一度アスパラの事を考えると、もうアスパラしか浮かんでこない。

 もうこれで行こう!


 オレは決め顔を作って宣言した。


「――『お化けアスパラ』でどうだ?」


 その言葉にリリィは――


「……えっ?」


 とても残念そうな顔をされたよ?


 だって、アスパラ以外浮かばなかったんだもん。

 しょうがないじゃないか!


「かわいいお名前ですね!」


 クーは『お化けアスパラ』で気に入ったらしい。

 この子の場合、根が素直だからどんな名前でも喜びそうだな。


「……まあ、貴方らしい名前と言えばそうなのかしら?」


 リリィは何か納得した顔をした後、ふにゃーっと伸びをした。


「ふぁーあ、……さてと、説明も終わったし、眠くなっちゃった」


 リリィは、ソファに座っていたオレの横にくると


「ひざ……かして?」


 と言って、オレの膝の上で寝てしまった。


 失礼かも知れないが、腹を出して甘えるわんこの様だよ。

 普段のリリィより子供っぽい仕草だったが、その方が無理の無い感じがして可愛らしいと感じてしまった。


 ネムがいつもオレの膝で気持ちよさそうに寝ていたから憧れたのかな?

 ひょっとしたらこの子も、『剣の巫女』としての勉強で、小さい頃から親には甘えられなかったのかも知れないな。


「わた、わた、わたしっ、洗いものをしてきます!」

「……いや、さっき洗ったからもう無いぞ?」

「じゃ、じゃあ……おせ、お洗たくを……」

「洗濯は朝してなかったか?」


 クーは掛布団を持って来てくれた後、なにやらそわそわしだした。

 そして一しきり部屋をウロウロした後、意を決したように口を開く。


「……わたしに、こんなすてきな装備を買っていただいて……ありがとうございます。このごおんはかならず、がんばってお返しします。……ですが、今は、その……ごめんなさいっ!」


 そう言った後、火が出そうなほど真っ赤な顔でオレの横にきて、寄りかかるようにして寝てしまった。


 クーはあの一軒以来甘えん坊になるかと思ったが、結局普段は自分からはあまり甘えてこない。

 こうやって素直に甘えてくるのは珍しいな。


 どういう心境の変化かな?


 ひょっとしたら、リリィに焼きもち焼いているのかもしれない。

 今でもたまに無理してる時があるから、こうやって素直に甘えてもらえると嬉しいよな。


 ネムはその様子をニコニコと嬉しそうに眺めた後、クーの膝の上に乗って寝てしまった。


 寝る子は育つ!

 オレもその日はそのままお昼寝してしまったよ。




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