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第三章 幕間3.おさんぽ

だいたい同じ時系列のお話を、遥斗視点、クー視点でお届けします。


『お散歩』が遥斗の視点。

『おさんぽ』がクーの視点になります。


 ここはどこ?


 テキイのこもった目、きたない物を見るような目、あわれむような目。

 全てがわたしを見て、あざ笑う。


 そんな目で見ないで!


 わたしはかくれようと必死に毛布にくるまる。

 そんなわたしが許せないのか、後ろから座長がわたしを棒でつよくたたく。


 その瞬間上がる、人間たちの笑い声。




 ……そこで、わたしは目が覚めた。


 わたしはあわてて周囲を確認する。


 やわらかいベッド、やさしいにおいの毛布、広い部屋。


 ――よかった。……夢だった。


 ご主人さまに助けていただいてから何度も見る夢。

 ある時はきぞくさまの家の檻、ある時は岩でできた貯蔵庫、ある時は凍った村の中。


 そして、今日は見世物小屋の檻の中……。


 思い出すたびに、わたしは今ここに居なくて、檻の中で幸せな夢を見ているんじゃないかと思ってしまう。


『夢が本当の世界で、ここはわたしの想像の世界』


 からだから体温が奪われ、ガタガタ震え出す。

 どんなに我慢しても涙がほほを伝う。


 あたたかさを感じるようになってから、わたしは自分が泣き虫だってきづいてしまった。


 どのくらい寝ていたのか分からないけど、もう夜遅いだろう。

 今日はネムちゃんはいない。

 ご主人さまの部屋だ。


 ……ご主人さまに会いたい。


 お顔を見たい。

 手をつなぎたい。

 抱きしめられたい。

 優しくあたまをなでてほしい。


 わたしの中はもう、ご主人さまでのことでいっぱいだ。


 ご主人さまはとても優しいけど、こんな夜中にたずねたら、邪魔な奴隷だって思われるかもしれない。


 ……うるさい女の子だって思われるかもしれない。


 わたしはなにも出来なくて、ほんとうはいっぱいご恩をお返ししたいのに、中々思うようにいかない。

 それどころか、いつもご迷惑ばかりかけてしまう。

 

 実は、ご主人さまがやさしくしてくださる理由に、すこしだけ気づいてしまっている。

 ご主人さまとわたしは、そんなに年ははなれていないけど、ご主人さまにとってわたしは守る相手で……『こども』みたいな存在なんだって。


 この前お友だちになってくれたリリィちゃんは、その事を分かっていて「お互いがんばりましょう」「いい女になるわよ?」と言ってくれた。


 わたしは、ちょっとだけリリィちゃんに嫉妬して、憧れて、うれしかった。


 きっと、リリィちゃんも、わたしに負けないくらいご主人さまが好きで、わたしの知らないご主人さまを知っていて、それでもわたしと『お友だち』になってくれたんだと思う。


 同じ人が好きでうれしいって、変な気持ち……かもしれないな。


 最近のわたしは、いろんな気持ちのまざった『ミックスジュース』みたいだ。

 その味は、甘かったり、酸っぱかったり、苦かったり、くるしかったり、変な味。


 ひもじかった時にはたくさん食べる事、痛くない事ばかり考えていたのに、今ではたべる事なんかよりもこの胸のくるしみを求めてしまっている。

 



 気が付くと、今日もわたしはご主人さまの部屋の前まで来てしまっていた。


 わたしは、ご主人さまの優しさに甘えてしまっているだけ。

 こどもだと思わせて、ご主人さまと一緒に寝るって、ご主人さまをだましている事になるんじゃないか?


 ほんとうはわたし、こどもなんかじゃなく、女の子として見てほしい。

 でも、今はその優しさに甘えてしまいたい。

 さみしい……夜がおそろしい。


 そんなのって、ずるいですよね?




 わたしは、とうとうご主人さまの部屋の前で座り込んでしまった。


 ご主人さまのなるべく近く、いつもみたいに少しだけここにいて……部屋に戻ろう。


 わたしの思いを、一度ネムちゃんに相談した事がある。

 ネムちゃんは「甘えたいときに甘えるんだよ?ハルトはクーのことが好きだから、気にすることないよ」と言ってくれた。


 ネムちゃんはいつも自信たっぷりでうらやましい。

 いつかわたしも、ネムちゃんみたいになれたらな。


「……ご主人さまがわたしのこと、女の子として好きになってくれたら」


 その事を考えるだけで全身が熱くなってしまう。


 この熱をくれたのも、ご主人さまなんだ。


 ほんとうは、一生かけてご恩を返さなくていけないのはわかっている。

 ましてや奴隷のわたしを好きになってくれるなんて……。


 わたしはご主人さまの永遠の奴隷。

 ご主人さまとずっと一緒にいられる。

 それはとてもうれしくて、夢のようで、これ以上何かを望むなんておかしいはずなのに。


 わたしが、そんな事を考えてしまうなんて失礼でしょうか?




「……わたしは、ずるくてとてもよくばり」


 そんな自分が、わたしは……きらい。


「なんだ、クーか。……どうしたんだ?こんな所で」


 急にご主人さまの声がして、わたしは顔をあげた。


 ご主人さまが気付いてくれた。

 ……でも、起こしてしまった。


 また一つ、迷惑をかけてしまった。


 わたしの胸がドクドクと高鳴った後、心は罪悪感に支配されてしまう。


「……あっ、いえ。……その、おこして、しまいましたか?」

「……いや、トイレに起きたらお前が居たからビックリした……って感じだな」


 それは『うそ』だって、わたしにもわかる。


 こんな時にも、ご主人さまはわたしなんかに気をつかってくれる。

 本当はわたしが気をつかわなければならないのに。


 ご主人さまはトイレに行って、すぐにもどって来てくれた。


 話し方はいつも通り。

 でも、すごく心配してくれているのが分かって……苦しい。


「待たせたね。眠れないのかい?こんな所で寝たら風邪引くぞ?」

「……はい」


 こんな時、もっとなにか言えたらいいのに。

 この溢れてくる感謝の気持ちと、『ごめんなさい』って気持ちをうまく伝えられたらいいのに。


「よし。じゃあ、一緒に寝ようか」


 ご主人さまはそう言って手を取り、やさしくわたしを寝室に案内してくれた。


 その言葉で、まるで天国に行ったようにあたたかい気持ちになる。


 ご主人さまの体温を感じる。

 ご主人さまの胸の鼓動を聞くと気持ちが柔らかくなる。


 こどもに見られたくないとか、奴隷だとか、ご恩を返すだとか、今は全て遠くに行って、わたしの全部がご主人さまにとけていく。


 ……今日だけは甘えさせてください。ご主人さま。


 


 翌朝、ご主人さまのお声でわたしは目を覚ました。


 ご主人さまに、だらしのない寝顔を見せてしまったかもしれない。

 そんな事を考えると顔から湯気が出そうになる。


 次に一緒に寝る事ができたら、今度はご主人さまの寝顔を見てみたいな。


 くるくるした前髪と、やさしいお顔のご主人さまの寝顔は、想像しただけでとってもかわいらしいと思う。

 

 なんだか、後ろ向きのわたしがどこかへ行ったみたいに身体が軽い。


 きっと、ご主人さまと一緒に寝られたからかな。

 これからはリリィちゃんと話した通り、女をみがいて女の子として見てもらえるようにがんばろう。


 今はやせっぽちで胸も小さいけれど、お母さんはおっぱい大きかったんですよ。

 わたしだって……!


 リリィちゃんが言うようないい女になって、大人になったら……その時はわたしのこと、もらってくれたらいいな。


 この思いは、しばらく秘密でいさせて下さい。




 わたしは、あたまにピョッコッと立ったくせ毛を念入りにクシでとかしてから、ご主人さまと一緒に朝のさんぽに出かけた。


 二人きりのおさんぽ。

 風がご主人さまのやさしいかおりを運んでくれる大好きなおさんぽ。

 すこし背伸びすれば届いてしまいそうな、わたしの先を歩くだいすきな背中。

 出来るなら、わたしのよわむしを風にのせてすてさって、その背中へ飛び込んでしまいたい。

 そんな気持ちにさせられる、どこかソワソワするような朝の風。


 想像しただけで眠気なんか吹き飛んでしまいますね。


 今日もなるべくいっぱいお話して、ご主人さまにわたしのこと知ってもらうんだ。


 


……この後、こんな彼女に悲劇が起こりますが、それはみなさんご存じのはず。


クーアスティルさんは意外とポエマーでしたね。







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