第三章 幕間2.お散歩
だいたい同じ時系列のお話を、遥斗目線、クー目線でお届けします。
『お散歩』が遥斗の視点。
『おさんぽ』がクーの視点になります。
深夜、物音がした。
こんな時間に何だろうか?
現在、オレは自分の部屋でネムと寝ている。
最近ネムは、オレの部屋とクーの部屋を一日交代で一緒に寝てくれるようになった。
ちなみに三人で寝たのは一回きりだ。
娘のように思っているとはいえ、さすがにお年頃の女の子と何回も一緒に寝るのは良くないと思う。
物音は……クーがトイレに起きたのかな?
オレは扉の外に意識を集中する。
気配は部屋の前をウロウロとした後、扉の横で座り込んだようだ。
クーじゃないのか?
クーならノックしてくるはずだし、まさか、オレを狙った暗殺者とかじゃないだろうな?
普段はネムの索敵能力で調べられるとはいえ、眠っている時のネムは無防備だ。
クーが心配だな。
初めの頃、クーは距離が離れると索敵出来なかったが、最近クーの事も索敵できるようになった。
訳を『何でも分かる帽子』で確認すると、クーの力を『認識』したかららしい。
つまり、どれだけ力が強くても、オレたちが相手の事を正しく認識出来れば『何でも分かる帽子』で調べられるようになるという事のようだ。
これって重大な発見だよな。
オレたちは『何でも分かる帽子』でも調べられない物を発見し、正しく認識していけば、おのずとこの世界の神さまや『元始の海を枯らすモノ』に近づくという事だ。
ネムを起こそうかとも考えたが、可愛らしい寝顔を起こすのも気が引ける。
オレは物音を立てずに起き上がり、そっと部屋の扉を開けた。
「なんだ、クーか。……どうしたんだ?こんな所で」
クーはお気に入りのボロボロ毛布にくるまって、部屋の扉の横で膝を抱えた姿で座り込んでいた。
「……あっ…いえ。……その……おこして、しまいましたか?」
クーは、オレに声をかけられて驚いたのか顔を上げ、申し訳なさそうに告げる。
その顔は……泣いていたのか?
すこしまぶたがはれている気がする。
「いや、トイレに起きたらお前が居てビックリした……って感じだな」
ウソをついてみた。
クーはオレに迷惑がかかる事を嫌うんだよな。
別に気にする必要は無いんだが、クーなりに恩を返そうと必死に頑張っているという事かな。……と、推測している。
一番の恩返しは幸せそうにしていてくれる事なんだが、中々難しいみたいだ。
こういう時はそっとウソをつくのが、自称『優しい嘘つきさん』たるオレの勤めである。
自称も何も、今考えてみたんだけどな。
本当はトイレに行く必要は無いが、クーと生活するにあたって、一日数回トイレに行くフリはしている。
やる事がなくて、ついでに毎回トイレ掃除だな。
オレは「ちょっとまってな」と言ってトイレに行き、三十秒ほど数えた後、手を洗ってもどってきた。
「待たせたね。眠れないのかい?こんな所で寝たら、風邪引くぞ?」
「……はい」
また嫌な夢でもみたのかな?
もの凄くつらそうな表情だ。
「よし。じゃあ、一緒に寝ようか」
状況から考えて、こわくなってオレの部屋に来ようとしたけど、夜遅くで遠慮してしまったという感じだろう。
こういう時は、有無を言わさないのが一番だな。
オレは、前みたいにクーを腕枕して寝る事にした。
サラサラとしたクーの髪が腕に当たっていい気持ちだ。
「……ごめんなさい」
「違うだろ?こういう時は何て言うんだっけ?」
「……ありがとう、ございます」
「よしよし、よく言えました」
服装が変わって少し大人びて見えたが、やっぱりまだ甘えたいのかもしれないな。
親に甘えられなかった分、いっぱい甘えてくれるといいんだが。
オレはクーの頭を優しくなでる。
そしてクーの寝息が聞こえた頃、まぶたを閉じた。
朝、目を開けると目の下にクーの頭があった。
「……ぁりがとうございます。……ごしゅ…じんしゃ……むにゃむにゃ」
寝言か?
とっても幸せそうだ。
おいしい物でも食べている夢を見てるのかな?
そして……少し苦しい。
どうも寝ている間にしがみつかれたらしい。
つむじにあるクーのアホ毛がオレの鼻を刺激する。
この子、オレと違ってストレートヘアなんだが、寝起きだけチョコっと申し訳なさそうにアホ毛が立つんだ。
「……クー、そろそろ朝の鍛錬の時間だぞ?」
幸せそうな寝顔をたっぷり堪能した後、オレはクーをそっと起こす事にした。
クーの調子が良くなってからというもの、オレと二人で『朝の鍛錬』と称した朝のお散歩を行っている。
初めは準備運動をして40分ほど歩くだけだったんだが、剣をリリィに作ってもらう事になってからは、その後で素振りもするようになった。
クーは今まで運動なんてさせてもらえなかっただろうし、無理のない程度の軽い運動のつもりだが、思いのほか真剣にやってくれているようだ。
オレが寝坊してしまうと、元気に起こしてくれるんだよな。
「ぅぅ……は……はいっ。……おはよう……ございます」
クーは元気にあいさつした後、周囲をキョロキョロ確認し、朝の挨拶をしてくれた。
うん。
目覚めはバッチリだな。
「おはよう。ネムが起きちゃうから、静かに行こうな」
オレたちはそっと服を着替えて家を出た。
空はまだ薄暗い。
でも朝の空気って澄んでいて気持ちがいいんだよな。
オレたちは入念に準備運動をして歩き出した。
クーとの散歩コースはいつも決まっていて、オレの家から街と反対の方角、農場の方へいつも向かう。
家から20分も歩けば家畜が放牧されていたりするんだ。
そこからさらに歩いて小山を上り、少し休憩した後、来た道を戻るのがお決まりのコースだな。
牧草地帯を歩くのは、街の中を散歩するより気分がリフレッシュしていい。
放牧場って自然な光景じゃないはずなのに、なぜか自然を感じちゃうんだよな。
ホントに不思議である。
最近じゃクーもよく話してくれるようになり、道の途中で咲いている花や野草などの名前を教えてくれる。
ご両親に教わったらしくかなり詳しいんだ。
散歩しながら道端の草木の名前を覚えるのが、村での日常風景だったのかもしれないな。
オレは……うん、覚えられないよ?
散歩の帰り道。
牧草に抜ける風の模様が、朝日に照らされて実にすがすがしい。
クーが風に揺れる牧草を見ながらオレに告げる。
「わたし、このにおい大好きなんです」
クーの髪が、朝日に反射してキラキラと輝く。
朝日に照らされたその姿は、『かわいい』より『美しい』という言葉がピッタリくる。
なんだか最近、雰囲気が大人びてきたよな。
なんとなくドキッとしたオレは、周囲のにおいを嗅いでごまかしてみる事にした。
「朝のにおいってヤツか?……どれどれ?……ブヘッ!?」
……いや、馬フンのにおいしかしないんだが。
この子、まさか上級者か?
大人と言うか、それは……お前……。
「クー……おまえ?」
「あのっ……これはちがうんです!……風が運んでくるんです。その……ごしゅ……、そして背中がとど……あのっ……ああっ、ちがうんですっ!」
必死で言い訳しているようだが、趣味は人それぞれだと思うよ?
へんた……いや、クーにとっては故郷を思い出す香りなのかもしれない。
お母さん、分かってるから大丈夫よ!
なんだか後輩に急に追い越されたような物悲しい気分を感じながら、オレは家路につくのだった。




