第三章 幕間1.クーとリリィ②
しばらく休憩をはさんで談笑した後、今度はクーの装備買う為、防具を見せてもらう事になった。
休憩中、二ヵ月ほどしたらこの街を去る事をリリィに伝えた。
「そう、分かったわ」とだけリリィは答えて、その話は終了した。
相変わらずクールだな。
休憩中、クーはリリィからお茶の入れ方を熱心に教わっていていた。
覚えてくれたら家でも美味しいお茶が飲めるようになるかもしれないな。
クーの装備に関しては、これから成長するだろうし、初めは安めのものでいいだろう。
そう考えて、リリィに売れ残りの置いてある倉庫に案内して貰う。
「……そうだな、まずは鎖帷子を着こんで、その上にプレートメイルだな。魔法にも対応したいし、全身を魔法耐性のあるマントで包んでくれ」
「分かったわ。……完全防備ね?」
「……あのっ、これじゃ……うごけません」
クーは、先ほどから微動だにしない。
安めの物でいいとか思いつつも、こだわってしまうな。
と言うより詰め込みすぎたか?
どうやら、怪我をしてほしくないあまり、過保護になってしまったようだな。
「そうか、すまなかった。……じゃあ、プレートメイルを外して、この角兜を付けてだな」
「……角兜を選ぶなんて、分かっているわね」
すかさずリリィが食いつて来る。
そうなんだよな。
角兜って男らしくてカッコいいんだよな!
なんだか、自分の装備を選ぶ時より真剣になってしまうぜ!
「さて、クーさんや、動いてみてくれ」
「……がんばります!」
オレの言葉に、ゾンビのような歩き方で必死に歩くクー。
うーん。
どうも、まだ重たいようだぞ?
それにしても、このクーの歩き方……まさかフリじゃないよな。
どう考えても、コケるタイミングなんだが。
コケるなよ。
コケるなよ。
オレは頭の中でそう念じる。
「これくらい、わたしでも……ううぅっ、あれ?……っきゃあ!」
やっぱり、コケた!
お約束を忠実に守るとは、さすがクーは真面目さんである。
「……うううぅ」
ああ、そんな悲しそうな目でオレを見ないでくれっ!
「……そろそろクーがかわいそうだよ?」
「じゃ、遊びは終了しましょう。……クーの防具は私が作るわ?」
え?遊びだったの?
オレは真剣だったんだがな。
でもクーが半べそだし、そろそろ止めにするか。
オレは倒れて、ひっくり返ったカメの様にジタバタしているクーに手を差し伸べる。
「……成長補正。……成長による変成は防具職人にとって超高等技術だけど、私には訳ないわ?」
急にドヤ顔で告げるリリィ。
成長による防具の変成。……つまり、成長に合わせて防具の大きさを変化させて行く事が出来るってことだよな。
さすが魔法の世界だな。
もっと早く言ってほしかった。
こうなったら、リリィにまたお任せしてしまおう!
だが、立ち上がったクーは浮かない表情だ。
「……安い物でいいです。……このお洋服でも、わたしにはもったいないくらいです。あまりご主人さまに、ごふたんをかけるわけにはいきません」
さすが貧乏性。
確かに成長補正は値段が跳ね上がりそうだもんな。
だが、旅をするならドレスはあんまり着れられないだろうし、オシャレで高性能な装備を作ってもらった方がいいよな。……とも思う。
なんせ、ドワーフ武具のブランド化をススメたのはオレだしな。
そんなオレがオシャレ武具を注文しないのも、なんだか不義理にあたる気がして後ろめたい。
オレなんか、この黒皮の鎧の着心地が良すぎて毎日着ているくらいだ。
高い服を一着くらい買ってあげても罰は当たらんだろう。
そんな事を考えながら、クーの説得を試みる。
ふつう逆じゃね?とか頭の隅にふと浮かんだが、頑ななクーを見ていると、強引にでも買いたくなるから不思議だ。
最終的に「これから冒険者になって装備の金額を稼いでくれればいいよ」とオレが言ったらクーは折れてくれた。
クーの要望をリサーチすると、どうやら黒色の装備がいい事が分かった。
どうもオレの装備に憧れがあるらしい。
リリィが張り切っていて、どんな服が好きなのか古着屋を回ってから図面に起こす事になった。
モデルがいいと気合が入るんだろうな。
前回みたいに予算オーバーは嫌なので、どのくらい金額がかりそうか、こっそりリリィに聞いてみた。
「……金貨1000枚って所ね?」
高い!
確かに高いが、オレの防具の合計が原価で金貨400枚だった。
利益を計算し、それと同じくらいの物を作ると考えれば妥当と言った所か?
決して自分を安く見せ無い。
いや、リリィの性格を考えると、これでもお友達価格と考えていいだろう。
リリィも成長したと言う事だな。
今まで貯めてきたお金やシャムロック氏の賞金が一気に飛ぶが、この際リリィを信用し作ってもらおう。
クーも、仲良くなった子の作った装備なら大事に使ってくれるはずだ。
……金額は貧乏性のクーに内緒だな。
金貨1000枚と聞いたら、心臓麻痺で死んでしまうかもしれんからな。
さて、次に武器だ。
クーは鈍器が好きな様で、大きな棍棒を持ち上げようと必死になっている。
……どうやら彼女は、脳筋に憧れがあるようだ。
痛そうだし、RPG序盤ではたしかに強いもんな。
「クー、いい女は一流の物を身に着けて、その輝きをさらに自分のモノにするのよ?……そんなガラクタ、貴女の為にならないわ」
言ってる事はカッコいいんだが、それ、お前の店の武器だぞ?
まあ、お姉さんぶりたくて言ってるんだろうから黙ってるけどさ。
「クーには、後方で魔法を使ってもらおうかと思っているんだが、魔法の杖みたいなモノはあるかい?」
「……あるけど、護身用には向かないわね。……私のオススメは、魔法触媒になる短剣か小剣ね」
確かに、杖と剣を持つよりは一個で事足りた方がいいよな。
オレはその辺りの事情がよく分からなかったので、魔法触媒についてリリィに説明してもらった。
魔法触媒とは、魔力の収束率を高める効果のある物の事を差すらしく、一般的には杖やロッド、携帯に便利なタクトと呼ばれる指揮棒に似た物が主流らしい。
ちなみに、カトリオーナ司祭から頂いた指輪も魔法触媒に当たるそうだ。
魔法は魔法触媒が無くても扱う事が出来るようだが、威力が分散してしまうらしい。
ネムにその辺りの事を大丈夫か確認したら「もうなれたから大丈夫!」だそうだ。
どうも、初めの頃威力不足に悩んで陰で特訓していたらしい。
リリィの話しを聞いて「なるほどねっ」とあいづちを打っていた。
「――で、クーはどんな魔法を使うの?」
やっぱそう来るよな。
クーの氷の力は矢鱈と人に話す内容でもないし、一度確認した方がいいだろう。
「クーさん、お前の得意な魔法について話してもいいかな?」
「……あのっ……はい」
やはり、本人には話しにくい内容のようだ。
「クーには……氷の魔法に似た力があるんだよ」
少しだけ濁した言い方をするオレ。
リリィは何やら感じ取ったようだが、おくびも出さずに口を開く。
……助かります。
「……なるほど。氷属性は……珍しいわね」
しばし考え込むリリィ。
リリィの言う通り、この世界では氷の魔法は珍しい。
ネムの話しでは、氷の魔法は無くはないんだが、扱いが難しい部類に属するらしい。
風と水の複合魔法で、一般的にはコントロールするために元素聖霊フナット(精霊の上位版だな。四属性の統括者にあたるらしいぞ)に呼びかけなくてはいけないらしく、かけるコストに対してメリットの少ない魔法。……要は燃費の悪い魔法らしいのだ。
……クーラーや冷蔵庫に電気代がかかるみたいなもんか?
ちなみに雷属性は、風属性と土属性と水属性の複合魔法というかなり大がかりな魔法になるそうだが、こちらは時と場所さえ選べばかなりの威力が期待できる魔法らしいぞ。
「……そうね。少しアイデアがあるから、クーの武器は私が作る。……お友達の印に私からプレゼントよ?」
言うが早いかリリィは、有無を言わさずクーに色々な形の短剣や小剣を持たせる。
もはや否定はさせない気だな。
クーは小剣を振り回す時、まだ重たいのか少し危なっかしい感じがした。
「見た所、短剣が良さそうだけど……これからの事を考えて、小剣にするわね」
「……そうだな。なるべく遠くの間合いからも対応できるよう、攻撃は突きがメインで考えてくれ。クーはまだ力が無いから、両手でも持てるようにしてくれよ」
剣での攻撃はトドメを差す為に使えばいい。
下手に振り回すよりも、チョンチョン突いた方が隙が少ないから初心者にもいいだろう。
話がまとまった所で、ここの親父が帰ってきた。
親父はオレの顔を見た瞬間、溶けた餅のように顔がゆるむ。
どうやら、オレに相談したい事があるようだ。
……なんなのこの人は?
リリィは、クーと服を見に行くと言って、張り切って準備を始めてしまった。
今回オレは、親父の相談に乗る為一緒に行く事は出来ない。
親父が従業員に頼んでくれて、大人のドワーフさんも付いて行ってくれる事になった。
クーはこわがっているが、いい経験かもしれない。
念のため、ネムに同行してもらう事にした。
この際だからオシャレな服をリリィに見繕ってもらおうかと思い、少し多めのお金を渡して見送った。
そして、お礼も兼ねて、リリィにも好きなものを一つ買ってもらう事にした。
いつもお世話になっているしね。
「さあ、行きましょう?……その服もわざとはずしてる感じがオシャレだけれど、私が男好きのする服を教えてあげる。……ハルトが『ぎゃふん』とする顔が目に浮かぶわ」
「……は、はいっ!」
「こわがらなくてもだいじょうぶ!ボクがついてるよ。ボクが二人のお兄ちゃんだからねっ!」
「そうよ?……私が二人のお姉さんなのよ」
二人の声が、廊下にこだまする。
……『お兄ちゃん』と『お姉さん』は、共存できるようだ。
まあ、仲良がよければそれでよしとするか。
気分は、初めてのお使いに送り出す親の心境だな。
さて、三人を待っている間、武具屋の親父との相談だ。
今回は、このまま鎧の生産数量を上げてしまっていいのかとの相談だった。
どうも親父の中で答えは出ているようで「ある一定以上の数量を作ってしまうと鎧の希少性が失われるのではないか」と危惧しているようだ。
確かに「希少価値がある」と言うのはそれだけで商品の価値になるもんな。
レアリティの操作は何処でもやっている事だし、いいんじゃないかな?
やろうと思えばもっとあくどい方法も思い付いたが……今回は言わないでおいた。
「……ふっ、そこに気付くとはさすがだな。もう、オレが教える事は無いようだぜ!」
オレは、さも気付いていたような顔をして親父の意見に賛同した。
親父は新工場が完成したら生産量をそれ以上上げず、鎧以外の他の商品を売り出す事を考えているらしい。
こいつ、意外と貪欲である。
武器はもちろんとして、包丁などのキッチン用品、日用雑貨、服飾関係などを考えているようだが、差し当たって売り出したい品物があるそうだ。
それが、猫耳カチューシャである。
どうもオレとリリィが制作していたのを覗いていたらしく、自前のデッサンで『猫耳』『犬耳』『狐耳』『兎耳』(もちろん全部しっぽ付き)と、商品展開まで考えてあった。
「コンセプトは、『これさえ被ればみんな耳族』です!……思い付いたハルト殿に是非許可を頂きたい!」
だそうだ。
……おまえ、ドワーフの誇りは何処へ行った?
みんな可愛い物に弱いという事だな。
まあ、オレが思い付いた物でもないし、こんな物が沢山売れるとも思わないので許可を出す事にした。
そして、親父の真剣な(それでいてイヤらしい)顔に、オレはある事を思い付いてしまった。
「……親父、耳族カチューシャもいいが、こんなのはどうだ?――紐パンだ!」
キョトンとする親父にオレは図面に書いて説明する。
紐パン……それは肌を守る為の道具のはずが、一切守る事をせず、ただただ女性の攻撃力を上げる為だけの危険な存在。
それに身を包む女性は、裸よりもセクシーになると言う伝説の装備だ!
この世界はセクシーな下着が少ないようなんだよな。
一度ちらっと下着売り場を覗いた時(クーのを買った時な!)は、かぼちゃパンツ(ドロワースというらしい)みたいなモノしか置いていなかったと記憶している。
下着の作り方は分からないが、紐パン、紐ブラくらいなら簡単に作れそうだろ?
オレは下着フェチではないが、可愛い下着は大好きなんだ。
ん?
それをフェチと言うのでは?
……まあいい、良いアイディアだと思うんだがどうだろうか?
「……これを女性が身に着けるんですかい?」
親父の声が震えている。
調子に乗って、色んな場所に穴をあけたのが不味かったようだ。
確かにこの世界では、ハレンチすぎたか?
「おお、神よ!……人口減少に苦しむドワーフを救う為、救世主をここに使わせてくれた事を感謝します!」
お?
呼び方が『救世主』に進化したようだぞ?
唖然とするオレに、親父は説明する。
「ハルト殿、我々長命種族は子を成しにくい。……結婚しても中々子を授からず、バイタリティだけ減少し、子を成す努力を怠る者が後を絶たない。……これは社会問題なんです。この『紐パン』があれば、またドワーフの性の活気が取りもどされましょうぞ!」
顔を真っ赤にして演説する親父。
そこまで言われると恥ずかしい。
下品な下ネタを言ったら、何故か「賢いね」と褒められた。……そんな気分だな。
「これは、全ての報われぬ男と女の武器となりましょう!」
興奮しながらスケッチブックにデザインを起こす親父。
……この親父も相当絵がうまくなったな。
鼻息を荒くしながら「竜人と光エルフには絶対に売らん。……売らんぞ!」とか言っている。
竜人と光エルフとの間に、何かあったのだろうか?
奥さんがやってきて、親父のデッサンを見た後、真っ赤な顔をして頷いていた。
この店に、もう一人家族が増える日は近いかも知れないな。
耳族カチューシャに紐パン、紐ブラ……もう考えるのはよそう。
暗黒の力が目覚めるかも知れない。
親父は売り上げの一部をどうのとオレに言ってきたが「報われない子供の為に、その金は使ってくれ」と言っておいた。
……ああ、オレの人生虚し過ぎるぜ。
そんなこんなで、ずいぶんと時間が経っていたようで、無事三人が帰ってきた。
まず、リリィとネムだけ部屋に入って来た。
ずいぶん得意げな顔をしているな。
「クー、……入ってきて?」
そして入ってきたのは、落ち着いた色合いの上品な服に身を包み、顔を桜色に染めたクーだった。
この姿を見たら、誰もこの子を奴隷だなんて思わないだろう。
育ちの良いどこぞのお嬢様に見える。
リリィの事だから、可愛らしいフリフリの服を選ぶのかと思っていたのだが……意外だ。
服のせいか分からないが、少しだけクーが大人びて見える。
「……わたしのためにお金をかけていただき……ありがとうございます。……あのっ……どう……でしょうか?」
恥らいながら話すクーの姿に、思わず見とれてしまう。
やばい、頭が真っ白だ。
「……ほら、早くほめてあげるの?」
「ハルトはね。クーが可愛くてびっくりしてるんだよっ!」
「そっ……そんな」
「この子、今まで貴方からもらった服を汚してはいけないと思って、汚れの目立たない服ばかり着ていたの。……エプロンくらい買ってあげてね?」
「……あっ、ああ、ごめんよ。……そんなの気にする事なかったのに……さ」
「……謝るんじゃなくてほめてあげるの。エプロンも買っておいたわ?」
「あ、あ、あ……クー、その……か、可愛いよ。……少し大人びて見えるな」
「……あっ、あ、ありがとうございますっ!……リリィちゃんも、ありがとうございました」
「クー、一つ貸し……ね?」
リリィも嬉しそうだ。
そんなリリィとクー、二人の髪に、お揃いの黒のリボンが付けられているのに気が付いた。
別に目を合わせられなくてキョロキョロしていた訳ではないんだよ?……念のため。
「リリィありがとう。……そのお揃いのリボンを買ったのかい?二人とも似合ってるよ」
よく見ると、リリィの方は黒地に紺と銀のライン、クーの方は黒地に紺と金のラインが入っている。
二人の髪色と逆にしたのかな?
「そうよ?……今度は貴方が選んだプレゼントが欲しいわ」
ぐへっ!そう来たか。
オレ、プレゼント選びのセンス無いんだよな。
オレは「考えておくよ」と言って誤魔化しておいた。
そうしてオレたちは『月影とネロ』を後にした。
リリィは「クーの武器防具の制作が終わったら遊びに行く」と言ってくれた。
仲良しになれてよかったな。
帰り道、クーと手をつなぐのが何だか照れ臭かった。
オレが異性としてクーを意識しても何もならないのにな。
……でも少し、幸せな気分だ。




