第三章 幕間1.クーとリリィ①
三章幕間のスタートです!
蛇足大目の展開になっております。
ご容赦ください。
オレの右肩にネムが居て、オレの左には手を握るクーが居る。
――これが、オレの勝ち取った日常だ。
いきなり、何を言っちゃってるのかって?
いいだろ?たまにはしみじみと感傷にひたってもさ。
今回オレ、けっこう頑張ったと思うんだ。
今オレたちは、三人でリリィの所へ歩いて向かっていた。
こういう何気無いときにこそ、幸せって感じるんだな。……そう思う訳だ。
今回リリィの所に行くのは、ドタバタですっかり忘れていたオレの剣。『突刺し姫』の柄を完成版に変更してもらうのと、ついでにクーの装備を見に行く感じだな。
あの後、三人で話し合って、やっぱりオレたちはクーの故郷に行く事にしたんだ。
出発は二ヵ月後、冬になる前にだな。
それまで、クーのレベル上げを優先課題とした。
『元始の海を枯らすモノ』の一部である『総ての中で一番美しい赤』はクーが持っていた。
迷宮の奥にあるという『神の宝玉』が『元始の海を枯らすモノ』の一部である可能性はあるが、こんな近くに二つもあるなんて考えにくい。
まずは、クーの両親や村の人の遺体を弔うついでに情報収集を兼ねて「湖の主にお礼参りに行こう」という事になったのだ。
「永遠にオレの奴隷」とか、我ながら頭のおかしい事を言ってしまったが、呪いを消せるならクーを奴隷にしておく必要なんてないしね。
まあ、今日リリィの所に行く秘密の本命は、クーとリリィの顔合わせなんだけどな。
うまく友達になってくれるだろうか?
クーが14歳でリリィが24歳と年は離れてしまっているが、リリィはドワーフだし、闇エルフのクーとは相性が良いはずなんだよね。
二ヵ月ほどでお別れになるが、旅の途中で『元始の海を枯らすモノ』の一部、『空を舞う唯一で聡明な翼』の情報が得られなかった場合は、『神の宝玉』の為に戻ってくるつもりだ。
クーには色々な人と仲良くなって、色んな考えを身に着けてほしい。
そう思うんだ。
リリィには、一週間したら来いと言われていたんだが、何だかんだあってけっこう日にちが経ってしまった。
怒ってなきゃいいんだけどな。
オレは、チラッとクーを見た。
今日は暗いオリーブ色のフード付きポンチョを着ている。
クーはこういう色合いが好きみたいなんだよな。
似合ってはいるんだが、オレやネムと同じでオシャレにはあまり頓着無いらしい。
そして、暖かければ良いと言った具合に厚着をしている。
寒さに対してもトラウマがあるんだろう。
リリィと仲良くなったら、オシャレに目覚めるかもしれないな。
クーは白やピンク、明るい色の可愛らしい服も似合うと思うんだ。
相変わらず、クーは人間がこわいみたいでオレの身体に隠れるようにして歩いている。
なかなか難しいだろうが、少しずつなれていってくれたらいいな。
世の中には悪い人がいっぱいいるが、いい人だって居るはずなんだ。
人間にも、そういう人が居るって分かってもらえたら嬉しいよな。
さて、『月影とネロ』までやって来た。
クーに「ここだよ」と伝えると大きく深呼吸していた。
どうやら、緊張しているらしい。
昨日の晩は「かわいいお姉さんのドワーフに会ってみたいです」と言っていたんだが、オレと一緒で人見知りのようだ。
店に入ると、ちょうどリリィがなにやら準備をしていた。
大きな荷物をいっぱいもっているな。
「おはよう、リリィ。……ひょっとして、出かける所だった?」
「貴方の家に行く所だったのよ?……もう、忘れちゃったのかと思っていたわ」
オレの言葉に、大きな目をパチリとさせてリリィは言う。
いや、オレの家に行くにしては大荷物な気がするんだが……。
武具の調整道具も入っているんだろうか?
「……ごめんよ。色々と立て込んでいてね」
「来てくれたなら、いいわ。……私の作業場に行きましょう?」
そう言って作業場まで案内された。
相変わらずクールな女だぜ。
「リリィ、おヒゲとったんだねっ!」
「そうよ?……ヒゲはかゆいの。……ね?もう抱きしめてもかゆくないわ。今の私は『リリィ・コビトゾク』と名乗っているの」
リリィはネムを抱きしめて頬ずりする。
かゆくないアピールか?
そう言えば、リリィは今までネムを抱きしめたことが無かったな。
チクチクして嫌われるとでも思っていたのかな?
そして、自信満々の小人族発言である。
どうも前回のオレの案を気に入ってくれたみたいだ。
小人族の名字が「コビトゾク」って、ずいぶん直球なネーミングな気がするが……。
自分で言っておいてなんだが、ここの従業員には、人間族もいるはずなんだが大丈夫なんだろうか?
その事を聞いてみると「今までは小人族がドワーフのフリをしていた」と言って丸め込んだらしい。
……この子賢いわ!
ふと何かが気になって後ろを見ると、クーが身体を小さくしてマゴマゴしていた……。
はうあっ!
わ、忘れてなんかいなかったよ?
「……後ろの子が、クーアスティルちゃんかしら?」
「ああ、そうだよ。クーこっちへおいで。こちらがリリィだ。ここはもう、フードを取っても大丈夫だぞ?」
オレの言葉を聞いて、クーはフードを取った後、深々とお辞儀をした。
「……はじめまして、クーアスティル・エルレミアともうします。……あのっ、よろしくおねがいいたします。リリィさま」
そう言った後、クーの必殺ポーズ『前髪で真っ赤なお目々かくし(……でもかくせてないぞ?)』をリリィにお見舞いする。
リリィはその姿を見て……たまらずクーに抱き着いた。
……うん。気持ちわかるぞ。
まさに一撃必殺!このポーズは何と言うか、傷ついた小動物を保護した時のような、庇護欲を掻き立てられるもんな。
「はじめまして。……本当の名前はリリィジャ・ウルヴァル・スヴァルトルって言うの。よろしくね」
リリィは愛おしそうにクーを抱きしめながら自己紹介し、うらやましそうにオレの方を見た。
「貴方、反則よ!この子可愛すぎじゃない。二人もずるいわ。……どちらか私にちょうだいっ!」
いや、そんな事言われてもだな……。
ねえさん、キャラ変わってまっせ。
この際、ネムもクーも「物じゃないからあげられない」なんて野暮な事を言うつもりは無い。
「めっ!どちらもオレのなの!ぜぇーったい、あげないんだからっ!!」
その後、しばらくはリリィの呼び方でもめてオレは蚊帳の外にされてしまった。
もめたと言っても、クーが「さま」付けするのを、リリィがやめさせたかっただけなんだけどな。
どうもリリィは「リリィお姉ちゃん」と呼んでもらいたいらしい。
どうしてオレの周りには自称「お兄ちゃん」だの「お姉ちゃん」だのがいるのだろう?
……流行っているのか?
まあ、欲を言えばオレもクーから「お父さん」と呼んでもらいたかったりするのだが……無理やり呼ばせる気は無い。
ネムもリリィも子供だから分からんだろうが、そう言うのは無理やり呼ばせるものでは無いと思うんだ。
まあ、美意識の問題だし、オレは大人だから何も言わんがね。
だが、こうして二人で真剣に話している姿を見ると、姉妹に見えない事も無い。
残念ながらクーがお姉ちゃんに見えるが。
髪の色も目の色も違うが、お互い優しそうな大きな瞳をしているし、クーがお姉さんで、リリィが妹に見えてしまう。
こうやって見ると、クーのほうが痩せているせいも有るだろうが、手足が長くスラッとしているように見える。
反対にリリィは、少しポチャッとしている感じだな。
身長はクーが少し高いだけだが、リリィが幼く見えてしまうのはそのせいだろう。
この場面、しっかり者で少しわがままな妹のリリィが、頼りないお姉ちゃんであるクーに対して「私がお姉ちゃん」と宣言しているようで、異様に萌える。
結局、呼び方の件は、クーがネムの事を「ネムちゃん」と呼んでいたので、リリィの事も「リリィちゃん」と呼ぶ事で話はまとまったらしい。
おじさん、この光景なら何時間でも見て居られたよ。
「……さて、お仕事の時間よ?」
話もひと段落し、リリィが我に返ったらしく、剣の柄の改造に取り掛かる。
改造と言っても、今回は柄全て取り替えるようだ。
オレからは、2~3ほど改善点を伝えた。
まあ、ほんの些細な点なんだがね。
クーはリリィが作業している姿に見とれているようだ。
なんだか顔が赤い。
確かにリリィの見た目は幼女だが、中身は出来る女だ。
特に武器を扱っている時は、さすが『剣の巫女』と言うほど、優雅で絵になる。
剣に愛される娘らしく、改造されている突き刺し姫が嬉しそうに見えてしまうのは、所作がきれいだから……かな?
まさか、本当に喜んでいるなんてことはあるまい。
リリィは、クーが見とれているのに気が付いたのか、普段より背筋を伸ばして自信ありげに作業している。
そして、少しだけ照れくさいのか、小さな鼻が時折ヒクヒクと動く。
ほほえましいよね。
「……どうかしら?」
リリィから手渡された『突刺し姫・改』をオレは見つめる。
柄の魔法銀の装飾がとってもオシャレだ。
装飾の模様は何を意味しているのかさっぱり分からないが、……カッコよければいいよね?
持ってみた感触もオレの手にしっかり馴染むし、まるで長年使い込んでいるみたいだな。
リリィはオレの姿に満足したのか、ウンウン頷いて一言
「――試し斬りよ?」
と言って、前回手合せした裏庭にオレたちを案内した。
「今回思い付きで色々試してみたから、実験に付き合ってね。その柄は、魔法銀を使って魔法伝導率を、今ある私の技術で極限まで高めてあるの。それにより、元々あった切れ味や、血を吸って切れ味と刃そのものを修復する能力の上昇に成功した。……はずよ?」
リリィは、黒皮の鎧装備を作った時のようなノリノリモードになってしまったようだ。
もはやこうなったリリィは誰にも止められない。
オレは黙ってリリィの話しを聞く事にした。
血を吸って切れ味と刃そのものを修復……ねぇ。
確かに、『約百人斬り』した時に何人斬っても切れ味が変わらなかった訳だな。
……知らないで使っていたなんて言わない方がいいよな。
「――そして、今回注目したのが『感度』よ。あえて言えば、切れる剣なんてどこにでもあるわ。特に貴方の筋力、技量、スピードを持ってしたら、後は良い剣さえ手に入れれば切れない物を見つける方が難しいかも知れないわね。……だから、私はあえて『切れる』なんて当たり前な事を無視したの。この柄を作るにあたって貴方の剣技を一から見直した。――もちろん想像の中でね。そして分かったのよ。貴方は剣技にスピードだの、パワーだのは求めていない。貴方は誰にも負けない筋力、スピードがあるにも関わらずね?只そこにあるのは純粋なまでに『合理』――違う?」
なんだか今日のリリィちゃんはおっかないです!
誰だよさっき「ほほえましい」なんて思ったヤツは?
この人、マッドサイエンティストですよ!
オレが黙っていると、リリィはオレの目をジッと覗き込んで来る。
「……お、おうよ」
なんだかこわいので頷く事にしたよ。
……まあ、確かにオレが剣を振り回すのは『殺す』為だ。
大事なのは力や速さでは無く、正確さ。そして、相手を楽にさせる事なんだよな。
嫌な事は早く終わらせたいってのもあるだろう。
その後もリリィは自信たっぷりに演説を続ける。
その横では、クーも顔を赤らめながら熱心に聞き入っていた。
その姿は、頷き過ぎてヘッドバンキング状態だ。
……残念ながら、意味は分かっていないだろうな。
ネムは……蝶々を追いかけてどこかへ行ってしまった。
うらやましいヤツめ!
「――さて、ではそろそろ試し斬りをしてもらいましょうか?」
「リリィちゃん、すごいですっ!」
拍手をするクーの手を、リリィはガシッと掴む。
「本当はこの技術を、自分の作った剣に試したかったの。……でも、まだまだ私は力不足。拍手はこの『突刺し姫』を超えた時に……ね?」
「……リリィちゃん」
「……クー!」
そして、二人は抱きしめ合う。
うん、よく分からないけど、仲良くなって良かった。
今後の二人の世界観が心配だけど、若いんだもん。
何とかなるさ!
「クーとリリィが仲良くなってよかったねっ」
おや?いつの間にかネムが帰ってきているぞ?
要領のいいヤツだな。
オレは……さっさと試し斬りをしてしまおうかね。
えっと、何だったっけ?
感度がどうとか言っていたような?……あんまり覚えていない。
取りあえず、斬ってみれば分かるだろう。
さっそくオレは、リリィが用意した試し切り用の植物の束を一つ切り払ってみた。
指に斬った藁の繊維一つ一つが感じとれる。――確かにこれは凄いかも知れない。
オレは楽しくなって色々な素材を試し斬りする。
これは布、これは木、これは……魔物の皮か。
まるで、素材に含まれる水分まで感じ取れるくらいに、腕に情報が伝わってくる。
これはオレの腕の延長線上に剣があるような錯覚を……いや、これはオレの手のひらなんかよりもよっぽど敏感に情報を伝えてくれる。
まるで、剣と脳がダイレクトに繋がっているようだ。
オレはリリィを見た。
……この子、マジで天才だわ。
「すごいでしょ?ちなみに、剣が折れてもその痛みは感じないから大丈夫よ?……まあ、そんな事は起こらないでしょうけど。――じゃあ、最後の実験よ。……これで目隠しして」
少しだけ得意げに、オレに目隠しの布を渡す。
オレはリリィに促されるまま、素直にその目隠しをした。
「じゃあ、クーもネムも……これから一切声を出しはダメよ?」
「わかったよっ!」
「はいっ!」
「ハルトはそのまま剣を振り回してみて。……そうね、何か……『円の剣陣』の型がいいわ」
オレは言われるがまま、『円の剣陣』の中で一番基本の型を行う。
「……どう?」
「どうって、……普通に目隠しで型をやっているのと変わらんぞ?……まあ、強いて言えば、新鮮な感じはするがな」
「魔力を込めてみて?」
言われた通り、オレは剣に魔力を込める。
うーん、中々うまく行かないな。
今度は、形をなぞりながら魔力を込める練習をしてみる。
しばらくして、腕から剣に向け、電気が通り抜けるような感覚が走った。
すると――
確かに凄いな。
風の一つ一つ、空気の一つ一つまで感じる事ができる。
それ所か、その刃に伝わった風が、何処へ抜けて何処へぶつかっていくのかまで感じる事ができるのだ。
……この剣なら、髪の毛だって八等分ケーキカットが出来そうだ。
「……上手くいったみたいね?じゃあ、次よ。私が指定する場所を斬ってみて」
リリィはそう言ってオレの近くへ来て、フォームを正した後、「このままの角度で、思いきり横なぎにしてみて?」と言った。
ふむ、何かを斬らせたいという事は分かった。
「――じゃあ、行くぞ!」
そう宣言して、オレはそのまま横になぐ。
風が、小さな壁の様な物にぶつかり、戻ってくるのが分かる。
これは布だな。
ずいぶん生地がいいみたいだ。
……そして、シルクか?
ツヤツヤとした感触が心地いい。
そして、これは?
柔らかくてあたたかで……そして弾力があり、芯が固い。……これは……!
まさか、そんな!!
止まれ!止まってくれ!
――刹那、クーの悲鳴が上がった。
「……おい、シャレにならねーぞ?」
オレは目隠しを取ってリリィを睨み付ける。
……剣は、リリィの首筋にギリギリふれた所で止まっていた。
「……貴方なら出来ると思ったから、やっただけだよ?」
首に剣を突き付けられた状態で、平然と答えるリリィ。
見ると首筋に赤い線が出来ている。
……血が出ていないって事は、切れてはいないって事だよな。
注意深く確認していると、中庭にふくそよ風によって、リリィの首に巻かれたストールとシルクの襟がハラりと地面に落ちた。
横を見ると、クーが腰を抜かし、ネムが目をつぶって震えていた。
「……剣を見ていると貴方の気持ちが分かるの。貴方はなるべく相手を苦しませないように殺す。それは冷酷ではないわ。……貴方の剣は優しい剣。大切なモノは壊せないの。……それを証明したかった」
確かにオレは人を殺した後、ネムに逃げている。
その晩はいいが、数日すると罪悪感でいっぱいになる。
それは、魔物を殺した後だってそうだ。
この子はその気持ちを救ってくれようとしたのか?
「だからって、お前な……」
「これは実験なのよ?」
リリィは嬉しそうだ。
その表情は何かを勝ち取ったような自信に満ち溢れた表情をしていた。
……こういう時は、アレだよな。
「……リリィ、目をつぶれ」
「分かったわ!」
嬉しそうに眼をつぶって唇を上に向けるリリィ。
こいつは何も分かっていないな!
「――クー、ネム見ておけよ。前回クーは反省したから許したが、今度危険な事をしたらどうするか見せてやる!」
「……はっ、はいっ!」
「わ、わかった!」
リリィは未だ状況が理解出来ていないのか、頬を赤らめ「まだ?……恥ずかしいわ」なんて言っている。
オレは腕を大きく振り上げ、リリィの頭にげん骨を落とす!
「――ぐっ!……愛が痛いわ!」
さすがドワーフ、石頭だ。
けっこう強めにげん骨したはずなんだがな。
「愛じゃねーだろ!……今度こんな事したらげん骨じゃ済まないからな!……何でオレが怒ってるか分かるか?」
「……キスの仕方を間違えたかしら?」
「ちげーだろ!何でこんな危ない事したんだよ?」
「……だから、貴方なら出来ると分かっていたからよ。……信用していたのよ?」
「とにかく、危険な事は二度とするな。……分かったな?」
「危険?……した事ないわ?」
どうしよう。言葉が通じないよ?
オレは、助けを求めるようにネムとクーを見た。
二人は頭を押さえて目をつぶったまま、ジッとこらえているようだ。
……知ってるかい?痛みは伝染しないんだぜ?
その後、「ニコラモードのハルトには素直に謝った方がいい」というネムとクーの説得で、しぶしぶリリィは謝ってきた。
なんだかオレが悪いみたいな雰囲気になっているんだが、気のせいか?
そもそも「ニコラモード」って何さ?
どうも二人の中では共通認識でいるようだ。
多分『手つなぎの精霊ニコラ』を脅は……交渉した時の事を言っているのは分かるんだが、そんなにこわかったのか?
あの時オレ、頑張ったと思うんだがな。
……今日はショックでに眠れそうに無いよ、グスン。




