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第三章 エピローグ

 その後、オレたちはそそくさとイーブスの街に戻ってきた。


 クーによれば、イーブスの街を横断するように流れる河の真ん中を歩いて逃げて来たそうで、街を守る兵士には見つかっていないらしい。


 北門に居た兵士に話しかけると、まるでオレの事を知っているかのような口振りで、素直に通してくれたよ。


 なんだか拍子抜けしてしまった。


 しかし、街から出た時にクーが居なかった事がバレてしまったので、兵士たちにこっそり袖の下をお渡しして何事も無かった事にしてもらった。


 うん、こういう兵士の腐り具合大好きだぞ。

 こういう場合、オレの役に立っているんだからこれからは発酵兵士と呼ぼう。……あっ、なんだかBLっぽい名前で少し気分が悪くなってしまった。


 クーはと言えば、終始オレにくっつきっぱなしだ。

 もはや貼り付いているというレベルで、この子の前世はコバンザメなんじゃないかと思ってしまうほどだ。


 そして、何度も何度もお礼言ってくる。

 クーは今まで『氷の呪い』のせいで、温度すら感じる事が出来なかったのだと教えてくれた。


 うん、貼り付きたくなる気持ちも分からんでもないな。


 ネムはと言えば、真剣な顔で「ハルトがつかった魔法は、なに魔法なの?」と聞いてきた。


「あれは、ただの脅迫。……いや、召喚魔法?だぞ」


 とだけ言っておいた。


 瞳をキラキラさせ「召喚魔法すごいねっ!」と言うネムに「あれはただ、精霊を騙して脅迫しただけ」なんて本当の事は言えない。


 『手つなぎの精霊ニコラ』が直接やって来たんだし、召喚魔法でいいよな?


 これからは、アレが「召喚魔法」だ!

 



 さて、家に着いた。

 昨日からろくなものを食べてはいないので、とりあえず、ありあわせの物で料理を作る。


 温度を感じられないって事は、今まで料理も味気なかっただろうな。

 もっと早く気づいてあげたかったな。……そんな事を、作っている時に感じた。


 ネムは終始ご機嫌で、まさに大天使さまがこの世に降臨したかのようなご様子だ。

 今はルンルン気分でお風呂の準備をしてくれている。


「クー、眠くないか?ご飯を作っている間に寝ててもいいぞ?」

「だいじょうぶです。あの、わたしも手伝わせてください!」


 そう言って、ほほえんだであろう顔も、さぞかし天使だったんだろうな……と想像する。


 何故かと言うと、やはりクーは毛布を被っているんだよね。


「じゃあ、毛布を部屋に置いてくるように。……火のそばだし、大事な毛布が燃えちゃうかもしれないからな」


 別にクーの顔を見たくて、そんな事言ったんじゃないんだからねっ!


 その後、クーは楽しげに料理の手伝いをしてくれた。


 きっと、今まで料理の手伝いもしたかったんだなと思った。

 

 食事も終え、一人ずつ順番にお風呂に入った。

 一番初めにクーに入ってもらい、次がネムで、最後にオレの順番だな。


 クーに早く休んでもらうための配慮だったが、オレが入り終わるまで眠気をこらえて待っていてくれたようだ。


 結局、夕方の就寝と相成った。


 たまにはこんな日があってもいいよね?


 今日は、ネムの提案で3人でオレの部屋で寝る事になった。

 クーは女の子なので迷惑なんじゃないかと確認したんだが、顔を真っ赤にして首を横に振り続けるという、何とも形容しがたい珍妙な行動に出たので「迷惑がっていない」と判断し、一緒に寝る事になった。

 



 ――そして、布団の中。


 やはり、女の子と一緒に寝ると緊張してしまい眠る事が出来ない。


 ネムは、もうすっかり寝てしまっているようだ。

 オレのほっぺたを触りながら、幸せそうに寝息を立てている。


 目を開けてクーの方を見ると、カーテンを閉めた薄暗い中でバッチリ目が合ってしまった。


 とても眠そうな目をしているのに、何で眠らないんだろうな。


「……眠らないのかい?ひょっとして、緊張してる?」

「……はい。それもありますが……その……しあわせすぎて……寝てしまったら、もうここへもどって来られないような気がして……眠れないです」


 今までの事を考えると、そんな気持ちになるもんなのかな。


 クーがポツポツと話してくれる内容をまとめると「今までの事がすべて夢で、目が覚めると自分は牢屋の中に居るんじゃないか」と想像してしまったそうだ。


 今までに、何度も何度もそんな夢を見て来たんだとか。


「そうか。……うーん。……じゃあ、手をかして」


 オレはクーの手を握る。

 その手は、とっても暖かい。


 なんだかとっても、嬉しい気分にさせてくれる。


「これでも、ダメかい?」

「……ありがとう、ございます」


 よし、これで寝てくれるかな。


 それにしても、これからクーも甘えんぼになりそうだな。

 まあ、逃げたことは反省しているようだし、今まで頑張って来たんだから、いっぱい甘えさせるつもりだけどな。


 オレは目をつぶり、しばらくして……やはり目を開けた。


 うん、視線を感じたんだ。


 そして、手を握っていると眠りづらいんだよな。

 よく考えると……いや、よく考えなくても、今まで女の子と手を繋いで寝た経験なんて無いしな。


「……やっぱり眠れない?」

「……はい」


 クーは、オレに迷惑をかけていると感じたのか、シュンとしてしまっている。


 いかんな。

 ……イカンよ!


 オレは、クーのそんな顔は見たくないんだよ。

 

「一度手を放してもらえるかな?」


 その言葉に、クーは悲しそうな顔をして手を放す。


「……少し頭を上げてくれ」


 オレはそう言って、腕をクーの頭の下に置き、自分の方へ抱き寄せた。

 いわゆる腕枕で抱きしめている状態だな。


 クーはオレの胸へ顔をうずめてしまい、表情が分からなくなってしまった。


 嫌がっていないよな?


「……今度はどうかな?これなら、オレもネムも一緒にクーの夢の中へ行けそうだろ?」

「……はい」

「眠れそう?」

「……はい。あの、わたし……」


 クーがこちらを覗き込んだ。

 その瞳は少し潤んでいて、表情は満ち足りたような、それでいて物足りないような複雑な表情だった。


 ……なんと言うか、この子を守る為なら全てを捧げてもいいような、それなのに、この子の全てが知りたい。……そんな、気持ちにさせられる。


 なんだろう、この気持ちは?

 相反する気持ちがオレの中でグルグルとまわる。


 すごくドキドキして、幸せで、物足りくて……もっと近くに行きたくて……。


 これじゃあまるで、オレは――


「クー!」

「はいっ!」


 抱きしめているクーは、ものすごく熱い。

 その心臓の鼓動は早くて、今にもはち切れそうだ。


 いや、この心臓の鼓動はオレの?


 もはやどちらの心臓の音か分からない。

 

 どうしよう。

 オレ、今ものすんごく動揺しているようだ。


「あっ、あのさ」

「は、はいっ」

「……腕枕、痛くない?」

「だいじょうぶ……です」


 ……ああ、いや、オレって腕細いからさ。

 細いと骨っぽくて首が痛くなるって言うだろ?

 この身体になってから、どんだけ筋トレしても腕太くならないんだよね。


 いやー、こまった。こまった。


 あー、あれだな。これは緊張だな。

 女の子を腕枕するの初めてだし、変に緊張してしまったよ。


 あぶねーぜ。

 なんか変な勘違いしそうだったぜ!


「……じゃあ……うん、よかったよ。……眠れそうか?」

「……はい。……わがままを一つお許しください。……あのっ、ぎゅって……させて……ください」


 ……「ぎゅっ」って何?

 サブミッションじゃないよね?


 あははっ、そんな訳ないか。


 まったく、クーは甘えんぼだなー。


 変な勘違いしちゃだめだ!

 この子は親がいなくて甘えたいだけなんだ。


 オレはこの子の……親代わりなの!


「……ああ、もちろんだよ?」

「ありがとう、ございます。……あの、わたし、とても、とても、しあわせです!こんなわたしですが、永遠にご主人さまの奴隷でいさせてください。このご恩はかならず、おかえしします!……えと、……おやすみなさい」

「……ああ、おやすみ」


 しばらくして、クーは寝てしまった。

 オレに必死にしがみついているが、その寝顔は安らかだ。


 オレは、腕の中で眠るクーを見つめていた。


 強くなろう。

 そう、心に誓って。


 ――オレ、強くなるよ!

 自分の煩悩に負けない位な!


「大事な事なので――」

「――ハルト、うるさいよ?そして、鼻息がすごいよ?……しずかにしてよねっ」


 あっ、ごめん。

 もう静かにしますよ。


 

第三章はこれにて終了です。


重たい話でしたが、最後は王道的ハッピーエンド?がいいですよね!

ここまで読んで下さった方、本当にありがとうございます。

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