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第三章 31.モンスターペアレンツ

 そして、結論が出た。

 オレたちの結論から言えば……。


「クーは悪くない。悪いのは『湖の主』だ!」

「そうだよ!ボクたちで、ボッコボコにしちゃおうよっ!」


 オレたちは、クーが会ったという謎の存在を『湖の主』と呼ぶことにした。


 なぜ、クーが悪くないかって?考えてみてほしい。

 状況から考えて、これはそいつの管理不行届きが原因だろう。


 確かに、クーにも悪い部分はある。

 だがそれは言うなれば、「道端に札束を置いて、だれかが拾うまで陰で隠れて見ておきながら、拾った瞬間に泥棒扱いする」ようなもんだ。


 これって脅迫だよね?


 それに「行ってはならない」なんて掟は、我々の業界では「行け」と言われているようなもんだ。


 オレがその状況なら、絶対行く。

 間違いないね!


 なにより、陰険で粘着質なやり方が気に入らない。

 ここまでする意味がマジでわからん。


 オレは眠気も忘れてムカムカしていた。


 ウチの子をここまで追い詰めたやつには、必ず責任を取ってもらおう。

 今のオレは、どんなモンスターペアレンツよりも凶悪だぜ!?


 そして、クーが言っていた赤い宝石。

 キューブは、十中八九オレたちが探していたアレだろう。


 確かに、クーを初めて見たときに予感はあったのだ。

 本当に今更だがな。


 ……問題は、クーのこの力だ。


 『総ての中で一番美しい赤』が原因なのだろうか?

 それとも、『湖の主』の力だろうか?


 『湖の主』は、「罰を与える」とクーに言ったらしい。

 そして『総ての中で一番美しい赤』は『原始の海を枯らすモノ』の一部だ。


 あいつは真正の化け物みたいだからな。

 逆にこの程度で済むという事は無いはずだ。


 もし『総ての中で一番美しい赤』の影響だとしたら、もっとひどいことになっていただろう。

 それに、オレたちの世界を壊したり、この世界の神さまと互角だった力が奴隷魔法で弱まるなんて思えないのだ。


 多分、クーを雪女状態にしたのは『湖の主』だな。


 では、なんの為に?

 ひょっとしたら、『湖の主』は『総ての中で一番美しい赤』の力を封じ、他者に秘匿するために、クーを雪女状態にしたのかもしれない。


 じゃなかったら、関係ないものを巻き込んだ説明がつかないからな。


 クーは『総ての中で一番美しい赤』を封印するために雪女状態にさせられ、雪女状態を封印する為に奴隷契約魔法を施されているという事か。


 封印で生じた余波を、さらに別の封印で封じる。

 うーん、封印の破防ダムみたいなものだろうか?

 

 身体にわるそうだな。

 クーの余命が後数年と言われたのもうなずける。


 とりあえず、これは全部予想でしかない。

 だが、悩んでいても仕方がない。


 今はこの予想から、今後のプランを決めるとするか。


「まず、なんとかしてクーの力を弱めよう。身体には悪いだろうが、最後の手段として、また高等奴隷魔法をかける事になるかもしれない。許してほしい」


 気は進まないが、これはやるしかない……よな?


「……はい。もう、かくごはきまりました」

「そして、ネムの言うとおり『湖の主』をボコボコにして、何のためにこんな事をしたのか問いただそう。そして、クーの氷の力――これは『氷の呪い』だな。これを解くんだ」


 とりあえず、ボコボコにするのは確定だな。


 えっ?

 問答無用だよ?

 たとえ『湖の主』が最初から素直に話してきたとしても、まずはボコボコにしちゃる。


 まぁ、陰険で粘着気質なヤツだ。

 それはないだろうがな。


 『総ての中で一番美しい赤』の存在が不安だが……。

 その時に、なんとする方法を考えよう!


「おーっ!ボコボコにして、塩焼きにしちゃおうよ!」


 耳をぴょこぴょこさせ、乱暴にしっぽをふりまわすネム。


 ……ネム、お前の中で『湖の主』は魚で確定なんだな。


「その、わたしがわるいのです。あまり、その……」

「いい?クーはわるくないよ。一人でしょいこみすぎだよっ!」

「ネムちゃんありがとうございます……。だけど……ですが、ほんとうにあぶないんです。死んじゃうかもしれません。……むりは、しないでほしいのです」


 なるほど、それを心配していたのね。

 相変わらず口下手だが、気持ちは伝わった。


「大丈夫、無理はしない。でも『湖の主』が、なんでこんなことをしたのか聞かないといけないだろ?今はオレたちがいるんだ。協力すれば越えられない壁はないぜ。みんな一緒に強くなればいいさ!」


 月並みなセリフだが、今は前向きに……だな。


 そして、オレは毛布の上からクー頭を軽くポンポンとなでる。


「……はい。わたし、がんばりますっ!」


 うん、大分元気になったみたいだ。


 子供は元気が一番だな。

 もう何も心配しなくていい。


「そうだ、クーに言っておく。お前が見つけた赤い宝石は、オレたちが探していたものだ。状況を考えてお前が身体に取り込んでしまった可能性が高い。だから、強制的にお前はオレたちと一緒にいてもらう。有無は言わせない。まぁ、お前はオレの奴隷だ。元々拒否なんてさせないがな。だから、もう一人で抱え込まなくていい、心配しなくていい、何があっても一緒にいような」


 クーは、驚いたあと顔を真っ赤にして


「……はいっ!」


 と言って泣いた。


 本当に泣き虫だが、うれし泣きならいくらでもするといいさ。


 ネムはその様子を何度もうなずきながら見ている。


 前から思っていたのだが、ひょっとして君は、オレたちの保護者のつもりなのかい?


 結局、根本的な解決策は浮かばなかったが、クーは元気になった。

 これでしばらくは安心だな。


 日が出てきたので、オレたちは安全そうな場所を探しながら草原を目指す事にした。

 理由は、日向ぼっこしたい……ってだけだが、今のオレたちにはかなり重要項目だ。


 


 さてと、これからどうしようか。


 今オレたちは草原で日向ぼっこ中だ。

 太陽の下にいると、気分的にちょっぴり温かい気がするよな。


 さて、このまま街に戻ってもクーが雪女状態だ。

 中へ入れてもらえるか分からない。


 下手したら、化け物扱いで攻撃される可能性もある。

 もちろん、そうなったらオレたちが守るのだが、お尋ね者の状況になるのはちょっと面倒だ。


 それにまた、クーが傷つくだろうしな。

 それだけは避けないといけない。


 しまった!

 忘れていたが、クーは街を出るときに雪女状態を門番の兵士に見られているはずだ。


 これはオレたちも、うかつに街へは戻れないな。


「よーし。このまま街道に出て、王都を目指そう。王都なら高度な奴隷契約魔法が使える術士がいるはずだ。それからクーの故郷を目指そう」


 オレの『命令』で奴隷条件を変更できる可能性はあるのだが、もっとクーの身体に負担の少ない方法を探したい。


 取りあえず、最低限の荷物はある。

 急にいなくなるが、おっさんたちには後で手紙を書いておけば大丈夫。

 解決したらまた戻ってくるさ。


 あまりいい状況ではないが、何とかなるだろう。


 オレは元気いっぱいに言う。


「とりあえず、お日様の下でお昼寝タイムだ!これからは夜行動して昼間に寝ればいい。季節はもうすぐ夏だからな。クーの冷気で涼しく快適に眠れるぞ!」


 オレの考えを読んだのか、同じことを考えていたのか、クーが申し訳なさそうな顔をした。


 ……この子、こういう時、感がいいんだよな。


「そうだよ!これから夏なんだ。クーがいてくれればアイスクリームで大もうけできるよっ!」

「……あぁ!それなら、わたしもお手伝いできますっ!」


 うんうん。

 今、ネムさんがとてもイイ事を言いましたよ!


 なんせ天然の冷凍庫みたいだもんな。

 物事のイイ面を見ればいい。

 発想の転換だな。


 オレはネムの頭をなでる。


 いっそのこと、馬車を買って荷台をクーラーボックスにしてクーを輸送するのも手だな。

 そして、その中でアイスクリームを量産するのだ。


 ……イケルぜ、オレたちは大金持ちだ!


 勝利を確信し、満面の笑みのオレ。


「うわー、ハルトがきたないお顔してる。……これはへんなこと考えてるよ。クーは見ちゃだめだよっ!」


 ぐへ、なぜばれた!


 だが、よく考えてみると失礼な作戦だったな。

 アイスクリームを売るのはいいが、クーラーボックスに押し込めるって、見世物にされるより不憫だよな。


 大体荷台にクーラーボックスって、どうやって作るんだよ?!

 誰だね?こんなバカなこと考えるのは、反省しなさい!


「……あ、あのっ!……これから、わたしたちがどうやって街にはいるかが……もんだいなんですね」


 オレの汚い顔とやらをクーは華麗にスルーしてくれたらしい。

 優しい子だよね、グスン。


「らくな方法があればいいんだけどなー」

「……街にたちよるときは、わたし、外でまっています。……わたしは、魔物にもおそわれませんし……」


 確かにその方法が一番楽なんだよな。

 街でオレとネムが食料を買い込み、街の外で合流する。


 だが、あまりその手は使いたくない。


 何故なら……。


「それは、最後の手段だな。……だいたい、オレはまだクーを完全に信用していない。いつまた思いつめて逃げ出されるか分かったもんじゃない。衝動的になられても困るしな」


 それに、モンスターには襲われないかもしれないが、街の外で人間に出会って化け物扱いされても困る。

 オレはクーの事を化け物なんて思っていないが、他の人間は分からない。

 最悪殺されてしまうかもしれない。


 こちらが本音だが、クーには言わない方がいいだろう。


「……ううっ」


 信用していないという言葉に傷ついたのか、クーは涙目でこちらを見てくる。


「そこは気にするように。……絶対フォローしてやらないぞ」


 気持ちは分からんでもないが、オレ、クーが逃げ出してしまった事に関しては怒っているんだ。


 今回の事で、オレは甘やかすだけではダメだと分かった。


 うん、しっかり反省してくれたら甘やかすんだけどね。

 オレの意思は弱いからな!


「……はい。……ごめんなさい」

「うーん。ボクに奴隷契約魔法が使えたらなー」


 反省しているクーをよそに、ネムがそんな事を言う。


「やめとけ、契約添付魔法なんかクソだ。いいか、力を貸す『手つなぎの精霊ニコラ』ってのは、『手つなぎ』なんて平和的な名前で油断させて、絶対厳守の奴隷契約を結ばせる。ローン会社もびっくりな外道なんだぞ」


 よく聞く話では、「平和のために契約の仲立ちをする善意の精霊」とか言われているが、使われ方が悪いのか、力を貸す方が悪いのか分からないが、最悪の精霊だよ。


 ああそうか、両方悪いんだな。


「ハルトそんなにきらいなんだ。ボクは使い方しだいだと思うけどねっ」


 ネムの言いたい事はわかる。

 確かに使い方次第なんだ。


 ハサミや包丁なんかも便利な道具だが、人を傷つける事だってできる。

 契約の力だって、悪いやつに使えば、完全に自白させる事だって出来るだろう。


 すべては使う人次第なんだよな。


 ただ、現代日本に生まれたオレはどうも、絶対契約だとか、奴隷魔法に対して言い知れない不安感があるのだ。

 何というか、人格を完全に否定されている気がするというか、なんというか。……うまく、表現できない。


 自分がその状態に落とされるのが怖いのかもしれない。

 逃げられず、主人の命令は絶対で逆らえない。

 何をされるか分からない。


 恐怖以外の何物でもないよな。


 ん?待てよ。

 『主人の命令は絶対』で逆らえない?


 前回オレは、それを利用してクーの高等奴隷魔法を弱めた。

 ……オレの『命令』でだ。


 無理が効いたのは、オレの魔力が強かったからだ。

 オレの魔力が『手つなぎの精霊ニコラ』に干渉して変質させたといってもいいだろう。


 いや、奴らはオレの魔力がほしくて『無理』を聞いた……んだよな?

 ここに解決の糸口がある気がする。


 不意に、オレの中でパズルのピースがカチリとかみ合った。



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