表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/289

第三章 31.アイスクリーム大作戦

 しばらく、沈黙が続いた。


 オレは、震える身体を毛布で包み隠す。

 その中にネムもいた。


 クーは虚ろな瞳でアイスクリームをかき混ぜ続けている。


 とりあえず、何か作業をさせて気を紛らわせる作戦。

 名付けて『アイスクリーム大作戦』大成功だ!


 人によっては「訳がわからん!」と暴れ出す可能性があったが、そこは気弱なクーである。

 うまくいったな。


 ネムはさっきから心配そうにこちらを見つめるだけだ。


 ネムたん、オレ頑張りまちゅからね。

 今だけは、心の中だけは、赤ちゃん言葉を許してくだちゃい。


 ……さて、ネムたんパワー充電完了だ。

 

 シビアな交渉だが、必ず成功させてみせる。

 そんな気持ちを込めて、オレはネムに向かって無言でうなずいた。


 こんな軽口をたたいていると、たいして心配していないように思われるかもしれないが、そんな事はない。

 言っておくが、今までクーに話したことは全部本心だ。


 だが、それはそれ、これはこれ。

 この状況で、お互い感情のままに行動すれば、最悪の結果にしかならない。


 気分はグッドスピードだ。

 アルカトラズだって攻略してみせる。


 だが、クーをこの状態――雪女状態と名付けよう――にしたモノ(もしくはヤツ)の正体が見えてこないんだよな。


 クーの今までの話をまとめると、クーが何か悪いことをして、そのせいでクーは雪女状態になり、その氷で両親を殺してしまった。

 で、オレたちと一緒にいると、またクーの意思にかかわらず殺してしまうかもしれないからオレたちの前から居なくなり、一人死のうとしたと……。


 そりゃあ、逃げるように居なくなった訳も分からんでもない。


 うーん、思った以上にむごいな。


 クーが、自分の口で何があったかを話してくれるといいんだがな。

 状況が分かれば解決策も見つかるかもしれないし。


 なによりこういう場合、オレがミィーカに話した時もそうだったが、誰かに話すというのは自分で気持ちを整理していく効果があると思うんだ。


 嫌な事も愚痴ればスッキリするだろ?

 話すという行為は、心の清涼効果がある。――と思うぞ。


 ……でも、「小さい頃に自分で両親を殺した」なんて簡単には言えないよな。


 さて、クーさんや。

 追い詰められた表情でアイスクリームをかき混ぜるのはいいけど、実はもうとっくに出来ているんじゃよ。


 そろそろ、アイスクリームをクーから取り上げてみるか。


 オレは「そろそろ出来きあがりたぞ」と言ってボウルを取り上げ、オレとクーの間に置いた。

 しばらくボウルを見つめるクーだったが、やがて意を決したように話し出だす。


 さて、落ち着いて話せるかな。


「わたしは、し――」

「――っはい!時間切れ!!もう殺してあげません!死ぬのも許しません!」


 大声で叫ぶオレ!

 またしてもギリギリセーフだよな!?


「いいか。一つの道しかなくて、他に道が無いなんてことは決してないんだぞ」


 偉そうに言い放つ。


 何かの本に書かれていた言葉だ。

 自分の言葉ではないが、でもそれで人が救えるならいいじゃない。


「解決策を探そう。お前は一人じゃない。お前にはオレやネムが居るんだ。それに、解決策はある!(……と思うよ)」


 最後のはもちろん、聞こえないように小声でつぶやいた。


 クーは目を見開いてオレを見た。

 ネムもびっくりしている。


 いや、ネムさんや、お前も考えるんじゃ。

 いや、可愛くて癒されるけどもっ。


 ああ、頭をなでなでしたいっ。


「……どんな、『かいけつさく』が……あるというのですか……?」


 おっと、現実逃避している場合じゃないよな!


 ワラをもつかむ思い。

 まさに、そうなんだろうな。

 震える声で、クーはオレに聞いてきた。


 オレは言う。

 ――なるべく、声高らかに、自信満々にな。


「それは、後で教えよう!」


 必殺の詐欺師のテクである。

 人間とは質問に対してそのように回答すると、とりあえずの答えをもらった事で安心し、納得してしまう……らしい。


 いやまあ、クーはエルフなんだけど……試してみる価値はあるよな?


 ちなみにこのテクは、昔保険の勧誘をしていたという会社の先輩に教わった。

 勝率は……秘密である。


 下っ端営業マンの底力、見せてやる。

 下っ端には下っ端なりの戦い方があるのだよ!


 とりあえず、今からやるのは時間の引き延ばしだな。

 延ばせるだけ延ばしてやる。

 愚策かもしれないが、今はそれしかない。


 それに、解決策――希望があると思えば、クーだって落ち着いて話しやすいはずだ。


 そうだ!

 本当に解決策が見つから無ければ、オレが知っているフリをし続ければいい。


 「嘘をついたら墓場まで」だ。

 今回の使い方は間違いない。……これは絶対だ!!


「オレたちを信じてくれないか?約束するよ。絶対にオレはクーを見捨てたりしないし、嫌いにならない。だから何があったか教えてくれないか?」

「そうだよ。ボクたちはクーを守るよ!」


 クーは迷っているようだった。

 オレはクーの目を真剣に見つめる。


「……それともクーは、オレたちの事……信じられないか?」


 沈黙が包む。

 クーはオレの目をじっと覗き込む。


「……しんじて……信じています」


 消え入るような声だ。


「じゃあ、オレたちに教えてくれるね?」


 震えながらクーは首を縦に振ってくれた。


「ありがとう!よく決心してくれた。――よく頑張ったな、えらいぞ。ゆっくりでいいんだ、クーの言葉で聞かせてほしい。何があったか、本当はどうしたいのかを、ね。……なーに、時間はいっぱいある。オレたちに教えてくれよ」


 オレはアイスクリームを皿にわける。


「とりあえず、アイスクリームでも食べよう。せっかくクーが一生懸命作ってくれたんだ。甘くて美味しいぞ?」




 クーはアイスクリームを食べながら、ゆっくりと話しだした。


 初めのころはオレが質問した。

 クーの住んでいた村の事、友達の事、両親の事、いろいろだ。


 重い話になると、オレの冗談が炸裂する。


 ――いや、イイんだ。

 笑ってくれなくても、少しでも場が明るくなればさ。


 途中、話に詰まった時は、ネムが自分の捨て猫時代の体験談を話す。

 ぽつぽつと話す語り方はネムの可愛さもあいまって、オレたちの涙腺の堤防は決壊しまくりだった。


 それにしても、よくネムは覚えていたもんだな。


 そして、間をおいてクーの話しだ。


 ネムの体験談の後は話やすいみたいだな。

 ネムたん、さすがっす!

 グッジョブだ!


 オレたちは三人で泣きじゃくった。


 オレのコンプレックスは、なんて小さなものだったんだろうな。

 自分の小ささに悲しくなったぜ。


 そうそう、アイスクリームは好評だった。

 だが、オレ的にはまだ微妙だな。

 クーが作ってくれた分は美味しかったのだが、味付けはオレだからな。

 改良の余地はまだまだあると思う。


 アイスクリーム独特のねっとり感が無い。

 多分生クリームが必要だな。

 後は……バニラエッセンスも必要だ。


 なぜ、男やもめのオレがアイスクリームの作り方を知っていたかと言うとだな。

 実は高校の時、不良20人ぐらいに囲まれてボコられた事があったんだ。


 その後ショックで一か月くらい引きこもった。

 オレは心が幼児に退行していたのか、教育テレビをずっと見ていた。

 その時、子供向け料理番組で作り方を紹介していたのだ。


 クーやネムの話を聞くと、あまりにバカバカしい笑い話だ。

 ちなみに風のうわさでは、人違いだったらしい。


 クーにアイスクリームの感想を聞いた所、ポロポロ泣いた。


 そして微笑みながら――


「……甘くておいしいです。ほんとうに、あたたまります。……こころが」


 こう言った。


 ああ、そういう解釈ね。

 オレの聞いた「身体が温かくなる」って話はガセネタだったのかな。


 ともかく、その時のクーは今まで見た中で最高の笑顔だった。

 涙と鼻水がツララみたいにたれ下がって、目の下もはれ上がっていた。

 だが、そんな事は些細な事だ。


 オレとネムは、飛びつくようにして抱きしめた。


 また腕が凍ったが気にしない。

 本当はすっごく痛いのだが、気にしないのだ!


「もうっ!あぶないんですから、むやみにわたしにふれてはダメです!」


 ほっぺを真っ赤にして怒られてしまったよ。


 なあ、クーよ。

 ……それはフリだと思うの。


 その後、何度か抱きついてやったのは言うまでもない。


 途中からお酒も入っていたし、無礼講ということで……。


 エ?

 セクハラジャナイヨ?


 何度か抱きついた甲斐もあり、服の上からならさわってもしばらく凍る事は無いことが分かった。


 実は抱きつきながら実験をしていたのだよ。

 ……もっと早く気づけという声が聞こえそうな気がするが、オレだって今まで必死だったのだ。


 ただ、身体はすごく冷えた。

 元々ここは冷凍庫の中みたいだ。


 ……酒が、進むよね。


 オレたちがくしゃみをするたびに、クーは必死に謝ってくる。


 本当にこいつは気にしすぎだ。

 オレたちは好きでやっているのだから気にしなくていいのにね。


 そして、朝日が昇るころ、オレ達の話し合いも一区切りをむかえたのだった。


 俺たちが、異世界から来た事も伝えた。

 特殊な力を持っているから、一緒に居ても大丈夫だよとも伝えた。

 さすがに心臓や脳みそが凍ってしまったら死んでしまうのだが、それは言わない。


 クーは、異世界=遠い国と解釈したらしい。


 そうそう、目下のオレの悩みに関しては、結局話す事が出来なかった。

 さすがにこの雰囲気で「この世界に来て、オレのムスコが無くなったんだよね。ハハハハッ!」なんて言えなかった。


 言えないよね?





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ