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第三章 24.剣の巫女の遊び①

 翌朝、オレはいつもより早く起き、人気の無い川原でトレーニングを開始する。

 シャムロック氏との男の誓いを果たす為、全力で『円の剣陣』マスターに向け乗り出したのだ。


 本音を言えば、欲求不満を解消する為だ!


 ……ゴメンネ、シャムロック氏。


 ネムにはあの後平謝りし続け「今後はもっと運動をして、欲求不満の解消に努める」という約束をして許してもらった。


 ちなみに「ネムだってオレを噛むだろ?」という言い訳はしていない。

 なぜなら、オレはネムたんに噛んでもらいたいからだ!


 少し痛いが、オレに甘噛みするネムたんはすっごく可愛いんだぜ?

 そんな言い訳したら、これから噛んでもらえなくなる可能性だってあるのだ。


 フフフッ、オレとネムとでは立場がちがうのですよ!


 オレは、睡眠時間を5時間に削って、朝夜トレーニングをして欲求不満……いや『暗黒の力』の制御に勤める事にした。


 『暗黒の力』と言い直したのは、その方がカッコいいからだな。

 「欲求不満を解消するため運動をしている」と言うよりも、「『暗黒の力』を制御するため」と言った方が、やる気が出るに決まっている。


 モチベーションって大事だよな!


 本当は、さっさとオレの息子をどうにかしたいのだが、ネムの『何でも分かる帽子』でも、さすがに『息子の生やし方』までは分からんそうで、そんな事が出来そうな神様的存在も今の所発見出来ないそうだ。


 今後、オレたちの力がもっと強くなれば、その辺りの事も分かってくるかもしれない。


 思えば約三ヶ月、オレは性欲の解消どころか、排泄すらしていない。

 これって結構ストレスだよな。


 頻尿でさらにお腹の壊しやすいオレだったが、今思えば、それすら愛しい思い出だ。


 ああ、オレの中に暗黒の力が満ちて行くのを感じるぜ!


 昨日の『約百人斬り』でオレの短所もある程度分かって来た事だし、これはやるしかあるまい。

 レッツ、リフレッシュだ!!




「……ご主人さま。……どうぞ……コホッコホッ」

 

 朝食をとって、クーを寝室に送り届けた後の事だ。

 まだ薬が効いていないのか、今朝はセキがひどい。


 今日はこれから一人でギルドに行って、賞金の件を話し、その後リリィにシャムロックの剣を両手持ちが可能なように改造してもらう予定だ。


 ん?「どうぞ」って何だ?


 クーがオレに手を差し出して来る。

 少し考えて、オレはクーの手を握ってみる事にした。


「ご主人さま、わたしの、コホッ……手でよければ、コホッ……いつでもかんでください……」


 そう言って、クーはセキをする。


「……クー」


 何て顔をするんだ。

 その表情は、オレを心配するような、自分に出来る事を見つけて嬉しいような、慈愛に満ちた表情だ。

 風邪のせいもあってか、その為に全てを投げ出す決意を込めた表情にも見える。


 ネムを見ると「本当にクーを噛んじゃうの?」と心配そうな顔をしている。


 君は、オレに噛まれるのがそんなに嫌だったのか。

 そうだよな、オレのよだれ臭いもんな!ひーん。


 この状況を推測するに、ネムが昨晩の事をクーに話したという事だろうか?

 それとも、昨晩の話しを聞いていたのかも知れない。


 けっこう騒いでいたし、起こしてしまった可能性もある。

 それを聞いたクーが、オレたち二人がケンカをしたと思ってこんな行動に出たという事……かな。


 だが、これってさ。

 風邪を引いた少女に心配されてこんな行動されるってさ。

 すんごく傷つくぜ!?


 オレって、だれかれ構わず腕に噛みつけば満足するような、そんな凶暴なイメージか?

 心をえぐられるようだぜ?


 ここは、クーの腕に軽ーくキスをして誤魔化そうか。


 ……いや、そんなの無理だよ!?

 オレにそんなキザな真似出来るはずが無い!


 かと言って、病気の少女の腕に噛みつけるはずも無い。

 そんな事をすれば、クーは役に立ったと喜んでくれるかも知れないが、ネムにシバかれる可能性大だ。


「……オレはクーの手を握れるだけで満足なんだ」


 オレはまた訳の分からない事を言った後、ネムと必死に仲良しアピールをして家から出た。

 そう、戦略的撤退である。


 もうこんな思いは二度としたくない。

 こうなったら睡眠時間を3時間に削って、二度と失態を犯さないと誓おう!……兎角この世は住みづらいなぁ。




 冒険者ギルドに着いた。

 いきなり調査官殿に出会ってしまったよ。


 どうも泊まり込みで仕事をしていたらしく、妙にハイテンションで「ポップコーンを一生分食わせてやる!」と言われた。


 何だかテンションが変でこわかったよ、ブルブル。


 受付の課長さんにも、会った瞬間抱き着かれた。

 やはり、オレはこの世界でおっさんに好かれるようだ。


 どうも、ギルドでは人員が減ったようで、かなり慌ただしく職員さん達が動き回っていた。


 自業自得とは言え、忙しくさせているのはオレのせいだな。


 行きがけに、焼き菓子屋さんでかなりの量の焼き菓子を注文し届けてもらうように言っておいた。

 全員分足りるかは分からないが、糖分を補給して頑張ってもらいたい。


 オレはノーラちゃんと賞金についての話をし、そそくさとギルドを後にした。


 忙しいみたいだし、あまり長居すると迷惑をかけるしね。


 賞金はもちろん精霊マネーで受け取る事にした。

 おっさんたちへのボーナス20%は、ギルドが責任を持って3人へ分配してくれるそうだ。


 オレへの制裁も解除され『理想郷ユートピア』の件でも賞金が出るそうで、その分はこれから計算すると言っていた。

 オレが倒した94人の中にも大物が紛れ込んでいたようで、かなりの金額になるのではないかとノーラちゃんは言っていた。


 オレは、今回の『理想郷ユートピア』の賞金は全て『理想郷ユートピア』から被害にあった人たちへの援助に当ててもらう事にした。

 もちろん、殺した奴らの家族の救済も含めてだ。


 これは偽善、そしてオレの中の罪悪感を消すためだな。

 オレはチキンなので、何か逃げ道が欲しかったんだ。


 最後に、今回の件でオレはギルドのランクが上がると言われたが、どうするか迷い中だ。

 ランクが上がるとめんどくさい事に巻き込まれそうで嫌なんだよね。


 まあ、Bランク以上は領主さまや本部の審査に時間がかかるようなので、その時考えればいいか。

 めんどくさいようなら、適当ないい訳でもして辞退させてもらえばいいしね。




 さて、続いてリリィの所へやって来た。

 ここの店は『やまびこ』という名前だったはずだが、しばらく見ないうちに看板の名前が変わっている。


 その名も『武器防具制作工房・月影とネロ』


 ずいぶん、おしゃれな看板だ。

 なんのこっちゃ分からないが、ずいぶん垢抜けた名前になってしまったな。


 きっとブランド戦略の一種なのだろうが、オレは『やまびこ』って喫茶店みたいな名前が好きだったぞ。

 昔よく行った喫茶店が、若者に人気のカフェになってしまったような物悲しさを感じるぜ!


 店舗内を見回す。

 内装もずいぶんお洒落に変わっていて、どうも居心地が悪い。

 それに、ここにはもう、武器しか置いていないようだ。


 防具は、完全に大通りの店舗へ移したという事だろう。


 今日は親父は居ないようで、見たことのない綺麗な女性店員に案内されてリリィの作業場の所まで行った。


 ……そうとう儲けてやがるな、あの親父。




「……うわきもの」


 さてリリィだが、会った瞬間にそんな事を言った。

 どうもオレが持っている剣が増えていた事が気に入らないらしい。


 そして、オレが手に持つ剣をまじまじと観察した後、その顔が青ざめる。


「その剣を、放しなしなさい!」


 リリィにしては珍しい剣幕だ。


 ど、どうしたのよ?

 普段怒らない人が、急に怒るとビックリしてしまう。


「その剣は魔剣よ!……意識を、乗っ取られるわ」


 リリィは近くに置いてあった鍛冶用のハンマーを構え、オレを威嚇する。


 魔剣ねぇ。……シャムロック氏と戦った後、念のためこの剣を『何でも分かる帽子』で調べてもらってあるのだが、普通の剣だったんだよな。


 文献によるとこの剣は呪われていて、シャムロック氏の魂を取り込んで亡霊にしていたらしい。

 だが、オレのソウルイートで完全に浄化されてしまい、もうただの剣になってしまったようだ。


 オレは、剣をそのまま地面に落とすのも気が引けて、近くのテーブルに置く事にした。


「……何ともないの?」

「ああ、何ともないよ」


 リリィは不思議そうな顔をしてオレを見た後、なにやら特殊な手袋をはめてシャムロックの剣を鞘から抜き放つ。


「……うそよ。……これは……呪いが完全に消えているわ。……まるで聖剣。……これはどういう事?」


 聖剣ねぇ、この世界の常識は知らないが、オレからしたら魔剣も聖剣も同じ殺す為の道具だ。

 正直、違いがあるとは思えない。


 まあ、呪いとかそういう言葉はこわいけどさ。


 この場合、素直に「浄化されました」とも言いづらい。……また適当に誤魔化すか。


「オレは、聖剣も魔剣も無いと思うぞ。そんなの使う者次第だろ?」


 ドヤ顔で言ってみた。


 そんな事、さらっと言っちゃうオレ、かっこいい!


「それじゃ、説明になっていないわ?」


 ううっ、バレたか。

 普段のリリィならノッてくれたんだがな。


「――この剣は、ドワーフが作り出した魔剣よ。この剣は持ち主の魂を喰らい同化し、力を増し、持ち主や周囲に厄災を振りまく呪いの剣。何代にも渡り受け継がれ、今の名前は『シャムロックの剣』……剣士シャムロックの亡霊の憑代のはず。……それが何故、貴方が持っていて、さらには聖剣のような輝きを発しているのかしら?」


 やっべ、この子、この剣に相当詳しいぞ。

 この剣はそんな大層な剣だったのね。


 それにしても、この剣はソウルイートの劣化版みたいな能力を持っていたんだな。

 劣化版は恨みは浄化されないで蓄積していたって訳か。

 どうもシャムロック氏はそれを分かって、自分の力にするため使っていたっぽいけどな。


「正直に白状するとだな。……ちょっと前に、そのシャムロックの亡霊とかいう化け物をぶっ殺していてだな。剣がカッコイイから、このまま使っていこうと……」


 リリィはオレの発言に目を丸くする。


 まっ、この地域一番の大物を倒したら当然か。


「呪いが消えている理由は、分かりません!それに、そんな大層な剣とは知らなかったんだよ」

「……分からない……ね。今回はそれで許してあげるわ。……やっぱり、貴方がシャムロックを倒したのね」


 少しだけ悔しそうな顔をするリリィ。


 「やっぱり」ってどういう事だろう?


「まっ、運が良かっただけさ」

「……運ね。貴方がどれほどの力を隠しているか、今まで貴方の剣を見て来た私が分からないと思っているの?……人間の限界を超える力、スピード、それを扱う技量。――貴方は本当に人間族かしら?」


 どうしよう。

 もう、ほぼバレてしまっている。


 ウカツだった。

 確かに、この子ぐらいの腕なら気付いて当然かもしれない。


 ……いっそ、打ち明けてしまうか。


 オレがそんな事を考えているとリリィが嬉しそうに笑って


「……まあ、いいわ。答えはその沈黙が語っている。……今は聞かないであげる。私、人を追い詰めるのは嫌いなの」


 と言った。


 取りあえず、この子に全てバラすかどうかはネムと相談する事にしよう。

 今は助かったって事でいいよね?




「……で、今日は何しに来たの?」


 しばらく考えを巡らせていると、リリィが口を開く。


 やっとリリィがいつもの雰囲気に戻ったので、シャムロックの剣を両手持ち可能な様に改造してほしい事を伝えた。

 そして、全ての武具のメンテナンスもついでに頼んだ。


 リリィはオレの持っている全ての剣を見ると納得したような顔をしてこう言う。


「昨日の『百人斬り』は貴方ね?……今まで貴方は、一撃で敵を仕留めていたせいで癖が分からなかったけど、これでやっと見えてくるわね」


 剣を見ただけでそこまで分かってしまうのか。

 この子は今に、オレの防具を見ただけで息子が居ない事まで見破ってしまいそうだな。


 おじさん、恐ろしいよ。


「約百人な。――で、どうなんだ?シャムロックの剣は両手持ちに改造できそうか?」

「……そうね。この剣は、これで完成されているわ?通常ならお断りする所だけど、この子は貴方に協力したいみたい。――やってみるわ」

「……この子?剣は喋らんぞ」


 思わずツッコんでしまう。

 だって、剣に対して「この子」とかけっこう危ない発言だよな。


「そうよ?……剣に自我は無いけれど、気持ちはあるのよ?」


 自我は無いけど気持ちはある?……オレ、哲学的な事は苦手だよ。


 オレが怪訝な顔をしていたのが分かったのだろう、リリィが言葉を続ける。


「この子の本当の名前は『突刺し姫』。……今の所、貴方の力に耐えられるのはこの子だけよ。悔しいけどね」


 突刺し姫ね。……SMの女王様みたいな名前だな。


「……まあ、いいわ。でも、こっちの子……ファルカタがかわいそうね?」

「ああ、ファルカタは、どのくらい先になるか分からんが、貰い手が決まっているんだ。……死んだ両親の形見らしくてな。同じ型の剣が、もう一振り見つかったんだ」

「……ふーん、この子はそんな運命を持っていたのね。……その貰い手さんは、女の子かしら?」

「ああ、そうだが、……何で分かったんだ?」

「……女の勘よ。渡す時、もう一振りも持って来なさい。……面倒見てあげる」


 ヒゲの幼女の「女の勘」ってどうなんだ?

 まあ、当たってるんだけどさ。


「本人が冒険者を目指したがっていて困っているんだよ。リリィに研いでもらったら、余計にやる気出しそうで気が引けるな」

「そうなの?……弱い女は要らないって事かしら?……分かったわ。ふふ」


 何が可笑しいのか微笑むリリィ。


 この子の考えてる事も謎だよな。


「さて、シャムロックの剣。……じゃない『突刺し姫』の改造にはどのくらいかかりそうだ?」

「そうね。……手を入れる前に、貴方の癖をもっと見ておきたいわ」


 そう言って、リリィは自分のヒゲを顔から取り去った。


「……私と、手合せしましょ?」


 その表情は、見た目の幼さに反して、蠱惑的なものであった。




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