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第三章 22.調査官

 最後の一人を投げナイフで片付けると、なぜか四方から溢れんばかりの歓声がオレに向けられる。


 まあ、何人か逃がしてしまったがしょうがないよね。


 全てが終わって冷静になってみると、やり過ぎた。……と言うより、目立ちすぎてしまった。


 集中力や、武器の切れ味の関係で、ただでさえ『百人斬り』ってのは目立つのに、ここはレベルや魔法のある世界だ。


 一見レベルのある世界の方が『百人斬り』が容易そうに感じるかもしれないが、考えて欲しい。

 誰がどのくらいのレベルかも分からずに、無暗にやるだろうか?


 しかも味方が誰も居ない。

 1対100の状態でだ。


 初めの頃に倒した奴らは、明らかに高レベルだろう。


 ……マズイよな。

 今回は「玉無し野郎」の発言でキレれちゃったんだよな。


 やはり、この世界に来てからオレ、キレやすくなってるのかもしれん。

 今後注意しないとな。


 これがよく聞く「オチ〇ポには勝てなかったよ」っていう状態か?


 オレはそんな事を考えながら投げナイフを回収した。

 そして自分が血まみれな事に気が付いて、慌てて身体を水魔法できれい洗い流した後、生活魔法で乾かした。


 さて、何人か生き残っているようだし、助かりそうなやつは回復魔法をかけて今回の事件の証言をしてもらおう。


 ……それにしても、かなり大勢の人がオレを見ているな。


 なんで、みんなオレを見てんだよ!?

 こんなに沢山の人が見ていたんだったら、助けてくれたっていいじゃないか!


 恥ずかしいのでとんがり帽子を被って誤魔化そう。

 元々人に注目されるのは好きじゃないし、人を殺した後の顔なんかもっと見られたくない。

 丁度オリヴィアもギルドの建物から出てきているようだし、帽子を返してもらうか。


 オレはオリヴィアに近づいて行く。


 あれ?こいつ何だか顔が赤いぞ?

 もっと殺人者を見るように、青ざめた顔で見ているもんだと思ったんだがな。

 変な奴だ。


 どちらにしろ、今の姿は知り合いには見せたくない姿だ。

 あまり目を合わせたくない。


 オレは、目線をオリヴィアが持つとんがり帽子に定め歩み寄った。




「おーい、帽子をくれ」


 オリヴィアは、真剣な顔で帽子を見つめている。


 顔が赤いと思ったのは気のせいか?

 なんだか青ざめて見える。……やはり、オレがこわくなったのかも知れない。


 しょうがないか。

 自分の身を守る意味があったとはいえ、オレはただの危ない大量虐殺者だもんな。


「……はっ、はい。……こちらですわ」


 オレは、オリヴィアから帽子を受け取り被る。


 うん、やっぱ目線が隠せるだけで結構落ち着くな。


「そう言えば、Mr.A……じゃない。オレが両手両足切り落としたギルド元職員……前歯の無いやつは何処だ?」

「あちら……ですわ」


 オリヴィアの指をさす方を見ると、ギルド職員に囲まれリンチされているMr.Aが居た。


「おいおい、あまりかわいそうな事はするなよ。オレの大事な証言者なんだからな?」


 オレは、Mr.Aに回復魔法をかけてやる。


「よー、オレの活躍見てくれたかな?お前のお仲間は、ほとんど死んじゃったぜ?」

「ひぃいいい!頼む助けてっ!……命だけはたしゅけてくれぇ!」

「大丈夫、お前は死ねないよ。……こんな状態だ。死んだ方がよっぽど楽だがな。――所で誰か、オレが何人斬ったか分かる人いますかー?」

「はーい!」


 オレの呼びかけにノーラちゃんがやって来て答えてくれる。

 この娘も見ていたんだね。


「94人ですよ!」


 その頬は興奮して真っ赤だ。


 この子は前々から変わっているとは思っていたんだが、やはり少しおかしいらしい。

 きっとまた、何かの琴線にふれてしまったのだろう。


「いやー、100人まで後6人届かなかったなー?職員さんの中で『理想郷ユートピア』の方いらっしゃいますか?支部長と合わせて6人、血祭りになってもらえませんかね?」


 こいつらがちょっかいかけて来たんだし、もう名簿は公開だよな。


「あっ、後ろで逃げようとしているのは、アリスター・ヤコブセン・ギルド支部長さまですよ!あいつも『理想郷ユートピア』だ!捕まえない奴も『理想郷ユートピア』って事でいいかな?」


 オレの発言に、血相変えてアリスターに群がるギルド職員数名。


 お前ら、その行動は逆にバレバレでない?

 まあこいつらは、オレが名簿を持っている事を知らないだろうし、しょうがないか。


「……もうその辺りで良いのではないか?」


 オレは声の主の方へ振り返る。

 振り返った先には、あきれ顔で腕を組むランドルのおっさんがいた。


「おお、おっさん。ずいぶん早かったな」

「まったく、お前という奴はいつもやり過ぎるな。……ネムが襲われたと言っていたたので、もしやと思い駆けつけてみたのだが、心配は無用だったようだな」

「いや、助かるぜ。これから悪党を連行しなきゃいけないしな」


 オレは、Mr.Aをおっさんに見せる。


 ギルドだと裏切り者に殺されるかも知れない。

 街の兵士に引き渡すのがいいだろう

 これでこいつとはもう二度と会う事もあるまい。

 じゃあな、Mr.A。


 おっさんは渋い顔を作った後、腕を組み直した。


「その件で、俺の知り合いのギルド本部直轄の調査官が来ている。どうも、向こうもお前と面識があるようだぞ。――状況を説明出来るか?」


 おお、ついにやって来たか!

 調査官ってのはよく分からないが、組織の内部の不正を調査したりする人の事だよな。


 いやー、そういうカッコいい職業って憧れる。

 あの人、本部調直轄の調査官までやっていたのか。

 カッコいい男は、何のをやってもサマになるよな。


 オレの憧れ――今度はサインもらっちゃおうかな。


「もちろんだよ。――さあ、ジョニーさんの所へ案内してくれ!」

「ん?……」


 あれ?一瞬場の雰囲気がおかしくなったぞ?

 ひょっとして、ジョニーさんじゃないのか?


「……ジョニーの奴は、今頃翼竜狩りをしているのではないか?」


 そうなのか。……ちょっと残念だ。

 まあ、Aランクの冒険者がギルド本部調直轄の調査員って、出来過ぎな気がしないでも無かったんだよな。


 他に知り合いに調査官っぽい人はいるかな?……オレの担当のノーラちゃんって事も無いだろうしな。

 そんな事を考えていると、見知った顔がひょっこりギルドの中に入って来た。


 あれは、――ポップコーン屋の親父じゃないか。


「おーい、ダメだぞ。今は取り込み中だ。部外者が入ってくると危険だぞ」

「ああ、いや……」


 見ると今日は服装が違う。

 いつもの薄汚れたエプロンじゃ無く、貴族が着てそうな豪華な服を着ている。


「あっ、ひょっとしてポップコーンの配達か?……儲かってるみたいじゃんか?ええ?今度サービスしてくれよなっ!」


 ポップコーン屋の親父とおっさんは、二人で目を合わせ、困ったような顔をする。


 まさかこの二人、デキている訳ではあるまいな?


「コホン、……ハルトよ。驚かないで聞いてもらいたいのだが、こちらが俺の知り合いのギルド本部直轄の一級調査官殿だ」

「ああ、やっぱりな!前から怪しいと思っていたぜ。まあ、そっちも有りだと思うよ。オレに危害が無ければな。何だよ、てっきりおっさんは……今、なんて言った?」

「……こちらが、ギルド本部直轄の一級調査官殿と言ったのだが?」

「黙っていてすまないね。だが、これも仕事だ。――名前は偽名しか名乗れない事になっていてね。省略させて欲しい」


 まさか、この地味でハゲ散らかしたおっさんが、そんな立場の人なんて!


 だがそうか、調査官がそれと分かるようじゃ商売にならないよな。

 探偵が全員ホームズみたいなカッコしていたら、浮気調査なんて出来ないだろう。


「……ああ、そうだったのね。……ポップコーン美味しかったです。ハイ」

「この方とは昔ある依頼で知り合ってな。今もこの街の組織を調べる為、潜伏中だったらしいのだ」


 おっさんがそんな事を話している間にも、調査官の配下らしき人や兵士さんたちが、Mr.Aやら、オレに襲いかかって来たやつらやらを連行し出す。


 もちろん、死体なんかも一緒に片付けてくれている。


「ハルト殿、今回そなたが関わった組織……名前は言えんが、それが私の追っていた組織の可能性が高い。知っている事を教えてほしい」

「……そうですか。ああ、ここのギルド支部長も、その組織の一員のようですよ」

「何と!それは本当かね?」


 大げさに驚く調査官殿。


 オレはと言えば……あー、なんか色々めんどくさくなってきちゃったよ。


 そう言えばオレ、疲れたんだよね。

 これはこの人に名簿を渡しちゃえば、後の事は全部やってくれるって事でいいよね?


「……これが『理想郷ユートピア』の名簿ですよ。オレを襲って来たヤツに裏を取れば一発で分かるはず。……方法は任せますが、奴隷にして聞き出したら早いんじゃないですか?」

「な、な、何ぃ!こんなもの何処で!?そもそも『理想郷ユートピア』は決して表に出て来ない。名前すら知れ渡っていない組織なのだぞ?……我々だって、五年この街で情報収集を当たっていたが、一向に尻尾を出さなかったくらいだ。……それをどうして君が?」


 調査官殿はワナワナと震えている。

 さっきの大げさに感じた驚き方は、それぐらい大変な事だったらしい。


 やっべ!

 オレとんでもない地雷を踏んじまったみたいだ。


 どうやって誤魔化そうか?

 もう適当に、誰かからもらったとか言っちゃえばいいか!


 こういう場合下手なウソをついてもボロが出る恐れがあるもんな。

 逆に突拍子もない事を言ってやろう。


「……実は、公園をジョギングしていた時の話しなんですがね。……まだ朝とはいえ、薄暗い中オレは走っていたんですがね。急に空が明るく光ったんですよ。その瞬間オレは、見たことも無い機械に囲まれた部屋に瞬間移動しましてね。そこで貰ったんですよ。銀色で子供ぐらいの大きさの、目の異様に大きな生物に……ね」


 ちらっと二人を見る。


 ああ、その顔は何も信じていないって顔だ!


 テヘッ、作戦失敗だぁ。

 ちょっとショックである。


 二人には夢のある大人でいて欲しかったぞ!


「とにかく、オレが困っていたら、『善意のヒト』に手渡されたんですよ。――大事なのは、これが何処で手に入ったかじゃなくて、これをどう使うかでしょ?……この街が平和になる事が、大事なんじゃないですかぁ!?」


 今度はどうだろう?

 善意のネムたんに貰ったわけで、ウソは言っていないぞ!?


 うん、二人はしぶしぶ納得してくれたみたいだ。


 いやぁ、適当な事言ってみるもんだね!




 オレはその後、別室にて2時間ほど状況の説明をして家に帰った。

 2時間、長いようだが、ギルド職員さんやオリヴィアの証言もあって、それでも早く帰る事が出来たみたいだ。


 やはり、今度お礼しないとな。


 『剣士シャムロックの亡霊』の賞金の件は、明日話すという事で落ち着いた。

 ここまで来ると、さすがにギルドに嫌がらせする必要が無いので精霊マネーで受け取るつもりだ。


 ポップコーン屋の親父……いや、一級調査官殿の話しによると、これからはギルドの本部とここの領主さまが主導で、大々的に『理想郷ユートピア』撲滅キャンペーンを行うらしい。


 その時には協力してもらうと言われてしまった。


 難しい事は、その道のプロに任せるに限る。

 とりあえずまあ、一件落着と言った所だろうか。




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