第三章 20.円の剣陣
「おめでとうございます!あなたは、やはり最高の剣士でしたのね!」
ギルドを出ると、オレを見つけたのか、オリヴィアは駆け足でやってきて抱き着いて来た。
……鎧ってさ、沈むんだよ?なぜかニャ!
多分だが、この娘の言った「最高の剣士」ってのは『剣士シャムロックの亡霊』をオレが倒した事を言っているんだと思われる。
大方、ランドルのおっさんの朝練か何かで聞いたんだろうが、オレ……剣術は使ってないんだよな。
あまり罪悪感を刺激しないで欲しい。
それにしても……周りで嫌な気配ばかりするな。
「……オリヴィア、すまないが、今はそれ所じゃないようだ」
非常に名残惜しいが、オレはオリヴィアを引きはがす。
さて、敵は何人だ?
状況は分からんが、『理想郷』の構成員が、オレを血祭りに上げようとしているって事だけは分かった。
そういうのは、ギルド支部長の話しを聞いてからすればいいのに。
……まったく、悪の組織はバカばかりなのか?
オレからしたら、ここで大人数と戦っても意味は無い。
だが、あちらさんはそうも行かないようだ。
さーて、どうしたもんかね?
オリヴィアもこの殺気に気付いたのか剣を抜こうとする。
(……私も加勢致しますわ)
(いや、いい。ここは状況を見よう。さすがにこいつらも、街中で騒ぎは起こさないだろう)
ここは北門のすぐ近くだ。
兵士だって駐屯している。
こいつらがそこまでバカだとは思いたくない。
それに、どうも殺気を放つ数が多すぎる気がする。
……これは10や20じゃないだろう。
「よう、また会ったな。……『俺達を敵に回して只で済むと思うな』――そう忠告したはずだぜ?」
一人の男が声を掛けてきた。
こいつは……前歯が無いから、元ギルド職員で、今はお尋ね者で、『理想郷』の構成員で……名前は……忘れた。
めんどくさいから、Mr.Aとしよう。
Mr.Aは、前歯も無いのに流暢にしゃべり続ける。
きっと滑舌の練習を頑張ったに違いない。
それにしても、あれだけボロボロにやられて、まだ立ち向かってくるとはかなりのメンタルの強さだ。
そのメンタルを他の所で生かせば、かなりすごいヤツなんだがな。
「……良い事を教えてやろう。今頃お前の家に、我が組織20名の精鋭が到着している」
「ほう……で?」
我が組織って、お前下っ端だろ?……と突っ込んでやりたいがやめておいた。
あまりにもこいつが楽しそうにしゃべるので「邪魔しちゃ悪いかな」と気を利かせてみたんだ。
「まだ分からんのか?今頃はお前の不細工なペットも、汚い魔物のガキも、切り刻まれて便所のモップになっている頃だろうさ!キャハハハハハ!!」
不細工なペット?
汚い魔物のガキ?
オレの中で、一瞬時間が止まった気がした。
「……ん?何の事だ?家には『不細工なペット』は居ないし、『汚い魔物のガキ』も居ないぞ?……人違いじゃないのか?」
だって家には、『とっても可愛い天使で小悪魔』のネムたんと、『将来有望な超絶美少女』のクーアスティルさんこと、クーしかいないんだぞ?
「何言ってんだテメェ?恐怖で頭おかしくなったんじゃないか?よく聞けよ、お前のペットと奴隷のガキを、血祭りに上げてるって言ってんだよ!」
「なんと!お前、ネムとクーがそんな風に見えていたのか?この前、頭はあまり殴ってはいないはずなんだがな。……眼か?眼が悪いのか?」
ふむ、心が汚いと綺麗な物が歪んで見える類の奇病が発症したのかしら?
オレには、こいつの方がよっぽど小汚く見えるんだがな。
それにしても、家の最強ネムたんをたった20名で倒すつもりか。
まあ、見た目があんまり可愛らしいもんだから、実力が分かりづらいのはしょうがないか。
《ハルト!ハルト!聞こえる?》
おっ、ちょうどネムたんから念話だ。
《ああ、聞こえるぞ》
《今さっきわるいやつらが家にきたから、やっつけといたよ!人数がおおかったから、何人かころしちゃった。……ゴメンネ》
《ああ、しょうがない。そいつらにも覚悟はあったんだろうさ。……念のため聞くが、ケガはないか?》
《うんっケガなんかないよっ!クーが寝ていたから起こしたくなくて、一気にやっちゃったんだ》
そうか、クーももちろん無事か。
早く帰って、ご飯の準備をしないとな。
今日は、そうだな……ミルク粥なんかどうだろうか?
お米の調理法はまだ分からないが、八百屋のおばちゃんに聞いてみるか。
そんな事を考えて幸せに浸っていると、Mr.Aが衝撃の一言を放つ。
「玉無し野郎が。さっきから、気持ち悪ぃ顔で笑ってんじゃねぇ!」
――ブチッ!!
「おいコラ!!今なんつった!?」
こいつ、オレの今一番の気にしてる事を言いやがったな?
オレは玉無しどころか、チ〇コすらねーんだよ!!
《ハルト、どうしたの?きゅうにこわい声出して!》
《ああ、ごめんよネム。こっちも取り込み中なんだ。――こいつら片付けたら家に向かう事にするよ》
《……うん、わかったよ。じゃあ今日は『肉球』だね?》
《さっすが、ネムだ。楽しみにしてる!》
《うん。……クーには内緒だよ?――それと、ランドルさんとお知り合いの人が、わるいやつをつかまえてそっちに向かってるから、よろしくね。……じゃ、気をつけてねっ》
《うん。分かったよ。……じゃ、また後でね》
さてと、ランドルのおっさんがこちらに向かっているようだし、早めにケリをつけるとするか。
本当はあんまり暴力振るいたくないんだけどね。
知り合いの人って、十中八九あの人だよな?
あの人が動いてくれていたとなると本当に心強いよね!
オレはMr.Aに向き直る。
「おい、テメェ!今なんつった?もう一回言ってみろよ、タワケ!?」
「ああ?聞こえて無かったのか?玉無し野郎って言ったんだよ!」
……うん、空耳じゃなかったみたいだ。
オレは試しに『シャムロックの剣』を使ってMr.Aの両手両足を切り落とし、回復魔法をかける。
うん。素晴らしい切れ味だな。
細かい事は分からんが、剣のサイズ的にも申し分無い。
持ち手が片手持ち用で短いのがたまに傷だが、その辺はリリィに調整してもらうか。
せっかくシャムロック氏から『円の剣陣』を引き継いだんだ。
この剣も使って行こうかね。
「……ぐあっ、ひいぃいぃ!」
かくして、達磨の出来上がりという訳だ。
「お前は死なせないぞ?ここでジッとしていろ!――お前がここに居るってのは、オレからしたら、カモがネギ背負って、さらに土鍋に乗って、包丁持って来てくれた……そんな状態なんだからな!」
そう言った後、オレは念には念を入れてMr.Aをソウルイートで『体力3残しの刑』にしておいた。
前回は、オレが攻撃したと、怪しまれるといけないからしなかったんだよね。
さて、オレのこの行動で、剣を抜いたやつらはおよそ……100人という所か?
なるほど、Mr.Aも自信満々だった訳だ。
これはオレも、マジでやらないといけないな。
「や、やはり私も加勢いたしますわ」
「いや、お前はいい。この帽子を持ってギルド会館の中に入っていろ」
オレはオ、リヴィアにとんがり帽子を渡す。
この帽子は、オレ天然パーマ隠し……オシャレの必須アイテムだが、集団戦では視野が狭まる。
それに、この状況でオリヴィアが増えた所で、残念ながら足手まといでしかない。
オレは道の中心へ躍り出て叫んだ。
「ようこそブラック・パレードへ!――死にたいヤツはどいつだ?オレが死の世界へ招待してやるぜ!?Yee Haw!!」
悪いが少々機嫌が悪いんだ。
シャムロックから、『円の剣陣』を引き継いだ事だし、試し斬りをさせてもらおう。
「死にたくない奴は自力でかわせよ?オレは手加減なんか出来ないからな!……ギャハハハハッ!」
まずは、自信ありげに大男四名がオレの前に出て来た。
隊列を組まれて挑まれたら分が悪かったが、所詮こいつらは寄せ集めの集団って訳だ。
なるほど、大した事が無い。
オレが観察していると、怖気づいたと判断されたのか、大男の一人が手招きをしてくる。
「かかってこい」か。……そういう横綱相撲は、自分より弱い相手にやるんもんだぜ?
心底イラついたオレは、足元に転がる小石を蹴り上げ、大男の頭を吹き飛ばす。
ドサッと音を立てて、大男が地面に倒れ込む。
周りの男は状況が理解できないようだ。
……これは楽チンだな。
オレは、足元の小石を蹴り飛ばしてそのまま4人の男を始末した。
いや、後ろで運悪く被弾して転がっているのも合わせると7人か?
腹に小石が当たったやつは死ねないのだろう。
当たり所が悪かったのか、内臓をまき散らし転げまわっている。
運が悪いこって。
全てが片付いたら楽にしてやるよ。
さて、次だ。
万歳アタックのように、数名がオレに目がけ槍で突進してくる。
オレは数歩下がってかわした後、後ろに回り、一人を蹴り飛ばし仲間を攻撃させた後、槍をもった数名を横から斬り倒して行く。
その時、矢がオレに降り注いできたので、槍持ち野郎を盾にした後、落ちている槍を投げつけて突き殺した。
乱戦で弓ね。
味方ごと巻き込むつもりか?
いや、何も考えて無いんだろう。
一番初めに全員で仕掛けられたらヤバかった、かな?
これで、15人。
まだ、『円の剣陣』は使わせてもらっていない。
生憎、2・3日では汎用性の効く型しか覚えられなかったんだよな。
早くみんなで一斉に「ワー!」とか言いながらかかってきてくれないかな?
そんなオレの思いをよそに、魔道士風の奴らが少し離れた場所で呪文の演唱を始める。
……おいおい、そりゃあ冷めるぜ!?
もっとバレない様にやってくれよ!
オレは、投げナイフで魔道士たちの喉を射抜く。
くだらんヤツらにリリィ特製の投げナイフを使っちまった。
後で回収しないとな。
「くそう、こっちは数が居るんだ!集団でかかれ!」
一人の男がオレに剣を向け、まくし立てる。
そうそうソレだよ、待ってました!
オレは剣で直接地面に円を描き、その中心で構える。
ふむ、これは振り下ろしから、返しての二段攻撃。
そして、右の男はオレを突きたいんだな。
左のこいつは、明らかにフェイントで誘ってきている。
一歩出遅れたこいつは――
全てが予測できる。
なるほど、これが才能ある者が見る世界か……。
きっと兄貴や才能あるみんなは、この世界を、この瞬間を見て来たんだ。
シャムロック氏が言っていた「正面から戦い、才能ある者を倒す快感」とはコレか!
「――この事か!」
オレは逸る心を抑え、型をなぞる事に集中する。
数は31人と言った所か?
もうはっきり言って覚えていない。
初めは、短剣で相手の攻撃を受け流してから攻撃していたが、それは無駄な動きだと気付いた。
本来は一本の剣で両手・右手・左手と持ち替えながら戦いたいんだが、今はファルカタとの二刀流で行こう。
オレが一振りするたびに、血が吹き出し、絶命し、あるいはのた打ち回る。
かつてない高揚感と飢餓感がオレを支配する。
それはまるで、罪悪感などの戦いに不要な感情を麻痺させて行く、麻薬のように心地よい物だ。
「さあ、もっとだ!早くかかって来い!オレに殺されに来いよ!?」
――その時、後ろから不意の攻撃がオレの脇腹を襲う。
クッ、痛てぇーし、危ねーな!
脇腹に激痛が走る。
黒皮の鎧のおかげで、切られてはいないようだ。
オレたちの場合、体力は高くても普通に痛覚はある。
痛みは普通の人間と一緒だ。
二刀流は斬り殺す分には効率がいいんだが、やはり慣れないせいか視野が狭まるようだ。
オレは、後ろから狙った相手を串刺しにする。
……面倒クセェな!
まだ、色々な角度からの攻撃には対処しきれない。
そうだ!
頭を――オレの頭を狙わせればいい。
「おいおい、この鎧は特別製なんだ。そんな攻撃じゃビクともしねぇぞ?狙うなら頭を狙え。――オレは、兜も何もつけてねぇぞ!?」
オレがそう叫ぶと、周りの敵は素直に頭を狙ってくれるようになった。
素直なのはいい事だ。
これなら立ち回りやすい。
もっとだ!
もっと懸命にかかってこいよ!?
オレは、殺した相手が50を超えた辺りで数えるのを諦めた。
「……異国のお兄さん。ちょっと待っとくれよ!」
どこかで聞いた声がした。
はて、誰だったか?
オレは声の主を確認する。
その、一瞬の隙をついて攻撃を仕掛けて来たヤツを、オレは両断した。
この女、どこかで見たことが有るんだが思い出せない。
爬虫類みたいな顔の女だな。
それよりも、何を思ってこんな所に来ているんだ?
少しの思考の隙をついて後ろから斬りかかってくる男を、逆手にもったファルカタで突き殺すと、左右にいた斧使いと双剣使いを剣を抜く反動を利用し、回転しながらシャムロックの剣で喉を掻っ切った。
……いけないな、今のは無駄な動きが多かった。
もっと無駄をなくし、研ぎ澄ませていかなければ……。
この女の声で、集中力が一旦途切れたんだった。
……邪魔だな。
女はオレが敵数人を切り殺して行く間に、真正面にたどり着いたらしい。
それにしてもこの女、本当に邪魔だな。
誰か分からないが、不用意に間合いに入るようなら、斬り殺すだけだぜ?
オレの間合いまで、後3歩。
……2歩。
……1歩。
「お兄さん、私だ――」
「――ゼロだ」
オレは女の首を斬り飛ばした。
一瞬だけ女と目が合う。
その顔は微笑んでいた、様に思う。
はて?
誰だったか?……本当に思い出せないんだ。
まあ、苦しまず一瞬で死ねたんだ。
良かったんじゃないか?
崩れ落ちる女の腕には、短剣が握られていた。
まあ、敵だったという事だな。
奇襲に声を掛けるのか?
何のつもりか知らないが……戸惑いはしたよ。




