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第三章 15.お料理無双

「あのねっ!ボクがお庭の木で爪をとぎながら、『魔力のこめ具合による威力へんかのしみゅれーと』をしてた時なんだ!」


 家に帰ってくると、ネムが嬉しそうにオレたちに報告してくる。


 クーは疲れていたようなので、ベッドで休ませる事にした。

 今回は言う事をちゃんと聞いてくれたよ。


 ネムの言う「魔力の込め具合による威力変化シミュレート」ってのは、『何でも分かる帽子』に今までの魔法威力を登録しておいて、それを分析し、データ化する事で、状況に応じて最適な威力かつ低燃費な魔法運用を割り出そうとする試みらしい。

 これにより、継続戦闘能力を30%引き上げるのが、ネム博士の今後の目標なんだとか。


 ちなみに、ネム博士は上位魔法よりも下位魔法の方がお好きなようで、上位魔法は大規模魔法が多く、大味で素人好みなんだそうだ。


 そういう局面でも対応できるような魔法は使えるが、いかにコストを少なく、大規模魔法と同じ効果が出せるか。――というのが、最近のネムの関心事らしい。


 もうすでに、今使える大体の魔法のデータは取ってあるそうで、後は『何でも分かる帽子』でシミュレーションして行くだけなんだそうだ。


 うん、頭いてーな!

 よく分からないけど、好きな事やったらええ!


 オレは、ネムを信用しちょる!

 オレは天才でもおバカでも分け隔てなく接するでよ!


「ちょっと!ハルト、聞いているの?」

「……ネムさんや、ご飯はさっき食べましたよ?」

「もうっ!さいしょから説明するよ。ボクがね、お庭で爪を……そこはもういいや!お庭にいたら、へんな男4人がお家にちかづいてきたのが分かったんだ。でね――」


 今度はちゃんとネムの話を聞いていた。

 オレは、ネムさんにはあまり怒られたくないのだよ。


 ネムによると、変な男4人が、オレの家に火をつけようとしていたらしい。

 そこで我らがネムは後ろから近付いて、その4人を体力3だけ残し『ソウルイート』して追い払ったらしい。


 そう言えば帰り道で、ほふく前進している険しい顔の厳ついおじさんたちを見かけたな。

 何か大変な事情があるんだろうと、大人として完全にスル―していたんだが、まさかあいつらか?


「ネムちゃん、すごいです!」


 クーはネムの頭をそっとなでる。


 クーには『ソウルイート』は「魔法だよ」「他の人には話すな」と伝えておいた。


「えヘヘヘッ!もっとほめてよっ!」

「すごいぞ!ネムは、家の最強稼ぎ頭だもんな!」


 うん、これは間違いない。

 最近のネムは『何でも分かる帽子』を完璧に使いこなしている。

 オレなんか『何でも切れる剣』をまったく使いこなせていないのにな。


 あの剣は、何でも切れる代わりに、本当に何でも切ってしまうんだ。

 例えば、幽霊に乗り移られた人が居たとして、その幽霊を切る事は出来るんだが、乗り移られた人も一緒に斬り裂いてしまう。


 切りたいものだけ狙って切る事が出来ない。

 触れる物をみんな切ってしまう、かなり大雑把な武器なんだよな。


 オレはネムの頭をなでなでする。


「とうぜんさっ!ボクは二人のお兄ちゃんだからねっ!」


 この自信満々な顔、ピョコピョコする耳!そして、謎発言!

 可愛ええぇよう!


 その時、ふとクーを見ると、何とも羨ましそうな顔をしていた。

 そして、オレは気付いてしまった。


 ……まさか、いや、そうだよな。

 この子、ひょっとして、ネムをなでたいんじゃなくて、オレに頭をなでてもらいたいんじゃないかって事に!


 自意識過剰な考えかも知れないが、さっきクーはネムの頭をなでていたんだよな。

 だから、ネムの頭をなでたくて羨ましそうな顔をしていた訳では無いと思うんだ。


 これは、なでてあげた方がいいんだろうか?

 だが、何もないのに女の子の頭をなでるなんてマンガの主人公みたいな真似、オレには出来ない!


 なんだか、ものすごくモヤモヤしたが、二人でネムの頭をなでて、一人で食材の買い出しに向かう事にした。




 買い出しは順調だった。

 途中、八百屋と魚屋のおばちゃんずに捕まり「あのフードの女の子はなんだ?」と聞かれたが、「ケガをした子を看病してるんです」と答えると涙を流しながら、精が付くようにと色々な食材を恵んでくれた。


 いい人たちなんだが、ここまでしてもらうと引いてしまう。

 ……何だろう、刺激が足りないのだろうか?


 八百屋のおばちゃんからは秘伝のソースを頂き、魚屋のおばちゃんからは、なんと伝説の食材『突撃知らず』を安く売ってもらう事に成功した。


 『突撃知らず』……それは『突撃鱒』の別名だ。

 突撃鱒はこの時期、夏に備えて湖の底深くにもぐり、突撃してこない。

 故に『突撃知らず』だ!


 希少価値が高く、しかも湖の底深くで脂肪を蓄えているためその身は甘く、口に含めば油がとろける。

 知る人ぞ知る、究極にして至高の食材なのだ!


 うん。『トキシラズ』みたいな感じだな。


 その後オレは、米が食いたかったので、パエリアの売っている飯屋でテイクアウトし、焼き菓子屋でタルトを注文していった。

 タルトは急な注文だった為、焼きあがったらオレの家まで届けてくれるそうだ。


 多少高かったが、クーが甘い物好きだって言ってたしな。

 オレとネムは甘い物をあまり食べないんだが、たまにはいいだろう。


 本当はケーキが良かったんだが、ケーキはこの世界では貴族の食べ物らしく、庶民は中々食べられないらしい。

 オレの名前を聞いた時の、モニカ先生や新人ちゃんの反応の訳が分かった気がする。


 タルトは隠しておいて食後に出す……なんてのはどうだろうか?

 こういうサプライズな演出、憧れてたんだよね!




「さてさて、みなさん。今日の料理はこのオレ、料理人人生1週間の集大成です!そして、クーの歓迎会ですよっ!!とくとご賞味下さい。……いや、おめーら、貪り喰らいやがれっ!」


 オレは、テーブルに乗った白い布をどかす。


 ひょっとしたら、リリィもオレに完成した防具を見せる時こんな気持ちだったんじゃないだろうか?

 ワクワクして、ソワソワして、幸せな気分だ!


 まあ、オレの場合レシピ通りに作っただけなんだけどね。


 オレは並べられた料理を見る。

 別にフルコースじゃないので、適当に人数分テーブルに乗っている。


 まずはオレが作った『突撃知らずのムニエル・レモンバターソースかけ』だ。

 これにはたっぷりバターを使い、濃厚な味に仕上げてみた。


 付け合せに、『マッシュポテト』と『焼いたキノコとベーコンのバジルソース和え』で味にアクセントを加えてみた。

 バジルソースは、八百屋のおばちゃんの秘伝のソースだな。


 次に、『ジャガイモのポタージュ』だ。

 これはネムの好きなスープだったりする。

 これには隠し味で余った玉ねぎスープをこして入れてあるんだが、ネムには内緒だ。


 後はバランスを考えて、サラダなんかも用意した。

 『香草とモツァレラっぽいチーズのサラダ』に『ニンジンのマリネ』を乗せた感じかな。


 本当は、トマトが欲しかったんだけど手に入らなかったんだよね。


 そして、最後はオレが作った訳じゃないが、飯屋で買ったパエリアだな。

 ここは高級店で、本来はテイクアウトなんてやっていないんだが、ネムを店に入れる訳にいかず、ランドルのおっさんが無理やり交渉してやっとテイクアウトさせてもらえたという奇跡のお店だ。


 今回は、『謎の軟体生物と巨大プランクトンのパエリア』と『きのこのパエリア』を用意した。

 前者は、ネムの好きなパエリアだな。


 謎の軟体生物は、よく考えなければ美味いらしい。

 一見イカの足ようだが、触腕の先端に口がついていたりと中々デンジャラスな感じだ。

 貴重なタンパク源で、店の裏で栽培されているらしい。

 生で食べなければ問題が無いらしいぞ。


 オレは絶対喰わないけどな!


 巨大プランクトンは、オキア……『サクラエビ』みたいなもんだよな?

 まあ、オレは『キノコのパエリア』を食べるからいいけどね。


 料理を見て、クーは泣いていた。

 トラウマを刺激しちゃったかな?


「……こんな、すごい料理を、わたしなんかのためにっ……」


 意外と簡単な料理ばかりなのは内緒だ。

 何と言っても、料理を初めてまだ一週間だからね。

 でも、調理師ではないので詳しくは分からないが、栄養のバランスはいいかな、と自画自賛している。


「クー、気にするなよ。これはみんなが食べたかった物なんだからさ。――ほら、ネムも何か言えよ」


 ネムは、先ほどから下を向いてプルプル震えているんだよな。


 あれ?ネムも泣いているぞ?

 なぜだ?


「……うわぁーん!クーのおかげだよ!あの野菜炒めしかできないハルトがっ……あの、ハルトが!……うわぁーん!!」


 そう言って、ネムはクーに抱き着いた。


 おーい。めっちゃ失礼だぞ、それ!

 オレの野菜炒めだって、多少味に高低差があるだけで、ちゃんと食べる事が出来る(美味いとは言っていない)んだからね!


 まあ、真面目に料理してみようと思ったのは、この子のおかげだけどさ。


「クー、ありがとう!お家に来てくれてありがとうっ!」

「ネムちゃん……ううっ、うわぁーん」


 おーい。作ったオレは蚊帳の外かよ?

 なんだか作った感動が冷めてしまったよ。


 オレは、取りあえずパエリアなんかを皿に小分けによそって、クーとネムの二人に渡したのだった。



 

「どうだ?……食べられるか?味見もしたし、それなりに食えるはずだぞ?」

「はいっ!……こんなにすてきなお食事、ありがとうございます!すっごくおいしいです!」

「うんっ!すっごーくおいしいよ!『突撃知らずのムニエル』さいこうだよっ!」


 ネムは、せっかく覚えたフォーク使い方を忘れてしまったらしく、お皿に顔をくっつけて一心不乱に食べ続ける。


 クーはゆっくり味わいながら、目をつぶって、しかも泣きながら食べている。

 普段は自信なく垂れ下がっている耳も、こういう時はパタパタ動くんだな。


 それにしても、ついに出たぜ。泣き食い!

 だが、目をつぶるのはなぜだ?

 まさか感動し過ぎて、目から光が出る訳でもあるまい。


 まあ、顔が幸せそうだからいいんだけど。


 やっぱ女の子が幸せそうな顔をするだけで、最高の「ありがとう」を貰ったような気になるよな。


「ネム、ジャガイモのポタージュはどうだ?」

「おいしい!おいしいよっ!」


 よしよし、気付いていない。

 お母さん、作戦大成功だわ!


「クー、パエリア食べるか?……キノコと軟体生物、どっちが好きだ?」

「……きのこがおいしかったです」


 クーは遠慮がちに言ってくる。


 こんな時に遠慮するんじゃありません!


「よしっ!キノコだな。――ほら、キノコのパエリアだ。後でEXラウンドがあるから、食べすぎるなよ?」

「……はいっ!あの、ご主人さま……そのっ……」

「ネム、サラダの上に乗ってるニンジンのマリネも食べてみてくれ。力作なんだ。日持ちもするし、身体にいいんだぞ?」

「……ハルト、さっきから自分が食べてないよっ!ボクたちにえんりょしないで食べてよねっ」


 ああ、そう言えば食べて無かったな。

 何だか満ち足りてしまって、自分が食べるのを忘れていたよ。


 子供たちに気を使われるなんて、私ってダメね……。


「うん、今から食べるぜ!――オレはスロー・スターターなんだよ!」


 オレは必死に料理を口の中へかき込む。

 料理の味は、味見の時の数倍美味しかった。


 なんだろう、ヒトって悲しくもないのに、泣けるん……だよ?――って感じだった。


 うん。味の説明は、オレにさせないでくれ。


 それにしてもなぜだろう。

 オレの皿に謎の触腕が乗っているのは!?


 犯人は分かっているぞ。

 ネム、お前だな!




 さて、そろそろ食事も終盤だ。

 オレは立ち上がり、隠してあったタルトを棚から出す。


「じゃじゃーん!見てくれ『木苺とブルーベリーのタルト』だ!」 

「ひぇぇー!……こんな、こんな、ごうかなものを!」


 クーはアワアワしながら机の下に隠れる。

 どうやら、彼女は豪華なものを見すぎて限界を超えてしまったらしい。


 サプライズは成功し過ぎたようだ。


 だが何だろう、この子のリアクションから、とある落語を思い出すんだよな。

 ……わざとやっているのか?『まんじゅうこわい』はまだ、話していないはずなんだがな。


 確かに例の話には同情するんだが……今この状況でやられると、コメディーにしか見えないから不思議だ。


「アハハハハッ!クーってば、面白いよねっ!」


 ああ、ネムたんが大笑いしているよ!?


 そうか。ネムは例の話しを知らないんだった。


 やめてあげて!

 本人は大真面目にやっているのかも知れないんだから!


 うーん。それにしても、この子は元から貧乏性だったんじゃないだろうか?

 それが、トラウマと融合して今のこの状況か。


 まあ、倹約は美徳と言うしな。案外いい事なのかもしれないぞ。

 オレは割とお金が入ったら何でもほいほい買ってしまうんだが、こういう姿を見ると節約もしなくてはならないなと思う……事にしよう。


 そんな事を考えながら、オレはタルトを切り分けた。


 クーは中々席に戻ってこない。


 ひょっとしてこの子、さっき目をつぶっていたのは、まさか……。


「クー、さっきみたいに目をつぶって食べればこわくないぞ?」




 ……数分後。


「おいしいですっ、おいひいれすっ!」


 目をつぶって、タルトを頬張るクー。


 ああ、やっぱりこの子、おバカなのかしら?

 将来、悪い男に引っかかりそうで……お母さん、心配だわ。




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