表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/289

第三章 13.告白

 ――翌朝。

 クーは泣き疲れてしまったらしく、ぐっすり寝ていたようなので、そのまましばらく休ませる事にした。


 『寝る子は育つ』って、言うしね。


 その間に、オレはレシピのチェックを行う。

 今日の夕食へ向けての余念は無い。


 今日が、オレの料理人生一週間の集大成になるのだからな!


 気付けば昼前になっていたので、慌てて朝ごはんの準備をする。

 今日の朝ごはん――というよりブランチだな――は、トマトパスタ、昨日の残りの玉ねぎのスープ、サラダだ。


 ちょっと重めかもしれない。


 トマトソースは、八百屋のおばちゃんから分けてもらった。

 この世界のパンは固い物が多いので、オレはパスタをよく食べている。


 サラダにかけるドレッシングは、オレのお手製だ。

 これもレシピを教えてもらい作れるようになったんだが、案外簡単に出来るんだぜ。


 そして、スープがけっこう大変なんだよな。

 少なくともこの国に味噌は無いみたいだし、ダシの元やコンソメの元も無い。

 深い味にするのに苦労するんだ。


 オレはコンソメってどうやって作ればいいのか分からないんだよな。

 何か打撃に関係している事は想像できるんだが。……例えば、パンチ。……野菜を殴ってコンソメにするとか。


 うーん、謎だ!


 そんな訳で最近オレは、玉ねぎをあめ色になるまで炒めて、玉ねぎスープを作る事にしている。

 意外と簡単で美味しかったりするんだ。


 この世界では、大抵の人間は2食しか食べないようだが、クーには3食与えている。

 病人だし、食が細いんだよね。


 まあ、今回はしょうがないか。

 オレはもうすっかりこの家のお母さんなのだ!




 ガタッ……!


 おや?オレの部屋から音がしたぞ。

 クーが起きたのかもしれない。


 少し経って気配がしたので、後ろを振り返ってみると、扉の陰からビクビクとこちらを伺うクーの姿が……。


 相変わらず、小動物みたいだな。

 ひょっとして、寝坊した事を気にしているのか?


「よく眠れたかい?……オレが起こさなかっただけだから、気にしないでいいよ」

「あのっ、はい。……その……おはようござい……ます」

「おはよう。朝ごはんは食べられるかい?」

「……はいっ。あの、昨日はごめんなさい。……ねぼうして……ごめんなさぃ」

「いいよ。顔を洗って、ついでにネムも起こしてきてくれるかな?あいつ、二度寝してまだ起きないんだ」


 しばらく扉の前に立っているクー。

 例の前髪を抑えるポーズでオレを見つめてくる。

 いや、オレの耳やおでこ、首筋なんかをキョロキョロ見ている。


 目を合わせるのが恥ずかしいのかな?


「あのっ、……ご主人さま!」

「なんだい?」

「……昨日のことは、ゆめ……じゃないですよね?」


 昨日の事?

 なんだかオレが手を出したみたいな言い方だが、多分奴隷契約の件だよな。


「夢じゃないよ。ご飯を食べたら、契約に行こう」

「……はいっ!ありがとうございます!」


 クーは満開の笑顔……ではないな。

 泣きながら、安心して微笑んでいるように見えた。


 一日ですっかり泣き虫になってしまったみたいだ。


 うーん。

 奴隷契約で喜ばれるって、けっこう複雑な心境……だな。


 ご飯を食べながら、オレたちの事を少しだけ話す事にした。

 どこまで話すかは悩んだが、異世界から来た事や、オレたちの特殊能力は黙っている事にした。

 その辺りは、話す機会があれば、だな。


 クーは、レモネードがお気に入りみたいでゴキュゴキュ飲む。

 しかもこの子は、小食ながら好き嫌い無いので、お母さん助かっています。


 ネムは玉ねぎスープが好きでは無いらしく、残すんだよな。

 猫は玉ねぎを食べると中毒になるんだっけ?

 まあ、もうその辺は『完全なる肉体』のおかげで関係ないみたいだけどさ。


 でもこいつ、ニンニクで味付けした料理は大好きみたいなんだよな。……これはただの好き嫌いかもしれん。


 まあ、自分で作る物に自分が食べられない物は当然無い。

 残った物は、オレが全部頂いてるから問題ないんだけどね。


 最近では、ネムはスプーンとフォークの使い方はマスターしている。

 ただ、ナイフの扱いが難しいらしい。


 どうも、力加減が難しいと本人が言っていた。


 ちなみに、パスタは食べやすいようにネムの分だけ5㎝くらいの長さにしてある。

 

 けっこう工夫してるんだぜ?


 さて、昨日話せなかった事の続きだな。


「実は、オレたちはある物を探してこの街にいるんだ。しばらくはこの街にいると思うが、発見したらまた旅に出ると思う。……急ぐ旅ではないが、これから少しずつ体力をつけるように」

「……はいっ!」


 オレは、クーもこれからの旅に連れて行くという固い決心をしたのだ。


 『元始の海を枯らすモノ』だっけ?

 ヤツは封印されてるみたいだし、今の所危険は少ないだろう。


 中立の国があれば、行った時に奴隷から解放して、成長したクーが、とある町(もしくは村)で大好きな人と巡り合うその日まで、お父さんはクーと一緒に居ます!


 ……ああ、その時の事を考えると、お父さん涙が……止まらないの、グスン。


「心配しなくても、クーはボクが守るよ!ボクはお兄ちゃんだからねっ!」

「……はいっ!」


 うん、クーは気合は入っているようだが、ネムの謎の「お兄ちゃん」発言はスルーなんだな。

 オレたちのメンバーに足りないのは、ツッコミ役かもしれない。


 オレの思いを知ってか知らずか、会話を続ける二人。


 もう少し待っててね。

 何だか今日は玉ねぎスープが塩辛いや。


 後は、そうだな。

 ……これは、奴隷契約の前に言わなければならないな。


「クー、これを言ったらお前に嫌われてしまうかもしれない。だが、告白しよう。――覚悟はいいか?」

「……わっ、わたしは、ご主人さまについていきます!おしえてください」


 おお、なぜか半ベソだが、決意の籠った瞳だ。

 これなら大丈夫だろう。


「オレはクーにウソをついている事があるんだ。……だからオレの告白を聞いて、『やっぱり奴隷になりたくはない』と言っても責めはしない。――分かったね?」


 クーは、オレの言葉に動揺しているようだ。

 なんたって、オレはこの子を騙しているんだからな。


 オレは覚悟を決めて話しはじめる。

 ネムは今からする話しに気付いたのか、肉球で目を隠し、耳はペシャンと垂らしてしまった。


 そうだろう、これは家庭崩壊の危機だからな!


「……気付いていないかもしれないが、実はオレ、人間族なんだ!」


 オレは猫耳カチューシャを取る。


 全てはこんな道具に頼ってしまったオレの失態なのだ。

 ……だが、ここまで打ち解ける事が出来たのはこの猫耳カチューシャのお蔭でもある。


 責任は全てオレにある。

 そう、弱いオレが悪いんだ!


「プルプルプル。オイラ、悪い人間じゃないよっ!」


 クーは口をポカンとあけて……


「……あの、その、知って……いました、よ?」


 そう言った。


 そう、知っていたんだってさ!


「……ん?知っていた?」

「……はい」


 あれれ、申し訳なさそうに言われたよ?


 ガーン!

 生まれて初めて頭の中で「ガーン」が聞こえたぞ!?


「な、なぜだ?……いつから見破っていた?」

「あの、えっと、お耳が4つ……でしたし、その、まえから……」


 そうか!

 良く考えたら耳族でも耳が4つはおかしいよね!


 ハハハハッ!

 オレはとんだピエロ野郎だ!


 泣けてくるっ!


「もう、クーったらっ!ハルトが打ち明けたら、驚いたフリしてあげてって言ったじゃないか……」

「ああっ、そうでした!……ごめんなさいっ、ごめんなさいっ!」


 ガーン!!

 人生二度目の「ガーン」が、もう聞こえてきたぞ……。

 ひょっとして、あの日の内緒話はそんな内容だったのか?


 なんだよ!

 とんだ茶番だよ!


 ……もうオレは泣きそうだ。

 二人の前にいたくないっ!


「……こうなったら、殿下の宝刀『ほっといて』カードを使わせてもらおう!もうオレの事なんか放っておいて!!……ひーん!」


 もう、しばらくは部屋に引きこもらせてもらう。


 ……オレは、オレは、……自分が大っ嫌いだぁ!!




 扉の外から、二人の必死の説得が聞こえる。


「……わたしがわるいんです!出てきてください!」

「ハルト、出ておいでよ。おご飯さめちゃうよ?」


 あれ?ネムの説得、けっこう適当じゃね?

 そんなんじゃ、天の岩戸に隠れたオレは出て来ないんだからね!


「ご主人さま。……わたしは、カチューシャを見たとき、その、うれしかったんです。……やさしい人だなって……おもったんです」


 そうだよ、説得ってのはこういうもんだよ。

 オレは今、感動しているぞ!


 さあて、ネムはどうなんだ?

 少しだけ気分が良くなってきたぞ。

 これで、オレへの愛の深さが分かるかもしれん!


 オレは扉に耳を当てて、ネムの挙動を探る。


「……もうっ!」


 ネムは、しばらく黙った(あれ?怒ってる?)後、コホンとセキをしてこう言った。


「……ハルト、契約しに行くんでしょ?これ以上は、クーがめいわくだよっ!いいかげん出て来ないと、もう頭を『なでなで』させてあげないよっ!?」

「グハッ……!」


 それは、マズい……!!


「……ごめんなさい。オレが悪かったよぉ。……ひーん!」


 オレはネムの愛の奴隷。

 この家で一番立場が低いのは、オレだと痛感した瞬間だった。




 こうして、オレの殿下の宝刀「ほっといて」は脆くも敗れ去った。


 オレは素直に扉を開けて、ネムをなでなでした後、食事に戻った。

 クーはネムをなでなでしているオレの姿を見て、なんだかうらやましそうな顔をしていた。


 うーん。

 後でネムに頼めばいいだけなのにな。


 どうやら、頼むのは恥ずかしいらしい。


 クーはまだ、恥ずかしがり屋さんのようだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ