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第三章 10.真理

 オレは、やまびこで親父たちの作った『検査規定』と『手順書』『製品仕様書』、後はラインの見取り図なんかを見せてもらう。


 なぜか、親父、奥さん、リリィまでドヤ顔だ。

 相当自信があったのだろう。


 確かにラインには工夫があり、ドワーフ独自の製法の秘密保持にはかなり気を使っているようだった。


 だが……。


「いいか。まず、安全を優先させる事、次に品質。効率の順位は一番下だ!――効率なんて一つの作業置きに日報をちゃんとつけて行けば、ある程度管理できるようになるんだ。それよりも、安全や品質をおろそかにした時に起きるロスの方が、はるかにでかいんだぞ!」

「ぐう!」


 リリィが唸る。

 悔しいらしい。


 ああ、ちなみにこれも、適当に言っただけな。

 ここへ来たら、一度ダメ出しするのが癖になってしまったようだ。


 大体オレはやってみるまで、こういう事は分からんのだよ。


 今言ったのは、工場でバイトしていた時の上司に言われた言葉だ。

 厳しい人だったが、ある意味オレの師匠だな。


 これは、この世界で魔物と戦う時にも生かされていると言っていい。


「だが、この『良い改善案を出した者には賞金を与える』ってのはいい案かもしれないな。少額でも少しはやる気に繋がるだろう。細かな改善案をもってるのは現場の人間だからな。ライン作業はやる気を失いやすい。やる気は金で買おう!――ちなみに、この案を考えたのは?」

「アタイだよ!」


 奥さんが鼻を膨らめながらオレにアピールする。


「おお、奥さんが一番分かってるみたいだな?これじゃあ、工場長は奥さんに決まりだな!」

「ぐううっ!」


 今度は親父が唸る。

 ドワーフって、単純な人が多いのかもしれない。


「……だが、検査規定や製品仕様書はかなりいい出来だぞ。さすがドワーフだ。職人のこだわりや良い部分が、ここに集結していると言っていい!」


 おお?

 今度は全員満面の笑みだぞ?


 オレ、ドワーフ相手なら宗教が開けるかもしれん。




 その後、適当にアドバイスをして、この会議は終了となった。


 ――この会議終了後、あるものをリリィに作らせた。


 リリィはしきりにオレの事を「……天才ね」と褒めてくれる。


 これだけ褒められると、オレも自分が天才だと認めざるを得ませんなぁ。

 ハハハハッ!




 ホクホク顔でやまびこから出て、古着屋でクーの服を買う。

 部屋着がメインだな。


 ちなみに下着(これは新品な!ブルセラじゃないよ?)を買う時は、ものすごく緊張した。

 クーの背格好を身振り手振りで店員に伝えて、何とか購入出来た。

 これは噂に聞く、かぼちゃパンツというヤツだろうか。


 その後、商店街まで行き、食材を購入した。

 魚はまだ買わない。……小骨が喉に刺さったら困るだろ?


 なんだか、今日の商店街のおばちゃんたちはやたら親切だった。

 赤い顔で、オレに大根やら人参やらを持たせてくる。


 近所の奥さんたちも集まってきて、料理のレシピも沢山教えてくれた。

 その時、ジョニーさんとの仲を聞かれたが「初対面です」と答えておいた。


 そして、オレはおばちゃんからある『真理』を授かる。


 ――真理。

 それは、「塩や調味料は、少しずつ味をみながら入れれば失敗しないわよ」である。


 眼から鱗、いや、イナズマがオレを走った!


 いやあ、言われてみればそうなんだよね。

 なぜオレは気付かなかったのだろう。


 いや、単純だからこその『真理』なんだろうな。


 おばちゃんたちは店を出る時も、オレにアドバイスしてくる。


「少しずつ入れるのよ?……キャー!」


 顔を、初心な少女のように赤らめオレに言う。

 最後の悲鳴はよく分からんが、きっと料理下手なオレを心配してくれているんだろうな。


 今日は、ジョニーさんに会ってから、いい事ばかりだぜ!


 オレは人情にふれ、優しい気持ちで家路についた。


 思えば、この異世界に来て、人の温かさにふれてばかりだな。

 悪いやつもいるけども、オレこの街が好きです!ってな。




「ただいまー!」


 家に着くとオレは、さっそくもらったレシピを元に調理に取り掛かろうとして……。


「ムムッ!お外からかえったら、おててを洗うことっ!」


 ひぃーん、おこられたよ!?

 この家のルールは、オレにだけいつもハードモードだ。


 止む無くオレは、ジョニーさんとの握手の思い出を洗い流したのだった。


 オレはクーに挨拶をして、料理に取り掛かる。

 今までは勘を頼りに適当に作っていたのだが、今回はレシピ通り慎重に作った。


 そう、このレシピは工場の手順書だと思えばいいんだ。

 そうすれば失敗するはずがない。


 カラカラに乾いたスポンジに水がしみ込むように、急激に料理の神髄が身体に染み渡って行くのを感じる。


 感じるぜぇ、この感覚!

 オレはついに、料理に覚醒したのだ!


 オレが料理を作っている間、ネムは台所とクーの部屋を行ったり来たりして、クーの事を色々教えてくれた。

 なんでも、あのボロボロの毛布は奴隷になる前から持っていたクーの唯一の私物なんだとか。

 

 確かに歴史を感じる一品だもんな。


 そして、今更ながらクーの年齢が、14歳らしい事が判明した。

 そう言えば聞いてなかったよね。


 ……人間の14歳にしては身体が小さい気がする。


 奴隷生活で栄養失調のせいだろうか?

 いや、種族的にも成長が遅いのかもしれないな。


 14歳と言えば多感なお年頃だ。

 もう少し女の子扱いしなくてはいけないなー、なんて思った。


 デリカシーの無いおっさんは、嫌われるからな!

 



「ねぇ、ホントにやるの?」

「ああ、もちろんだ、ネム。……なにか問題でも?」

「……ううん、ハルトがそれで満足なら、ボクはいいんだ」


 オレは、例の思い付きを試す事にしたんだ。


 ネムは残念そうな顔でオレを見る。


 何がいけないんだ?

 リリィは「天才だ」って、褒めてくれたんだぞ?


 オレは、クーの部屋のドアを開けた。


「にゃにゃにゃん!実はオレ、猫耳族だったのにゃん!ここにはこわい人間はいないぞ。……じゃない、いないにゃん!安心していいぞっ!……にゃん!」


 いかん、キャラが安定せん!

 にゃんとも話しづらいぞ!


 無理せず、語尾は普通の方がよかったか?


 クーはポカーンと口を開け、オレを……いや、頭に付けた『猫耳カチューシャ』を見つめる。

 一瞬バレたかとも思ったが、何も突っ込んでこない。


 これは、……成功だな!


 名付けて『猫耳カチューシャ大作戦』だ!


 耳族はみんな大好きなんだろ?

 これなら人間族がこわいクーでも話しやすいだろうし、気を使わなくていいはずだ。


 まさにオレって天才だな!


 ネムはお目々を肉球で隠して、プルプルしている。


 どうした?

 恥ずかしいのか?


 ああ、語尾が悪いのかな。


「……あの、ありがとう……ございます」


 ありがとう?

 そうか、家のルールだったな。

 さっそく使えるとは偉いじゃないか!


 使い方がおかしい気がするが、使い始めたばかりだもんな。

 気にする必要はない。


「今まで隠していてすまない……にゃん。――あの、語尾は普通でいいか?」

「あの、えと……はい」


 クーはなにやらモジモジし出す。


 ふふっ、さっそく耳族効果が出だしたみたいだな!


「そうか、助かる。――やれやれ、今までバカな人間のフリは大変だったよ。グアハハハハッ!」


 いかん、キャラがブレッブレだ!


 やはり、慣れない事はするもんじゃないな。

 このままじゃ、自分でも「人間を蝋人形にしてやる!」とか言い出しそうでこわい。


「では、ワガハイ……じゃない、オレは料理を運んでくるよ」


 そう言ってオレが部屋から出ると、ネムとクーが小声で真剣に話す声が聞こえてきた。


 盗み聞きはしない。

 オレはデリカシーのある男だからな!


 秘密は二人の仲を親密にすると言うし、これから二人はもっと仲良くなるぞ。


 それにしても、非常にホクホクした気分だ。

 子供が出来たらこんな気分になるのかな。


 オレは、結婚なんか出来ないだろうとあきらめていたんだが……こういうのも、悪くないな。


 このアイディアがひらめいたのはジョニーさんのお蔭だ。

 今度会ったらお礼をしないとな!




 今日の夕飯の献立は、『巨大ホッキ貝の貝柱と、カブのクリームシチュー』だ。

 ヨーグルトとオレンジのデザートもあるぞ。


 なんとこの巨大ホッキ貝の貝柱、タダで貰ったものだ。

 巨大ホッキ貝の先っちょなんかも魚屋のおばちゃんにもらったのだが、それは小さく切って、酒蒸し風にしてみた。


 フフフッ!真理を得たオレに、クリームシチューなど造作もない事なのだよ。


 ネムは、オレの料理の進歩に驚きを隠せないようだった。

 特に酒蒸しを気に入ってくれたみたいだった。


 もっと、褒めてくれてもいいんだぜ?


 クーに感想を聞いたら「おいしい」と言ってくれた。

 表情が明るい気がする。


 昨日と違い、お世辞でもうれしいよね。

 これが耳族効果、いや、猫耳カチューシャ効果かな!


 『猫耳カチューシャ大作戦』大成功である。






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