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第三章 6.工場神はかく語りき

 オレたちは昼までぐっすり寝ると、ドワーフが営む『武器防具の店やまびこ』へ向かった。


 前の晩は、ネムと遅くまでイチャイチャしてしまった。

 ネムはいつもより積極的で、とっても可愛いかったんだ。


 オレはルンルン気分で扉を開けた。


「待っていましたぞ。我等がドワーフの盟友、ハルト殿!」


 ちなみにコレ、武具屋のオヤジな。


 うん。「ハルト殿」から「我等がドワーフの盟友、ハルト殿」に進化したぞ!


「おう!親父も儲かってるみたいじゃないか!……この、商売上手!」

「ここに来るまでに、何人もリリィの鎧をきているのを見かけたよっ!……すごいね、すごいね!」


 確かにそうなんだよな。

 ここの鎧を装備しているのはランドルのおっさんだけじゃないんだ。


 これは本当に『流行っている』と言っていい。


 よくもまあ、あの適当な計画をここまで成功させたもんだ。

 それだけいい商品を作ったって事だよな!

 

 今回オレたちが呼ばれた訳は、工房の増設の相談……らしい。

 この親父もきっちり商売人の顔つきになり、最近では揉み手なんて技も覚えてしまったようだ。


 だが、オレに対して満面の笑みで揉み手をしてくるのはどうかと思うぞ。

 もはや、ファンタジーのドワーフ感ゼロだな。


「ハルト……ようこそ」


 リリィは最近おしゃれな感じになった。

 今日も、お気に入りらしいラズベリー色のベレー帽を被ってはいるが、やぼったい作業着は着ていない。

 フワフワしたレースのアレがソレで……半ズ、いや、ホットパンツ(子供が履いているとつい半ズボンと言いたくなる)が、アンニュイでコケティッシュな雰囲気を……ダメだ。もうイカン。


 これはオレだけかもしれないが、「おしゃれ」ってある一定の水準を超えると、訳が分からなくなってしまうんだよな。


 まあ、あれだな。

 何度見ても、ヒゲが非常に残念だ。

 

 そんなリリィだが、オレがこの店に来るたびに色々な物をくれたり、メンテナンスと称して黒皮の鎧をバージョンアップしてくれたりする。

 鎧のバージョンアップに関してはよく分からないが、この子のくれるアイテムは使いやすい物が多くて助かっている。


 前回来た時には、投げナイフを10個ほどもらった。

 かなりの業物のようだぞ。

 数度練習しただけで、狙った所に吸い込まれるように命中してくれるし、切れ味も凄まじい。


 もったいなくて、使いづらいのがたまにキズだがな。


「お茶を入れるわ?」

「お嬢様、お茶は俺が入れますから、座っていて下さい」


 最近親父は、オレたちの前でもリリィの事を「お嬢様」と呼ぶようになったんだよな。


 何でも、リリィが『剣の巫女』である事を隠していたんだとか。

 これは、完全に心を開いてくれたという事か。


 さすがに「巫女様」と呼ばないのは、客が入って来た時の配慮かな?


「……いいえ、私が入れるのよ?」


 そう言って、リリィがお茶を入れに行ってくれた。


 リリィの入れてくれるハーブティーはとっても美味い。

 親父と同じ物を使ってるらしいんだが、味がまったく違う気がする。


 やはりこれもセンスの違いかねぇ。


 さて、本題に入る前に雑談として、昨日までの出来事なんかをざっくり話す。

 親父は、神妙な顔つきで「最近、ギルド内の悪いうわさをちらほらと聞きますぜ。ハルト殿なら大丈夫だと思いますが、十分注意して下さい」と言われた。


 ギルド内……冒険者では無く、職員にも悪い噂があると言う事か?


 それを訪ねると親父は、口の前に人差し指を持ってきて「内緒ですぜ」とだけ言った。

 どうやら、相当まずい噂のようだ。


 オレの担当は新人ちゃんだ。

 オレは新人ちゃんの「DO・GE・ZA」を思い出す。

 

 ――あの子は、大丈夫そうだな。


 ここでリリィがお茶をもって部屋に入ってきたので、この話は収める事にした。


「で、相談なんですがね――」


 親父の話をまとめるとこうだ。

 ここの領主さまへの献上品として、鎧をプレゼントしたらしい。

 すると領主さまは、いたくその鎧が気に入り、兵士用にと取りあえず500個ほど注文をしてくれたらしいのだ。


 だが、そこで親父は困ってしまった。

 今だけでも不眠不休で鎧を作っているのに、兵士用の500個なんて、とてもじゃないが制作が追い付かない。

 嬉しい悲鳴だが、冒険者の予約を無視して領主さまの鎧を作ったんじゃ、信用が無くなる。

 だが、領主さまの注文を断る訳には行かない。


 親父は、困ったあげく領主さまにその事を伝えると、領主さまは大規模な工房の建設を許可してくれ、さらに費用を負担してくれると言ってきたそうだ。


 ありがたい話だが、親父からしたら大規模な工房なんかあっても、職人がいなきゃ鎧なんか作れない。

 ただ、ここまでしてくれると言われたからには、断る訳にも行かない。


 考え抜いたあげく、何も思い付かずに「何かいい案がないか」と、オレに相談してきたという事だった。


 よく見ると、親父の顔のクマが濃い。

 リリィは自分のデザインしたものが気に入られて嬉しい反面、親父を苦しめているので複雑な表情だ。


「親父、集められるドワーフの職人は何人までだ?」

「今いる職人を合わせて、20人が限界ですな」


 ……ふむ。

 確かに、これでは無理だと親父が嘆くのも分かる。


 ドワーフの鎧は、かなり難しい技術を使っているらしい。

 ちょっと前にリリィから自慢げに語られたが、さっぱり意味が分からなかったもんな。


 だが、ここが商売の大きなチャンスなんだよな。


 ピンチがチャンス。――これが典型的な例だろう。


 兵士用の500個の納期は分からんが、きっと新しい工房の建設が終わった後だろう。


 ここはやるしかないな。

 オレは考えをまとめ、ある提案を親父にした。


「……親父、この際職人的な考えを捨て、この工房を『ライン生産方式』にしないか?」

「なに?……ライン生産方式って?」


 リリィがワクワク顔でくいついて来たな。


 こいつ、こういう話大好きなんだよな。


「これもオレの国にあった方法なんだがな。――『ライン生産方式』ってのは、簡単に言うと『単一の製品を大量に生産するための方式』だな。作業員の配置を一連化させて、作業員毎に簡単な小加工をさせて、流れるように一個の製品にして行く。こうすると、多少は職人的な技術は必要になるが、一個の作業に集中できるので作業が簡略化され習熟が早くなるんだ。……不器用な奴でも、一つの事に集中すればある程度は出来るようになるだろ?素人を沢山集めて簡単な作業をやらせて、一つの物を作っていく生産方式の事……だな?」


 うん、多分これで説明はあっていると思う。

 確か『ライン生産方式』で儲けるための条件がいくつかあったような気がするが、今回は該当していると思う。


 鎧作りは、サイズや部品が違うだけでやってる事はほぼ同じだよな?


「本当にそんな事が出来るんですかい?」

「オレは出来ると思うんだがな。……儲けを出すのは親父次第だ。まず大事なのは、商品の『製品仕様書』と、作業毎の『手順書』の作成だ。これをどこまで細かく作るかで決まってくると思う。――これを見れば誰でも同じように、作業が完璧に出来る事が重要だ。……だが、それには勘や経験に頼ってきた職人気質の部分を、根本から見つめ直す必要があるぞ」

「……むう」


 親父が渋い顔をする。

 確かに、職人気質のドワーフには厳しい話かもしれないな。


「そして、もっとも重要なのが、検査員の育成だな。これも規定をしっかり設け、検査員誰もが同じ基準で検査できる事が大事だ。――これによって製品のクオリティーが保たれる。……大事な仕事だぞ」


 この、クオリティーのコントロールが営業時代最も大変だったんだよな。

 安い海外工場に頼んで、メールで日本語がわかる人とやり取りしたんだが、サンプルと全く違う物が届くなんてざらにあった。


 ライン作業は、学生の頃、夏休みを使って工場でバイトしたんだが、集中力が切れるとミスをするヤツが多かった気がする。


 ずっと同じ作業だからな。

 甘えが出るヤツもいるだろう。


 オレはと言えば、ものすごく不器用なんだが、得意分野だったな。


 同じ作業を続けると、少しずつ作業毎のタイムが削れていく。

 オレはその事に快感を覚え、型稽古のように無駄な動きを無くす事とミス根絶に勤めた所、工場での最速タイムをたたき出した事がある。


 不可能だと言われたタイムを超えた時、オレは工場神となったのだ!


 その後もざっくりと説明したり、親父たちの話しを聞きながら、適当に工程の図面を書いて親父に渡す。


 そして、作業員のやる気を向上させる案やらを一方的に親父に話し、親父に尋ねた。


「――こんな感じで、ラインごとのリーダーと、検査員にドワーフの職人を入れて作業をすれば出来そうな気がするんだ。まあ、やるかやらないかの判断は、親父に任せるよ」


 やっぱり言い切った後、けっこうスッキリしてしまったんだよね。


 後は任せたぜ!


「で、どうするんだ?」


 親父は少し悩んだ後答えた。


「……やってみるか!」


 覚悟を決めた親父の顔が、そこにはあった!

 ああ、オレはまた、純粋なドワーフを騙してしまったよ。


「こういう時のハルトが一番かっこいいよ!」


 そう言って、ネムはオレに抱きついてくる。


 フフフッ、昼間のオレはちょっと違うんだぜ?


「……これは、革命よ!」


 ワナワナと震えながらリリィがそう告げる。

 

 またオレは、勢いで異世界チート遊びをしてしまったようだ。


 ……もうしないように気を付けよう。


 またまた、やる気のようだし、今回は差し当たって兵士用の500個が生産出来ればいいんだもんな。

 マイナスにはならないはずだ。


 そう、心に言い聞かせる事にした。


 親父とリリィからは「『検査規定』と『手順書』そして『製品仕様書』が出来たらアドバイスを欲しい」と言われた。


 さっそく、作成するようだぞ。


「挿絵を入れると分かりやすいぞ」と、偉そうにアドバイスしてみた。


 けっこう適当だが、報酬をもらってやってる訳じゃないからいいよね?




 その後、やまびこで夕食をご馳走になった。

 奥さんの作る料理は最高に美味かった。


 ドワーフ料理と言うと、ワイルドな料理を想像していたのだが、割と素朴な料理だったよ。


 そうそう、奥さんに生まれたばかりの赤ちゃんを見せてもらった。

 つい1ヶ月ほど前に生まれた、女の子の赤ちゃんらしいのだが……リリィとそっくりの長くてこわいヒゲが生えている。


「……なあ、ヒゲ伸びるの、早くね?」


 その問いには、誰も答えてくれなかった。


 ドワーフの赤ちゃんは、ヒゲを生やして生まれてくると言うのだろうか?


 ネムは「赤ちゃんはどうやって生まれるの?」と、お約束のボケをかます。


 日本に居た頃、アパートに何度もデリバリーなおねえさんを呼んでいたので、分かっているはずなんだがな。


 親父と奥さんは、困った顔で色々と言っていた。


 それにしてもネムめ、二人をからかっているんだな。

 昨夜は天使のネムたんだったが、今日は小悪魔ネムたんか?


 本当に、可愛いやつである。




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