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第三章 5.腹ペコ戦士

 ようやく北門まで到着した。

 高い城壁を備えたイカツイ見た目ながら、帰ってくると、この状況も相まって心がホッとする。


《ハルト、ランドルさんがいるよっ!それにポンポンちゃんやミィーカちゃん、レイくんまでいる。……何かあったのかな?》


 本当だな。

 少し遠くだが、確かにあの馬車はおっさんの馬車だ。


 取りあえず、手を振ってみるか。


 オレが手を振ると、なぜかレイくんが猛ダッシュでこちらに走ってくる。


 その姿はまさに閃光……。

 彼に何があったというのだろうか?


 唖然とするオレに、レイくんが見事なタックルを仕掛けてきた。……じゃない、抱き着いてきた。


 オレ、男に抱擁されて喜ぶ趣味は無いんだが。

 これがこの男の育った村での挨拶じゃないだろうな?


「兄貴ぃ!……信じてやしたぜ!」


 そう言って涙を……いや、鼻水をオレに押し付けてくるレイくん……。


「ちょっと、落ち着けって!何があった?」

「何があったって……これから兄貴たちを探しに行く所だったんじゃないですかぁ!」


 探しに行く?

 ……ああ、オレたち、行方不明扱いにでもされてたのかな。


 オレが男に抱かれながらそんな事を考えていると、ミィーカとオリヴィアが小走りで追い付いてきた。


「ほら見なさい。(わたくし)は、ハルト様が山賊ごときに、やられるはずないと申しておりましたでしょう?」

「はぁ!?お前、半ベソかいてたじゃねーかよ?信じてたのは私だよ!」


 二人は目に涙をためながら喧嘩をはじめる。


 ヤンキーとお嬢様は永遠のライバルだ!

 この二人、やっぱり仲悪かったんだね。


 だが、ある事に気づき、オレはその二人の姿に目を奪われる事になる。

 それは、四つのお山と二つの谷が押し合いへし合いを始めたからだ!


 ――その姿は、まさに天地創造ニャ!


 どうせなら、この二人に抱きしめられたかったよ。


 その姿に、レイくんとオレはしばし目を奪われる。


「男同士で抱き合って、頬を赤らめていると勘違いされるぞ?……とにかく、無事でよかった」


 ランドルのおっさんが、馬車を引きやってきたようだ。


 よく見ると全員完全武装している。

 どうやら心配をかけてしまったらしい。


 オレは取りあえずみんなにお礼を言って、状況の確認を行った。




 おっさんによれば、山賊に襲撃された際、オレが一人で先走り、逃げる山賊を追いかけた。

 そして、戦線が崩壊した所を山賊の別働隊に、貨物の乗った馬車ごと奪われてしまった。


 その後、オレはそのまま行方不明になった。


 ――そう、オレたちを裏切った冒険者たちが、ギルドに報告したらしい。


 それを聞いたおっさんたちは、行動に疑問を持ちながらも、行方不明になったオレたちの捜索に向かう事にしたらしい。


 マライじいさんも来たがっていたらしいが、今回は山賊と戦う事を想定して残してきたんだとか。


 なるほど。

 大体話は分かった。


 だが、一つ疑問がある。

 それは――


「――このメンバーに、なんでミィーカが居るんだよ?お前は冒険者じゃないだろ?」

「うっせーな、ばか!わ、私は暇だからついて来てやったんだよ!?……文句あんのかよ!?」


 そう、オリヴィアとは最近「例の一件」を忘れてくれたらしく、打ち解けてきていたんだ。


 だが、この娘は……


 ははん。

 この娘、既成事実を作って、このまま冒険者になる気だったんじゃないだろうな?


 そんなの許しませんからね!


「お前、まだ冒険者になるの諦めていないのかよ?――だいたい、お前は肺が悪いんだろ?無理して山賊に捕まると、すごいこわい目に遭うんだからな?悪い事言わないから、やめとけよ」

「そ、そんなの覚悟してやってんだよ。お前がいらねぇ心配すんじゃねぇよ!」 

「ちょっと、『覚悟』とか簡単に言わないで欲しいですわ!だから私も『あなたは教会に帰れ』と申したはずです!」


 なにやらまた、二人でおっぱいをぶつけ合う遊びを始めたぞ。

 これが『仲良く喧嘩する』って事かもしれない。……ああ、混ざりたいニャ。


 男三人でその光景を愛でながら、今度はオレの方の状況説明するのだった。




「――なるほど、そう言う事か」


 おっさんが、ニヤリと猛獣のような笑みをこぼす。


「あの、『腹ペコ戦士(グリード・ウォーリア)』の野郎共め……ぶち殺してやんぜぇ!?」


 レイくんが頭の悪そ……じゃない。

 眉間にしわをよせ、狂犬のような雰囲気を放つ。


 ……これで二人とも、おっぱいを見ていなかったらサマになったんだがな。


 それにしても、あいつら『腹ペコ戦士(グリード・ウォーリア)』って名前だったんだな。

 こんなふざけた名前、中々忘れないはずだったんだが……ひょっとして初対面だったか?




 説明をあらかた終え、みんなには少女と女共の保護を頼んだ。


 オレとネムは『腹ペコ戦士(グリード・ウォーリア)』にお礼参りだ。

 おっさんたちもついて来たそうだったが、今回はネムとオレで行くと決めていた。


 おっさんに少女の事を耳打ちし、女共を見張ってもらうように頼んでおいた。


 ネムがずっと心配してそばにいたんだよね。

 どうも途中から回復魔法をかけたり、念動力を使って少女のお手伝いをしていたようだ。


 オレが「おっさんも、子供をいじめるのが大好きな口かい?」と聞くと「無意味な事はやらん」と疲れた顔で言っていた。


 おっさんにも何か思うところはあるようだが、大丈夫だろう。


 オレとネムは、前以てネムの索敵で調べてあった『腹ペコ戦士(グリード・ウォーリア)』の待つ、酒場へと目指した。




「――でよぉ、あのオカマ野郎の頭をよぅ、おもいきりぶん殴ってやった時の顔、お前らにも見せてやりたかったぜ」

「おいおい、殺してねぇだろうな?……ああいう奴は高く売れるんだぜ?」

「問題ねぇよ。今頃は山賊相手に腰振ってんだろうぜ!?」

「ちげぇねぇ、元々実力も無いのに『大虎殺し』に身体で取り入ったって噂だ。……テクはあるんだろうさ?――ギャハハハハハハハ!」

「おいおい、酒が不味くなるだろーが。気持ちの悪い話してんじゃねぇよ!」


 ――なるほどねぇ、オレはそういう風に思われてた訳だ。


 勉強に……なるなぁ。


《ハルト……もうがまんの限界だよ!やっちゃおうよ!》


 オレの横で、全身の毛を逆立てるネム。


《……まあまて、ネム。今回の一件を全て吐いてもらわなきゃならないんだ。――殺すなよ?》

《わかったっ!》

《その上で、地獄を見せてやろう。……まずはそうだな。ネムはやつらの足元にまわって、全員、体力3を残して、後はすべてソウルイートだ。――一生負け犬にしてやろうぜ!》

《……わかった!もうやるよ。――もうがまんしなくていいんだね!!》


 おお、今宵のネムは血に飢えておるよ……。


 ネムは、薄暗い酒場のテーブルの下をコッソリと進み、しっぽでちょこんと『腹ペコ戦士(グリード・ウォーリア)』どもの足に触れる。

 そして、全員の足を触り終えた後、光る眼でウインクしてこちらに合図をおくる。


 準備万端ってとこか。

 さぁて、……オレも行こうかね。


 やつらは酔いのせいか、自分たちの基礎能力が下がった事が分からないみたいだ。

 オレの悪口を肴に、酒を楽しむ。


 ……今のうちに楽しむがいいさ。

 人生最後の、楽しいお酒になるんだからな。


「……よう、腹ペコ共。ご注文の品はこちらでよろしいでしょうか?」

「あぁ?俺達は何も注文してねぇぞ!」


 あれ?まだオレに気付いてないのか?

 本当にお気楽なやつらだな。


「何をおっしゃいます。こちらは、当方のサービスでございます。――お受け取りください」


 オレはそう言って、ボスの生首をテーブルにドカリと乗せる。


 沸き立つ異臭。


 首はゴロンとテーブルで転がる。

 その口は閉り無く――舌が垂れた。


 まだ、状況が理解できないんだろう。

 場が一瞬凍りつく。


「な、な、な、なッッッ!?」

「……ギャー!!お前は!!」


 一瞬時が止まった後、口々に悲鳴を上げる『腹ペコ戦士(グリード・ウォーリア)』たち。


「おいおい、食事の前は手を合わせて『いただきます』だろー?」


 その反応いいねぇ。

 最高の気分だ!


 オレは、その反応をずっと想像しながらここまで歩いて来たんだ。

 もっと楽しませてくれよな?


「クソぅ!お前、生きてやがったんだな!!」

「こうなったら、やってやらぁ!」

「ぶっ殺してやる。……あれ?……な!?……身体が動かねぇ」

「ありゃ?……本当だ?……クソう、オメェ何しやがったんだ!!」

「ああ、重くて剣がもてねぇ……。ど、どうなってんだ……いったい?」


 腹ペコたちは、オレを見て立ち上がろうとするが、力が入らずジタバタともがく。


 お前らの筋力は、すでにレベル1の子供より低いんだよ、バーカ!!


 こいつらの罪がどういうもんか知らないし、レベルがいくつか知らねェが、これからはもう、一生這いつくばって生きるんだな!


「ギャハハハッ!ほら、どうしたんだ?かかってこいよ、ザコども。――実力も無いクセに粋がってんじゃねぇよ!!」


 オレは五人の身体を軽く蹴り上げてやる。


 悪いが、楽にはしてやらんぞ?


《ネム、『風槌』の魔法でこいつらを店の外に放り出してやれ。……ああ、そうだ。死なないように慎重にな》

《わかったっ!……風槌(エア・ハンマー)!》


 ネムはやっと自分の番かと、ルンルン気分で腹ペコどもを魔法で転がす。


 オレは、ネムが玉転がしをして遊んでいる間に、この店のマスターに金貨を数枚渡す事にした。


「邪魔したな。――改装代に充ててくれ」


 店中のチンピラ風冒険者どもが、悪魔でも見るかのような目でオレを見つめてやがる。


「これからは、オレを『そういう目』で見てくるヤツがいたら全員血祭じゃあ、ボケがぁ!!」


 オレは心の底からその言葉を吐き出して、店を後にした。


 その後、命乞いをする『腹ペコ戦士(グリード・ウォーリア)』を散々いたぶり、見ている街の人たちの前で悪事を白状させた後、ギルドに連行した。


「よぉーく見とけよ、コラ?……ハルトの兄貴に逆らうと、こうなるんだぜぇ?」

「文句があるヤツラはかかってきなぁ?全員私たちがぶっ飛ばしてやるからよぉ?」


 観衆にそう宣言するレイくんとミィーカ。


 こいつら、「待ってろ」と言ったのに、見に来てしまったらしい。


 てか、シスターがタンカ切ってどうすんだよ?

 これで猫を被ってる時のこいつは冒険者にすごく人気があるはずなんだが、いいのか?


 今後の営業に支障がでるぞ?


 この二人、生き別れの兄妹なんじゃないかってくらい行動が似てるんだが……血のつながりは無いと後日ミィーカが言っていた。

 確認した所をみると本人達も気になったようだ。

 



 ギルドで事情を説明し、山賊の生首や『腹ペコ戦士(グリード・ウォーリア)』を引き渡す。

 女共や少女からも事情を聞きたいとの事で、後はギルドに任せる事にした。


 少女の事が気になったので、お金を渡し、待遇をよくしてもらうようにお願いした。


 担当の職員は、割と気さくに対応してくれたので大丈夫だろうと思う。……まあ、お金が効いただけかもしれないがな。


 山賊の住処だった洞窟も調べた後、礼金などの支払いをしたいとの事。

 2日後にまた来て欲しいと言われた。


 少女が今後どういう扱いになるか分からないが、山賊の所に居るよりはマシになるだろう。


 その後オレたちはマライじいさんを呼び、お礼を兼ねて食事会を行った。

 嫌な思いも沢山したが、みんなのおかげで腐らずに済みそうだ。


 食事会にはレイくんの彼女さんもやって来た。

「いつもお世話になっています」と、深々と礼をされた。


 派手な見た目と違い、しっかりとした人みたいだ。

 どうもレイくんは、この彼女さんに頭が上がらないようだった。


 いい奥さんになりそうだね。





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