第三章 4.同じ生き物
酒を飲んで寝ている山賊が4名。
後ろから心臓を一突き、彼らにはこのまま死んでもらう事になった。
――これで、残りは後12人か。
「ハルトが怒ってるくらい、ボクだって怒ってるんだよ!」
そう言って、ネムは『石弾』の魔法を解き放つ。
それは、マシンガンのように山賊たちの身体に小さな穴をあけて行く。
――これで残り、4人。
途中泣きながら謝ってくる者がいたが、容赦はしなかった。
武器を隠し持っている可能性もあるしな。
こいつが一番身なりの良いヤツだった。
そうやって、全員殺して行った。
最後の一人には、オレの装備を保管している所まで案内してもらった。
オレの武器を装備しているやつも居たのだが、肝心の帽子が見つからなかったからだ。
「お、お、お、お願いします。た、助けて、助けて下さい」
そう言って、震えながら小便を漏らす男。
かわいそうだったったので、案内が終わるとすぐに楽にしてやった。
オレはとんがり帽子を目深にかぶり、ため息を一息つく。
……これでやっと、オレの顔が隠せる。
あまり人を殺している時の顔は、ネムに見せたくないからな。
「……だいじょうぶ?」
「ああ、大丈夫だよ。ただ……予想以上に重たいや」
「肉球のにおい、かぐ?」
「今はいいよ。でも家に帰ったら……覚悟しとけよ!」
「うんっ!」
「よし、じゃあ、捕まっている人たちを助けよう。案内、お願い出来るかな?」
「わかったっ。こっちだよ!」
オレは、人を殺した事で強ばり震える手を隠しながら、ネムの案内について行く事にした。
「ありがとうございます!」
口々にお礼をのべる女性たち。
どうにもこいつら、オレにベタベタ触ってくるのでいやーな感じだ。
オレを短剣で斬りつけてきたエルフの少女に比べて、みんなこぎれいな恰好をしているし、健康的だった。
全部で4人……。
あれ?
エルフの少女がいないぞ?
《ネム、捕まっているのはこれで全員か?》
《うん。そのはずだよ》
あの少女は、別の場所にいるのか?
それともあの様子だ。
もう死んでしまったのだろうか?
冒険者たちが裏切った証拠は、最悪本人たちに吐かせればいいか。
……だが、どうにも気になるな。
オレは、少女の事が気になるので女性たちに確認する事にした。
「捕まっている中に、エルフの少女はいませんでしたか?……確か、赤い目の女の子だったはずです」
「……あーあ、あの奴隷ね。あの奴隷なら貯蔵庫に居るはずだわ」
女性たちの中で、一番気の強そうな女がそう答える。
嫌な言い方だ。
山賊に捕まった、同じ仲間じゃないのかよ。
オレはムカつきを必死に抑え、貯蔵庫の場所を彼女たちから聞き出す。
「ギルドに証言してもらいたいことがあってね。貯蔵庫の場所を、教えてもらえませんか?」
「あんな使えない奴は放っておいて、さっさと逃げましょうよ。……あいつは新入りのくせに男たちに媚もしないで……おかげで、その分まで私たちが男の相手をさせられて、大変だったんだから」
最後の発言は小声で言っていたんだが、はっきり聞こえてしまったぞ。
女性は強かだ。
オレだって自分に力がなく、彼女たちと同じ立場なら、何をしてでも助かろうとしただろうな。
《……なんだか、助けたのに、いやなかんじだね》
《しょうがないよ。生きるのに必死なんだ。……己の知恵を使って生き抜こうとする事は、悪い事じゃないよ》
《……うん》
《取りあえず、貯蔵庫を見に行こう》
「――お兄さん!聞いてるのかい?さっさと逃げようよ。……山賊の仲間たちか来たらどうするんだい?」
「……取りあえず、オレは貯蔵庫に行ってみますよ。――逃げるならご勝手に」
オレはそう言ってこの場を後にした。
なんとなく、ここには居たくなかったからだ。
ネムの索敵に引っかからないという事は、少女が生きている可能性は低い。
あの、暗い絶望を宿した瞳を思い出した。
死んでいるなら暗い洞窟ではなく、せめて、日の当たる外で埋葬してやろう。
そう思った。
貯蔵庫は暗く、少し肌寒かった。
なぜ、奴隷を貯蔵庫に入れておくのか意味が分からない。……倉庫番でもさせていたのかな?
持ってきたランプの光で辺りを照らす。
奥の方で、ビクッと影が動き物陰に隠れる。
魔物か?
《ネム、なにかいるな?反応はあるか?》
《……うん、たった今、反応あったよ。たぶん探している女の子だ》
魔物かと思ったが、少女は生きていたみたいだな。
それにしても……なぜ今までネムの索敵に引っかからなかったんだ?
なにか、索敵を掻い潜る抜け穴が今回もあったのだろうか?
エルフだから、特別な能力をもっている……とかかな。
まあ、その辺は後で調べればいい。
少女が出て来ないって事は、オレに怯えているからなんだろう。
確かに、自分が斬りつけた相手がやってきたら警戒して当然だ。
オレは、なるべく優しげに声をかける事にした。
「おーい。そこに居るのはわかってる……よ。何もしないから出てこいよ?」
オレの呼びかけに、鎖の音が答えるようにして、影はこちらにゆっくり移動してくる。
「よう。元気だったか?」
「…………ぃ」
少女が何か言ったようだが、聞き取れない。
しばらく待っていると、ようやく、影が少女の形になった。
それにしても太い鎖だ。
鎖を鉄の首輪につながれた姿は、まるで動物。
……嫌な気分だ。
人に対して、絶対にしてはいけない事のように感じる。
少女は汚い毛布をかぶり、震えていた。
「……ごめんなさい。……さして、ごめんなさい。……ころさないで」
よく見ると、その顔は痣だらけだ。
きっとあの後やられたんだろう。
《……ひどいね》
《……ああ》
なんで子供に、こんな事が出来るんだろうな。
「大丈夫。君に危害を加えるつもりはないよ。今からオレたちはここから抜け出すつもりだ。君には証言をしてもらう為、オレたちについて来てもらいたいんだ。もちろん、悪いようにはしないよ。……君の鎖を切るけど、近づいていいかな?」
少女はしばらく黙った後、無言でコクンとうなずく。
さらに震える少女。
オレはゆっくり近づき、『何でも切れる剣』で鎖を首輪の根元から切ってやる。
本当は首輪も斬りたかったのだが、首まで切ってしまいそうでこわくて出来なかった。
少女は剣を怖がりながらも、必死に目をつぶって耐えてくれたようだ。
ついでに、回復魔法もかけてやるか。
「今から回復魔法をかけるからじっとしていろよ……治療の波」
あれ?
どうも魔法の効きが弱いようだぞ?
オレはもう一度魔法をかける事にした。
「……治療の波」
うん、よさそうだ。
暗くてよく見えないが、顔のあざも消えたみたいだ。
「どうだ?……痛いのは治った?」
「……はい。……あの……ごめんなさい」
うーむ。
この子は「ごめんなさい」しか言えないのか。
相当今までひどい目にあってきたんだろうな。
ここは「ありがとう」って、言ってもらいたかったんだがな。
その後、何度も謝ってくる少女に若干うんざりする。
状況から考えて脅されてやったみたいだし、オレは気にしちゃいないんだがな。
逆にこんなガリガリの状態でよくやったもんだと思ったぐらいだ。
「謝らなくていいぞ。オレは生きてるんだし……自分が生き残る為に必死にやったんだろ?誰にも責められないさ」
「……ごめんなさい」
ああ、もう!
イライラするな!
お前は、妖怪ごめんなさいお化けかよ!?
この子は腹が減ってるから、こんなマイナス思考になってしまうんだ。
そうに違いない。
いや、そう決めた!!
「とりあえずメシにするぞ!お前の他に捕まってたやつらもいる。お前もついて来い!」
オレは、捕まっていた女性たちに食事を作らせる事にした。
気の強そうな女もまだ居たみたいだ。
どうもこの女がグループのリーダー格のようで、ほかの女性たちもあまり言う事を聞いてくれなかった。
これじゃあ、助けなかった方がよかったのか?とも思ってしまったよ。
少女を生活魔法できれいにした後、倉庫にあった服を適当に選んで着せた。
さすがに女性たちの中で一番不衛生だったし、着ているものは服とは呼べないような代物だったからだ。
その上から汚い毛布をかぶる少女。……まあ、その毛布が気に入っているなら何も言わないけどさ。
ちなみに、着替えは覗いてないからねっ!
そして、食事の準備をしてもらっている間に、オレは山賊のリーダー格だった身なりのよい者、数名分の首を切断した。
ギルドに持って行くためだ。
切断した後、オレは嘔吐した。
ネムは途中で「かわるよ」と言ってはくれたが、これ自分がやると決めていた。
食事は、テーブルの上と地面に用意されていた。
気のせいか、地面の物は残り物……はっきり言って、残飯に見える。
これが誰の為に用意された物か気づいた時、オレは怒りに震えた。
オレはわざとつまずいたフリをして蹴り飛ばした後、自分の分を少女に与えた。
オレが食べたかった訳じゃないからな。
女共は久しぶりの豪華な食事に喜んでいるようだったが、その顔も、その言動も、もう同じ生物には見えなかった。
その後、女共にも服を着替えさせた。
その時、生活魔法をかけてほしいとせがまれた。
こいつらとはもうあまり会話はしたくない。
MPがもったいないとも思ったが、顔を妙に近づけて話しかけてくるのが不快で、早く会話を切り上げたかったので、仕方なくかけてやった。
そうして準備を終え、街まで出発できる状態になったのは昼前だった。
オレは、首の入った袋を女共に無理やり持たせ出発した。
これは、魔物が出没した際に備える為だ。
道中、気の強そうな女が散々文句を言ってきた。
「じゃあ、お前はここに残るか?……オレはそれでもかまわんぞ」
もうこいつらとはあまり話をしたくない。
せっかく助けてやったんだから、生かしはするがな。
「そういう事を言ってるんじゃないんだよ。私はこの気持ちの悪い奴隷に持たせればいいって言ってるんだよ!」
持って行く山賊の首はちょうど5人分。
少女にも持たせて、ちょうど一人一つのはずなんだが?
オレの不満そうな顔に気づいたんだろう。
気の強そうな女が言葉を続ける。
「いいかい。兄さんは異国の人みたいだから知らないかもしれないけど、闇族のエルフは魔物と一緒なんだよ。こいつに全部持たせればいいのさ!」
なるほど、そういう事ね。
今までの少女への扱いの訳が分かった気がする。
だが……魔物ねぇ。
オレにはお前らの方がよっぽど『得体の知れない化け物』に見えるんだがな。
少女を見る。
真っ青な顔をし、フラフラになりながらも何とかついて来ている状態だ。
元々この子には首一つだって、いや、歩いてついてくるのだって大変な事だろう。
よくこの状態を見てそんな事言えるもんだ。
「オレはな、別に誰が持っても構わないんだよ。ただ、この子が一人で持つとそれだけ時間がかかる。この辺りの森は危険だ。夜になる前に早く抜けてしまいたいんだ。……それとも、オレが首を持つから、お前たちが魔物と戦うか?オレはそれでもかまわないぞ」
それを聞いて黙る女共。
少女は責任を感じてか何度も謝ってくる。
……ああ、ダメだ。
オレ、またキレそうだよ?
《ハルト……もう少しのしんぼうだ。もう少ししたら街道だよ》
《わかってる。……がんばるよ》
オレの心のオアシスはネムたんだけだよ。
こんな感じで何度も休憩をはさみながら、街まで約1日の道のりをオレたちは歩ききった。
この苛立ちは、裏切った冒険者にぶつけよう。
そうオレは心に誓った。




