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第三章 1.二ヵ月後のおっさん

 オレが、この国で冒険者になって、早二ヵ月が経過した。


 国名は……今更だが『スオラ王国』と言うらしい。

 この大陸では、大国にあたるんだそうだ。


 季節はもうすぐ初夏。

 と言っても、このイーブスの街は標高が高いようで、あまり暑さは感じない。


 どうやらこの世界も一年は365日で、一日は24時間と、ほとんどオレたちがいた世界と変わらないようだ。


 この国では、曜日や月は神様や精霊の名前が使われている。

 その辺りも『言語・文字理解』のスキルで翻訳されるので別に問題ない。


 まあ、分かりやすいのは結構な事だね。


 この二ヵ月のオレたちの変化と言えば、基礎能力やスキルが増えた事くらいだろうか。


 

●加藤遥斗 

〈基礎能力〉

体力73・筋力74・器用70・敏捷73・精神力72・魔力71

〈スキル〉

『何でも切れる剣』『自己診断』『ソウルイート』『言語・文字理解』『全属性耐性』『自然回復速度UP』『剣術レベル2』『体術レベル2』『弓術レベル2』『投擲レベル2』『水魔法レベル1』『回復魔法レベル3』『生活魔法』


●加藤ネム 

〈基礎能力〉

体力71・筋力69・器用72・敏捷73・精神力72・魔力75

〈スキル〉

『何でも分かる帽子』『自己診断』『ソウルイート』『言語・文字理解』『全属性耐性』『自然回復速度UP』『火魔法レベル3』『風魔法レベル3』『水魔法レベル3』『土魔法レベル3』『回復魔法レベル2』『生活魔法』『念動力』



 とまあ、こんな感じだな。


 基礎能力に関しては「2か月もあってあまり上昇していないじゃないか」と思われるかもしれない。


 実は、少々問題があったのだ。


 その問題とは、50以降から急に能力が上昇しなくなった事である。

 オレは筋力を、ネムは魔力を重点的に上げて行ったのだが、ほどなくして50を境に上昇しなくなった。


 敵が弱いから上がらないのかとも思い、今度は低かった魔力を上げると筋力も少し上昇するようになる。


 ここでオレはピンと来た。


 ステータスはある次元まで行くと、お互いがお互いを補い合うように作用する。

 その影響は50あたりから顕著で、それ以上ステータスを伸ばすには、平均的に能力を上げていかないとステータスは上がらないのではないかと。


 攻撃を例にとって考えてみる。


 剣を振るのには、振る力(筋力)、スピード(俊敏)、それをコントロールする技量(器用さか?)そして、それを維持する体力が普段から関わっていると考えられる。


 オレが回復魔法を使い気絶したのも、足りない魔力を体力で補っているという事だろう。


 ――そう考えると、基礎能力が上がらなくなったのも不自然ではないような気がする。


 ネムが『何でも分かる帽子』を使い確認した所、「正解」と回答が出た。


 この手の問題は、疑問に思わないと確認しようが無いので、どうも発見が遅れてしまうんだよね。


 そしてその事を発見した時、オレはある裏ワザを思いついたのである。


 それは「ソウルイートで特定の基礎能力、例えば魔力だけ吸う事が出来ないか」というもの。

 こうすれば今まで選べなかった能力吸収が、欲しい基礎能力だけ吸い取る事が出来るのではないかと思った訳だ。


 この裏ワザはもちろん成功した。


「こんなセコい方法を思いつくなんて、さすがはハルトだねっ!」


 と、ネムから言われてしまった。


 褒められたんだよな?


 その時のネムの顔はとっても無邪気で、オレは、オレは……何も言い返せなかった。




 ……さて、つらい思い出は机の引き出しの奥にしまうとして、次はスキルだよな。


 オレは弓術のレベルが上昇し、投擲と水魔法を習得したくらいだ。

 どうも、武術系はレベル3以降の習得がかなり難しいらしい。


 ネムによると、レベル1で初心者から一般。

 レベル2でベテラン。

 レベル3で達人。

 レベル4で伝説クラスらしい。


 「レベル5はどうなの?」と聞いたら「ホントにホントにすごいっ!」だそうだ。


 うん。

 凄さだけは伝わって来たよ。


 料理なんかのスキルも取得出来たらいいんだが、スキルを奪うには相手の命を奪わなくてはいけない。


 さすがにオレでも、人を殺してまで欲しくはないな。


 ちなみに、ランドルのおっさんは料理がレベル2、剣術レベル2で、体術はレベル3らしい。

 あのおっさんは、確実に素手の方が強い事が判明してしまった。


 ネムはと言えば……なんだかすごい。としか言えない。

 4属性が全て達人クラスのレベル3、回復魔法もレベル2と、ほぼ独学で魔道書を使い覚えてしまっている。


 本人は、どうも『分かる』事が楽しいらしい。


「ハルトも楽しんでやればすぐにおぼえられるよ!」


 とか、言われてしまった。


 オレは「楽しんで勉強をする事」が、世の中で一番難しい作業だと思うんだ。

 

 今オレは、ネムのススメで一番初歩的な生活魔法の魔道書を読んでいる。

 これは、エドワードさんをソウルイートした際に奪った魔法だが、今まで見向きもしていなかったものだ。


 ……だって、弱そうだったし。


 ネム先生曰く、


「魔法はソウルイートで奪ったものより、自分で学んだものの方が応用がきくんだ。一度ソウルイートで手に入れたものも、もう一度魔道書で見直せばりかいもすすむし、応用のはばもひろがるよっ」


 だそうである。


 オレはネム先生の言う事を信じ、復習をしてみる事にした。


 初め覚えようとしていた、上位の回復魔法の魔道書(教会に置いてあった)は、オレには難しすぎたんだよね。


 読み進めて行くと分かった事だが、この生活魔法というヤツはかなり便利な魔法であった。

 この魔法、最下位の小精霊の力を借りるのだが、なんとこの精霊、4属性の力が使えるのだ。


 その名も、『お風呂の精霊トントン』。


 名前の通り、お風呂や水回りの魔法が多いようで、身体をきれいにする魔法や、水をきれいにする魔法、身体を乾かす魔法、火を起こす魔法、かまどを修復する魔法なんかもある。


 旅には最適な魔法だよな。


 この本(生活魔法の魔道書だな)によれば、『この精霊はきれい好きで、一週間以上お風呂に入らないと力を貸してくれなくなる』と、そんな子供でも分かる内容がもったいぶって書かれている。

 なんでも、この『お風呂の精霊トントン』は、お風呂のあかを舐めるのが大好きなので、人間に力を貸してくれているんだとか。


 ……きれい好きと言うか、ただ単にあかを舐めたいだけじゃないのか?


 ギブ&テイクな所がオレ好みだが、これじゃまんま、『妖怪あかなめ』だよな。


 オレは、異世界で妖怪の存在を確信した!


 ちなみに生活魔法には、『鞄の精霊ノンノ』の力を借りた収納魔法なんかもあるそうだ。


 もちろん、オレには使えない。

 本に簡単にふれられているのだが、『アメをささげる事で、鞄の中の空間を広げる便利な魔法です』だそうだ。


 こいつは飴好きか……。

 確か、オレのショルダーバッグにもかかっていたんだよな。


 オレは、空間を広げるって、凄い魔法だと思うんだ。

 こいつら小精霊って趣味が変なだけで、他の精霊より強い力を持っているんじゃないかと思ったりした。




 そんな感じで、オレたちの準備は整いつつあった。


 そろそろ、『元始の海を枯らすモノ』一部、『空を舞う唯一つの聡明な翼』『総ての中で一番美しい赤』だかなんだかを、探し始めてもいい頃じゃないかとネムにも相談してある。


 色々と聞き込みはしているんだが、『元始の海を枯らすモノ』一部についての情報は得られない。

 この名前は邪神くんが言っていただけで、この世界の住人には違う名前で呼ばれているのかもしれない。


 やっぱり一番怪しいのが、迷宮の中にあるという『神の宝玉』なんだよな。


 これをネムに調べてもらっても、何なのか分からないらしい。

 『元始の海を枯らすモノ』やこの世界の神さまなど、力が強いと『何でも分かる帽子』でも分からないらしいのだ。


 ……と言う事は、『神の宝玉』は調べる価値があるって事だよな?




 さてさて、近況を再確認した所で、オレたちは今何をしているのかと言うとだな……。

 朝、オレたちはいつものようにランドルのおっさんに家まで迎えに来てもらい、冒険者ギルドへと向かう途中の馬車の中……移動中だな。


 こういう時、運び屋と家が近いと楽でいい。


 ネムはいつもこの時間は眠いらしく、オレの膝の上でウトウトと舟をこいでいる。


 今日は、最近見つかった洞窟の調査隊へ物資を運ぶお仕事だ。

 なんでも同時に数個所見つかったらしく、何班かに分かれての行動となるらしい。


 ちなみに、おっさんとは別の班だ。


 大人数の募集の場合は、ギルド側が班編成を決める事がある。

 知り合い同士を組ませないのは、融通が利かないお役所の悪い所。……と、人見知りのオレは思ってしまうが、戦力やら人数に偏りがないよう、公平に決めている面もあるんだと思われる。


 まあ、何度か経験もあるし、特に問題は無いだろう。


 おっさんは何だか今日は気合が入っているようだ。

 いつもと違う装備を、チラチラとオレに見せてくる。


 あれ?

 その鎧は確か……。


「おっさん、その鎧は……」

「うむ、気付いてしまったか。この鎧は『荒ぶる戦士の鎧』と言ってな。武具屋やまびこの親父に、『新しく店を作ったので是非見に行って欲しい』と頼まれてな。そこで買ってしまったのだ。この型の鎧は、まあ、若者には分からんかもしれんが、古き戦士が着ていたとされる鎧でな。この腹筋の辺りが、凄く良い意匠をしているだろう?」


 ああ、間違いないね。

 それは腹筋鎧だ!


 でも、おかしいな。

 そんな型の鎧無かったはずだぞ。


「……その鎧、かなり高くなかったか?」

「ああ、まさかお前も知っていたのか?この鎧はフルオーダーメイド品でな。少々値は張ったが、この意匠だ。それにシリアルナンバーも、完全修理補償も、教会の加護まで付いているだ。冒険者時代の貯えを切り崩して購入したが、後悔はしていないぞ」


 おっさんは、黒光りするその鎧をうっとりとさする。


 おい、お前は運び屋じゃないのかよ。


 確か、やまびこの親父『一番安いモデルをおっさんに安値で卸す』とは言っていたが、まさか勢い余って最高級品を買ってしまうとは……。


 まあ、本人が気に入っているのなら、それでいいんだけどね。


 おっさんが着ると、いかにも『無敵の戦士』って感じで、とても似合っているのが妙に腹立たしい。


 その後も、おっさんは『男の憧れの黒影狼の毛皮が肩の部分にどうの』とか、『胸板を強調するプレートがどうだ』とか、鎧の自慢を垂れ流す。


「――とまあ、それでいて下品ではないこの意匠。素晴らしいとは思わんか?きっと、この意匠を考えたものは、古き物の良さを十分理解した上で、あえて新しさを加える事により、現在でも受け入れられる……いや、数倍進化させたと言ってよいな――」


 あっ、うん。

 おっさんの話しの途中ですが、カットさせて頂きます。


 オレは、ウンウンとうなずくフリをして聞き流す事に決めた。


 まったく、何が「気付いてしまったか」だよ。

 どうやら気合が入っているのではなく、ただ単に鎧を自慢したかっただけらしい。


 装備をチラチラ見せて来た時に気が付けばよかったよ。

 これがギャルゲーなら、おっさんの評価が上がる効果音が聞こえてきそうだぜ。


 そういや、ギャルゲーで思い出した。

 やまびこの親父の事だ。


 あのおっさんも最近おかしいんだよな。

 どうも商売がうまく行っているらしく、店に顔を出すたびオレの呼び方が変わるのだ。


 ボウズからはじまり、ハルト→ハルトくん→ハルトさん→ハルト殿(今ここだよ!)って感じに変化している。


 最終的にはどう変わるんだろうか?

 ハルト大明神……いや、「ハルト様結婚して!」がデフォの呼び方になるやもしれん……。


 オレが主役のギャルゲーヒロインは、おっさんしかいないのだろうか?


 そろそろお祓いか何かをした方がよいのではないか?


 そんな事を、考えてしまったよ。




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