第三章 プロローグ
男は、薄暗い貯蔵庫の中に居た。
山中の山賊団の拠点の一つとはいえ、此処はいつも肌寒い。
男は用事を済ませ、早々に此処から立ち去る事にした。
男の用事、それはここに閉じ込めている少女に食事を与える事。
男は、薄暗い部屋の中を目を凝らしながら少女を探す。
――居やがった。
貯蔵庫の一番奥、食料に決して手が届かないように鎖に繋がれ、薄汚い毛布を被る少女がそこには居た。
こちらを伺う生気の無い眼は、血の様に赤い。
「けっ!気味の悪ぃ化け物だ。そんな所に隠れてんじゃねぇよ!」
そう言って、男は少女を蹴り飛ばす。
念のために毛布の中に武器を隠していないか確認する。――という事にしている。
これは男の、この山賊団の中で立場の低い男の、密かなストレスのはけ口の一つだった。
「っ……」
悲鳴すらあげない少女の痩せこけた身体を、舐めまわすように見た後、興味を失ったように少女に食事の残飯を投げ渡す。
「まったく使えねぇな。……お前みたいな化け物のガキは抱く気にすらならねぇ」
それは、すえた臭いがした。
「クソみてぇに汚ねぇ、ゴミ屑のお前に飯をやるんだ。ありがたく頂けよ」
少女は動こうとしない。
いや、動けないのだろう。
この所、食事も禄に与えられていなかった。
そもそも食べられそうな物は、この男が先に頂いてしまっている。
男はそれを分かっていながらも、言うとおりに餌を食べない少女に苛立ちを募らせる。
「……さっさと喰わねぇか!」
その怒鳴り声に少女はビクリと身を震わせ、必死に身体を這いずりながら残飯に手を伸ばす。
言い知れない優越感が、男を包み込んだ。
この少女を手に入れたのは、およそ三か月ほど前の事、見世物小屋を襲った時だ。
檻の中で見世物として飼われていたのを面白いからと仲間が拾って来たらしい。
仲間が言うには、その檻にこう書かれていたそうだ。
『氷の化け物』と。
――氷の化け物もこうなってはお仕舞だな。
元々弱い冷気しか持たない、只の貧疎なガキだ。
最近では身体が弱ってきたせいか、その冷気すら衰えてきた。
そろそろ、貯蔵庫の冷却用にも使えなくなるだろう。
もうじき、こいつも廃棄されるだろうが、その前に役に立ってもらうか?
男は自分の思いつきに、一人笑みをこぼしたのだった。




